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第3章 「皇帝の陰謀と動き出す闇」

156話:「ガリウスVS黒装束の男」

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 「何者だ貴様?」

 怪訝な表情を浮かべながら問いかけたのはガルブだ。
 そんな彼の態度など歯牙にもかけず、堂々とした態度不遜と言っても過言ではない素振りで答える。

 「俺はガリウス・ブラウン、この世界では【剣の賢者】と呼ばれておる者だ」

 「その名前聞いたことがあるわ、確か杖の代わりに剣を使って魔法を唱える変わった戦い方をするとか」

 「ふん、で? その剣の賢者様とやらが何故こんなところにいるんだ?」

 サーヒルンがガリウスの情報を捕捉し、それに伴ってガルブが問い詰める。
 ガルブの問いかけは極々自然な問いかけで、今の状況で最も的を射た問いかけでもあった。
 自分たち魔人以外この場所にアジトがあることを知る者はいない、にもかかわらず魔人でもない者が
なぜこんなところにいるのかガルブ達からすれば不自然の一言に尽きる。
 加えてガリウスは現代世界でいうところの【不法侵入】を犯している状態で外国において私有地などに無断で
侵入した場合、最悪殺されても文句は言えないと言ったルールが存在する。
 増してやここは異世界であり強者のみが生き残り、強者がルールであると言っても過言ではない世界であるため
今のガリウスはギリギリの状態で生かされていると言ってもいい状態だった。

 「王都ガルヴァスに向かっている途中、この辺りを歩いていたら何やら怪しい奴が少女をこの場所に連れこむのが
見えたのでな、このまま放っておくわけにもいかず助けに来た」

 「なるほどね、という事はあなたが彼を手引きしたことになるわね」

 「申し訳ございません、サーヒルン様」

 「そうね、罰としてあなたが彼の始末を付けなさい。 ちょっとイイ男だったけど、しょうがないわね」

 ガリウスをまるで頭の先から足のつま先まで舐めまわすように値踏みすると
黒装束に身を包んだ部下に自らの失態を清算させるべく命令を下す。
 サーヒルンの言葉に了解の言葉を口にすると、腰に下げていた曲刀シャムシールをガリウスに突きつける。
 ガリウスもまた放たれた殺気に呼応するかのように同じく腰に下げている刀を抜き放つ。

 「ほう、珍しい剣を持っているな」

 「確か遥か東の国に伝わる、【刀】とか言ったかしら。 叩き潰すことよりも断ち切ることに重点を置いた剣だったはす」

 ガルブとサーヒルンがそんな会話をしている最中、黒装束の男がガリウスに向かって距離を詰めたことで
二人の戦いが始まったのだった。
 開始直後の二人の距離は八メートルほどの距離があったが、それをほんの瞬きをするほどの時間で距離を詰めると
ガリウスの胴に向かって左下から右上に向かってに切り上げようとするも咄嗟とっさに刀を差し挟むことで相手の剣戟を受け止めることに成功する。
 そして今度はこちらの番と言わんばかりに男の首から上を切り落とそうと刀を横なぎに切り払うも、素早く身を翻し後退することでそれを回避した。
 
 (こいつ、なかなかできるな……)

 心の中で相手の実力を賞賛しつつもこの戦いが長引くことを痛感し、顔を僅かにしかめる。
 敵も同じ考えなのか先ほどの突進を躊躇うようにガリウスの様子を窺っている。
 ほんのわずかな時間、具体的には数秒ほどの睨み合いが続いたが、それを破ったのは意外にもガリウスだった。

 「上級魔法(サード・マジック)ライトニング・ジャベリン!」

 「っ!?」
 
 剣の賢者の名にふさわしく、刀を杖のように振ると魔法が発動する。
 ガリウスの頭上に槍の形を模した数十本の電気の塊が展開すると、その全ての槍が
黒装束の男に向かって襲い掛かる。
 だが敵もさるもの、襲い来る雷の槍の僅かな隙間を掻い潜りながら槍の弾幕を尽く回避する。
 最後に迫る槍を軽く飛んで躱すと大股で体勢を低くしながら剣を構える。
 ガリウスはといえばまさか全ての攻撃を避けられるとは思わなかったため目を細めて相手の出方を窺う。

 「影魔術 (シャドウマジック) オルターエゴーズ!!」

 黒装束の男は先ほどの魔法に対する意趣返しとばかりに自身の持つ魔法を発動させる。
 ただ魔人の使う魔法は少し特殊なもので【魔術】と呼ばれている。
 魔術と魔法の違いはというとまずは使用者が魔人かそれ以外の種族かという違いともう一つは魔法の構築方法の違いにある。
 己の魔力を媒体とし呪文名を口にして引き起こされる魔力現象を【魔法】と言い、一方で己の魔力を媒体とするのは同じだが
 その媒体にした魔力を魔法陣として特定の場所に展開させることで魔力現象を引き起こすのが【魔術】である。

