上 下
35 / 264
地下大迷宮編

巨大蝙蝠と岩人形

しおりを挟む
 もう絶対に地下への階段は下りねぇ。絶対にだ。
 閉じ込められた。
 俺の能力を使って、この場所自体を破壊してやろうとも思ったが、リアーナとの相談でそれは保留。
 まずここが何処だか正確には分からない。そして俺の能力には持続力が無く、一度使うとしばらくは使えない。例えば、ここが海や湖の底の洞窟だった場合。その場合、洞窟を破壊して俺の能力が切れた所に大量の水が流れ込んで来たらそこで終わりだ。
 事前の調査では外に通じる出入口があるらしいので、そこを目指してみるのが先だな。
「とりあえず他の出入口に向かうよ。ロザリンドが先頭。どんな些細な事でも気になったら教えて。ただの気のせいだと思っても絶対にね」
「分かったわ」
「リアーナは最後尾をお願い。大変だと思うけど左右も後ろも全方位に気を配って。もし疲れて集中力が落ちるようならちゃんと教えて。休憩取るから。無理したら危険度が上がるよ」
「大丈夫だよ。その辺りはサンドンさんに叩き込まれたから」
「ベリーは……薄暗いからってセクハラしないで」
「おおぉい!!」
「それと迷宮の地図の作成をお願い。頭でも記憶して、この地図にも何か発見したら書き足して」
「了解した。それとセクハラはちょっとだけなら大丈夫か?」
「ちょっとだけでも大丈夫じゃないよ。じゃあ、よろしく」
 学校から渡された地下地図をタックルベリーに渡す。
「じゃあ、みんな。油断しないで、絶対無事に帰ろうね」
「ええ」
「うん」
「おう」

 こうして探索が始まるのだった。

★★★

 階段を下りて少し歩く。
 天井も高く、広い通路。そこで俺達は……戦っていた。
「報告に無いぞ!! どうなってんだよ、これはよ!! 手抜きか!!? 手抜き調査だったのか!!?」
「ベリーうるさい!! 集中して私を守って!!」
「守られる奴の台詞じゃない!!」
 タックルベリーの剣が襲い掛かる蝙蝠の群れを薙ぎ払う。魔法専門ではあるが、剣が使えないわけではない。魔力節約の為、剣で対処出来る相手に魔法は使わない。
 しかし……蝙蝠とは言うが……普通のサイズじゃ無ぇ。人の上半身程度に巨大だ。噛まれたら骨ごと肉を喰い獲られそうだぜ。
 報告でそんな魔物は居なかったはず。
 そしてロザリンドとリアーナの前には岩で形造られた岩人形。通路の壁がそのまま何体もの岩人形となり襲い掛かる。ただ元々が岩である人形に斬撃が効くのか分からないが……
 ロザリンドの一閃が、リアーナの一撃が岩人形を砕き、ただの岩へと変えていく。理由は分からんけど効くじゃん、斬撃。
 しかし壁も天井も足元も岩、どこから岩人形が現れるか分からない。
 油断してるわけじゃねぇけどこれじゃ!!
 気付いた時にはもう遅い。足元、岩の地面から伸びた手が俺の足首を掴んでいた。現れた岩人形に片手で軽々と持ち上げられ、そのまま地面へと俺の体が振り下ろされる。
 自分の能力を使う余裕も無い。この勢いのまま地面に叩き付けられれば絶命。しかし。
「シノブっ!!」
 タックルベリーが俺の体と地面の間に滑り込む。
 ドバンッ
「あうっ」
「ぐはっ」
 広げたタックルベリーの胸の中へ叩き付けられる。タックルベリーの体がクッションとなり絶命は免れるが、それでもとんでもない衝撃。意識が飛びそうだ畜生!!
「シノブちゃん!!」
 すっ飛んで来たリアーナが俺の足を掴んでいた岩人形を粉々に粉砕する。
「二人とも大丈夫!!?」
「死なない程度には大丈夫だけど……動けない」
「僕が回復魔法を使う。リアーナはすぐ戻れ」
「ベリー君、シノブちゃんをお願い」
 そしてすぐにリアーナは戦闘に戻る。そしてタックルベリーの詠唱魔法が俺とタックルベリー自身のダメージを回復させるのだった。
「どうだ?」
「ありがとう、ベリー、助かっ、危なっ!!」
 言っている途中にも、今度は天井から岩人形が。
 俺がタックルベリーを押し倒すようにして、その攻撃を回避する。二人、抱き合うようにして地面を転がる。
「今度は僕が助けられたな。それにお前、良い匂いがするぞ」
「さっきのお返し。それにそれセクハラになるからね」
 岩の上をゴロゴロと転がり体中が痛ぇ。

