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第2章:パーティーができあがるまで
32話:「王城潜入から翌日」
しおりを挟む王城での一件が終わった翌日の朝、大和は目を覚ました。
あんなことがあったからだろうどうやら少しばかり眠りすぎてしまったようだ。
外はすでに人の往来があるのだろう、話し声や荷馬車が出す走行音が耳に入ってきた
そろそろベッドから起きようかと思ったその時
自分の寝ているベッドにいるはずのない人物が息を立てて寝ていた。
言わずもがな、この魔王討伐のために共に旅をしている仲間リナ・シェーラである。
もはや大和にとってリナがベッドに潜り込んでいることは日常茶飯事な出来事なので
驚きはしない、驚きはしないのだが人の言うことを聞かない彼女に苛立ちを覚える。
さてどうしたものだろうか?
このままぶん殴って起こすのもいいが、前に試しにやってみたら
起きたことは起きたが、例の【だらしない顔】になって気持ち悪かったためこの方法はパスだ
(だらしない顔:目じりが下がり、鼻の下を伸ばして涎を垂らしている顔)
いろいろと思案した大和だったが適当な手が思いつかなかったため
そのままリナを放っておいて、一人で出かけることにした。
出かけると言っても宿の外に出て、人が行き交うのをボーっと眺めるだけだ。
外に出ると、多くの人が通りを行き交う姿がありそれを見ているだけでも楽しかった。
年齢層も幅広く、荷馬車を引く商人風の男や町娘風の若い女の子
筋肉がはちきれんばかりの戦士風の男や
胸が服からこぼれ落ちそうな盗賊風のお姉さんなど
まさにファンタジーの世界にいるという実感が伝わってくる光景だ。
大和は起き抜けの体をほぐすために体を伸ばしながらストレッチをすると
少し遅めの朝食を取るため、宿の中に戻った。
宿の食事処にある椅子に腰かけると、若いウェイトレス風の女性が注文を聞いてきた。
顔は美人ではないが、愛嬌がある顔で人懐っこい性格をしているようだ。
服の上からでもわかる二つの大きな膨らみを見ていると
「やだぁ~お客さんどこ見てるんですぁ~」と冗談交じりで胸を隠す。
「いやあー大きいからつい」と大和が言うと
「もうお客さんここは娼館じゃないんですからね」と返してくる
そういったやり取りを終えた後
おすすめだというモーニングセットを頼んだ。
注文を聞くとその女性はいそいそとその場を後にした
(ちなみに大和の中では結構好きなタイプだったようだ)
女性がいなくなったあと後ろから声を掛けられた
「ふーん、ああいう人がいいんですね・・・」
振り返ると案の定見知った顔がそこにはあった
見ると頬を風船のように「ぷう」っとふくらませこちらを睨みつけるリナがいた
こういう仕草は年相応で可愛かったりするのだが、口が裂けても言葉には出さない
「なんだ、起きてきたのか」
何事もなかったかのように対応する大和
それを良しとはしなかったがこれ以上追及したところで無駄と悟ったのか
同じテーブルの椅子にリナがちょこんと座る。
それを見ていたのだろう先ほどのウエイトレスの女性が近づいてきて
リナに「ご注文は?」と訊いてくる。
リナは彼女を睨みつけながら顔を女性の近くまで近づけると
憤怒に満ちた声で一言こう答えた。
「彼と同じものをくださいっ」
その態度に苦笑いを浮かべながら「畏まりました少々お待ちください」とだけ言い
そそくさと離れていってしまった。
その後大和がリナの額をコツンと小突く
突然の出来事に目を見開いで驚く彼女に対し
「なに対抗心燃やしてるんだ馬鹿」
とだけ言っておいた
しばらくして注文した2つのモーニングセットが到着する
持ってきてくれたさっきの女性にまた睨みを利かせていたので
頭をチョップして止めさせた。
仲間が迷惑をかけたお詫びとしてチップ代わりに
10ゼリルを彼女に差し出した。
「こんなのいただけません」と言っていたが
「何も言わずに受け取ってほしい」とお願いすると
しぶしぶといった表情で受け取ってくれた。
その後朝食を食べ終わると、事の顛末を報告するため
ニルベルンの屋敷へと向かった。
(ちなみに朝食代は宿代に含まれているらしくタダだった)
ニルベルンの屋敷に到着すると、執事風の服を着た
50代くらいの男性が対応してくれた。
