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鬼ごっこ編

急襲と海底洞窟

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 街と街とを繋ぐ街道。そこを移動する鬼の集団がいる。荷物を背負って移動する人数は十数人。その中には大男の鬼もいる。周囲に馬車などの存在はない。
 相手が徒歩だったおかげで、馬で追えたぜ。尻はメチャクチャ痛いけどな!!

「ド阿呆どもめ。まさか見付かってるとは思うまいて」
 そして俺は笑う。
 シャーリーの赤い魔弾。
 うちの店に来た大男と、王立学校からアビスコの右腕を盗んだ大男が一致する事も分かっていた。追い付いて、キオが確認してみれば盗んだ右腕を大男の鬼が背負ってやがる。
 だったらここで強奪してやるぜ、ふひひひっ。
「キオ、大変だと思うけどお願いね」
「は、はい」
 まだ、集団からは目視もできない程に離れていた。地形の影響もあり、シャーリーの眼鏡でも確認できない。キオの遠視能力だけが頼りである。
「ユリアンとヒメも頼んだよ」
「了解。ほら、キオ」
 ユリアンはキオをお姫様抱っこ。
「あう……は、恥ずかしいです……」
「お任せを。拙者、必ずや期待の成果を上げて見せましょうぞ」
 そのキオの腕の中にポンッと乗るコノハナサクヤヒメ。
 そしてユリアンは竜の翼で空へと飛び上がるのだった。それを黙って見送るリコリス。
「……」
「……何、ユリアンが他の女の子を抱っこしてるの見て嫉妬してんの?」
「す、少しだけですわ!!」
「リコリスちゃん、可愛いねぇ~」
「そうね。嫉妬なんて醜い感情だと思っていたけれど、少しの嫉妬も恋愛には必要だわ」
「おー!! ロザリンドさんはパルと婚約した途端に恋愛強者みたいな事を言いますね!! 何ですか? もう楽しい事を色々としちゃってるんですかぁ~?」
「ベリーの嫉妬の醜さ、それを見てあたしはああなるまいと思うんだよね」
「シャーリー、お前……僕は別に嫉妬とかしてないからな!!」
 俺達は笑う。
「姐さん、そろそろ準備をした方が良いんじゃないっすか?」
「あ、うん。そうだね。じゃあ、みんな。計画通りに」
 俺の言葉にみんなは頷くのだった。

★★★

 俺と魔弾をしばらく使えないシャーリーはこの場所で待機。
 その間にみんなは……

 ギリギリまで空高く飛び上がったユリアン。その腕の中のキオとコノハナサクヤヒメ。
「ちょ、ちょうどこの下です、はい」
「ヒメ頼んだ」
「お任せを」
 コノハナサクヤヒメから生み出される水。それは雨のように鬼の頭上から降り注ぐのだった。

 高低差のある丘。街道はつづら折りのよう曲がりくねり見通しは悪い。
 そしてビショ濡れの鬼の集団の前にタックルベリーが立つ。
「先日はどうも。気絶する程にブン殴りやがって」
「タックルベリーか。殺さなかっただけありがたく思え」
 それは無表情、大男の鬼。
「あーはいはい、ありがとうございます。で、あんた名前は? 僕の事を知っているんだから名前ぐらい教えろ」
「ベレント」
「ベレント……ね。なんか随分とビショ濡れだな」
 タックルベリーの口から発せられたのは魔法の詠唱。その両手の中に青白く発光する球が生まれる。詠唱魔法である。
「全員離れろ!!」
 ベレントは大声を上げるが、タックルベリーは心の中で叫ぶ。遅い!!
 放たれたのは雷球。それはベレントの目の前で発光、放電した。
 ビシッ、ビシッ、という破裂音。
 叫び声と共に数人の鬼がその場に倒れ込む。
 純水は電気を通さないが、降り落ちる途中で不純物が混じった水は通電する。それによりダメージは広範囲となる。
 その中、普通の人間なら感電死する程の威力だが鬼の集団の中から二人の男が飛び出した。
「随分と元気だな。今度はもっと威力を上げてやる」
 金棒を構え、タックルベリーへと突進する。
 その突進を止めたのは、丘の上から姿を現したリアーナだった。放たれた魔法の爆炎は相手の視界を遮る。そして足を止めた相手をハルバードで叩き飛ばす。
「落ち着け。周囲を固めろ。別方向からも来るぞ」
 ベレントに焦った様子などまるでない。その言葉と同時。
 丘の下からはリコリスが姿を現す。鬼の一人を殴り飛ばした。
「この間のお返しですわ!!」
「盗まれた物を取り返しに来たか。どうやって俺達を見付けた?」
「教えません!!」
 次にベレントを狙うが、それを別の鬼が阻む。
 そこへ今度はリアーナがハルバードを構え突進する。しかしそれも別の鬼が間に入る。
 そんな鬼達の隙間を抜けて光の矢がベレントを狙う。タックルベリーの魔法だ。だがその光の矢を素手で弾き返すベレント。
「おい……そんな軽い魔法じゃないんだが」
 タックルベリーは呟いた。
 ベレントの頭上。今度はユリアンとキオの急襲。ユリアンの長剣、キオの二振りの剣がベレントを狙う。タイミング的には大ダメージを与えられるはずだったが……
「当然、お前達もいるのは分かっていた。だからこそ警戒は容易い」
 ベレントの横薙ぎにされる金棒はユリアンとキオを二人同時に弾き飛ばす。
「一人で俺達の相手をするつもり?」
 すぐさまにユリアンはベレントに斬り掛かる。
「てやぁぁぁぁぁっ!!」
 キオもだ。
 棍棒を軽い小枝のように振り回すベレント。
「一人で充分だ。お前達は退いたらどうだ?」
 ベレントの見立てではリアーナ、タックルベリー、リコリスが陽動。本命はユリアンとキオの急襲。その急襲が防がれた時点で作戦は失敗。
 だがしかし……
「退く理由はないね。ヒメ!!」
「承知!!」
 ユリアンの言葉に、キオの服の下からコノハナサクヤヒメがにゅるんっと姿を現した。そしてベレントが背負う荷物を奪い取り、そのまま離脱。
 それを確認すると同時。リアーナ達全員がその場から飛び退いた。
「逃がすか」
 もちろんベレントは追おうとするが……
 ブンッブンッブンッと重く風を切る音。鎖に繋がれた巨大な戦斧の投擲だった。ミツバの戦斧はベレントを掠める。さらに隠れていたロザリンドが飛び出す。振り下ろした刀からは無数の風の刃が生まれ、嵐のように周囲を包んだ。
 そして嵐が収まると……
「もう仲間が集まっていたか。こちらの目的は露見しているな。やはり優秀だ」
 リアーナ達の姿はもう完全に消えていたのだ。

