上 下
239 / 264
恐怖の大王編

調査と推察

しおりを挟む
 ここは山脈で隔離された大陸の端、未開の土地。
 広がる森林に雨が降り注ぐ。
「僕は研究者であって、戦闘員じゃないんだが。こういうのは別の奴の役割なのに」
 ぼやくタックルベリー。
「ガハハハハッ、諦めろ。もう放って置ける程度の魔法使いではないという事だ」
「そうね~ララを除けば、ベリーちゃんかリアーナちゃん、どちらかが大陸一なんじゃないの~」
 そしてビスマルクとヴイーヴル。
 そこに戻るのは偵察に出ていたキオと、その護衛役でもあるホーリー。
「こ、この先、も、もう目の前です……」
「指揮官らしき者の姿は見えませんでしたが、やはり身動き一つありません」
 キオの言葉をホーリーが補足する。
「行動を命令されて動くのか、予め決まった行動をするようにされているのか……どちらにしてもゴーレムそのものだな」
 ビスマルクの言葉にタックルベリーは言う。
「ゴーレムとして考えれば、ドレミドや三つ首竜みたいに自我を持つ個体がいても不思議じゃないって事か。そこはキオに任せるしかないな」
「が、頑張ります!!」

 鉄人形の出現は散発過ぎた。
 何かの陽動、何かの目眩ましだとすぐ分かる。大陸を侵攻するならそれなりの規模が必要だが、規模を大きくするには魔法陣の数が少な過ぎる。
 少しずつ鉄人形を送り込み、増えた鉄人形が隠れる場所……それはどこか……そう考えた時に出てくる場所が一つ。
 それが未開の土地だった。
 そう推察した王国はすぐに調査、そして推察の通り鉄人形を発見した。それも万を超えるような大軍を。
 これ以上その数を増やさないよう早急に叩くべき、との判断で今の状況だった。
 もちろん万の数を相手するのだ。こちらもそれに近い規模で相対する。

「ビスマルク様。キオ様からの報告はどうなっていますでしょうか?」
 今回の作戦を指揮するのは王立騎士団。そこに所属する連絡役の男だった。王立騎士団の本体は後方へ控えている。
「事前の報告と特に変わりはない」
「承知しました。それとそのキオ様ですが、最前線ではなくこちらでお預かりした方が良いと思います。いかがでしょうか?」
 ビスマルクはチラッと視線をキオへと向ける。そのキオは不安そうな表情。
「いや、問題無い。護衛も付けてあるので安心してくれ」
「本来、キオ様の年齢でこのような戦いの場に参加する事はできません。協力をお願いしているこちらで絶対の安全を保障します」
「……あくまで協力なんだから、強制はできないのよね~だったらどこにいるかは自由にさせてほしいわ~ねぇ~キオちゃん~」
「は、はい!! わ、私はここがいいです、はい」
 ヴイーヴルの言葉にキオは強く頷いた。
「……分かりました。では」
 そうして連絡役は離れていく。
「キオがいれば劣勢の時は僕達を見捨てていち早く逃げだせるからな」
 タックルベリーは言う。
「騎士団の方にはユノ様がいるのでその心配は無いかと」
 と、ホーリー。
 しかしタックルベリーの言う事も一理ある。キオの探索能力を王国側も絶対に失いたくないのだ。
「さて話はそこまでだな。そろそろだぞ」
 ビスマルクはこれから向かう先へと視線を向けた。
 今回は王立騎士団が作戦の立案。その内容は非常にシンプル。最優先事項はキオが事前に発見していた魔法陣の破壊。後続を断てるのなら、ここで鉄人形を掃討する必要も無い。
 鉄人形撹乱班が突撃し、その隙に魔法陣破壊班が行動する。もちろん探索能力を持つキオがいるこちらは魔法陣破壊班。

