上 下
118 / 267
天空の城は本当にあったんだ編

ミノタウロスと最上階

しおりを挟む
 狭い場所、負傷者もいる。巻き込む可能性があるから魔法攻撃はできない。そこで俺がやるのは肉弾戦。
 牛頭人身のミノタウロスに殴られ、倍にして殴り返す。蹴られ、倍にして蹴り返す。身体能力、回復能力の向上。限界まで引き出した力で殴打し、受けた傷は瞬時に治す。
 獣人と少女とが、ただひたすらに殴り合う光景は実に異質。しかも肉と骨とがぶつかり合う度にとんでもない衝撃音が響く。
 しかし負けんど!!

 やがてミノタウロスは煙のように消えた。その場に指輪を残して。
 緑色、透き通るガラスのような指輪。
 そこで俺の能力も尽きる。
 ふむ、指輪ねぇ。それを左手の薬指に。うん、確かに綺麗だけど。なんか特別な力でもあるんかね?

「初めてシノブの能力を見たが凄いな」
 確かに、こうやってミランに能力を見せるの初めてだったな。
「ねぇ、ちょっとシノブ、何なの、今の!!? 魔法? でもただの魔法じゃないよね? ねぇ、何!!?」
 シャーリーは興味津々、目を輝かせている。
「うん。シャーリーにも後で説明するよ。それより……」
 俺はヴォルフラムの背中の上でグッタリするアリエリに視線を向ける。
「気を失っているだけよ」
 ベルベッティアの言葉に俺は安堵の息を漏らす。
 そしてその俺の顔を見て気付くベルベッティア。
「ちょっと待って、シノブ。口をいーってしてみなさい」
「ん? こう?」
 いー
「お前、それ……」
「シノブ、前歯が抜けてんだけど!! 超マヌケな顔!!」
「え、嘘? ホント?」
 シャーリーに言われて、俺は口元に手を。
 マジかよ……前歯が一本抜けてるじゃねぇか……さっきの殴り合いで抜けてしまったのか……せっかくの超美形が……でもまぁ……
「フレアとホーリーが帰ってくるまで我慢する」
 ユニコーンの角があればどうにかなるだろ。

 それで、こっちは……
 もうドンドゥルマもある程度は回復し、他の六戦鬼も無事だった。それと六戦鬼の荷物も確保しといて良かったぜ。
 六戦鬼はバランスの取れたパーティーだった。だからこそメンバーを二つに分ける事をしなかったのだろう。揃っている事こそ強みなのだ。
 その為に全員で転移の魔法陣を使った。
 誤算は二つ。
 一つ目は武器、防具、衣服、脱出魔法道具が転移されなかった事。
 二つ目はその先で出会ってしまったミノタウロスが予想を遥かに超える規格外の強さだった事。
 俺達だって運で助かったようなもんだ。先に出会っていたらどうなっていたか……下手したら命だって失っていた可能性がある。

「……情けない話だ。六戦鬼なんて呼ばれていても何もできなかったんだからな。お前達に恥ずかしい姿を見せた」
 ドンドゥルマは表情を変えずに言う。
「さすがにドンドゥルマさんが全裸で転がる姿にはビックリしましたけど。まぁ、無事で良かったじゃないですか」
 本当に少しだけドンドゥルマは困ったように笑った。
「……そうだな。命あってこそだ……ありがとう、シノブ。俺達はお前達に救われた」
 そう素直に感謝の言葉を口にする。そして次は質問を。
「でもどうして俺達を助けたんだ? シノブだってこちらの思惑は分かっていたのだろう?」
「分かってましたけど、だからって助けない理由にはならないでしょう?」
「そうか……そうなんだな……」
 少しの間を置いて、ドンドゥルマは言葉を続ける。
「……シノブ。助けられた方はその場で脱落するはずだったが、そこを変更したい」
「ええーせっかく戦わずに済むと思ったのに」
「勘違いするな。そんなくだらない事をするつもりはない。俺はシノブに協力する」
「どういう事でしょうか?」
「そのままの意味だ。お前が頂上に辿り着けるよう俺が力になる。見返りはいらない。途中で得た素材もいらない。ただ協力させてくれ」
「はっきり言わせていただきます。そんな話を信用できると思います? 最後に美味しい所だけ掻っ攫うつもりかも知れないでしょう?」
「言い難い事をはっきり言うね」
 シャーリーが小さく呟く。
 そりゃ、はっきり言うわ!!
 こっちだってみんなで頑張ってんだから、最後だけ横取りされるわけにはいかないんじゃい!!
「六戦鬼の名に掛けて」
「でもそれだって自称です。本当に六戦鬼か分からないじゃないですか。そもそもドンドゥルマさんに何の利益も無いから私だって怪しく思うんですよ。どうして急に協力するなんて話になっているんですか?」
「それは……」
「それは? 納得のいく理由を聞かせてください」
「……面白いからだ」
「はぁぁぁ?」
「お前の力を見た時、本当に救国の小女神である事を確信した。大陸を救った小さく可愛らしい娘……興味がある、面白い。だから近くでシノブを見たい」
「……思ったより、ドンドゥルマさんって馬鹿だったんですね?」
 俺は他の六戦鬼メンバーに視線を向けて言う。笑っていた。
「まぁ、別に良いですよ。理由に『可愛らしい』が入っていたので」
 本当に横取りするつもりなら、リタイヤしたように装えば良い。脱出魔法道具を使ったとしても、入場料を払えばまた塔の中には入れるのだ。六戦鬼なら追い付く事も可能だろうし。
 それにみんないるし大丈夫だろう。

