89 / 264
崩壊編
廃村と性行為をしないと出られない部屋
しおりを挟む
「隠し事を見抜く能力なんて無いのよね?」
ベルベッティアの言葉に俺は笑う。
「無い無い。そんなのあるわけ無いじゃん。まぁ、これからみんなに説明するって」
フォリオとタカニャも戻る。
どうやら周囲に伏兵などの姿は無いらしい。
そして俺は全員を集めて、ママトエトエとの会話で分かった事をみんなに伝える。
「まず今回の件の黒幕は三つ首竜じゃない。多分だけどアイザックが本当の黒幕の可能性が高い」
「どういう事? あれだけの会話で分かるの?」
ベルベッティアの質問に俺は頷く。
「ベルベッティアは私とママトエトエの会話に違和感無かった?」
「会話の流れに変な所は無かったと思うけど……」
「だから逆に変なの。今回の事態に多くのゴーレムが関わっているから黒幕を三つ首竜と考えるのは当然だよね? だけどドレミドの反応を見て、違う可能性もあると考えた。だからママトエトエの会話では黒幕を別の誰かとして話をしていたんだよ」
俺は説明を続ける。
黒幕が三つ首竜なら、俺が発言した『別の誰か』が意味を成さない。
それに俺は『アナタ達の指揮官がどんな人物かは分からない』とも言った。しかし三つ首竜の存在は有名だし、俺とは一度直接戦っている。黒幕が三つ首竜なら、ママトエトエがそれを知らないとは考えられない。
よって黒幕は三つ首竜ではない可能性が高い。
「……つまりあの会話がすんなりと流れに違和感が無いなら、それは黒幕が別にいるからだよ」
「それだと根拠が少し弱くない? ママトエトエが適当に付き合っていただけの可能性もあるし、シノブのその考えに気付いて演技をしていた可能性だってある」
ベルベッティアの言う事にも一理ある。
「だから次に出したのがアイザックの名前。それと僕の嘘能力」
そもそもゴーレムという技術についてタックルベリーもアルタイルも三つ首竜独自のモノという見解だった。しかしその特殊過ぎる能力は神々の手である可能性の方が高いのではないか?
そこで俺はアイザックの名前を出し、さらに秘密を見抜く能力があるとカマを掛けた。
「もし全てが的外れならママトエトエは僕のハッタリを見抜けただろうけど」
「合っていたから無視も出来なかった……」
「そうだね。だから今回は退くしかなかったんだよ。まぁ、情報を引き出しつつ、相手を撤退させるという名采配だったわけだ。どうだ、褒め称え給え!!」
「ねぇ、シノブちゃん、もし全てが的外れで相手が退かなかったらどうするつもりだったの?」
と、リアーナ。
「そりゃねぇ……勝とうと思うから、こっちにも被害が出るわけで、負けないよう防衛しながら撤退すれば被害も少なく離脱出来るでしょ。まぁ、最後は僕の能力もあるわけだし」
戦力が拮抗しているのは向こうも分かっているだろうから無駄追いも無いだろ。
「でも今回は良かったけど、絶対的な勝算を何か手に入れないとね」
当然だが負け戦なんざしたくねぇ。
ん?
「どうしたの? 僕への賞賛は?」
呆れたように言うのはロザリンドだった。
「分かってはいたけど、何て言うか……少ない会話の中でそこまで考えていたのは凄いと思う……でも、何故かシノブだと悪知恵が働くと言うか、ズル賢いと言うか、そんな印象になるのが不思議だわ」
「ちょっとぉぉぉっ!!」
「分かる」
「ベルベッティアまで!!」
「わ、わわ、私はそんな事、お、思わないです!! シ、シノブさんは凄いです!!」
「キオは良い子だね。みんな、キオを見習って!!」
「シノブ様は所々で暴言が目立ちますから、そこを直して頂けたら」
そう言うのはホーリー。
「だって基本的に嫌な奴は小馬鹿にしたい」
「そういう所ですシノブ様」
「まぁ、らしいって言えばシノブらしいけどな」
タックルベリーの言葉にみんな笑うのだった。
★★★
そんなわけで大陸の新しい地図を作るかの如く、アイザックを探して大陸を進んで行くわけだが……どうしてこんな事に……
たまたま立ち寄った廃村だった。
崩れ落ちる寸前の建物が並ぶ中、その建物だけは比較的しっかりと形が残っていた。もしかしたら誰かいるのかと足を踏み入れた瞬間だった。
空間は歪み、周囲の景色は消失する。一瞬だけ目の前は闇に包まれ、気付くと別の一室に俺達はいた。
俺、リアーナ、ロザリンド、タックルベリー、リコリス、ユリアン、キオ。この七人。
見た事のある机に椅子、鏡台、そしてベッド……これって……
「僕の部屋じゃん!!」
そう、それはエルフの町の実家である俺の部屋じゃねぇか!!
