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恐怖の大王編

牢屋と手伝い

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 ここは何処だろう?
 目隠しで連行された先。椅子は木製……足元は石畳か。それに鉄格子。うん、牢屋内って感じだが、雰囲気が全く違くない?
 さっきまでは幻想的な景色が広がっていたのに、現実に引き戻されるというか、ここは大陸のどこにでもあるような牢屋だろ。
 ただ周りにパチンコ玉程度の赤い光の玉がいくつも浮かぶ。その俺の目の前には先程の女性。
「動くな。それに触れれば一瞬にして体を焼き尽くされるぞ」
 この赤いパチンコ玉でか。
「他の人達は?」
「安心しろ。危害を加えてお前を怒らせるような事はしない。どんな力を持っているか知らないが厄介な事になるだろうからな」
「私の何を知っているんでしょうか?」
「白い髪に、赤い瞳、その姿は伝えられる女神アリアの容姿と一致するだろう?」
「私が女神アリアだと?」
「それは分からない。ただ女神アリアは特別な能力を授けると聞く」
「たまたま似ているだけで、何の話か全く分からないんですけど」
「そうか。ならば話は何も無い」
 それはつまりこういう事。

『情報の交換』

 一方的に情報を聞き出したいのならば、彼女が女神アリアの事で話を切り出す必要は無い。

「……私はシノブ。あなたの名前を教えてください」
 この状況を抜け出すには、どんなに少なくても情報は必要だ。相手の方が手札を持ってそうだし、全く対等ではないが仕方ねぇ。
「クーネル。話をする気になったな」
「でも私が知っている情報なんてここでは役に立たないと思いますけど」
「構わない。ただそれだけではない。お前には暗殺の手伝いをしてもらう」
「ちょっと待って。今サラッととんでもない事が聞こえたんですけど。もしかして『暗殺』って言いました?」
「ああ、言った」
「暗殺ってアレですか、人を密かに狙って殺すアレですか?」
「そのアレだ」
「……」
「成功すればお前達を元の世界へ返すと約束しよう」
「私が拒否したら?」
「それでも暗殺は決行するが……失敗した場合はお前の世界でも大きな被害が出るだろう」
「……相手は?」
「我らの王だ」
「とんでもねぇ~」
 とんでもねぇ~事に巻き込まれてるぅ。
 クーネルは微笑む。
「だがそれはお前達の為でもある。何故なら王はお前達の世界に侵攻するつもりだからな」

★★★

 遥か昔の話。
 彼女は不思議な力を持っていた。
 女神アリアから授かったその力は『魔法を創り出す』能力。
 その中で創り出されたのが空間を転移する魔法。それは別の世界と世界を繋げてしまった。
 そしてその魔法を利用して別世界をも支配しようする者が現れたが、彼女はそれを阻止したのだった。