どうやら執政官としての事務的な仕事をしているのだろう
「旦那様をお呼びしてまいります少々お待ちください」とだけ言い残し
昨日訪れた応接室のような部屋で待つことにした。
数分後、昨日の服とは違うが貴族らしい気品と高級感が漂う服を身に纏った
ニルベルンが姿を現した。
「これはこれはヤマト様、ようこそおいでくださいました。」
これまた貴族然とした動きで胸に手を当て、
優雅な立ち居振る舞いで挨拶をするニルベルン
それに対し大和は「どうも」と軽い挨拶をする
育ちの違いが大きく出てしまい、なんだか気恥ずかしくなってしまった。
一呼吸の沈黙が訪れ、その沈黙を破るかのように
ニルベルンが口を開いた。
「それでヤマト様、ご用向きは何でございましょう?」
当然の質問だ。
ニルベルンにとっては昨日の今日で勇者である大和が来たのだ
何かあったのではないかと勘ぐるのが自然な流れだ。
「実は・・・その」
言いにくいことなのだろうと大和の言い方で察知したニルベルンは
報酬の交渉に来たのかと思い大和の言葉を遮って答える。
「報酬の件でしたら、命を懸けていただくのです。
こちらが用意できる金額をお支払いいたします。」
そう言って真摯な態度で答えるニルベルンに対し
手を左右にブンブンと振りながら大和が少し焦り気味に答える
「いえいえっ、報酬の話で来たわけではなくてですね。
あのー、お受けした依頼が完了 (?)したのでその報告に来たのですが・・・」
そういうとニルベルンは男性にしてはつぶらで大きな目を見開き
彼には珍しい焦った口調で聞いてきた
「えっ!?かか完了した?昨日の今日で、えぇ??」
そりゃそうだ、依頼をした次の日に依頼を完了したと言えば
誰だってこういう態度を取らざる終えない。
その後平静を取り戻したニルベルンに大和が昨日あった出来事を話した
リナが攫われたこと、救出のために王城に乗り込んだこと
玉座の間でウルレギウスと戦ったこと
流石にメフィストフェレスのことは言うと大変なことになるので
あと一歩のところで逃げられたが、王城からすべての魔族を追い出したことにしておいた
勇者の身でありながら嘘をつくのは忍びなかったが
相手を慮っての嘘なのだからと自分に言い聞かせ報告を続けた。
全ての話を聞き終わるとニルベルンは大和の手を握ってきた
いきなり男の人に手を握られたためびっくりしたが
その顔は深い感謝と喜びを湛えていたので感極まった結果の行動だということで理解した
ていうかそうあってくれ!
その推測は当たっていたらしくニルベルンが仰々しく片膝を付きながら
大和に対して敬意を示した。
「なんとお礼を申し上げてよいやら、ヤマト様
先の魔王との戦に敗れ3年、我々はこの3年間苦汁を舐めさせられ続けてきました。
ですがご神託の勇者様であるヤマト様が現れ、これは神の思し召しと思いぶしつけにお願い致しました。」
その後ニルベルンの感謝の言葉という謝辞が5分ほど続いた
途中「もうその辺で大丈夫です」と言わなかったら
30分は謝辞を言っていたことは想像に難くない
そして、思い付いたようにニルベルンは声を上げる
「そうだ、急ぎこのことを旧王都の者たちに伝えねば
ご神託の勇者様が現れ、我々を魔族の手から解放してくださったと。」
そう言うとニルベルンは踵を返し、部屋を出ていこうとするが
それはあまりに失礼と思ったのかくるりと振り返ると
さらに感謝の言葉を述べ、報酬の話などは後日改めてということになり
執事の男性と共に部屋を後にした。
その後、ご神託の勇者様の出現と勇者が王城の魔族を撃退した話は
その日のうちにフランプール中に知れ渡ることとなり。
その夜勇者を讃える宴が開かれ、街中を上げての催し物となった。
様々な人に感謝の言葉を言われまくった大和は
それに向かって作り笑いを浮かべながら手を振って応えていた。
どこか暗い雰囲気が漂っていたこの旧王都も今では
人々の笑顔が溢れる明るい街へと生まれ変わっていた。
そして、夜を徹しての宴も一段落つき
今日はニルベルンの厚意で彼の屋敷に泊めてもらうことになった。
こうして魔族を撃退した大和の手により
旧王都フランプールに平和が訪れたのであった。
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