 そうして雨の降る中、戦いが始まるのだった。

★★★

 水滴が木々を打つ音に混ざるのは金属音。戦いの音。
 その中で走るのはヴイーヴルだった。大剣クレイモアをブン回す。
「あらあら~これが鉄人形ってやつなのね~見た目は細いけど~」
 ギチチッ、クレイモアが鉄人形の胴体に食い込んだ。手に伝わる感触は鉄そのもの。ヴイーヴルは全力で振り抜き、その胴体を切断する。
「ちょっと普通の硬さじゃないわね~」
「確かに。事前に聞いてはいたが……まともに相手していては同数で勝つ事は難しいだろう」
 ビスマルクの一撃を鉄人形は耐え、さらに反撃。受け止めるビスマルクだが、その重さに相手の強さを感じた。
 二人の後に王国兵も続くが……
「うおおおおっ、な、何だこれは? 強過ぎる!!」
「複数だ!! 一人でいくな、複数で当たれ!!」
「倒せなければ足止めで構わない!!」
「くっ、その足止めすら簡単じゃないぞ!!」
 かなりの苦戦を強いられていた。
 その先頭に飛び出すのはキオ。左目、カトブレパスの瞳が色彩豊かに輝いている。戦わず、魔法陣を目指して鉄人形の薄い場所を探していた。木々と鉄人形の隙間をすり抜けていく。
 迫る鉄人形は隣に並ぶホーリーの防御魔法が防ぐ。

 順調に進んでいるように見えたが……それは後方、タックルベリーの声だった。
「キオ止まれ!!」
 そこでビスマルクも気付く。後方に続く王国兵が遅れ出していた。
 王国兵を待ち、時間を掛けてしまえば鉄人形に囲まれる危険性が増えてしまう。逆に王国兵を置いてそのまま進行すれば魔法陣破壊後の脱出が難しくなる。
「ベリー」
「あーはいはい、ビスマルクさんの言いたい事は分かりました。この中じゃ僕が一番遅いですから。後ろの王国兵を連れて、遅れても良いから付いて来い、って話ですね」
 ビスマルクは笑う。

 遅れ出した王国兵にはタックルベリーが同行する。
 そしてキオ、ホーリー、ビスマルク、ヴイーヴルの四人だけで先行する。
「ねぇ~私がキオちゃんを抱っこして飛んでいけばすぐなんじゃない~?」
「危険だな。上からでは木々に遮られて下が見えない。場合によっては狙い撃ちにされるぞ。だから王国側も飛竜が使えないのだ」
 ヴイーヴルは低空飛行で、ビスマルクは木から木へと飛び移るように移動する。
 キオとホーリーは障害物を物ともせずに駆け抜ける。目の前に現れる鉄人形の攻撃を、ホーリーが生み出した小さな盾で受け止める。その一瞬でキオとホーリーは鉄人形の脇をすり抜けた。
 二人にしてみれば鉄人形の動きは遅く、躱すのは楽な相手だった。だが……

 また鉄人形の攻撃をホーリーの防御魔法が受け止める。鉄人形の大きさは人間の倍近い。その股下を超低空でキオは駆け抜ける。
 しかし、スパンッとキオの足元が払われた。
「っ!!?」
 駆け抜けた勢いのままキオは転がり、木へと叩き付けられる。
 股下を抜かれた鉄人形は一瞬で上半身を反転して、キオの足を払ったのだ。
「キオ様!!」
「大丈夫です!!」
 キオはすぐさま弾けるようにその場から飛び退く。
「フンッ!!」
 ビスマルクの木から飛び降りる勢いを付けての飛び蹴り。しかし鉄人形は手を交差して受け止める。さらにヴイーヴルのクレイモアでの打ち下ろし。
 ガギンッと鉄人形の頭にめり込むが切断はできない。
 倒すどころか反撃である。鉄人形の横薙ぎにされた腕がビスマルクの巨体を叩き飛ばす。
「ヴイーヴル様、そのままに!!」
 ホーリーの跳躍。防御魔法を纏った蹴りが、鉄人形にめり込んだままの大剣クレイモアを押し込んだ。
「ハァァァァァッ!!」
 気合と共にヴイーヴルは腕力でクレイモアを振り下ろす。
 ギギギギギッ、と金属が擦れる音と共に鉄人形は切断された。
「あ、あの、ビ、ビスマルクさん、だ、大丈夫ですか?」
 キオがビスマルクを助け起こす。
「ああ、問題は無い。ただ厄介だ」
「や、厄介……ですか?」
「見た目は同じ個体なのに、その強さは全くの別物。それがどんな割合でどの程度に含まれているかが全く分からない。しかもだ、今まで現れなかった強い個体。逆に考えればここまであえて出さなかったのだ。これは誘い込まれた可能性が高い。罠だ」
「どうするの~? とりあえずベリーちゃんと合流して撤退する~?」
「しかし確固たる証拠が無い以上、王国側も退けないのでは?」
 ヴイーヴルとホーリー。
「キオ、魔法陣は近いのか?」
「あ、は、はい、もうすぐそこです」
「……ならば破壊を優先する。このまま退くにしても何かしらの成果がなければ王国も退けないだろうからな。だが魔法陣の破壊が厳しいと感じたらすぐに撤退する」
 そうして四人はまた進むのである。

