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神々の手編

秘策と花火

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「シノブ様、これは……もしかしてヒメ様の……」
「そう。ヒメの、この迷いの森の結界を操る力」
「これこそがシノブ殿の秘策!! シノブ殿、接吻してくだされ!! そして撫でながら褒めてくだされ!!」
「えっ……ま、まだ終わってないから……フレア、すぐにロザリンドの所に戻って。近くまで行ったら、これに魔力を込めて力いっぱい空に放り投げて。ミランが来るから。詳しい説明は後」
 俺は野球ボール大の球をフレアへと渡す。
「シノブ様。私達は?」
「リアーナの方に行くよ」
 そうして今度はホーリーに抱かれて移動するのだった。非力ですまぬ。

★★★

 こちらは国境付近の帝都側。
 直接に目視はできないが、国境を越えた先に、王国の国境都市がある。それはシノブが目指した、帝都に一番近い国境都市。
 そこで待機しているのは……
「……お兄様。正直に言って私は信じられません」
「俺もだ。ただそう考えればシノブの不可解な指示も理解できる。ただ……まだ終わっていないからな。油断はするなよ」
 ミランとハリエット。
「ベルベッティアは全部知っていたのか?」
「ええ、まさかここまで思い通りになるとは思わなかったけど」
 ヴォルフラムとベルベッティア。
「本当に……シノブは……恐ろしいくらいだな」
 ミランはアストレアと対峙した時の事を思い出す。

「そして私達のこれからの目標……」
 アストレアが言う次なる目標……それは……
「シノブの拘束です」
「この場で俺が噛み殺す」
「待ってヴォル。アストレア、どうしてシノブにこだわるの? 凡庸と言い切るのなら、相手にする価値も無いでしょう?」
 その時にミランは気付く。そう言うベルベッティアの尻尾が揺れている事に。普段からこんなに尻尾を揺らしていただろうか……
 言葉を続ける。
「シノブは負けた。作戦も見抜かれ、全てがあなた達の思い通りになってしまった。この状況も全く想定していないでしょう。どうしてそんな相手にこだわるのか私には分からない」
 揺れる二本の尻尾。気付いて観察すれば、先程よりも少しだけ動きが速いように見える。
 二本……2……っ!!
 そこでミランは思い出す。シノブが作った数字に意味を持たせる暗号。確か『2』には『不正解、嘘、駄目、否定的意味』がある。
『この状況も全く想定していない』に対しての『嘘、否定』……つまりこの状況をシノブは想定済み、全てが作戦の上という事……そんな事が可能なのか……
 竜に対しての人質、救国の小女神を捕らえる事で大陸に動揺を与えるだろう事を説明するアストレア。
「もういい……行くぞ」
「……はい……お兄様……」
「ヴォル」
「今ここでコイツは倒しておくべきだ」
「時間が無い。ヴォル、行くんだ」
「……」
 ヴォルフラムの感覚は鋭い。ミランの雰囲気に何かを感じたのだろう。そのまま黙って従う。
「皇族として賢明な判断を期待します」
 アストレアの声を背にしてその場を後にするのだった。

 それから小国が動いても帝国は動かなかった。
 ミランが提案を受け入れた……アストレアはそう判断したのだろう。
 しかし実は……

「まさか全てがシノブの作戦の上だとは……」
「そうね。私が作戦を教えられたのが最初の国境都市で封じ込まれた後。だけどシノブはその国境都市に向かう前から作戦を立てていたみたいよ」
「そんな事が本当にできるのでしょうか? 状況によって僅かな作戦の誤差だって生まれるはずです。それをここまで予測して作戦を組み立てる事ができるなんて……私にはとても……」
「私も同じような事を聞いたわ。そうしたらシノブは……」

『いや、まぁ、思ったより簡単だよ。だってさ、私はこの戦いの中で一番厄介な奴を早く倒したいわけよ。それってアルテュール側で考えたら私でしょ。なんせ竜の花嫁だしね、野放しにできないよ。だからアルテュールがどうやって私を倒すつもりか考えた。同時に私は厄介な相手をどうやって倒すかも考えた。どちらか片方だけを考えていたら、作戦は立てられなかったけど、双方向から考える事でできた作戦なんだよ』