窓から見える景色も一緒。
「そうなの?」
と、ロザリンド。リアーナも頷く。
「うん、確かにシノブちゃんの部屋だよね」
「どういう事なのかしら? わたくし達はシノブの部屋に転送されたという事?」
リコリスの言葉にユリアンは言う。
「サンドンの所みたいな装置がここにもあるなんて考えられないって」
「そうだな、ここは本当のシノブの部屋じゃないな」
タックルベリーはドアノブに手を掛けていた。そして戸を押したり引いたり。
「だって開かないぞ」
じゃあ、窓は……開かねぇ。
「ちょっとみんな離れてて」
俺は椅子を手にして……ドガッと窓を殴り付ける。窓ガラスは全く割れない。
「キオ。ちょっと周りを見て」
「は、はい」
キオのカトブレパスの瞳なら何か分かるかも知れない……と思ったが……
「だ、駄目です……外の様子も、な、何も見えません」
「ベリー、どう思う?」
「まぁ、一種の結界。竜の罠と同じ、魔法の類だと思うけどな」
「どうする? 僕の能力で一気に吹き飛ばす?」
「止めろ。例えば、シノブが強力な魔法を使うだろ。それに耐えられる強度がこの部屋にあったら、その魔法の威力で僕達は全滅する恐れがある」
「じゃあ、とりあえず部屋を調べるだけ調べようか。外ではアルタイルえもん辺りが色々と考えてくれるだろうし」
まぁ、本当にどうにもならないようなら、危ないけど俺の能力を使うしかねぇか。
そんな感じで部屋の中を調べてみるのだが、とんでもないモノを発見しちまったぜ。
それは机の引き出しの中に入れられていた一枚の紙。
そこに書かれていたのは……
『性行為をしないと出られない部屋』
あらやだ、これ漫画で見た事あるぅ!!
「シノブちゃん? どうしたの? 何かあった?」
「ま、まぁ、あったと言えばあったんだけど……」
リアーナは俺が手に持つ紙を覗き込んだ。
「……シノブちゃん……ふざけてるの?」
「ち、違うって……机の中に入っていたの。もちろん僕が書いたもんじゃないよ」
「どうしたの、一体?」
俺とリアーナの様子に気付いたロザリンド。ロザリンドも紙を覗き込む。
「……シノブ……ふざけているの?」
「だから違うって!!」
「ん? 何かあったのか? どんな些細なモノでもみんなに教えろよ。重要な事かも知れないからな」
た、確かにタックルベリーの言う通りであるんだが……し、仕方ねぇ……みんなに見せるか。
俺は改めて発見したその紙をみんなに見せるのだった。
「あ、あの、あの、シ、シノブさん、こ、ここ、これって……あの、そ、その……せ、せせ……」
「キオは知らないのかしら? わたくしは知っていますわ」
「も、もも、もももしかして、リコリスちゃんはすでに、け、経験が?」
キオは反射的にユリアンへ視線を向けた。
「ち、違っ、こっちを見るなよ」
「経験はありませんわ。でも知識として持っているのは当然でしょう。もう何も知らない子供じゃないのよ」
「ねぇ、シノブ、本当にこれはシノブが書いたものではないのね?」
「こんな時にそんな事はしないって」
ロザリンドの言葉に俺は答える。
「じゃあ、誰がこんな悪ふざけを」
「いや、これを実行する事により、ここから出られる可能性は高いな」
リアーナの言葉を遮るようにタックルベリーは言う。そして続けた。
「まずここが誰かに作られた空間である事は間違いない。その紙に書かれた内容、実際にみんな書いている余裕なんて無かっただろうし、そう考えるとこの空間を作った誰かが残したものと考えるのが当然だろう。わざわざ密室を作って残したんだ。それを実行する事により、ここから出られる可能性は高いと僕は考える。もちろん意にそぐわない行為である事は重々に分かっているが、ここを出る為に絶対必要だと思う」
そう言うタックルベリーであるが……
