上 下
111 / 268
天空の城は本当にあったんだ編

天空への塔と天空の城

しおりを挟む
 王国が決めた立入禁止場所はいくつかある。
 それは歴史的に貴重だったり、王国に関する重要施設だったり。
 その中に『天空への塔』と呼ばれる巨大な塔がある。それは雲を突き抜ける程に超高層の塔。そして塔の最上階から世界の空を巡る『天空の城』へと行けるのだ。
 そして『天空への塔』と『天空の城』が近付くのは数十年に一度、それも数日間だけ。
 それが今年。
 この時だけ、天空の塔は立入禁止が解除され、誰でも最上階を目指す事ができる。
 それは多くの人間に塔の最上階を目指し、天空の城へと辿り着いて欲しいからである。
 つまり天空の城を確認して数百年、城はもちろん、塔の最上階へ辿り着いた者さえいないのだ。

 今、俺達はその塔を目の前にしていた。

「話には聞いていたけど凄いねこれ」
 俺はその天空への塔を見上げる。
 その外周の広さも凄いが、やっぱり高さだ。塔の上の方は霞んでてよく見えないレベルなんだけど。
「でもさー誰もてっぺんまで行った事ないのに、なんでそこから天空の城に行けると思ってんだろうね?」
 シャーリーは言う。
「そうね。でも天空の城は確かに存在している。私は昔一度見た事があるもの。もし城に行ける方法があるのなら、この塔だけ……そう考えるのも不思議じゃない」
 アリエリの頭の上に乗るベルベッティアは言う。
「ねぇ、シノブ。でも良いの? お店。しばらく休むんだよね?」
「大丈夫、大丈夫。人も増えてきたから。それにアリエリ、これだって仕事のうちなんだから」
「そうなの?」
「天空の城を目指す事がか?」
 と、ドレミド。
「まぁ、天空の城まで行けたら面白いけど、実際は無理でしょ。過去に王国はもちろん、いろんな人が最上階を目指したのに誰も辿り着いてないんだから。私達の目的は塔の中でできるだけ珍しい素材を見つける事だよ」
 だからこそ王国は門戸を広く開いた。
 それでも最上階に辿り着いた者はいない。俺達が到達できるとも思わない。
 ……しかし。
 塔の内部には地上では見られない珍しい素材があると聞く。それらがうちの店の新商品のヒントになるかも知れないのだ!!
「シノブ。シャーリーは大丈夫なのか?」
「ちょっとヴォル。あたしが大丈夫ってどういう事よ?」
「ドレミド、アリエリ、ミランは強いけど、シャーリーは危なくないのか?」
「ええ~あたしよりアリエリの方が強いの~? お子様じゃん」
「アリエリは強いぞ。ミランなら瞬殺だ」
「ミラン雑魚なん?」
「待て、ドレミド。俺を引き合いに出すのは止めろ。こうやってシャーリーが誤解するだろうが。お前達が異常なんだよ」
「ふふっ、ミランは強いわ。王国騎士団でも彼に勝てる人はきっと少ない」
「ほら、ベルベッティアもこう言っているだろ」
 まぁ、ヴォルフラムの心配も分かるが、そこは対して心配していない。なぜなら……
「大丈夫だよ。だってこれって一種のお祭りみたいなもんだもん」

★★★

「天空への塔に参加する皆様~こちらで受付をお願いしまぁ~す」
 塔の入口前にいる受付嬢。
「代表者のシノブです。参加するのはヴォルフラム、ドレミド、アリエリ、ミラン、シャーリー……ヌコの登録も必要ですか?」
「ニャー」
「ヌコちゃんは大丈夫ですよ。では六人パーティーですね。参加料をお願いします」
 俺は六人分の参加料を払う。
「はい。確かに頂きました。それでは緊急時にはこちらをご利用ください。それとシノブ様は、あの救国の小女神と言われているシノブ様でしょうか?」
「面と向かってそう呼ばれると恥ずかしいんですけど、そのシノブです」
「ありがとうございます。シノブ様。私達はあなた達に救われました。本当にありがとう。それと頑張って下さい。シノブ様が塔の最上階に到達できる事を祈っていますね」
「ありがとう、頑張ります」
 俺は笑った。

 ちなみにアバンセやパルに手伝ってもらえれば、かなり楽にはなるんだが、あの異変で大陸の竜脈が一回分断されてしまった。
 その修復の為、長い時間は各々がいる場所から離れられないらしい。
 この塔の攻略には数日が掛かる。

★★★

 塔1階。
 基本的に石材で造られた塔。
 その一階部分。数多くの参加者がいた。
 王国の調査隊、一攫千金を夢見る冒険者、ただ見学したいだけの観光客、雇われた傭兵、様々な参加者だ。
 そして歩いて見れば分かるが、食品や武具道具、雑貨店、色々なお店が塔内に出店されていた。
「シノブが大掛かりな荷物は必要無いと言ったのはこういう事なのね」
 ベルベッティアは辺りを見回す。
「うん、宿屋とかもあるみたいよ」
 塔内は人に溢れ、必要な物も出店されたお店で大概の物は揃う。しかも所々に簡易トイレまで設置され、受付では脱出魔法道具も渡された。そう、竜の罠でも使われた、あの丸いボールだ。
 つまりこれは一種のお祭り、お遊びでもあるのだ。
 未踏の高層階でなければ、ほぼ危険などは無い。
 そんな場所なのである。