 そんなわけで六戦鬼と共に塔の最上階を目指すのであった。

★★★

 ミノタウロスより強い敵がバンバン出現すると思ったけど、そんな事も無かったか。敵は出てくるがそれ程でもない。さらに六戦鬼が加わって、戦いも余裕だぜ。最初はドンドゥルマだけが手伝ってくれるのかと思ったが、六戦鬼全員も手伝ってくれる事に。戦力的には倍だもんな、そりゃ楽さ。

 そして塔777階。
 そこは今まで見た事のない空間だった。
 石造りではあるが所々に緑色のガラスが填め込まれ淡く発光していた。最初に見た印象ではタッチパネル。
「ねぇ、シノブ、その指輪……」
 シャーリーに言われて気付く。俺の薬指の指輪が発光をしていた。淡い緑色の光。
「初めまして城主様」
 女性だった。年齢的には二十代前半だろうか、フレアやホーリーと同じくらいの年代に見える。整った顔の美女だが、その緑色の光る目がどこか人工的に見えた。
「城主様って私でしょうか?」
「はい。城主様。長い間ここでお待ちしておりました。私の事はカタリナとお呼び下さい」
「もしかしてここが塔の最上階ですか?」
「そうです」
 カタリナは頷く。
「いや……まさか俺達が最上階に辿り着けるとはな……」
 感慨深そうにミランは言う。
「そうね。塔が確認されてから数百年。その間に誰も辿り着けなかった場所に私達はいる。本当にシノブといると貴重な体験ばかり」
 そう言って笑うのはベルベッティア。
 そしてヴォルフラムも。
「確かに。まさかシノブが城主になるなんて。誰も想像ができない」
「私だってこんな事になるとは……ドンドゥルマさん? どうかしました?」
 上がったばかりの階段を下りようとする六戦鬼。
「ここが最上階ならもう俺達の力は必要無いだろう」
「でもせっかくここまで来たんだから、最後までいても良いじゃないですか」
「最初の話では助けられた時点で終わりだったんだ。俺達がこの先を見る権利は無い」
「権利って、そんなの決めた覚えはないんですけど」
「俺達は六戦鬼だからな」
 そう言ってドンドゥルマ達六戦鬼は姿を消すのだった。
 プライドってヤツなのかね、やっぱり……

「でもさぁ、受付で説明を受けたじゃん。塔の中で見付けた物は自由にできるけど、もし天空の城に辿り着いたら、城は王国に明け渡すって。シノブが自由にできんの?」
 シャーリーの疑問もごもっとも。
 実はそこが問題なんだよな。
 俺もここに来る前に色々と調べてはいたんだよ。
 天空への塔は王国の領土内にあるから王国の所有物である。その理屈は分かる。しかし天空の城は空を巡り、どの国の所有物とはハッキリと言えない。
「えっと、カタリナ。私が城主ってのは、天空の城の城主だよね?」
「世界を巡る空に浮かぶただ一つの城。それを天空の城と呼ぶならばそうなります」
「天空の城へ行けるのはこの塔からだけ?」
「そうです。この塔は城主に相応しいかの試練なのです。しかし一度城主になれば城への出入に塔を中継する必要はありません」
 だったら天空の城の所有を王国が主張しても問題無いか。
「城主の交代は可能?」
「不可能です。城主様がご逝去なさるまでは」
「……って、事なんだけどどうしよう?」
「私には難しい話は分からないぞ」
「あのね、ドレミドはね、分からないなら黙ってて良いからね。ね?」
「酷い!!」
「その辺りは後でも良いんじゃないか? どちらにしろ王国側との話し合いは必要になる。俺達だけで城の所有権について話し合ってもしょうがないだろう」
 ミランはそう言う。
「……そうだね。大きな問題にならないと良いんだけど……」
「じゃあさ、早く天空の城に行こうよ!!」
 そう楽しそうに言うのはシャーリー。
 そうだな……俺だって早く天空の城に行ってみたいしな!!
「カタリナ。天空の城へ案内してもらえる?」
「かしこまりました」
 カタリナは頷くと、その緑色の瞳が輝き出すのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風
ファンタジー
とある出来事により悲しんでいた男子高校生の杉井豊花は、ある日突然、異能力者になった。能力の内容は14歳の美少女になるというもの。 最初こそ願ったり叶ったりだと嬉々としていた豊花だが、様々な出来事が豊花の前に立ち塞がる。 女ならではの悩み、異能力者となったことによる弊害、忍び寄る裏社会の恐怖、命の奪い合いにまで遭遇してしまう。些細な問題から大きな事件まで次々に巻き込まれることになった豊花は、否が応にも解決を余儀なくされる。 豊花はまだ知らない。己の異能力が女体化以外にもあることを。戦える力があることを。 戦える力を手にした豊花は、次第に異能力の世界へと身を浸していく……。 ※ローファンタジーです。バトル要素あり、犯罪要素あり、百合要素あり、薬物要素あり。苦手な方はご注意ください(でも読んでくださいお願いします)。 ※※本作は『前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~』を横読みに変更し空行を空けた作品になります。こちらのほうは最新話まで随時投稿予定です。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

処理中です...