「何、笑ってんの?」
「笑っていませんけど」
「笑ってたじゃん!! しかもニヤニヤと!!」
「ニヤニヤしていませんけど」
「してたよ!! このドスケベが!!」
「ドスケベじゃありませんけど。だってここを出る為に必要なんですから」
「うるさい、馬鹿!! 絶対に別の方法を見付けるからね!!」
「無いと思うな~僕は~」
「死ね!!」
そんなワケで別の方法を探してみる事に……
どれぐらい経っただろうか……ここを脱出する術が一向に見付からない。
「ね、ねぇ……本当にここから出る方法が無かったら……シノブちゃん……どうするの?」
リアーナは小さく言う。
「ど、どうするって……」
本当にそれしか手段が無いなら……俺が全体の指揮官であり責任者だ……もし本当に必要だったら俺しかいないだろ……
「もちろん……僕がするよ……」
「……した事あるの?」
「無いけど仕方無いじゃん。リアーナは男性経験あるの?」
「わ、私も無いよ」
「ロザリンドは?」
「……無いわ」
「キオは……まぁ、聞くまでも無いか」
「は、はい……」
「でも最初がベリーかぁ……いやぁ、まぁ、ベリー自体はカッコイイんだけど……やっぱり変態馬鹿野郎の印象が強くてねぇ~」
「でもベリー君、学校では人気があるんだよ」
「そうなの?」
「だよね、ロザリンドちゃん」
「そうね。色んな女性にお付き合いを申し込まれているけど、全部断っているみたいだわ」
「だからきっとシノブちゃんの事が好きなんだと思っていたけど」
「ベリーが僕の事を? 違うよ、きっと僕が一番手近な異性だったんだよ。あの年頃の男は相手が女なら基本的に誰でも良いんだから」
「そういうものなの?」
「確かに恋愛的に好き嫌いの感覚はあるけど、それと性欲はまた別の話なんだよ。好きな相手じゃなくても、エッチが出来そうなら誰でも良いみたいな」
「シノブちゃん、詳しいね。本当に男の子みたい」
「べ、勉強になります……は、はい……」
まぁ、中身は元・男ですからね。
「でも、だったらお付き合いを受けたら良かったんじゃないかしら? その方が深い関係になれるでしょう?」
「甘いね、ロザリンド。それを受けたら恋人同士になっちゃうでしょ? 恋人は好きな人が良いんだよ。だからベリーが探しているのはエッチが出来そうな女の子。今回なんか最大のチャンスじゃん。見逃すわけないよ」
「最低……ベリー君、最低な男の子だったんだね」
「つまりベリーは自分の性欲を発散させる為ならシノブでもリアーナでも、キオやリコリスでも良いって事なのね……」
「で、でも、リコリスちゃんには、ユリアン君がいるのに……ベリーさん、酷いです……酷過ぎます……」
なんて話していると。
「うおぉぉぉぉぉい!! 聞こえてんだよ!! 全部、聞こえてんだよ!! 勝手な想像で解釈入れるを止めろぉ!!」
「でも当たってるでしょーよ!!」
「当たってねーよ!! 僕はこの状況から脱出する為に必要だから言ってんだよ!!」
「それで誰としたいのさ?」
「えっ、誰と?」
……タックルベリーの視線はリアーナに向かう。
「うっ……凄く胸を見られている気がするよ……」
リアーナは小さく声を漏らす。
そしてタックルベリーの視線はロザリンド、キオ、リコリスと順に向けられた。
「場合によっては斬り捨てるしか無いわ」
「ううっ……」
「わたくしが魅力的なのは分かるけど」
最後は俺を見る。
「今、選んでいたよね? 選んでいたって事は誰でも良いって事でしょう? つまりやっぱりベリーはエッチが出来るなら誰とでも良いんだよ!!」
「……まぁ、そうだけどね」
「開き直りやがった!!?」
「男って奴はな!! 可愛い子となら何人とでもエロエロしたいもんなんだよ!! そうだろ、ユリアン!!?」
