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崩壊編
激戦と混戦
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ローロンが現れた。
それはローロン側にしてみれば勝利の確信があったからだ。つまり包囲が完成している。逃げ切る事はほぼ不可能だろう。全員では……
「フレア、ミツバ、アルタイル、フォリオ、タカさん。少しだけ敵を防いでくれ。リアーナ、ロザリンド、ベリー、キオ、ユリアン。それとリコリス、話がある」
「パパ!! こんな時に!!?」
「早くするんだ」
そこで説明されたビスマルクの判断は……
「お前達はここを離脱するんだ。リアーナ、ロザリンド、隊を指揮しろ。リコリス、ユリアン、ベリーは補助。キオも同行し、ゴーレムの層の薄い場所を探して進め。シノブと合流しろ。シノブにだけは絶対に状況を伝えろ。シノブならこの状況を何とかする」
リアーナもロザリンドも、そしてユリアンもすぐに気付いた。
ベルベッティアがシノブとの合流に向かっているのだ。状況の伝達は必須ではない。それにシノブを呼ぶだけならユリアン一人が飛んでここを抜ければ良い。
それをしない意味。
若い者だけを逃がす。
同時に全員無事ではここを抜けられないという事。
「私達がここに敵を引き付け、お前達の離脱を後押しする」
ビスマルクは言う。
「分かったわ、わたくし達が必ずシノブを連れて来るから!!」
リコリス以外、ビスマルクの意図に気付いていた。しかしそれを指摘すれば、リコリスは動かないだろう。
だからこそ誰も、何も言わない。
★★★
「すまない。付き合わせてしまったな」
目の前のゴーレムを叩き潰してビスマルクは言う。
リアーナ達六人に、二人の隊の傭兵と冒険者が一気に抜けたのだ。周りの反応を確認する余裕は無かった。
少し離れた位置から剣戟の音が聞こえる。ヴイーヴルだろう。
「おいおい、何か弱気になってねぇか!!?」
ミツバだ。
「ははっ、ビスマルクさんらしくないね!! これから死んじまうみたいじゃないか!!」
そう言って笑うのはタカニャ。
「ビスマルク様。大丈夫ですよ」
普段はあまり喋らないフレアの声。
その声にビスマルクは笑顔を浮かべた。
「そうだな……きっと大丈夫だ」
ビスマルクは獣のような雄叫びを上げて、ゴーレムに突っ込んでいくのだった。
★★★
ビスマルク達が派手に暴れるおかげで、ゴーレムは次から次へとそちらへと向かう。
そしてリアーナ達はゴーレムの群れを突破するのである。
何体かのゴーレムを振り切り、そのまま全速力で離脱する。ヴイーヴルを相手にしている為、ローロンも指揮が出来なかったのだろう。
見事、逃げ切る事に成功した。
あとはこのままシノブとの合流地点へ……
リアーナとロザリンドは足を止めた。その様子にリコリスは言う。
「何をしているの? わたくし達は急いでいるのよ?」
「……ロザリンドちゃん」
「リアーナ……そうね」
リアーナの言葉にロザリンドは頷いた。その様子を見てタックルベリーは大きく息を吐いて一言。
「やっぱりか……」
ロザリンドは大きく深呼吸。そして……
「私とリアーナはもう一度ゴーレムの中に飛び込むわ」
このままなら自分達は逃げ切れるが、ビスマルク達は全滅するだろう。しかし今戻れば、その全滅が少しだけ先延ばしになる。その間にシノブが駆け付ける可能性も高くなる。
全員が助かる為にはこれしかない。
「ちょっとロザリンド!!?」
驚きの表情を浮かべるリコリス。
「でも強制じゃない。他の人はこのまま離脱してもらって構わないわ」