★★★

 塔50階。
 売られていた低層階の地図を見ながら一日掛けて階を上がる。
「楽勝じゃん」
 シャーリーは言う。
 まだまだ人も多いし、お店もいっぱいある。
「ヴォル、大丈夫? 重くない? 疲れた?」
「大丈夫。余裕」
 ヴォルフラムの背に乗っているのは俺とシャーリー。
「ありがとう、ミランとドレミドは大丈夫?」
 それに対して二人は徒歩で階段を上がっている。ちなみにアリエリは歩いているように見えて、実はフワフワと浮かんでいた。
「足腰を鍛えるのに調度良いくらいだ。問題無い」
「私もだ。まだまだ大丈夫だぞ。もう少し進むか?」
「どうするシノブ?」
 ベルベッティアが言う。
「ううん。今日はここまで。この上から少し障害があるみたいだから、今日はここで休んで明日に備えるよ」
 ふふっ、我が商店は大幅黒字、アイザックの時に王国と帝国から貰った報奨金もある。つまりお金には困っていない。少々お高いが塔内の宿屋を使ってやらぁ!!

★★★

 塔200階。
 人もお店も大分減ったが、それでもまだまだ存在している。

 目の前に迫る軍団は全身を甲冑に包んだ何者か……って、この塔の罠みたいなもんなんだけどね。塔の中にはこうして行く手を遮る罠がいくつもある。
 天井は高いが、横幅はあまり無い石造りの通路。迫る軍団をドレミドとミランだけで押し返す。
「はっ!!」
 ドレミドが剣を横薙ぎにすると、いくつもの甲冑が分断され斬り飛ばされた。
 甲冑の中身はカラ。何も入っていない。
 まさにドレミドは力技だ。ただ剣を振るい前線を押し込んでいく。
 そしてミラン。
 鋭い剣閃が一体一体を確実に斬り捨てる。そしてその速さが尋常じゃない。俺から見ると、その体の動きがブレてよく見えない程。しかも止まらない、驚異的な体力でもある。
 ドレミドとの試合だとよく分からんけど、こうやって見るとミランもめっちゃ強いじゃん。
「ねぇ、シノブ。私は手伝わなくて大丈夫?」
「うん。アリエリは後方を含めて、周囲の警戒をお願い。何か気付いた事があったらベルベッティアもすぐに報告して」
「ええ、任せて」
 俺達の後方ではアリエリ。そのアリエリの頭の上にはベルベッティア。二人が後方の警戒をする。
「ホントにミラン強いじゃん。これならあたし達は寝てても良いんじゃないの?」
 シャーリーはケラケラと笑う。
 確かに、いくら甲冑軍団が多かろうが、ドレミドとミランの敵ではないだろう。でも……
「ねぇ、シャーリー。私はみんなが大好きだし、大事な仲間なの。誰一人、もちろんシャーリーにも万が一の事は起こって欲しくない。だからこういう状況になったら絶対に気を抜かないで。お願い」
「……ごめん。分かった、絶対に気を抜かない。気付いた事があったら何でもシノブに伝える」
 シャーリーは表情を引き締め、周囲に視線を走らせた。
 こういう素直な所は凄く良いと思う。

 そして残ったのは甲冑と言うよりは、ただの鉄屑。
 俺のその一つを摘み上げる。
「ねぇ、これって特別な鉄だと思う? ミラン、軽く魔力流してみて」
 ミツバがいれば、その判断も簡単なんだが……
 ミランも甲冑の破片を手に取る。
「……特に変わった反応は無いな」
 そしてアリエリが手を動かすと、鉄屑が勝手に動き集まる。そしてギギギギギッと集まり潰されていく。
「え、ちょ、ちょっと何あれ?」
「シャーリーは見るの初めてだもんね。あれ、アリエリの能力」
 アリエリの力は念動力と言うか、見えない巨大な手を操っているようなもの。ちなみにアリエリが浮いているのは、見えない足があるようなもの。そして防御力が異常に高いのは、見えない鎧を纏っているようなものらしい。
「これ、強度も強くないよ」
 アリエリは言う。
「まだこの階は人も多いから、特殊な素材は無いんじゃない?」
 と、ベルベッティア。
「まぁ、そうかぁ……まだ200階だもんね」
 これでもまだ低階層なんだぜ……

 まだまだ先は長いのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

無職だけど最強でした〜無職と馬鹿にされたが修行して覚醒したから無双してくる〜

えんじょい
ファンタジー
ある日、いつものように幼なじみと学校から帰宅している時に、交通事故に遭い幼なじみと共に死んでしまった… 気がつくとそこは異世界だった。 俺は転生してしまったらしい。 俺が転生してきた世界は、職というものがあり、その職によって人生が決まるという。 俺は職受礼の儀式という神々から職をもらう儀式で、無職という職を貰う。 どうやら無職というのは最弱の職らしい。 その職により俺は村から追放された。 それから修行を重ね数年後、初めてダンジョンをクリアした時に俺の職に変化が起きる。 俺の職がついに覚醒した。 俺は無職だけど最強になった。 無職で無双してやる! 初心者ですが、いい作品を書けるように頑張ります! 感想などコメント頂けると嬉しいです!

ドラゴンなのに飛べません!〜しかし他のドラゴンの500倍の強さ♪規格外ですが、愛されてます♪〜

藤*鳳
ファンタジー
 人間としての寿命を終えて、生まれ変わった先が...。 なんと異世界で、しかもドラゴンの子供だった。 しかしドラゴンの中でも小柄で、翼も小さいため空を飛ぶことができない。 しかも断片的にだが、前世の記憶もあったのだ。 人としての人生を終えて、次はドラゴンの子供として生まれた主人公。 色んなハンデを持ちつつも、今度はどんな人生を送る事ができるのでしょうか?

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

処理中です...