「えっ、そこで俺に話を振るの!!?」
全員の視線がユリアンに集中する。
「あっ……気持ちは分からなくないけど……でも、やっぱり……それは相手に失礼だと思う。俺はそういう事……やっぱり本当に好きな相手としか……」
「でもユリアンはシノブを尊敬しているだろ? そのシノブがここを出る為に必要だからって言われたらどうする?」
「それは……」
言い淀むユリアン。
「ほら、男はそういう所があるんだよ!!」
「異議あり!! ユリアンの場合は仕方なくその行為に及ぶのであって、行為そのものを目的としたベリーと一緒にするのは不適切だよ!!」
「あ、心配するな。シノブはその対象に入ってないから」
「何でこの僕が!!? 最高級に可愛いのに意味分からん!!」
「だって幼児体型は好きじゃない」
「死にさらせボケ!!」
俺はタックルベリーに殴り掛かるのだった。
ベルベッティアの言葉に俺は笑う。
「無い無い。そんなのあるわけ無いじゃん。まぁ、これからみんなに説明するって」
フォリオとタカニャも戻る。
どうやら周囲に伏兵などの姿は無いらしい。
そして俺は全員を集めて、ママトエトエとの会話で分かった事をみんなに伝える。
「まず今回の件の黒幕は三つ首竜じゃない。多分だけどアイザックが本当の黒幕の可能性が高い」
「どういう事? あれだけの会話で分かるの?」
ベルベッティアの質問に俺は頷く。
「ベルベッティアは私とママトエトエの会話に違和感無かった?」
「会話の流れに変な所は無かったと思うけど……」
「だから逆に変なの。今回の事態に多くのゴーレムが関わっているから黒幕を三つ首竜と考えるのは当然だよね? だけどドレミドの反応を見て、違う可能性もあると考えた。だからママトエトエの会話では黒幕を別の誰かとして話をしていたんだよ」
俺は説明を続ける。
黒幕が三つ首竜なら、俺が発言した『別の誰か』が意味を成さない。
それに俺は『アナタ達の指揮官がどんな人物かは分からない』とも言った。しかし三つ首竜の存在は有名だし、俺とは一度直接戦っている。黒幕が三つ首竜なら、ママトエトエがそれを知らないとは考えられない。
よって黒幕は三つ首竜ではない可能性が高い。
「……つまりあの会話がすんなりと流れに違和感が無いなら、それは黒幕が別にいるからだよ」
「それだと根拠が少し弱くない? ママトエトエが適当に付き合っていただけの可能性もあるし、シノブのその考えに気付いて演技をしていた可能性だってある」
ベルベッティアの言う事にも一理ある。
「だから次に出したのがアイザックの名前。それと僕の嘘能力」
そもそもゴーレムという技術についてタックルベリーもアルタイルも三つ首竜独自のモノという見解だった。しかしその特殊過ぎる能力は神々の手である可能性の方が高いのではないか?
そこで俺はアイザックの名前を出し、さらに秘密を見抜く能力があるとカマを掛けた。
「もし全てが的外れならママトエトエは僕のハッタリを見抜けただろうけど」
「合っていたから無視も出来なかった……」
「そうだね。だから今回は退くしかなかったんだよ。まぁ、情報を引き出しつつ、相手を撤退させるという名采配だったわけだ。どうだ、褒め称え給え!!」
「ねぇ、シノブちゃん、もし全てが的外れで相手が退かなかったらどうするつもりだったの?」
と、リアーナ。
「そりゃねぇ……勝とうと思うから、こっちにも被害が出るわけで、負けないよう防衛しながら撤退すれば被害も少なく離脱出来るでしょ。まぁ、最後は僕の能力もあるわけだし」
戦力が拮抗しているのは向こうも分かっているだろうから無駄追いも無いだろ。
「でも今回は良かったけど、絶対的な勝算を何か手に入れないとね」
当然だが負け戦なんざしたくねぇ。
ん?
