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天空の城は本当にあったんだ編

天空への塔と天空の城

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 王国が決めた立入禁止場所はいくつかある。
 それは歴史的に貴重だったり、王国に関する重要施設だったり。
 その中に『天空への塔』と呼ばれる巨大な塔がある。それは雲を突き抜ける程に超高層の塔。そして塔の最上階から世界の空を巡る『天空の城』へと行けるのだ。
 そして『天空への塔』と『天空の城』が近付くのは数十年に一度、それも数日間だけ。
 それが今年。
 この時だけ、天空の塔は立入禁止が解除され、誰でも最上階を目指す事ができる。
 それは多くの人間に塔の最上階を目指し、天空の城へと辿り着いて欲しいからである。
 つまり天空の城を確認して数百年、城はもちろん、塔の最上階へ辿り着いた者さえいないのだ。

 今、俺達はその塔を目の前にしていた。

「話には聞いていたけど凄いねこれ」
 俺はその天空への塔を見上げる。
 その外周の広さも凄いが、やっぱり高さだ。塔の上の方は霞んでてよく見えないレベルなんだけど。
「でもさー誰もてっぺんまで行った事ないのに、なんでそこから天空の城に行けると思ってんだろうね?」
 シャーリーは言う。
「そうね。でも天空の城は確かに存在している。私は昔一度見た事があるもの。もし城に行ける方法があるのなら、この塔だけ……そう考えるのも不思議じゃない」
 アリエリの頭の上に乗るベルベッティアは言う。
「ねぇ、シノブ。でも良いの? お店。しばらく休むんだよね?」
「大丈夫、大丈夫。人も増えてきたから。それにアリエリ、これだって仕事のうちなんだから」
「そうなの?」
「天空の城を目指す事がか?」
 と、ドレミド。
「まぁ、天空の城まで行けたら面白いけど、実際は無理でしょ。過去に王国はもちろん、いろんな人が最上階を目指したのに誰も辿り着いてないんだから。私達の目的は塔の中でできるだけ珍しい素材を見つける事だよ」
 だからこそ王国は門戸を広く開いた。
 それでも最上階に辿り着いた者はいない。俺達が到達できるとも思わない。
 ……しかし。
 塔の内部には地上では見られない珍しい素材があると聞く。それらがうちの店の新商品のヒントになるかも知れないのだ!!
「シノブ。シャーリーは大丈夫なのか?」
「ちょっとヴォル。あたしが大丈夫ってどういう事よ?」
「ドレミド、アリエリ、ミランは強いけど、シャーリーは危なくないのか?」
「ええ~あたしよりアリエリの方が強いの~? お子様じゃん」
「アリエリは強いぞ。ミランなら瞬殺だ」
「ミラン雑魚なん?」
「待て、ドレミド。俺を引き合いに出すのは止めろ。こうやってシャーリーが誤解するだろうが。お前達が異常なんだよ」
「ふふっ、ミランは強いわ。王国騎士団でも彼に勝てる人はきっと少ない」
「ほら、ベルベッティアもこう言っているだろ」
 まぁ、ヴォルフラムの心配も分かるが、そこは対して心配していない。なぜなら……
「大丈夫だよ。だってこれって一種のお祭りみたいなもんだもん」

★★★

「天空への塔に参加する皆様~こちらで受付をお願いしまぁ~す」
 塔の入口前にいる受付嬢。
「代表者のシノブです。参加するのはヴォルフラム、ドレミド、アリエリ、ミラン、シャーリー……ヌコの登録も必要ですか?」
「ニャー」
「ヌコちゃんは大丈夫ですよ。では六人パーティーですね。参加料をお願いします」
 俺は六人分の参加料を払う。
「はい。確かに頂きました。それでは緊急時にはこちらをご利用ください。それとシノブ様は、あの救国の小女神と言われているシノブ様でしょうか?」
「面と向かってそう呼ばれると恥ずかしいんですけど、そのシノブです」
「ありがとうございます。シノブ様。私達はあなた達に救われました。本当にありがとう。それと頑張って下さい。シノブ様が塔の最上階に到達できる事を祈っていますね」
「ありがとう、頑張ります」
 俺は笑った。

 ちなみにアバンセやパルに手伝ってもらえれば、かなり楽にはなるんだが、あの異変で大陸の竜脈が一回分断されてしまった。
 その修復の為、長い時間は各々がいる場所から離れられないらしい。
 この塔の攻略には数日が掛かる。