二人がここまで指揮をしたのは、巻き込んだ傭兵と冒険者をできるだけ逃がす目的も含まれていた。
そのロザリンドの言葉に何人かの脱落者。
「もう魔力もそんなに残ってないんだからな。あんまり期待すんなよ」
「ベリー君……ありがとう」
「ありがとうじゃねぇーよ。ここで逃げたら寝覚めが悪いだろ」
「わ、わわ、私も行きます……」
キオだ。
そのキオにロザリンドは静かに言う。
「キオ。無理しなくて良いの。分かっているでしょう? 無事に戻れる保証は無い」
「そ、それでも……わ、私はみなさんを……シノブさんを信じています」
ロザリンドが最初、キオを見た時……どこか頼りなく、弱々しくも見えた。年齢も下だから、そう見えたのは当然なのかも知れない。
しかし今、この場のキオは強い決意に溢れた表情を浮かべている。
もう守るべき存在ではない。お互いに手を取り合える存在になっていたのだ。
「キオが来てくれるなら頼もしいわ」
「は、はい!!」
ロザリンドは笑った。
「分かりましたわ。わたくしも……」
「リコリスはシノブと合流して。ユリアンも。頼むわ」
「馬鹿な事を言わないで。みんなが大変なのにわたくしだけ」
「分かった」
「ちょっとユリアン!!?」
「……誰がシノブにこの事を伝えるんだ。行くぞ」
「で、でも……」
リコリスは気付かない。でも周りはユリアンの気持ちに気付いている……リコリスだけは助けたい。それぐらい厳しい状況なのである。
「いいから行くぞ」
「わ、分かったから手をそんなに引っ張らないで」
そうして二人は離れていく。
「……それじゃ行きましょうか」
ロザリンドは言う。
隊で脱落した者もいるが、それでも半分くらいは残ってくれた。これならばもう少し時間が稼げるかも知れない。
そうして再度、ゴーレムの群れに飛び込むのだった。
そしてそんな様子を捉えたのは、空からゴーレムを攻撃するフォリオだった。空から急降下して、鋭い足の爪でゴーレムを切り裂くフォリオ。再び空に舞い上がった時にロザリンド達の姿を見付ける。
「ロザリンドだ!! リアーナも!! こっち向かって来ているぞ!!」
その言葉にビスマルクは笑った。
「はは、こりゃ気合を入れ直さないとね」
タカニャも笑うのだった。
まさに激戦、今までに無い程の激戦だった。
リアーナとロザリンド、その二人の姿はまるで歴戦の勇士である。技術、体力、精神力、全てが同年代より飛び抜け、この若さでは驚嘆の存在。
その二人を先頭にして、ビスマルクの元まで辿り着いていた。
そこでビスマルクも含め陣形を組み、ゴーレムの薄い層を見極め、少しずつ移動しながら戦いを繰り広げる。このまま逃げ切る事が出来れば、それはそれで大成功だ。
しかしゴーレムの圧倒的物量はそんなに簡単ではなく……
★★★
もうタックルベリーに周りを気にする余裕は無かった。
ミツバが駆け回り、次から次へと負傷者を連れて来る。ゴーレムの群れの中、フレアが防御魔法を張り、その中で負傷者に回復魔法を唱える。
その為、移動しながら戦う事も出来ない。この場での足止め。
そしてそこに飛び込んで来たのは……
「ベリー君!! ロザリンドちゃんが!!」
ロザリンドを背負うリアーナ。
意識を失ったロザリンドの頭から鮮血がボタボタと流れ落ちる。背負っているリアーナの肩辺りもロザリンドの血で濡れていた。かなりの出血だ。
「任せろ」
「お願い」
そして再びリアーナはゴーレムへと向かうのだ。
魔力とは形のあるモノではない。それがカラになった時、何を代用して魔法を使うのか……それは術者の生命力。
既にタックルベリーの魔力は枯渇していた。
それでもタックルベリーは回復魔法をロザリンドに唱える。
「……致命傷じゃないけど……この出血量だから、多分すぐには目覚めない。フレアさん、ロザリンドを頼みますよ」