「どうしたの? 僕への賞賛は?」
呆れたように言うのはロザリンドだった。
「分かってはいたけど、何て言うか……少ない会話の中でそこまで考えていたのは凄いと思う……でも、何故かシノブだと悪知恵が働くと言うか、ズル賢いと言うか、そんな印象になるのが不思議だわ」
「ちょっとぉぉぉっ!!」
「分かる」
「ベルベッティアまで!!」
「わ、わわ、私はそんな事、お、思わないです!! シ、シノブさんは凄いです!!」
「キオは良い子だね。みんな、キオを見習って!!」
「シノブ様は所々で暴言が目立ちますから、そこを直して頂けたら」
そう言うのはホーリー。
「だって基本的に嫌な奴は小馬鹿にしたい」
「そういう所ですシノブ様」
「まぁ、らしいって言えばシノブらしいけどな」
タックルベリーの言葉にみんな笑うのだった。
★★★
そんなわけで大陸の新しい地図を作るかの如く、アイザックを探して大陸を進んで行くわけだが……どうしてこんな事に……
たまたま立ち寄った廃村だった。
崩れ落ちる寸前の建物が並ぶ中、その建物だけは比較的しっかりと形が残っていた。もしかしたら誰かいるのかと足を踏み入れた瞬間だった。
空間は歪み、周囲の景色は消失する。一瞬だけ目の前は闇に包まれ、気付くと別の一室に俺達はいた。
俺、リアーナ、ロザリンド、タックルベリー、リコリス、ユリアン、キオ。この七人。
見た事のある机に椅子、鏡台、そしてベッド……これって……
「僕の部屋じゃん!!」
そう、それはエルフの町の実家である俺の部屋じゃねぇか!!
窓から見える景色も一緒。
「そうなの?」
と、ロザリンド。リアーナも頷く。
「うん、確かにシノブちゃんの部屋だよね」
「どういう事なのかしら? わたくし達はシノブの部屋に転送されたという事?」
リコリスの言葉にユリアンは言う。
「サンドンの所みたいな装置がここにもあるなんて考えられないって」
「そうだな、ここは本当のシノブの部屋じゃないな」
タックルベリーはドアノブに手を掛けていた。そして戸を押したり引いたり。
「だって開かないぞ」
じゃあ、窓は……開かねぇ。
「ちょっとみんな離れてて」
俺は椅子を手にして……ドガッと窓を殴り付ける。窓ガラスは全く割れない。
「キオ。ちょっと周りを見て」
「は、はい」
キオのカトブレパスの瞳なら何か分かるかも知れない……と思ったが……
「だ、駄目です……外の様子も、な、何も見えません」
「ベリー、どう思う?」
「まぁ、一種の結界。竜の罠と同じ、魔法の類だと思うけどな」
「どうする? 僕の能力で一気に吹き飛ばす?」
「止めろ。例えば、シノブが強力な魔法を使うだろ。それに耐えられる強度がこの部屋にあったら、その魔法の威力で僕達は全滅する恐れがある」
「じゃあ、とりあえず部屋を調べるだけ調べようか。外ではアルタイルえもん辺りが色々と考えてくれるだろうし」
まぁ、本当にどうにもならないようなら、危ないけど俺の能力を使うしかねぇか。
そんな感じで部屋の中を調べてみるのだが、とんでもないモノを発見しちまったぜ。
それは机の引き出しの中に入れられていた一枚の紙。
そこに書かれていたのは……
『性行為をしないと出られない部屋』
あらやだ、これ漫画で見た事あるぅ!!