「リアーナもロザリンドも大丈夫?」
「ええ、私は大丈夫。リアーナは?」
「うん、私も大丈夫。シノブちゃんは?」
「危なかったけど、大丈夫。でもこれって岩人形の出現に刺激されて、元から居た巨大蝙蝠が襲って来たって感じなのかな?」
 辺りを見回せば、砕かれた岩と倒れた巨大蝙蝠。
「分からないわね。そもそも事前調査では居なかった魔物のはずだし」
「でも岩人形が弱くて助かったよね。砕いた後にまた復活するかもと思ったよ」
 リアーナの言う通りだ。これで砕いた岩がまた岩人形を形成するなんて無限ループの可能性もあったのだから。
 しかし同じく辺りを見回していたタックルベリーが気付く。
「弱くても別に構わなかったんだよ」
「どういう事?」
「全員、周りを良く見てみろ」
「……私達が来た所って一本道だったよね?」
 脇道が増えてる……
「どこから来たか分かる?」
 ロザリンドの言葉にリアーナは首を横に振る。
「来た通路がこの中にあるかも分からないぞ。地図の作成とか無意味」
「……もしかして岩人形がここの造りを変えているって事?」
「多分な」
 俺の言葉にタックルベリーは頷いた。
 何てこった……岩人形が動く事により、新たな通路が生まれ、使えた通路が閉ざされる。岩人形の存在は敵の排除ではなく、迷宮を造り変える意図が主。
 まさに迷宮。
「……でも誰に対してなの? 竜や魔物を閉じ込めるだけならこんな仕掛けは必要無いわ」
 ロザリンドは言う。
 そのこの仕掛けはまるで……
「この迷宮への侵入者に対して」
 そう、これは人に対しての仕掛けなんじゃないか? 侵入者である俺達を逃さないように……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

直球キャラゆえに婚約破棄された令嬢、腹黒住民が集う排他的な辺境に嫁ぎます。愛しいダーリンと共に、その住民根性叩き直してみせますわ!

花房ジュリー②
ファンタジー
※第17回ファンタジー小説大賞エントリー中。応援お願いします! 公爵令嬢シャルロッテは、その『ハキハキした物言い』ゆえに、王太子から婚約破棄を言い渡される。 おまけに濡れ衣を着せられるわ、国一番の女たらしと噂の辺境伯・レオとの結婚を命じられるわと、まさに踏んだり蹴ったり。 それでも前向きに辺境地エクスクルブルクへ乗り込むシャルロッテだったが、そこは超排他的で、陰険な領民たちの集まりだった。 旧王都であることを誇りにし、神官シュトレーゼマン一族を異様に信奉する彼らから、迫害を受けるシャルロッテ。 だが、夫レオは、シャルロッテの直球な性格を気に入った様子。 一緒に領民たちの根性を叩き直そうと、二人はエクスクルブルクの改革を決意する。 だがその矢先、シュトレーゼマン一族が王都を『奪還』しようと、とんでもない計画を立てているとの情報が!  計画阻止に奔走するシャルロッテとレオだが、領民たちは一癖も二癖もあり、一筋縄ではいかない。さらにはレオにも、何やら秘密があるようで……!? ※このお話はフィクションです。実在の人物、地名等とは一切関係ありません。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

いじめられていた俺は自宅ダンジョンで世界最強になっていた 陰キャ高校生いじめっ子をボコボコにできるようになりました

木嶋隆太
ファンタジー
いじめられ、引きこもりがちの高校生である俺の家に、ダンジョンが出現した。世界初のダンジョンを発見した俺は、そのダンジョンの攻略を開始する。RPG大好きな俺はゲーム感覚で迷宮攻略を行っていった俺は、ステータスを鍛え、レベルを爆速で上げていく。異世界の美少女妖精サリアとともに、いじめっ子をボコボコにすることを目標に俺は迷宮攻略を行っていく。そして、気づけばいじめっ子なんて目ではないほどの最強になっていた。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

すばらしい新世界

阿波野治
ホラー
教師に嫌な目に遭わされ、悪友と喧嘩をした昼下り、小学六年生のイナがうたた寝から目を覚まさすと、世界から人が消えていた。検証の結果、どうやら世界を意のままに操る能力を得たらしい。力を使って好き放題しようと目論むイナだったが……。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...