上 下
25 / 264
王立学校編

ミーティングと熱い青春

しおりを挟む
 模擬戦の詳細決定。
 参加パーティー八チームでのトーナメント制。相手のパーティーメンバー全員を戦闘不能、もしくは降参をさせれば勝ち。
 戦闘不能には頭部、首、心臓部などに武器が当たる事も含まれる。本来なら致命傷である、という意味で。
 ちなみに模擬戦中は重大な事故が起こらないよう、常に先生の監視が入る。
 ロザリンドとはトーナメントの反対側。戦うとしたら決勝戦か。
 一回戦はマルカのパーティー。準決勝の二回戦は……多分、パーティーのメンバー的にはディンの所だろう。決勝戦でロザリンドと。そんな感じか。

「おい、これ見たか? これどういうパーティーだよ?」
「コイツ、美術学部の奴だろ?」
「いくらパーティーの仲間がいないからって、これは無いよな」
「一つ名だと、誰も見付けられないんだな」
「素性の知れないのと組む奴は普通いないから」
 教室、こちらにわざと声が聞こえるように嘲笑される。
 もちろんそれはディン一派。
「言われているけど」
「元気よね~ロザリンドも混ざってくる?」
「冗談」
 ロザリンドにもリアーナにもポルトにも無視するようには言ってある。
「まぁ、模擬戦でボッコボコにしてやるから」
「それって私達に勝つって事? 私達だって優勝候補に挙げられているんだから」
「マルカの所はボコ辺りで勘弁しとく」
「ちょっとリアーナ、あんな事を言ってるんだけど?」
「シノブちゃん、ボ辺りで終わりにしようよ」
「違うでしょ!!」
 しかしマルカのパーティーも強い。作戦次第ではロザリンドのパーティーを倒す事も不可能じゃない。決して油断は出来ないし、無策で戦える相手でもない。
 模擬戦の場所も指定された。
 最初は森林地区。緑深い森の中での模擬戦だ。
 次は巨大洞窟の中。最初から洞窟の中で始まるらしい。
 最後はなんと王立学校。生徒がいる状態で始まり、生徒達に被害を出してしまった時点で、そのパーティーは失格となる。
 そして模擬戦に参加するパーティーは、明日から試合開始の七日後まで学校を休む事が許可されている。
 そんなわけで……

「じゃあ、ロザリンドもマルカも首を洗って待っていたまえ。ふっふっふっ」
「シノブちゃん、それ、絶対にやられる方のセリフだよね?」
「黙らっしゃい!!」
 もう模擬戦は始まっているのだ!!

★★★

 これから七日間、徹底的に地形を調べ、作戦を立てるのだ。
 一回戦の場所でもある森の中。王立学校から少し離れた場所。思ったよりも森は深い。緑の爽やかさよりも、湿った土の匂いを強く感じる。
 斜面も多く、足場も悪い。崖などもあり気を付けないとな。
「僕の体力が尽きたのだが? 休憩を要求する」
「おいベリー、まだほとんど調べて無いだろう? 男のくせに体力が無さ過ぎる」
「はい、性差別。体力馬鹿のポンティ君とは違うんだよ。僕は」
「お前、この場に埋めるぞ。前の二人を見ろ。全く疲れてないだろ」
「エルフは森の民だから。僕は街の民だから。こんなトコには慣れてねーんだよ」
「ねぇ、レイラちゃんって呼んで良いかな?」
「はい、それはもちろんです。私もリアーナちゃんって呼んで良いでしょうか?」
「うん、レイラちゃん」
「……ポンティちゃん」
「本当に止めろ」
「シノブぅーシノブぅー!! 助けろ!! 馬鹿野郎がアイアンクローで殺しに来るぅ!!」
「うるさい……こっちもギリだから」
「シノブ……お前はリアーナと同郷だろう? 何でそんなに体力が無いんだ……」
「エルフは森の民だから。私は街の民だから」
「僕のセリフをパクるんじゃないよ」
「大丈夫、シノブちゃん?」
「どうしますか? 休憩を取りますか?」
 なんて感じで、五人揃って偵察。