★★★

 その頃のタックルベリー。
 荒い息をして、雨で濡れた髪をかき上げる。そして舌打ち。
 数百という光の矢を撃ち込み、鉄人形を貫く。だがその体は頑丈であり、貫くには相当の体力気力魔力を必要とした。全力だが、それでも思ったように進む事ができない。
 原因は王国兵の弱さもあるが、それだけではない。明らかに他よりも強い個体が存在する。そこから導き出した結論はビスマルクと同じ。
「これ……罠だろ……」
 だから舌打ち。
 そう分かっていても撤退する事はできない。四人が先行しているのだから。
 タックルベリーは気合を入れ直す。
 そして魔法の詠唱、光の矢が四方八方へと放たれた。それは木々を避け、王国兵を避け、鉄人形の頭だけ確実に吹き飛ばす。恐ろしいまでの精度だった。
 少しでも早く追い付かないと……タックルベリーは思うのだが……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

無能と追放されたおっさん、ハズレスキルゲームプレイヤーで世界最強になった上、王女様や聖女様にグイグイ迫られる。え?追放したの誰?知らんがな

島風
ファンタジー
万年Cランクのおっさんは機嫌が悪かったリーダーからついにパーティーを追放される。 金も食べ物も力もなく、またクビかと人生の落伍者であることを痛感したとき。 「ゲームが始まりました。先ずは初心者限定ガチャを引いてください」 おっさんは正体不明だったハズレ固有スキル【ゲームプレイヤー】に気づく。 それはこの世界の仕様を見ることができるチートスキルだった。 試しにウィキに従ってみると、伝説級の武器があっさりと手に入ってしまい――。 「今まで俺だけが知らなかったのか!」 装備やスキルの入手も、ガチャや課金で取り放題。 街の人や仲間たちは「おっさん、すげぇ!」と褒めるが、おっさんはみんなの『勘違い』に苦笑を隠せない。 何故かトラブルに巻き込まれて美少女の王女や聖女に好意を寄せられ、グイグイと迫られる。 一方おっさんを追放したパーティはおっさんの善行により勝手に落ちぶれていく。 おっさんの、ゆるーいほのぼのテンプレ成り上がりストーリー。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

異世界で、おばちゃんナース、無双・暴走します。

lily
ファンタジー
看護師として働いて数十年。アラフォーになっていた。日々仕事にあけくれて、働いて、働いて、働いて。 目の前暗くなって… あれ、なんか、目が覚めた?? と思ったら、森の中でした。 アラフォーだから、図太く生きてやる‼︎おばさんなめんなよ? 自重なんて、どっか置いてきた! これは、おばちゃんナースが獣人見つけてもふもふしたり、嫌いなものをぶっ飛ばしたり。 ドキドキしたり。 そんなお話。 ※諸事情により、更新が大変遅れます。申し訳ありません。2020,8,20 記載。 ※異世界行くまで少し長いかも知れません。一個人の日々の愚痴が入ります。 愚痴なんて聞きたくないよって方は3話目からどうぞ。 ※このような時期ですので、謝罪いたします。不快と思われる方は、Uターンしてください。 ※感染症に関する規制があるようです。規制内容が曖昧で削除される可能性があります。序章のみの変更で大丈夫かとは思われますが、削除された場合は内容を変更して再投稿致します。 しおり機能を利用されている方にはご迷惑をお掛けします。 ※ノミよりも小さい心臓ですので、誹謗中傷には負けます。そっと退室してください。お願いします。 ※恋愛も含める予定です。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

孤児のTS転生

シキ
ファンタジー
とある地球という星に住む男は仕事帰りに通り魔により殺されてしまった。 次に目を開けた時、男の頭の中には一人の少女の記憶が駆け巡り自分が今置かれている状況を知る。 此処は地球という星ではなく科学の代わりに魔法が発展した俗に言う異世界という所だった。 記憶によれば自分は孤児であり街の片隅にあるスラムにいるらしい。 何をするにもまず動かなくてはならない。 今日も探索、採取、狩猟、研究をする日々。 自分がまったりする日は少ししかない。 年齢5歳の身体から始まる鬼畜な世界で生き抜く為、今日も頑張ります!

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...