「はい」
フレアは頷いて気付く。
「ベリー様。鼻血が」
「……ああ。みたいですね。まぁ、生命力削ってますからこれくらいは。でもフレアさん、後でシノブに言っといて下さいよ。タックルベリーは凄くカッコ良かったって。あの野郎、最近は僕の事を馬鹿にしてきやがるからな」
タックルベリーは鼻血を袖で拭う。
「はい。事実を伝えます。ベリー様は本当に良い男性だと」
フレアはそう言って微笑んだ。
そしてまた負傷者が連れられて来る。タックルベリーは生命力を削り、回復役に徹するのだった。
激戦の中。少しでも周りの状況を把握する為にキオは戦いながらもカトブレパスの瞳を発動していた。その負担。
突然だった。キオの意識がプツンッと途切れる。その場で意識を失い倒れ込んだ。そのキオに迫るゴーレムの攻撃。
「キオ!!」
たまたま近くにいたタカニャだ。
覆い被さるようにして、そのキオを庇う。
ゴーレムの一撃がタカニャの体に叩き込まれる。キオと共に、タカニャの大きな体が弾き飛ばされ、地面を転がる。しかし地面を転がりつつもキオを守るように抱えて離さない。
「キオ!! タカさん!! 大丈夫か!!?」
負傷者回収で駆け回るミツバが、二人の周囲のゴーレムを斬り飛ばした。
「これくらい私は大丈夫さ。でもキオが」
フレアの防御魔法が無ければ危なかっただろう。
「任せろ。キオは俺が責任を持ってベリーの所に連れていく」
「ああ、頼んだよ」
「ビスマルク」
普段は滅多に喋らないアルタイルだった。
「何だ?」
「これから魔法を使う。しかしその強大さ故に私は気を失うだろう」
「その魔法でこの事態を好転させる事は可能なのか?」
「相当の時間稼ぎにはなる。ただ問題が一つ。気を失った私は魔法の制御を完全には出来ない。だからお前達は避ける事だけを考えろ」
この土壇場でアルタイルの魔法。
それは良くも悪くも大きな影響を与えるものなのだろう……ビスマルクはそう受け取った。それでもアルタイルが提案をしたのなら、それは起死回生の一手になるのかも知れない。
「……分かった。頼むぞ、アルタイル」
「……」
そしてアルタイルは魔法を使う。スケルトンを扱うネクロマンサー。それと同じ魔法だが、今回は規模が違う。
アルタイルの、男と女の混じった不思議な声で魔法が詠唱されていく。そのアルタイルを中心として大地に広がる魔法陣。その魔法陣はどんどん巨大化していく。
それはこの場所に眠るモノ達。人、獣、魔物、一年前、十年前、百年前、千年前、全てを蘇らせる極大魔法。
大地は波打ち、地面が盛り上がっていく。
人型、獣型、何千年もの間、この大地で散っていった無数の命。それが今、全て、この場に蘇る。
肉を持たない骨だけの大群として。
それらにアルタイルは命令を下して、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
『周囲の敵を打ち倒せ』
無数のスケルトン、人型も獣型も、大も小も、ゴーレムを遥かに凌駕する数が土の下から姿を現すのだ。
そしてそれはアルタイルの指示通りに周囲のゴーレムに襲い掛かった。
「ビスマルクさん、これはアルタイルのスケルトンなんですか?」
戦場を飛び回り、情報伝達を担うフォリオ。ビスマルクに抱えられたアルタイルに視線を向ける。
「ああ、そうだ。しかしアルタイルはこの状態なので正確に制御は出来ない。みんなに戦いを中断して、避ける事に専念するよう伝えてくれ」
「了解しました」
そしてフォリオは再び駆け出す。
大量のスケルトンはゴーレムに攻撃を加える。しかしその際に周りへの配慮は何も無い。その戦いに巻き込まれないようにビスマルク達は回避へと専念する。