★★★

「みんな全速力で離れるよ!! キオ、周囲の索敵をお願い!!」
 ひゃっほい!! アビスコの右腕ゲットだぜ!!
 追われたら面倒、全速力で逃げてやる。

 とりあえずここでユリアン、シャーリーと別れる。シャーリーはしばらく魔弾が使えない、その護衛として機動力の高いユリアン。二人にアビスコの右手を預ける。俺達とは縁も所縁もない街で待ってもらおう。

 そして俺達は胸部の隠された海底洞窟へと向かう。そこはララしか知らない場所。しかも入口は海の中に隠れ、ララの封印もされている。ヒント無しでここを見付け出すのはまず無理だろ。キオの索敵で鬼の尾行もない。

「私ももっと大人っぽい水着が良かった……」
 濃い藍色のワンピース型の水着。フレアスカートにはワンポイントで赤い魚の模様。いや、可愛いんだけどね。だけどこれ子供用の水着なのよね。まぁ、下腹ポッコリの子供体型が隠せるのは良いけど。
「必要ないでしょう。今は」
 そう言うロザリンドも比較的に露出度の低い水着。
「だってさ、まさかリアーナとリコリスがこんな攻撃的な水着を用意するなんて」
 際どいビキニとは……
「だ、だって時間がないからちゃんとしたの用意できなかったの!!」
「わたくしもです。激しく動いたら見えてしまいそうですわ」
 二人とも乳も尻もぱっつんぱっつん、はみ出してやがるぜ!!
「おい、ベリー、見過ぎじゃねぇか?」
「だってミツバさん、うちのパーティーって美人揃いじゃないですか」
「ちょっとベリー!! えっちな目で見るんじゃないよ!!」
「……」
「……な、何?」
「安心しろ、シノブ。お前は対象外」
「てめぇ!! かわいいだろうが!!」
「幼児体型なんで」
「キャシャー!!」
「わ、私はシノブさん、か、かわいいと思います!! はい!!」
「拙者も拙者も!! シノブ殿はかわいいですぞ!!」

 そしてリアーナ達は海の中へ。ちなみに武器一式はコノハナサクヤヒメに。水を操るコノハナサクヤヒメは逆に防水機能も有していたりする。
「シ、シノブさんは行かないんですね?」
 警戒の為に残ったキオ。
「いやさぁ、雰囲気で着替えたけど、私ってそんなに泳げないんだよね」
 足の届くトコでパシャパシャ泳ぐ程度なら良いんだけど、流れのある深い海の中を泳ぐとか絶対に無理に決まってんだろ。

 それからしばらくして。
「……」
 尿意を催した俺は胸元まで海の中へと入る。もう少し時間が掛かるだろうから大丈夫だろ。
「あ、あの、シ、シノブさん?」
「……何でもないよ……」
 ジュワワワワ……
 海中のオシッコって、ある意味で浪漫だよね。人の目のある所で堂々とオシッコ……なんて背徳的で甘美なのだ!!? ふふっ、もっと大勢のギャラリーがいれば良かったんだがな。
 ザバッ
 その俺の隣から……
「シノブちゃん、ないよ」
 戻ったリアーナ達。
「リ、リアーナ!!? な、何で?」
 必要以上に動揺してしまう。ゴメン、今ここでオシッコを……
「えっ……何でかは分からないけど」
「誰かが先に持ち去っていたようだわ」
 そしてロザリンドは大きく息を吐くのだった。
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