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第一章 とりあえず、やってみた

2話「戦闘チュートリアル」

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「それでは、戦闘チュートリアルを始めます。まず初めにこのモンスターと戦ってください」


 イリスが言い終わるとすぐに、俺の前方三メートルほどの場所にモンスターが出現する。見た目はバスケットボールほどの大きさくらいある白い物体で、丸い身体にちょこんと生えた角のような耳が特徴的なモンスターだ。俺が凝視していたせいかしばらくするとウインドウが表示される。その情報によると【スフェリカルラビット】という名前のウサギ系モンスターらしい。


「こいつと戦えばいいんですね?」

「はい、まずは魔法を使って倒して――」


 イリスが何か言おうとしていたが、それよりも早く俺はラビットに向かって突撃する。そして、その勢いのまま右腕を振り上げるとその拳を気合の叫びと共に叩きつけた。


「せいやぁー!」

「ぎゅぴぃー」


 ラビットめがけて打ち出した拳は見事に相手の体を撃ち抜き、間抜けな叫び声と共に光の粒子となって消滅した。


『【スフェリカルラビット】を倒した。2ポイントの経験値を手に入れた。2ポイントのSPを手に入れた』

「……? なんだ?」


 モンスターが消滅するのと同時に“テッテレー”という効果音と共にウインドウにメッセージが表示される。俺が訝しげな表情を浮かべていると、イリスが説明してくれた。


「……まあ、予定とは違いましたが、見事モンスター撃破です。それで、スフェリカルラビットを倒したことで、経験値とSPというポイントを獲得しましたね? 今からその内容をご説明します」


 そう言うと、小さく咳ばらいをしたあと再びイリスが説明する。


「この【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】で強くなるためには【レベル】という格のようなものを上げなければなりません。この世界では主に三種類のレベルがあって、一つが鰻重太郎様が先ほど作成した【イール】というキャラクター自身のレベル、もう一つが職業のレベル、最後がスキルのレベルとなっております。ここまではよろしいですね?」


 イリスの問いに、俺は肯定の意味を込めコクリと頷く。それを確認すると、彼女はさらに続きを口にする。


「そして、この【レベル】を上げるためにはそれぞれに対応したポイントが必要となります。キャラクターレベルを上げるには経験値ポイント【XP】を、職業レベルを上げるには職業ポイント【JP】を、スキルレベルを上げるにはスキルポイント【SP】を必要とします。加えて、キャラクターには【ステータス】と呼ばれる項目がありまして……見てもらった方が早いと思いますので、鰻重太郎様、口でも頭の中でも結構ですので【ステータス】と言っていただけますでしょうか?」


 イリスの要請に俺は素直に従い「ステータス」と呟いた。するとウインドウに以下の情報が表示される。


【名前】:イール(レベル1)

【職業】:魔法使い(レベル1)


【ステータス】

HP:30(+3)

MP:15

攻撃力:8(+1)

防御力:6(+1)

素早さ:7(+1)

魔力:9

精神力:7

器用さ:5

幸運:3


スキル:【火魔法Lv1】、【阻害魔法Lv1】、【身体能力向上Lv1】



「なんかいろいろな項目がでてきたな、これがステータスってやつか?」

「その通りです。現在のあなた様の能力値を分かりやすく数値化したものだとお考え下さい。それで、このステータスに関連したとあるポイントがございまして、それがアビリティポイント【AP】というものがございます」


 ……なんかいろいろポイントがあり過ぎて、いよいよ覚えられなくなってきたぞ。そんなことを考えながら、俺はイリスの声に耳を傾け続けた。


「このAPを使用することで、ステータスの数値自体に補正という形で上乗せ、つまり強化することができるのです。再度申し上げますが、この世界にはポイントが四つありそれぞれ【XP】・【JP】・【SP】・【AP】となっております。ここまでで何か分からないことはございますか?」


 つまりあれだろ? キャラクターを強くするにはそれぞれのレベルを上げないといけなくて、それに対応したポイントがあるってことだよな?


「大丈夫です。ああ、そう言えば、このステータスの横にある括弧の数字ってなんですか?」

「ああ、それはスキル【身体能力向上】によって補正が掛かっている数値を表したものですね。例えばHPの場合だと、【身体能力向上】によって3ポイントの補正が掛かっているという状態になります」

「なるほど」


 ということは、元々あったHPの数値は27で【身体能力向上】によって3ポイントプラスされて30になってるってことか。


 俺が頭の中で考えを巡らせていると、先ほど倒したスフェリカルラビットが再び出現する。そして、イリスが「今度は魔法を使って倒してみましょう」と言ってきたため、それに従って二匹目のスフェリカルラビットも撃破することに成功した。ちなみに使った魔法は、矢の形をした【フレイムアロー】という火の魔法だ。魔法の使い方は呪文名を口にするか、頭の中で思うかのどちらでもいいらしい。


 それから、さらに三匹のスフェリカルラビットを倒した。ここまでで手に入れたポイントはXPが10、JPが6、SPが10だった。そして、イリスが再び口を開く。


「これであなた様のキャラクターをレベル2に上げるために必要なXPが揃いました。早速ポイントを使ってキャラクターレベルを2に上げてください」

「ああ、はいはい」


 彼女の指示に従い、メニュー画面から【強化】の項目をタップして、先ほど作成したキャラクターである【イール】のレベルを上げていく。ちなみにだが、この草原のような場所にやって来た時点でリアル世界の俺の体ではなく【イール】の体になっていると戦っている最中に聞かされた。


 五匹分のスフェリカルラビットのXP10ポイントを使用し、【イール】のレベルを2に上げる。その結果がこちら。


 
【名前】:イール(レベル2)

【職業】:魔法使い(レベル1)


【ステータス】

HP:35(+3)

MP:18

攻撃力:10(+1)

防御力:8(+1)

素早さ:9(+1)

魔力:11

精神力:9

器用さ:7

幸運:4


スキル:【火魔法Lv1】、【阻害魔法Lv1】、【身体能力向上Lv1】


 ……うーむ、あんま強くなった感じがしないな。まぁ1しか上げてないからこんなもんなのかな?


 その後、レベル2に上がったことでAPを3ポイント獲得し、それをMPに使って18が20に強化された。イリスの追加説明によると、アビリティポイント【AP】は他のポイントとは違い入手方法が異なっており、各レベルが上がった時に2から5の数値の中からランダムで手に入るということだ。


 余談だが、職業レベルとスキルレベルを上げるにはポイントが足りなかったので、次の機会ということになった。


「以上で戦闘チュートリアルを終了します。他に何かご質問などはございますか?」

「今思いつくのは特にないですね。思いついたら問い合わせてみます」

「かしこまりました。その場合メニュー画面の【ヘルプ】の項目に問い合わせ専用のメッセンジャーがありますので、そちらからお願いいたします。それでは鰻重太郎様、【アーベントイアー・フライハイト・オンライン】の世界をお楽しみくださいませ!」


 イリスがそう告げてすぐに、意識が遠のいていく感覚に襲われ、風景が変化する。気が付くと、俺は街の広場のような場所の中心に立っていた。
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