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恐怖の大王編

別の世界と世界の狭間

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 それは交易都市近郊。ただの朽ちた神殿かと思われていたが、突然に魔法陣が現れた。その事で最近になって発見が相次ぐ遺跡と同種である事が分かったのだ。
 そしてその調査メンバー。

 シノブ……冒険者パーティー、女神の微笑み。
 タックルベリー……王国側の調査メンバー。
 ヴォルフラム……俺の警護。
 コノハナサクヤヒメ……俺の警護と水確保要員。
 ホーリー……回復と防御。
 アリエリ……攻撃方法に汎用性のある火力要員。
 ハリエット……罠を使っての敵勢妨害と拠点確保等。

 場合によって別の魔法陣を使う可能性もある。
 その時の第二陣として、リアーナ、ロザリンド、フレア、ドレミド、ミツバ、シャーリーを想定して残す。
 ミラン、ベルベッティアはどんな事があっても魔法陣には入らない。不測の事態では外側から行動してもらう、ある意味での命綱。

 アバンセは『ならば俺も行こう』と言うが、飛ばされる先がどこか分からず、竜脈を放って置くのも不安なので残ってもらった。

 ちなみに衣服や武器も一緒に転移されるのは確認済み。天空への塔とは違うので安心。
 そして魔法陣で飛ばされた先。
「こりゃ……ヤバいわぁ……」
 空を見上げて、思わず声が漏れた。
 夜空。無数の星々が輝き、絶え間ない流星群。
「僕の知っている夜空じゃないな……現実とも思えない。魔法で作られた空間か?」
 タックルベリーはそう言うが、俺には魔法で作られた空間とは思えなかった。何故なら夜空には地球が浮かんでいる。前世、俺がいた地球。そして地球だけじゃない、いくつもの惑星が見える。
「足元、水場みたいだけど違う」
 ヴォルフラムが動くと足元から波紋が広がる。
「水ならば拙者がある程度は扱えますが、反応ありませんな」
 俺の服の襟元から姿を現すコノハナサクヤヒメ。にゅるっと現れ、にゅるっと引っ込む。
「シノブ様。ここがどういう場所か……予測はできますか?」
 ホーリーの言葉に俺は首を横に振り、言葉を続ける。
「できないよ……」
「シノブ。何か考えてるの? 何かあるならね、そういう時は言葉にね、出した方が良いよ」
 と、アリエリ。
 確かに予測はできない。けど何となく思う事はある。そしてそれは俺が転移者だから。
 俺は惑星の一つ、地球を指差した。
「あれ……一つ一つが別の世界じゃないのかな……」
「確かに私達の世界が球体だという研究はありますけど……そんな別の世界がいくつも存在するという事ですか?」
 ハリエットは言う。
 シノブとして生まれた世界、そこは前世のような球体か、それとも平面か。天動説か地動説か、まだハッキリと確認はできていなかった。
「……分からないけど、そう感じただけ」
 俺は苦笑いを浮かべる。
「とにかくシノブ、笛を吹いてみろよ」
「あ、うん」
 タックルベリーに言われて、胸元の体育教師ホイッスルを吹いた。アバンセが来られる場所とは思えないけど……
 ここは世界と世界の狭間のようだ。