★★★

 塔1階。
 基本的に石材で造られた塔。
 その一階部分。数多くの参加者がいた。
 王国の調査隊、一攫千金を夢見る冒険者、ただ見学したいだけの観光客、雇われた傭兵、様々な参加者だ。
 そして歩いて見れば分かるが、食品や武具道具、雑貨店、色々なお店が塔内に出店されていた。
「シノブが大掛かりな荷物は必要無いと言ったのはこういう事なのね」
 ベルベッティアは辺りを見回す。
「うん、宿屋とかもあるみたいよ」
 塔内は人に溢れ、必要な物も出店されたお店で大概の物は揃う。しかも所々に簡易トイレまで設置され、受付では脱出魔法道具も渡された。そう、竜の罠でも使われた、あの丸いボールだ。
 つまりこれは一種のお祭り、お遊びでもあるのだ。
 未踏の高層階でなければ、ほぼ危険などは無い。
 そんな場所なのである。

★★★

 塔50階。
 売られていた低層階の地図を見ながら一日掛けて階を上がる。
「楽勝じゃん」
 シャーリーは言う。
 まだまだ人も多いし、お店もいっぱいある。
「ヴォル、大丈夫? 重くない? 疲れた?」
「大丈夫。余裕」
 ヴォルフラムの背に乗っているのは俺とシャーリー。
「ありがとう、ミランとドレミドは大丈夫?」
 それに対して二人は徒歩で階段を上がっている。ちなみにアリエリは歩いているように見えて、実はフワフワと浮かんでいた。
「足腰を鍛えるのに調度良いくらいだ。問題無い」
「私もだ。まだまだ大丈夫だぞ。もう少し進むか?」
「どうするシノブ?」
 ベルベッティアが言う。
「ううん。今日はここまで。この上から少し障害があるみたいだから、今日はここで休んで明日に備えるよ」
 ふふっ、我が商店は大幅黒字、アイザックの時に王国と帝国から貰った報奨金もある。つまりお金には困っていない。少々お高いが塔内の宿屋を使ってやらぁ!!

★★★

 塔200階。
 人もお店も大分減ったが、それでもまだまだ存在している。

 目の前に迫る軍団は全身を甲冑に包んだ何者か……って、この塔の罠みたいなもんなんだけどね。塔の中にはこうして行く手を遮る罠がいくつもある。
 天井は高いが、横幅はあまり無い石造りの通路。迫る軍団をドレミドとミランだけで押し返す。
「はっ!!」
 ドレミドが剣を横薙ぎにすると、いくつもの甲冑が分断され斬り飛ばされた。
 甲冑の中身はカラ。何も入っていない。
 まさにドレミドは力技だ。ただ剣を振るい前線を押し込んでいく。
 そしてミラン。
 鋭い剣閃が一体一体を確実に斬り捨てる。そしてその速さが尋常じゃない。俺から見ると、その体の動きがブレてよく見えない程。しかも止まらない、驚異的な体力でもある。
 ドレミドとの試合だとよく分からんけど、こうやって見るとミランもめっちゃ強いじゃん。
「ねぇ、シノブ。私は手伝わなくて大丈夫?」
「うん。アリエリは後方を含めて、周囲の警戒をお願い。何か気付いた事があったらベルベッティアもすぐに報告して」
「ええ、任せて」
 俺達の後方ではアリエリ。そのアリエリの頭の上にはベルベッティア。二人が後方の警戒をする。
「ホントにミラン強いじゃん。これならあたし達は寝てても良いんじゃないの?」
 シャーリーはケラケラと笑う。
 確かに、いくら甲冑軍団が多かろうが、ドレミドとミランの敵ではないだろう。でも……
「ねぇ、シャーリー。私はみんなが大好きだし、大事な仲間なの。誰一人、もちろんシャーリーにも万が一の事は起こって欲しくない。だからこういう状況になったら絶対に気を抜かないで。お願い」
「……ごめん。分かった、絶対に気を抜かない。気付いた事があったら何でもシノブに伝える」
 シャーリーは表情を引き締め、周囲に視線を走らせた。
 こういう素直な所は凄く良いと思う。

 そして残ったのは甲冑と言うよりは、ただの鉄屑。
 俺のその一つを摘み上げる。
「ねぇ、これって特別な鉄だと思う? ミラン、軽く魔力流してみて」
 ミツバがいれば、その判断も簡単なんだが……
 ミランも甲冑の破片を手に取る。
「……特に変わった反応は無いな」
 そしてアリエリが手を動かすと、鉄屑が勝手に動き集まる。そしてギギギギギッと集まり潰されていく。
「え、ちょ、ちょっと何あれ?」
「シャーリーは見るの初めてだもんね。あれ、アリエリの能力」
 アリエリの力は念動力と言うか、見えない巨大な手を操っているようなもの。ちなみにアリエリが浮いているのは、見えない足があるようなもの。そして防御力が異常に高いのは、見えない鎧を纏っているようなものらしい。
「これ、強度も強くないよ」
 アリエリは言う。
「まだこの階は人も多いから、特殊な素材は無いんじゃない?」
 と、ベルベッティア。
「まぁ、そうかぁ……まだ200階だもんね」
 これでもまだ低階層なんだぜ……

 まだまだ先は長いのである。
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