「いやいや、絶対に簡単じゃないからな」
 ミランは呆れたように言う。
「さすがシノブ」
 嬉しそうにヴォルフラムは笑う。

 その時である。
 国境都市方向。ドッパァァァッンという派手な音と共に、空で火花が円を描き弾け飛んだ。まるで大輪の花が咲いたようだった。そう花火だ。
「シノブからの合図よ」
「よし、行くぞ。みんなにも伝えてくれ」
 そしてミラン達は動き出すのである。

★★★

「ロザリンド様、限界です!! 退避します!!」
「こちらももう持ちません!!」
「だ、駄目です!! 防御が抜かれます!!」
 ロザリンド隊の少ない人数では対抗ができない敵の数。そこで基本的な戦術は敵に囲まれないよう後退しながら、少しでも相手の足を遅らせる。
 その後退の速度は上がり、すでに足止めではなく逃走に近い。
「ロザリンド。限界だ」
「分かったわ。フォリオ、みんなをお願い」
「……残るつもりか?」
「ええ。隊員を逃がす為に、あの二人を止めなければいけない。それは隊長である私の責任よ」
 ロザリンドの視線を向けた先。二人の母子がいた。
 光り輝くような金色の髪。整った顔立ちに肉付きの良い体。客観的に見ても美しい容姿の母親、アフロ。その周囲にシャボン玉のように幾つもの水泡が浮かんでいた。
 そして娘のエロス。手に持つ松明から火の粉が地面に落ちると、そこから炎の人形が立ち上がる。
 その炎の人形を風の刃で離れた場所から斬り倒す。一気に母子との間合いを詰めるロザリンドだったが……目の前に水泡が集まり壁を形成する。その壁に刀を振り下ろすのだが……ぷにょんっ……そんな感触。まるで発泡スチロールの棒で柔らかいゴムボールを叩くような感じ。
 ロザリンドは瞬時にその場から飛び退く。同時にロザリンドが居た場所へ炎の人形が集まり、激しく火柱を立てた。
 近付けばアフロの水泡が防御壁となり、離れれば炎の人形が迫る。
 ロザリンド一人では倒す事のできない相手。

 その時である。
 頭上に大きな花火。思わずロザリンドはその花火を見上げ、相手から視線を外してしまう。それは一瞬の隙。炎の人形が飛び掛る。逃げられない。
 ……終わりね……ロザリンドは心の中でそう呟いた。
「ロザリンド様!!」
 展開される防御魔法が炎の人型を阻む。
 それは普段あまり聞く事の無いフレアの声だった。
「フレア!!? 今のは?」
「シノブ様に頂いた球体を投げましたら。ミラン様への合図らしいです」
「ミランへの?」
「はい。説明は後と」

 やがてミラン、ハリエット、ヴォルフラム、ベルベッティアが合流する。ミラン個人が雇った傭兵を引き連れて。そこで形勢は一気に逆転するのである。

★★★

 アンとメイを排除したとは言え、迷いの森周辺の女天使を全て排除したわけではない。ホーリーは防御魔法を展開しながら俺を抱えて走る。
 追い掛けてくる天使を排除するのはコノハナサクヤヒメ。小さい体ながらその動きは俊敏。身体強化をしたホーリーに問題無く付いてくる。そして水の弾丸を飛ばして天使を排除していた。
 もっと俺が強ければ手伝えるんだけど!! これ名実共にお荷物じゃん!! ただここを逃げ切れば!!
 エルフの村にはお父さんもリアーナもタカニャもいるはず。そっちの戦況はどうなっているか分からないが、そこにホーリーとコノハナサクヤヒメが加われば敵を退ける事ができるはず。
 ただその逃げ切るのが大変なんだけど。

「シノブちゃん!!」
「リアーナ!!?」

 リアーナだった。
 ハルバードを突き出し突進。天使を薙ぎ倒し、魔法で吹き飛ばす。

「どうしてリアーナがここにいるの!!?」
「思った通り、エルフの町に行くんだよね?」
「正解!!」
「だったら私もシノブちゃんを守るから!!」

 そうしてリアーナが加わるのだった。
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