凄まじい混戦。
その中でリアーナは力尽きた。
ゴーレムに弾き飛ばされ、地面に横たわる。起き上がれない。完全に意識を失っている。
「リアーナ姐さん!!」
そこに滑り込むのはミツバ。
リアーナに迫るゴーレムを斬り飛ばすのだが……完全に囲まれていた。逃げ場が無い。
「くそったれ……」
ミツバはそう吐き捨てるのだった。
一方その頃。
意識が朦朧とする。しかしここで回復魔法を止めれば、誰かが死ぬかも知れない。そしてそれは今運ばれて来たキオの可能性だってある。タックルベリーは回復魔法を唱え続ける。
しかしその背後だった。
それはフレアが崩れ落ちる音。魔力も気力も限界を超えてフレアは力尽きた。それは同時に防御魔法が途切れるという事。
その時にタックルベリーは周りの状況を把握するのだった。
スケルトンとゴーレムとの戦い。そしてその中からこちらに向かって来るゴーレムの姿。しかしタックルベリーに、もう反撃する力は残っていないのだ。
ここで終わりか。
タックルベリーは心の中でそう呟いた。
こちらはヴイーヴルとローロン。
「スケルトンには驚いたが、もう終わりだな」
ローロンは笑みを浮かべる。
大量のスケルトンで全滅は先延ばしにできたが、それでも終わりが近い。それはヴイーヴルも理解していた。
「最後まで分からないわよ~」
ヴイーヴルは言葉を続ける。
「こちらには可愛い、救国の小女神がいるもの~」
「シノブだな。彼女が強いのは知っている。しかしこの状況を引っくり返す程の力は無いだろう」
「そう思う~?」
「この状況を変えられるのは五竜くらいだ。三つ首竜に勝ったという話は聞いたが、さすがにそれは考えられない。きっとアバンセと協りょ」
ローロンの言葉は途中で遮られた。その理由は……
それはローロン側にしてみれば勝利の確信があったからだ。つまり包囲が完成している。逃げ切る事はほぼ不可能だろう。全員では……
「フレア、ミツバ、アルタイル、フォリオ、タカさん。少しだけ敵を防いでくれ。リアーナ、ロザリンド、ベリー、キオ、ユリアン。それとリコリス、話がある」
「パパ!! こんな時に!!?」
「早くするんだ」
そこで説明されたビスマルクの判断は……
「お前達はここを離脱するんだ。リアーナ、ロザリンド、隊を指揮しろ。リコリス、ユリアン、ベリーは補助。キオも同行し、ゴーレムの層の薄い場所を探して進め。シノブと合流しろ。シノブにだけは絶対に状況を伝えろ。シノブならこの状況を何とかする」
リアーナもロザリンドも、そしてユリアンもすぐに気付いた。
ベルベッティアがシノブとの合流に向かっているのだ。状況の伝達は必須ではない。それにシノブを呼ぶだけならユリアン一人が飛んでここを抜ければ良い。
それをしない意味。
若い者だけを逃がす。
同時に全員無事ではここを抜けられないという事。
「私達がここに敵を引き付け、お前達の離脱を後押しする」
ビスマルクは言う。
「分かったわ、わたくし達が必ずシノブを連れて来るから!!」
リコリス以外、ビスマルクの意図に気付いていた。しかしそれを指摘すれば、リコリスは動かないだろう。
だからこそ誰も、何も言わない。
★★★
「すまない。付き合わせてしまったな」
目の前のゴーレムを叩き潰してビスマルクは言う。
リアーナ達六人に、二人の隊の傭兵と冒険者が一気に抜けたのだ。周りの反応を確認する余裕は無かった。
少し離れた位置から剣戟の音が聞こえる。ヴイーヴルだろう。
「おいおい、何か弱気になってねぇか!!?」
ミツバだ。
「ははっ、ビスマルクさんらしくないね!! これから死んじまうみたいじゃないか!!」
そう言って笑うのはタカニャ。