「シノブちゃん? どうしたの? 何かあった?」
「ま、まぁ、あったと言えばあったんだけど……」
リアーナは俺が手に持つ紙を覗き込んだ。
「……シノブちゃん……ふざけてるの?」
「ち、違うって……机の中に入っていたの。もちろん僕が書いたもんじゃないよ」
「どうしたの、一体?」
俺とリアーナの様子に気付いたロザリンド。ロザリンドも紙を覗き込む。
「……シノブ……ふざけているの?」
「だから違うって!!」
「ん? 何かあったのか? どんな些細なモノでもみんなに教えろよ。重要な事かも知れないからな」
た、確かにタックルベリーの言う通りであるんだが……し、仕方ねぇ……みんなに見せるか。
俺は改めて発見したその紙をみんなに見せるのだった。
「あ、あの、あの、シ、シノブさん、こ、ここ、これって……あの、そ、その……せ、せせ……」
「キオは知らないのかしら? わたくしは知っていますわ」
「も、もも、もももしかして、リコリスちゃんはすでに、け、経験が?」
キオは反射的にユリアンへ視線を向けた。
「ち、違っ、こっちを見るなよ」
「経験はありませんわ。でも知識として持っているのは当然でしょう。もう何も知らない子供じゃないのよ」
「ねぇ、シノブ、本当にこれはシノブが書いたものではないのね?」
「こんな時にそんな事はしないって」
ロザリンドの言葉に俺は答える。
「じゃあ、誰がこんな悪ふざけを」
「いや、これを実行する事により、ここから出られる可能性は高いな」
リアーナの言葉を遮るようにタックルベリーは言う。そして続けた。
「まずここが誰かに作られた空間である事は間違いない。その紙に書かれた内容、実際にみんな書いている余裕なんて無かっただろうし、そう考えるとこの空間を作った誰かが残したものと考えるのが当然だろう。わざわざ密室を作って残したんだ。それを実行する事により、ここから出られる可能性は高いと僕は考える。もちろん意にそぐわない行為である事は重々に分かっているが、ここを出る為に絶対必要だと思う」
そう言うタックルベリーであるが……
「何、笑ってんの?」
「笑っていませんけど」
「笑ってたじゃん!! しかもニヤニヤと!!」
「ニヤニヤしていませんけど」
「してたよ!! このドスケベが!!」
「ドスケベじゃありませんけど。だってここを出る為に必要なんですから」
「うるさい、馬鹿!! 絶対に別の方法を見付けるからね!!」
「無いと思うな~僕は~」
「死ね!!」
そんなワケで別の方法を探してみる事に……
どれぐらい経っただろうか……ここを脱出する術が一向に見付からない。
「ね、ねぇ……本当にここから出る方法が無かったら……シノブちゃん……どうするの?」
リアーナは小さく言う。
「ど、どうするって……」
本当にそれしか手段が無いなら……俺が全体の指揮官であり責任者だ……もし本当に必要だったら俺しかいないだろ……
「もちろん……僕がするよ……」
「……した事あるの?」
「無いけど仕方無いじゃん。リアーナは男性経験あるの?」
「わ、私も無いよ」
「ロザリンドは?」
「……無いわ」
「キオは……まぁ、聞くまでも無いか」
「は、はい……」
「でも最初がベリーかぁ……いやぁ、まぁ、ベリー自体はカッコイイんだけど……やっぱり変態馬鹿野郎の印象が強くてねぇ~」
「でもベリー君、学校では人気があるんだよ」
「そうなの?」
「だよね、ロザリンドちゃん」
「そうね。色んな女性にお付き合いを申し込まれているけど、全部断っているみたいだわ」
「だからきっとシノブちゃんの事が好きなんだと思っていたけど」
「ベリーが僕の事を? 違うよ、きっと僕が一番手近な異性だったんだよ。あの年頃の男は相手が女なら基本的に誰でも良いんだから」
「そういうものなの?」
「確かに恋愛的に好き嫌いの感覚はあるけど、それと性欲はまた別の話なんだよ。好きな相手じゃなくても、エッチが出来そうなら誰でも良いみたいな」
「シノブちゃん、詳しいね。本当に男の子みたい」
「べ、勉強になります……は、はい……」
まぁ、中身は元・男ですからね。
「でも、だったらお付き合いを受けたら良かったんじゃないかしら? その方が深い関係になれるでしょう?」
「甘いね、ロザリンド。それを受けたら恋人同士になっちゃうでしょ? 恋人は好きな人が良いんだよ。だからベリーが探しているのはエッチが出来そうな女の子。今回なんか最大のチャンスじゃん。見逃すわけないよ」
「最低……ベリー君、最低な男の子だったんだね」
「つまりベリーは自分の性欲を発散させる為ならシノブでもリアーナでも、キオやリコリスでも良いって事なのね……」
「で、でも、リコリスちゃんには、ユリアン君がいるのに……ベリーさん、酷いです……酷過ぎます……」