 この魔術というものに関して知識や使用方法は魔人族のみに伝わる固有魔法と言ってもいい代物であるため
他種族は魔人の使う魔術に関してはほどんど未知の魔法に近い存在だった。
 もちろんガリウスにとっても未知の魔法であるため相手がどんな魔法を使ったのかは分からなかった。
 すると先ほどまでいた男の姿が何重にも見えそれがまるで分裂したかのように同じ黒装束姿の男が5人に増えると
ガリウスの周囲を高速で走りながら取り囲む。
 その中の一人が不意にガリウスに詰め寄ってきたため迎撃の意味を込め右下から左上に刀を薙ぎ払うが
手ごたえがなく刀が空を切る。
 刀を振るった直後のために隙が生じてしまう、その隙を敵が見逃してくれるわけもなく。

 「ぐっ」

 取り囲んだ五人の内の一人が背後から剣で攻撃を仕掛けてきたため、上半身をなんとか捻って回避するが
避けきれずに剣の切っ先がガリウスの脇腹を掠めると同時に鮮血が滴った。
 反撃に転じようとしたが無理な体勢で避けた事と剣戟を食らってしまったことによって反撃に転じる機会を失ってしまう。
 その後男は悠然と元の場所に戻り再びガリウスの周囲を走りながら取り囲む。

 (このままではジリ貧だな、ならば……)

 ガリウスは刀を持つ手に力を込めると己が使える高火力の魔法を解き放った。

 「超級魔法 (ギガント・マジック) オーバー・サイクロン!!」

 突如として部屋の中に十数メートル級の竜巻が顕現すると取り囲んでいた5人全てを巻き込み吹き飛ばした。
 効力を発揮し消えた竜巻で浮かび上がった身体は重力によって引き戻され、固められた土の床に肢体を激突させる。
 たまらず苦痛に歪む声を上げた男の影魔術が解け元の一人となって床に蹲ってしまう。
 その隙を逃さず、ガリウスは男の懐に飛び込むと居合切りの構えから男を一閃する。
 その攻撃から逃れようとする男だったが、ガリウスの放った魔法で受けたダメージにより体が動かなかったことと
彼の放った居合の一撃が早すぎたため斬撃をもろに受けてしまう。
 鍛冶職人の手によって鍛えられた刀の切れ味は凄まじく、左下から右上に放った斬撃は胸から上の部分とその下部分とで分断されてしまう。
 大量の血しぶきが床に飛び散り分断された体が支えを失って床に伏した。
 それが致命傷となり男は絶命し沈黙する。 彼が絶命したと同時にまるでそこに何もなかったかのように
霧のように消えていき、床に飛び散ったはずの血しぶきですら跡形もなく消滅してしまった。

 「ほぅー」

 「あら、大したことないと思ってたけど結構やるじゃない」

 ガルブが感嘆の声を上げ、サーヒルンが感心したように瞠目どうもくする。
 実際のところ勝負自体は五分五分の戦いでガリウスに余裕はなかった。
 未知の敵との戦いは手の内を知っている相手と戦うよりも苦戦する。
 仮に自分よりも実力が数段劣っている相手だとしても相手の情報がない状態で油断することは
死に直結する。 今回はガリウスに軍配が上がったが、状況によっては床に伏していたのは彼の方だったかもしれない。
 
 「大丈夫かお嬢ちゃん」

 「わっ妾は大事ない、それよりもお主の方こそ大丈夫なのか?」

 「問題ないとは言えないが、まだ戦う余力はある。 心配するな」

 「そう、それはよかったわ」

 サーヒルンはそう言い放つと、腰をくねらせるようにして歩み寄ってくる。
 彼女の色香漂う魅惑的な身体は何ともなまめかしい。
 そして、二人との距離が数メートルまで近づくとそこで歩みを止め、口端を三日月の形に歪めながら
挑発的な態度を持ってガリウスを見据える。

 「じゃあ今度はお姉さんの相手をしてもらおうかしら色男さん」

 「くっ、できれば君とは違う形で出会いたかったな」

 「いやん、どこ見てるの? いやらしい人」

 それはガリウスでなくとも無理のない事だった。
 ただでさえ色気のある体に表面積の少ない衣装を纏い、少ない生地を確実に押し上げる膨らみは
男なら誰でもそこに視線が傾いてしまうというもの。
 だがそんな雰囲気も彼女が殺気を纏ったことによって露と消えてしまった。

 「それじゃあ精々あたしをたのしませて頂戴」

 「いざ、参る!」

 こうして第2回戦の幕が開かれることになった。
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