 森の中が終われば、次は巨大洞窟。調べて調べて調べて、アッと言う間には五日間が過ぎる。その間に色々と作戦は練ってみたが。

★★★

 空いた教室でミーティング。
「何か作戦はあるんだろう?」
 ポルトの言葉に俺は頷く。
「勝つのは簡単だと思うけど」
「レイラを生贄として捧げるんだろ」
「ひぃっ」
「大丈夫だよ、レイラちゃん!! そんな事しないよね?」
「捨て駒として死んでは貰うけど」
「ひぃっ」
「ベリー君!! シノブちゃんも!!」
「シノブ。簡単に勝つ方法なんてあるのか? それも簡単に?」」
「もちろん。今から罠を仕掛けられるだけ仕掛ける」
「本気か?」
「汚い。さすがシノブ、汚い。僕はそういう奴が大好きだ。それで行こう」
「でも、それはルール違反じゃないんですか?」
 俺の考え……まぁ、一人だけ強い不満を持つんだろうな。その表情が目に浮かぶようだ。
「まず模擬戦は実戦に近い形で行われる。さらに模擬戦の開始まで猶予がある。同時に場所まで指定された。先生の『勝つ為に出来るあらゆる努力』と言う言葉から考えれば、罠を事前に用意する事は当然だよ。だけど他のパーティーはそれをする気配が無い。罠を作って備えるって考えが無いんだと思う」
「当たり前だ。せめて模擬戦中に用意をするなら文句も言わないが、罠を事前に仕掛けるなんて、そんな卑怯なマネは出来ない」
「だからこそ大きな利点になる」
「そもそも全てはシノブの勝手な解釈だろう?」
「実は初日にリアーナと一ヶ所だけ罠を仕掛けてみたの。今日、確認してみたら罠はそのまま、解除はされていない。先生からの注意も無い。罠を用意するのはルール違反じゃない。もう模擬戦は始まっているの」
 空気がピリピリとしてくる。
 不満を露わにするのはポルト。ロザリンドと同じく信念があり、こういうやり方は絶対気に入らないと思った。
「リアーナ。お前もシノブと同じ考え方か?」
 その鋭い視線はリアーナに向かう。しかしリアーナはポルトから目を逸らさない。
「私も勝つためには何でもするべきだと思う。この模擬戦で求められるのは結果だから」
「結果が良ければ何をしても良いのか?」
「さっきもシノブちゃんが言ったけど、ルール違反じゃない。これが実戦だったらポルト君だって色々と準備をするでしょう? 魔物が相手だったら罠だって使うはず」
「実戦に近いが、決して実戦じゃない。相手だって魔物じゃない。周りだって認めない」
 ハラハラと心配そうに視線を右往左往させるレイラ。この雰囲気にどうしていいのか分からないんだろう。
「結果が全てだろ」
 割って入るのは真面目な顔をしたタックルベリーだ。言葉を続ける。
「結果を出せずに『過程を頑張った』なんて褒められるのは小さな子供だけだ。僕達はまだそんな小さな子供か? 求められるのは結果なんだよ。僕はシノブの案に賛成するね」
「あの、私は……反対……です」
 戸惑いながら、小さくなりながら、レイラは言葉を続けた。
「絵を描く時、過程に納得出来ない部分があったままじゃ絶対に良い絵は完成しないんです。もし罠とか使って優勝したら、ルールで問題無かったとしてもポルトさんの言う通り周りが認めてくれないと思う……」
「結果として優勝が全てだ」
 タックルベリーの言葉にレイラは首を横に振る。
「違います……目指すべき先はもっと先にあると思うんです。模擬戦の結果もまだまだ過程で、だからその……絵と同じで、私は過程も大事にしたいです……周りに何かを言われたくない……」
「俺は完璧な優勝をしたい。誰にも文句を言われない優勝をだ」
「シノブちゃん?」
「何がおかしい?」
「笑ってるのか? お前は? 気持ち悪ぅ」
「私が変な事を言っているからでしょうか……ごめんなさい、言葉が上手く纏まらなくて……」
 良いよ良いよ、この青臭く真剣な感じが!! こういう雰囲気、凄く好きぃ!! 俺はこういう熱い青春に憧れていたんだよ!!
 考えが拙くても、一生懸命に主張する。実に美しいじゃないか!!
「いやね、罠があれば楽に勝てるってだけで、別に罠なんて無くても頑張れば勝てるんだけど」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「じゃあ、罠無しで頑張っちゃう?」
「……シノブちゃん、意地が悪いよ!! もっと早くそう言ってよ!!」
「俺達の反応を楽しんでいたってわけか……」
「マジか。お前、本当に性格が悪いな。本当に裏切りの女神の生まれ変わりか?」
「私、頑張って言ったのに……怖かったのに……」
「まぁまぁ。その代わりポルトが言う『完璧な優勝』ってヤツを目指してみましょ」

 そして模擬戦が始まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

直球キャラゆえに婚約破棄された令嬢、腹黒住民が集う排他的な辺境に嫁ぎます。愛しいダーリンと共に、その住民根性叩き直してみせますわ!

花房ジュリー②
ファンタジー
※第17回ファンタジー小説大賞エントリー中。応援お願いします! 公爵令嬢シャルロッテは、その『ハキハキした物言い』ゆえに、王太子から婚約破棄を言い渡される。 おまけに濡れ衣を着せられるわ、国一番の女たらしと噂の辺境伯・レオとの結婚を命じられるわと、まさに踏んだり蹴ったり。 それでも前向きに辺境地エクスクルブルクへ乗り込むシャルロッテだったが、そこは超排他的で、陰険な領民たちの集まりだった。 旧王都であることを誇りにし、神官シュトレーゼマン一族を異様に信奉する彼らから、迫害を受けるシャルロッテ。 だが、夫レオは、シャルロッテの直球な性格を気に入った様子。 一緒に領民たちの根性を叩き直そうと、二人はエクスクルブルクの改革を決意する。 だがその矢先、シュトレーゼマン一族が王都を『奪還』しようと、とんでもない計画を立てているとの情報が!  計画阻止に奔走するシャルロッテとレオだが、領民たちは一癖も二癖もあり、一筋縄ではいかない。さらにはレオにも、何やら秘密があるようで……!? ※このお話はフィクションです。実在の人物、地名等とは一切関係ありません。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

いじめられていた俺は自宅ダンジョンで世界最強になっていた 陰キャ高校生いじめっ子をボコボコにできるようになりました

木嶋隆太
ファンタジー
いじめられ、引きこもりがちの高校生である俺の家に、ダンジョンが出現した。世界初のダンジョンを発見した俺は、そのダンジョンの攻略を開始する。RPG大好きな俺はゲーム感覚で迷宮攻略を行っていった俺は、ステータスを鍛え、レベルを爆速で上げていく。異世界の美少女妖精サリアとともに、いじめっ子をボコボコにすることを目標に俺は迷宮攻略を行っていく。そして、気づけばいじめっ子なんて目ではないほどの最強になっていた。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

すばらしい新世界

阿波野治
ホラー
教師に嫌な目に遭わされ、悪友と喧嘩をした昼下り、小学六年生のイナがうたた寝から目を覚まさすと、世界から人が消えていた。検証の結果、どうやら世界を意のままに操る能力を得たらしい。力を使って好き放題しようと目論むイナだったが……。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...