「ビスマルク様。大丈夫ですよ」
普段はあまり喋らないフレアの声。
その声にビスマルクは笑顔を浮かべた。
「そうだな……きっと大丈夫だ」
ビスマルクは獣のような雄叫びを上げて、ゴーレムに突っ込んでいくのだった。
★★★
ビスマルク達が派手に暴れるおかげで、ゴーレムは次から次へとそちらへと向かう。
そしてリアーナ達はゴーレムの群れを突破するのである。
何体かのゴーレムを振り切り、そのまま全速力で離脱する。ヴイーヴルを相手にしている為、ローロンも指揮が出来なかったのだろう。
見事、逃げ切る事に成功した。
あとはこのままシノブとの合流地点へ……
リアーナとロザリンドは足を止めた。その様子にリコリスは言う。
「何をしているの? わたくし達は急いでいるのよ?」
「……ロザリンドちゃん」
「リアーナ……そうね」
リアーナの言葉にロザリンドは頷いた。その様子を見てタックルベリーは大きく息を吐いて一言。
「やっぱりか……」
ロザリンドは大きく深呼吸。そして……
「私とリアーナはもう一度ゴーレムの中に飛び込むわ」
このままなら自分達は逃げ切れるが、ビスマルク達は全滅するだろう。しかし今戻れば、その全滅が少しだけ先延ばしになる。その間にシノブが駆け付ける可能性も高くなる。
全員が助かる為にはこれしかない。
「ちょっとロザリンド!!?」
驚きの表情を浮かべるリコリス。
「でも強制じゃない。他の人はこのまま離脱してもらって構わないわ」
二人がここまで指揮をしたのは、巻き込んだ傭兵と冒険者をできるだけ逃がす目的も含まれていた。
そのロザリンドの言葉に何人かの脱落者。
「もう魔力もそんなに残ってないんだからな。あんまり期待すんなよ」
「ベリー君……ありがとう」
「ありがとうじゃねぇーよ。ここで逃げたら寝覚めが悪いだろ」
「わ、わわ、私も行きます……」
キオだ。
そのキオにロザリンドは静かに言う。
「キオ。無理しなくて良いの。分かっているでしょう? 無事に戻れる保証は無い」
「そ、それでも……わ、私はみなさんを……シノブさんを信じています」
ロザリンドが最初、キオを見た時……どこか頼りなく、弱々しくも見えた。年齢も下だから、そう見えたのは当然なのかも知れない。
しかし今、この場のキオは強い決意に溢れた表情を浮かべている。
もう守るべき存在ではない。お互いに手を取り合える存在になっていたのだ。
「キオが来てくれるなら頼もしいわ」
「は、はい!!」
ロザリンドは笑った。
「分かりましたわ。わたくしも……」
「リコリスはシノブと合流して。ユリアンも。頼むわ」
「馬鹿な事を言わないで。みんなが大変なのにわたくしだけ」
「分かった」
「ちょっとユリアン!!?」
「……誰がシノブにこの事を伝えるんだ。行くぞ」
「で、でも……」
リコリスは気付かない。でも周りはユリアンの気持ちに気付いている……リコリスだけは助けたい。それぐらい厳しい状況なのである。
「いいから行くぞ」
「わ、分かったから手をそんなに引っ張らないで」
そうして二人は離れていく。
「……それじゃ行きましょうか」
ロザリンドは言う。
隊で脱落した者もいるが、それでも半分くらいは残ってくれた。これならばもう少し時間が稼げるかも知れない。
そうして再度、ゴーレムの群れに飛び込むのだった。
そしてそんな様子を捉えたのは、空からゴーレムを攻撃するフォリオだった。空から急降下して、鋭い足の爪でゴーレムを切り裂くフォリオ。再び空に舞い上がった時にロザリンド達の姿を見付ける。
「ロザリンドだ!! リアーナも!! こっち向かって来ているぞ!!」
その言葉にビスマルクは笑った。
「はは、こりゃ気合を入れ直さないとね」
タカニャも笑うのだった。