「ねぇ、ヴォル。ここには先に調査団が来てると思うんだけど、においとか追える?」
 鼻をクンクンと鳴らすヴォルフラム。
「……追える」
 そうして俺達は歩き出す。
 しばらく歩いたが、やはりアバンセは来ない。
「しかしベリー、やっばいねぇ」
「そうだな。ハッキリ言って、やっばいなぁ」
「具体的にはどの部分がやっばいのですか?」
 と、ハリエット。
「まず大前提。転移魔法は魔法陣と魔法陣を移動するもの。双方向と、一方通行があるよね。ただどっちにしても出入口、二つの魔法陣が必要。そこは分かる?」
「はい、もちろんです」
「これは魔法陣に入る前の考え。調査隊が戻ってこないのは、魔法陣が一方通行で、戻る事の難しい場所に転移されているから。例えば大陸外の、海の向こうの未知の場所とか。ベリーもそう考えて私達に依頼したんでしょ?」
「シャーリーの能力と竜の力が借りられれば発見も容易だと思ったからな」
「でも魔法陣に入った後の考え。魔法陣を設置する為に、どうやって最初にここへ来たの? 明らかに私達のいた世界とは違うんだよ?」
「この場所に魔法陣を設置するのは難しいという事ですね」
 ハリエットの言葉にタックルベリーは頷き、言う。
「つまり転移魔法の大前提が崩れている世界、それは僕達の知る世界じゃない。そんな所に閉じ込められているんだからやっばいだろ」
「まぁ、ここが大陸の何処かで、ちゃんと戻る為の魔法陣が設置されている可能性もあるけどね。低いけど」
 俺は付け加える。
 どこまでも広がる変わらない景色だったが、ヴォルフラムの耳がピクッと動く。
「シノブ。人の声と争う音。誰かが戦っている。複数。どうする先行するか?」
「ダメ。ここで分かれるのは不安過ぎる。ヴォル、全員いける?」
「重さ的には大丈夫。でも……」
 前からアリエリ、俺、ハリエット、ホーリー、タックルベリー、の順で全員がヴォルフラムの背中へ。
「あの……ベリー様、もう少し手を下に回していただければ助かります……」
「ちょっとベリー!! こんな時までセクハラしてんじゃないよ!!」
「あのね、もうちょっとね、ベリーは時と場所を考えよ? ね?」
「どうしますか? ベリーさんは糸でグルグルに拘束しておきますか?」
「アホか!! 僕だってこんな時にそんな事するか!! たまたまだ、たまたま!!」
「『たまたま』『たまたま』言ってんじゃないよ!! どこの『たま』だっての!!?」
「『どこの』じゃねぇよ!! ふざけんな!!」
「『たま』?『どこの』? どういう意味でしょうか……」
「ハリエット様。お二人はふざけているだけなので、あまり気にしなくて大丈夫です」
「ヴォルはね、大丈夫? 重くない?」
「……大丈夫。もう行く。アリエリもしっかり掴まれ」
 そうしてヴォルフラムは最高速で駆け出すのだった。

★★★

 一方その頃。これは後から聞いたリアーナ達の状況。

「じゃあ、シャーリーちゃん。お願い」
「はいよー」
 リアーナの言葉にシャーリーは指先をクルクル回す。それは左回り。顔を見た相手ならば追跡する事のできる赤い魔弾。
 放つと同時に霧散した。
「……シャーリー……これは……」
 ロザリンドの問い。少しの間。
「……わ、分かんないけど……いない……みたい……」
 自分の言葉の意味にシャーリーは青ざめた。
「……死んでいる可能性がある。そういう事か?」
「おい、ミラン。姐さん達が死んでるなんて言うんじゃねぇよ」
 苛立ったようにミツバは言う。
「言葉を選んでいる場合じゃない」
「……ああ、そうだ……そうだな、すまねぇ」
 シノブと一緒に妹であるハリエットもいるのだ。その胸の内。
「私が行くわ。私なら死なない」
 と、ベルベッティア。
「……ダメだよ。ベルベッティアちゃんとミラン君は外からの援助。そうシノブちゃんが決めたんだから」
 リアーナは拳を強く握り締めた。
「そうね。まずはシノブが決めた通りに行動しましょう。期限は三日間。その間にシノブから何らかの連絡が無ければ私達が別の魔法陣を使ってみるわ」
 ロザリンドは言う。
 そんな重い空気の中。
「シノブだぞ。あのシノブがそんな簡単に死ぬわけない。それにみんなガーガイガーの技術も習得して強くなったからな。安心しろ」
 明るくドレミドは言う。それに続き、フレアも微笑みながら言うのだ。
「はい。シノブ様は絶対に大丈夫です」
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