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1部【旅立ち編】 第1章:勇者ができあがるまで

16話:「決着」

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そこには一人の覚悟を決めた男の顔があった
命を懸けた戦いというものを経験していない彼にとって
今から戦うという事実に恐怖を感じていた


そんな彼の腕の中に納まる一人の少女が口を開く


「ヤマトさん助けていただいてありがとうですっ・・・きゃっ!」


魔族からの攻撃から救ってもらった彼女が感謝の言葉を
言っている途中で悲鳴のような声を上げた



「マーリンちゃん!?ど、どうしたの??」



心配になり彼女の顔を覗き込む
そこには頬を赤く染め恥ずかしがりながら身じろぎする
彼女の姿があった、そしてその理由に思い当たる



今の彼女は大和に【お姫様抱っこ】をされているという状態だ
一般的な女性ならばこのような状況になった場合
恥ずかしいと思うのは至極当然なのではないだろうか?



だが大和のその予想は大きく裏切られることとなる
怯えた小動物のような潤んだ瞳と真っ赤に染まった顔で
マーリンが大和に話す


「あっあの・・・ヤマトさん・・・て、手が・・・」



そう言って彼女は上目遣いで見つめてくる
手がどうかしたのかと思い自分の手を見る
それですべて理解した


なんと大和の右手が彼女
マーリンの右の胸の膨らみを掴んでいたのだ


発育途中の彼女のそれは大きくはない
だがしかし服の上から感じる感触は
まごうことなき女の子の柔らかさを物語っていた


ついびっくりして手に力が入ってしまい
不用意に彼女の胸を揉んでしまった



「いやんっ!」



突然の出来事にマーリンは声を発する
その声はつややかな声色で
とても幼女が上げる声ではなく
れっきとした女性の喘ぎ声だった



「ごっごめん!!」



そう言うと彼女をすぐに地面に下ろす
自分がどれだけ最低なことをしたのか
自責の念に駆られているとマーリンが予想に反する言葉を放つ



「こんな状況で触ってくるなんて・・・
言ってくれればいつでもその・・・触らせてあげますのん・・・」



「・・・は?」



彼女は何を言っているのか?
それを理解する前にもう一人の女性が声を上げる


「あーマーリン様ずるいです!
ヤマト様私のも、私のも揉んでください!!」


そう言いながら胸を強調するポーズを取るリナ


先ほど死に直面していた人間とは思わない言動に
冷静さを取り戻した大和は彼女の言葉を無視する
「無視しないでください!」とか聞こえたが
今はそれどころではない・・・


「マーリンちゃん、下がってて
あいつは・・・俺が倒すから!」


「ですが、ヤマトさん・・・」


「大丈夫、俺が何とかする」


今の状況では大和しか戦える人間はいない
それを理解したのか大和の言葉に頷くマーリン


「わかりましたですのん、ヤマトさん死なないでください!」


そういうと大和は苦笑いを浮かべ肩を竦める


「ははは、できればそうしたいよ。じゃあ行ってくる」


そういうときびすを返し魔族の方に向かおうとする
だが思い出したかのように大和がマーリンに振り返る


「おっとそうだ」


「?」


何事かとマーリンは首を傾げる
すると大和が呪文を唱えた


「上級魔法(サード・マジック)レビテーション・シールド」


呪文が発動すると
マーリンとリナの周りにシールドが展開し
二人の体が宙に浮く


そして大和が片手を横に動かす仕草に連動して
彼女たちがその場から50メートルほど離れていく


その光景を目の当たりにした二人は
驚きのあまり目を見開く


二人を遠くに追いやった大和は
改めて魔族に向き合う



「待たせたな、今度は俺が相手だ!!」


「構わん、小賢しい策をろうしたところで
お前が死ねば何も変わらないのだからな」


「ところで、お前どんな姿をしてるんだ?
ローブを取って見せてくれよ?」


言い忘れていたが、実は魔族は
漆黒のフード付きのローブを着ており
その正体はうかがい知れなかったのだ


ちょっとした好奇心から大和は
その魔族の姿を見てみたくなった


「よかろう冥土の土産に我が姿見るがいい!!」


そう言うと勢いよくローブを脱ぎ捨てる
脱いだローブは黒い炎と共に燃え尽き消滅した


そこに現れたのは
獅子の体にドラゴンの翼を持ち
尻尾は大蛇を思わせるほど太く長いモンスター


「ばっ馬鹿な・・・」


その姿を見た瞬間大和はその魔族に問いかける


「なあ・・・いくつか聞いていいか?」


「なんだ人間?」


「お前の名前は・・・幻獣ヴァルボロスとか言わないか?」


それを聞いた魔族が感心したように答える


「ほう、我が名を知っているとは
まあ無理もあるまい。我は魔王様に仕えし七大魔族の一角
名が知れ渡っていてもおかしくはない」


そう答えた魔族ヴァルボロスに対して大きく目を見開く大和
そして続けて質問をする


「その七大魔族の中にさ
悪魔元帥アスラーと魔獣ヤマタノモゲラっていう奴いる?」


ヴァルボロスは答える


「ほうそこまで知っているとは
人間の分際でなかなか博識のようだな」



ヴァルボロスから肯定される
そしてそれを理解すると大和はため息をつく
それは絶望に諦めたことによるため息ではなく
安堵したためについたものだった


「なーんだ、じゃあ余裕だわ
どんな強い化け物かと思ったら、まさか餌モンだったとはな」


説明しよう
以前大和がこの世界に来る前にプレイしていた
バーチャルオンラインRPG【タワー・ファイナル】には
自分のキャラクターの
最大ステータス値を上げるアイテムが存在した