まさに激戦、今までに無い程の激戦だった。
リアーナとロザリンド、その二人の姿はまるで歴戦の勇士である。技術、体力、精神力、全てが同年代より飛び抜け、この若さでは驚嘆の存在。
その二人を先頭にして、ビスマルクの元まで辿り着いていた。
そこでビスマルクも含め陣形を組み、ゴーレムの薄い層を見極め、少しずつ移動しながら戦いを繰り広げる。このまま逃げ切る事が出来れば、それはそれで大成功だ。
しかしゴーレムの圧倒的物量はそんなに簡単ではなく……
★★★
もうタックルベリーに周りを気にする余裕は無かった。
ミツバが駆け回り、次から次へと負傷者を連れて来る。ゴーレムの群れの中、フレアが防御魔法を張り、その中で負傷者に回復魔法を唱える。
その為、移動しながら戦う事も出来ない。この場での足止め。
そしてそこに飛び込んで来たのは……
「ベリー君!! ロザリンドちゃんが!!」
ロザリンドを背負うリアーナ。
意識を失ったロザリンドの頭から鮮血がボタボタと流れ落ちる。背負っているリアーナの肩辺りもロザリンドの血で濡れていた。かなりの出血だ。
「任せろ」
「お願い」
そして再びリアーナはゴーレムへと向かうのだ。
魔力とは形のあるモノではない。それがカラになった時、何を代用して魔法を使うのか……それは術者の生命力。
既にタックルベリーの魔力は枯渇していた。
それでもタックルベリーは回復魔法をロザリンドに唱える。
「……致命傷じゃないけど……この出血量だから、多分すぐには目覚めない。フレアさん、ロザリンドを頼みますよ」
「はい」
フレアは頷いて気付く。
「ベリー様。鼻血が」
「……ああ。みたいですね。まぁ、生命力削ってますからこれくらいは。でもフレアさん、後でシノブに言っといて下さいよ。タックルベリーは凄くカッコ良かったって。あの野郎、最近は僕の事を馬鹿にしてきやがるからな」
タックルベリーは鼻血を袖で拭う。
「はい。事実を伝えます。ベリー様は本当に良い男性だと」
フレアはそう言って微笑んだ。
そしてまた負傷者が連れられて来る。タックルベリーは生命力を削り、回復役に徹するのだった。
激戦の中。少しでも周りの状況を把握する為にキオは戦いながらもカトブレパスの瞳を発動していた。その負担。
突然だった。キオの意識がプツンッと途切れる。その場で意識を失い倒れ込んだ。そのキオに迫るゴーレムの攻撃。
「キオ!!」
たまたま近くにいたタカニャだ。
覆い被さるようにして、そのキオを庇う。
ゴーレムの一撃がタカニャの体に叩き込まれる。キオと共に、タカニャの大きな体が弾き飛ばされ、地面を転がる。しかし地面を転がりつつもキオを守るように抱えて離さない。
「キオ!! タカさん!! 大丈夫か!!?」
負傷者回収で駆け回るミツバが、二人の周囲のゴーレムを斬り飛ばした。
「これくらい私は大丈夫さ。でもキオが」
フレアの防御魔法が無ければ危なかっただろう。
「任せろ。キオは俺が責任を持ってベリーの所に連れていく」
「ああ、頼んだよ」
「ビスマルク」
普段は滅多に喋らないアルタイルだった。
「何だ?」
「これから魔法を使う。しかしその強大さ故に私は気を失うだろう」
「その魔法でこの事態を好転させる事は可能なのか?」
「相当の時間稼ぎにはなる。ただ問題が一つ。気を失った私は魔法の制御を完全には出来ない。だからお前達は避ける事だけを考えろ」
この土壇場でアルタイルの魔法。
それは良くも悪くも大きな影響を与えるものなのだろう……ビスマルクはそう受け取った。それでもアルタイルが提案をしたのなら、それは起死回生の一手になるのかも知れない。
「……分かった。頼むぞ、アルタイル」
「……」