「つまり僕達の世界とは別の世界があって、そこにもララ・クグッチオみたいな存在がいた。生み出した空間転移の魔法で二つの世界が繋がった、って事か」
「そういう事みたいだけど、ベリー、めっちゃ笑ってんじゃん」
「ハッキリ言って、好奇心が抑えられない。だって別の世界だぞ? そんな世界が本当に存在するのか? シノブが言っていたように頭上に浮かんでいた球体、あれの一つ一つが本当に別の世界なのか? ベルベッティアからそんなような話を聞いた事はあったけど、こうして自分の目で見るとな」
 目が爛々と輝くってこういう事を言うんだろうな。本当に楽しそうなベリーは言葉を続ける。
「じゃあ、大陸にあった魔法陣、あれは書き換えられた魔法陣じゃなくて、こちらの世界で創られた魔法陣って事か……でも別世界にしては魔法陣の書式が似過ぎているな……ララと何か関係が……あるなら王国側でもっと情報があって良いはず……」
「はいはい、ベリーは取り合えず戻って。とにかくこっちの別世界の王ってのが魔法陣を利用して大陸に侵攻するつもりなんだって。あの女……クーネルは自国の被害も大きくなるから侵攻には反対、それで王を暗殺したい。だから暗殺を手伝え、そういう事みたい。成功すれば私達の世界も救われて、さらに戻れる」
「どうするの? 私はね、シノブがね、決めた事なら従うよ」
「ありがとう、アリエリ。もしその話が全部本当なら手伝っても良いんだけどね」
「シノブ様はその話にどの程度の信憑性を感じますか?」
 と、ホーリー。
「情報が少なくて全く分かんないけど……無事に帰れなさそう。だって私がクーネルの立場なら、作戦が成功しようが、失敗しようが全ての責任を相手に押し付けるし」
「さすがシノブ。考え方が汚くて実にらしいです」
「俺はずっと前から知っていた」
「ハリエットもヴォルも張っ倒すよ。まぁ、その王ってのがどういう扱いをされてるのかによっても変わるけどね」
 この別世界の王は、そしてクーネルがどういう立ち位置なのか全く分からないから、想像ができんよ。ただ現状は従うしか無さそうなのがね。
 そこでタックベリー。
「でももう返事はしたんだろ? 『手伝う』って」
「当然。リアーナ達の安全と引き換えにね」
 三日後。
 リアーナやロザリンドが第二陣としてこちらに来てしまう。その安全確保の為には手伝うしかないんだよ。

★★★

 暗殺の為の準備期間。その内容は何も伝えられず牢屋へとブチ込まれる俺達。よりによって、なんでこの男と同じ牢屋に?
「心配しないで、シノブ。君だけは絶対に守る」
 そう言って微笑むのはトラコス。
「あーはいはい、ありがとうございます。ねぇ、ベリー、この状況どう思う?」
「最悪だな。『手伝い』を強要するくせに、その内容や作戦をこっちに伝えてこない。これ完全に捨て駒にするつもりだろ」
 まぁ、タックルベリーが一緒で助かったぜ。トラコスだけだったらストレス半端無ぇわ。
「君は? シノブとどんな関係だ?」
 『強要』『作戦』、そんな不穏な単語より、タックルベリーと俺との関係が気になるトラコス。
 面倒くさそうは表情を浮かべるタックルベリー。
「王立学校で一緒だったんだよね。模擬戦のパーティーも一緒だったし。そう考えると関係も長いよね」
 俺はタックルベリーの腕に抱き付く。
「……確かに。人にも言えないような事もいっぱいあるくらい長いな」
 話を合わせるようにタックルベリーは笑った。そして俺の頭を撫でる。
「もしかして、アレをあげた事とか言ってる?」
「ああ、アレね。最高だったな。今、思い出してもニヤけてしまう」
「つまり、私達はそういう関係なんです。だからトラコスさん、私の事なんて早く忘れた方が」
「それは今まで僕と出会っていなかったからだ。これからはこのトラコスを見てくれ。シノブ、きっと君を振り向かせるから」
 ダメだわ。コイツ。

★★★

 そして、その頃。
 これは後から聞いたリアーナ達の状況だった。

「すっげぇ……何、ここ……即死じゃないのはありがたいけど、出られそうにないじゃん」
 シャーリーが見上げた夜空。いくつもの流れ星。その中で見た事の無い球体がいくつも浮いている。
「下も、何だこれ、普通の地面じゃないぞ」
 ドレミドがその場で足踏みするだけで波紋が広がる。
「フレア、何があるか分からねぇから、防御魔法を頼むぜ」
「かしこまりました」
 ミツバの言葉にフレアは頷く。
「リアーナ。どうする?」
「うん、まずは探索魔法を飛ばせるだけ遠くに飛ばしてみるよ」
 ロザリンドとリアーナ。

 魔法陣から第二陣としてリアーナ達が異世界へと到着していた。
 そしてその先で出会った一人の男。彼は言うのだった。

「我々の王が命を狙われているようなのです。ぜひその力を借りたい。協力していただけるようなら元の世界に還る手助けをしましょう」
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