そのアイテムの入手方法はさまざまあるが
最もポピュラーで簡単な方法は
期間限定で配信されるクエストに出現する
特定のモンスターを倒すことで
そのアイテムを入手することができるという方法だ


そしてタワー・ファイナルのプレイヤーの中で
その七体のモンスターは餌になるモンスター
通称【餌モン】として知られていた


そして幻獣ヴァルボロスは餌モンの一体だったのだ
さらに先の大和がした2つ目の質問がそれを確信させる


七大魔族といのは【餌モン】だと


タワー・ファイナルの
ステータスの項目は
HP・MP・攻撃力・防御力・素早さ・魔力・技力の七つだ


つまり七大魔族の数は七体
タワー・ファイナルのステータスの数も七つ


もうお分かりだろう
今目の前にいるモンスターは
大和が飽きれるほど狩りつくしたモンスターなのだ



明らかにがっかりした様子の大和を見て
ヴァルボロスが憤怒ふんどの表情で答える


「貴様、人間の分際でこのヴァルボロスを侮るか!!
死ぬがいい、上級魔法(サード・マジック)ライトニング・ジャベリン!」


ヴァルボロスが呪文を唱えると
槍のような形をした電気の塊が
ヴァルボロスの上空に数十本展開される


それがすべて大和めがけて襲ってきた


「ヤマト様!!」
「ヤマトさん!!」


その光景にリナとマーリンが大和の名を叫ぶ



「一応防ぐか・・・
超級魔法(ギガント・マジック) アブソリュート・シールド」


そう大和が呪文を唱えると
大和の前に2メートルほどの大きさの
障壁が展開され先ほどヴァルボロスが唱えた魔法が
障壁に阻まれる


「なっ・・・馬鹿な!」


ヴァルボロスの目が大きく見開かれる


「超級魔法・・・だと!?
魔族の中でもごく少数の者しか使えぬ魔法を、貴様は一体何者だ!?」


そういうと気だるげな表情と共に
小さく「ふう」とため息を付くと
大和はこう答えた



「ただのしがないサラリーマンさ・・・」



そして、腰に納めていた剣を抜くと
剣を片手に一歩一歩ヴァルボロスに近づく


その抜かれた剣に
紋章があることに気付いたヴァルボロスは
大きな声で叫ぶ



「それは龍の紋章!!貴様があの神託の勇者か!?」



そう言い終わった瞬間に
速攻で否定の言葉を口にする大和


「勇者じゃないから!違うから!!」


その必死さにいぶかしげな表情を浮かべながらも
目の前にいる敵が只者ではないことを肌で感じ取る


まるで距離を詰められるのを嫌がるかのように
ヴァルボロスが魔法を放つ


「上級魔法(サード・マジック) ハイフレア・ボム」


「それなら避けるまでもないな」


そう言ってつかつかと歩き出す大和
そしてそのままヴァルボロスが放った魔法が直撃する
大地を揺るがす爆発とともに
大和がいた周辺の地形が様変わりしていた


「ガハハハハ、愚かな自ら死を選ぶとは・・・」


「ヤマトさん・・・」
「ヤマト様・・・」


その場にいる誰もが大和の死を直感する
それほどの一撃をヴァルボロスは与えたのだ
だが次の瞬間


「ふあ~、何かしたのかな?」


「なっなに!?」



先ほどの攻撃など意にも介さないと言わんばかりに
落ち着いた様子の大和がそこにはいた
そして歩みを止めることなくヴァルボロスに近づく


「おっおのれ、おのれーーーーーー!!」



追い詰めれたヴァルボロスは自ら大和に突進する
これが最後の攻撃になるとも知らずに



「じゃあ、長引かせるのも悪いしこれで終わりだ!」



そう言うと大和は捨て身の突進をする
ヴァルボロスに向かって走り出す
お互いの距離が縮まり剣が届く距離まで来たとき
ヴァルボロスが腕を振るい大和に攻撃を仕掛ける



互いがすれ違い
大和とヴァルボロスの立ち位置が入れ替わる



リナとマーリンが認識できたのは
大和がヴァルボロスとすれ違った時に
一筋の太刀筋が見えただけだった



だが次の瞬間大和の言葉によって
それが一筋でないことを理解する



「スキル発動、シックススラッシュ(六連斬)!!」



あまりにも早すぎるため
並の人間にはただすれ違っただけように見えるだろう
リナとマーリンの動体視力は常人よりも
若干優れているため一筋の斬撃が走るように見えた



だが見えたといっても
かろうじてと言った方が適当かもしれない


そして戦いはフィナーレを迎えた


「ばっ馬鹿な・・・七大魔族であるこのヴァルボロス様が
だかだか人間ごときに!」


そういってヴァルボロスの体が
斬撃によって切り裂かれ
体がバラバラに崩壊していく


「だが・・・これで終わりと思うな!
我々魔族に敵対するものは必ずその報いを受けるということを
覚えておけ勇者!!」


そう言って断末魔の叫びと共に
ヴァルボロスの体が消えていった
まるで最初からそこに存在していなかったかのように


戦いに勝利した大和
だがこの勝利によってもたらされてしまう災難に
まだ気づいていない大和であった・・・
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