そしてアルタイルは魔法を使う。スケルトンを扱うネクロマンサー。それと同じ魔法だが、今回は規模が違う。
アルタイルの、男と女の混じった不思議な声で魔法が詠唱されていく。そのアルタイルを中心として大地に広がる魔法陣。その魔法陣はどんどん巨大化していく。
それはこの場所に眠るモノ達。人、獣、魔物、一年前、十年前、百年前、千年前、全てを蘇らせる極大魔法。
大地は波打ち、地面が盛り上がっていく。
人型、獣型、何千年もの間、この大地で散っていった無数の命。それが今、全て、この場に蘇る。
肉を持たない骨だけの大群として。
それらにアルタイルは命令を下して、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
『周囲の敵を打ち倒せ』
無数のスケルトン、人型も獣型も、大も小も、ゴーレムを遥かに凌駕する数が土の下から姿を現すのだ。
そしてそれはアルタイルの指示通りに周囲のゴーレムに襲い掛かった。
「ビスマルクさん、これはアルタイルのスケルトンなんですか?」
戦場を飛び回り、情報伝達を担うフォリオ。ビスマルクに抱えられたアルタイルに視線を向ける。
「ああ、そうだ。しかしアルタイルはこの状態なので正確に制御は出来ない。みんなに戦いを中断して、避ける事に専念するよう伝えてくれ」
「了解しました」
そしてフォリオは再び駆け出す。
大量のスケルトンはゴーレムに攻撃を加える。しかしその際に周りへの配慮は何も無い。その戦いに巻き込まれないようにビスマルク達は回避へと専念する。
凄まじい混戦。
その中でリアーナは力尽きた。
ゴーレムに弾き飛ばされ、地面に横たわる。起き上がれない。完全に意識を失っている。
「リアーナ姐さん!!」
そこに滑り込むのはミツバ。
リアーナに迫るゴーレムを斬り飛ばすのだが……完全に囲まれていた。逃げ場が無い。
「くそったれ……」
ミツバはそう吐き捨てるのだった。
一方その頃。
意識が朦朧とする。しかしここで回復魔法を止めれば、誰かが死ぬかも知れない。そしてそれは今運ばれて来たキオの可能性だってある。タックルベリーは回復魔法を唱え続ける。
しかしその背後だった。
それはフレアが崩れ落ちる音。魔力も気力も限界を超えてフレアは力尽きた。それは同時に防御魔法が途切れるという事。
その時にタックルベリーは周りの状況を把握するのだった。
スケルトンとゴーレムとの戦い。そしてその中からこちらに向かって来るゴーレムの姿。しかしタックルベリーに、もう反撃する力は残っていないのだ。
ここで終わりか。
タックルベリーは心の中でそう呟いた。
こちらはヴイーヴルとローロン。
「スケルトンには驚いたが、もう終わりだな」
ローロンは笑みを浮かべる。
大量のスケルトンで全滅は先延ばしにできたが、それでも終わりが近い。それはヴイーヴルも理解していた。
「最後まで分からないわよ~」
ヴイーヴルは言葉を続ける。
「こちらには可愛い、救国の小女神がいるもの~」
「シノブだな。彼女が強いのは知っている。しかしこの状況を引っくり返す程の力は無いだろう」
「そう思う~?」
「この状況を変えられるのは五竜くらいだ。三つ首竜に勝ったという話は聞いたが、さすがにそれは考えられない。きっとアバンセと協りょ」
ローロンの言葉は途中で遮られた。その理由は……
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※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
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