なんて話していると。
「うおぉぉぉぉぉい!! 聞こえてんだよ!! 全部、聞こえてんだよ!! 勝手な想像で解釈入れるを止めろぉ!!」
「でも当たってるでしょーよ!!」
「当たってねーよ!! 僕はこの状況から脱出する為に必要だから言ってんだよ!!」
「それで誰としたいのさ?」
「えっ、誰と?」
……タックルベリーの視線はリアーナに向かう。
「うっ……凄く胸を見られている気がするよ……」
リアーナは小さく声を漏らす。
そしてタックルベリーの視線はロザリンド、キオ、リコリスと順に向けられた。
「場合によっては斬り捨てるしか無いわ」
「ううっ……」
「わたくしが魅力的なのは分かるけど」
最後は俺を見る。
「今、選んでいたよね? 選んでいたって事は誰でも良いって事でしょう? つまりやっぱりベリーはエッチが出来るなら誰とでも良いんだよ!!」
「……まぁ、そうだけどね」
「開き直りやがった!!?」
「男って奴はな!! 可愛い子となら何人とでもエロエロしたいもんなんだよ!! そうだろ、ユリアン!!?」
「えっ、そこで俺に話を振るの!!?」
全員の視線がユリアンに集中する。
「あっ……気持ちは分からなくないけど……でも、やっぱり……それは相手に失礼だと思う。俺はそういう事……やっぱり本当に好きな相手としか……」
「でもユリアンはシノブを尊敬しているだろ? そのシノブがここを出る為に必要だからって言われたらどうする?」
「それは……」
言い淀むユリアン。
「ほら、男はそういう所があるんだよ!!」
「異議あり!! ユリアンの場合は仕方なくその行為に及ぶのであって、行為そのものを目的としたベリーと一緒にするのは不適切だよ!!」
「あ、心配するな。シノブはその対象に入ってないから」
「何でこの僕が!!? 最高級に可愛いのに意味分からん!!」
「だって幼児体型は好きじゃない」
「死にさらせボケ!!」
俺はタックルベリーに殴り掛かるのだった。
0
お気に入りに追加
187
あなたにおすすめの小説
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
直球キャラゆえに婚約破棄された令嬢、腹黒住民が集う排他的な辺境に嫁ぎます。愛しいダーリンと共に、その住民根性叩き直してみせますわ!
花房ジュリー②
ファンタジー
※第17回ファンタジー小説大賞エントリー中。応援お願いします!
公爵令嬢シャルロッテは、その『ハキハキした物言い』ゆえに、王太子から婚約破棄を言い渡される。
おまけに濡れ衣を着せられるわ、国一番の女たらしと噂の辺境伯・レオとの結婚を命じられるわと、まさに踏んだり蹴ったり。
それでも前向きに辺境地エクスクルブルクへ乗り込むシャルロッテだったが、そこは超排他的で、陰険な領民たちの集まりだった。
旧王都であることを誇りにし、神官シュトレーゼマン一族を異様に信奉する彼らから、迫害を受けるシャルロッテ。
だが、夫レオは、シャルロッテの直球な性格を気に入った様子。
一緒に領民たちの根性を叩き直そうと、二人はエクスクルブルクの改革を決意する。
だがその矢先、シュトレーゼマン一族が王都を『奪還』しようと、とんでもない計画を立てているとの情報が!
計画阻止に奔走するシャルロッテとレオだが、領民たちは一癖も二癖もあり、一筋縄ではいかない。さらにはレオにも、何やら秘密があるようで……!?
※このお話はフィクションです。実在の人物、地名等とは一切関係ありません。
※小説家になろう様にも掲載しています。
いじめられていた俺は自宅ダンジョンで世界最強になっていた 陰キャ高校生いじめっ子をボコボコにできるようになりました
木嶋隆太
ファンタジー
いじめられ、引きこもりがちの高校生である俺の家に、ダンジョンが出現した。世界初のダンジョンを発見した俺は、そのダンジョンの攻略を開始する。RPG大好きな俺はゲーム感覚で迷宮攻略を行っていった俺は、ステータスを鍛え、レベルを爆速で上げていく。異世界の美少女妖精サリアとともに、いじめっ子をボコボコにすることを目標に俺は迷宮攻略を行っていく。そして、気づけばいじめっ子なんて目ではないほどの最強になっていた。
異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。
すばらしい新世界
阿波野治
ホラー
教師に嫌な目に遭わされ、悪友と喧嘩をした昼下り、小学六年生のイナがうたた寝から目を覚まさすと、世界から人が消えていた。検証の結果、どうやら世界を意のままに操る能力を得たらしい。力を使って好き放題しようと目論むイナだったが……。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる