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第3章 「皇帝の陰謀と動き出す闇」

151話:「大和死す」

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 王城のとある客室の一室、そこは静寂に支配されていた。
 部屋はいつものようにきっちりと整理整頓が行き届いており不備はない。
 調度品やベッドメイクに関してもこの世界の基準で考えれば最高峰と言っても過言ではないものだ。
 ただ一つ、ただ一つだけ異常があるとすれば床にうつ伏せで倒れ伏した男とそれを見下す褐色の肌を持つ異形の者、【魔人】――。

 「ふん、案外あっさり死んだわね。 勇者と言っても所詮は人間ってことかしら」

 紫色を基調とした露出の高い中東の踊り子衣装のような服を纏った男なら誰でも生唾を飲み込むほど婀娜あだな肢体を
左右に揺らしながら廊下へと続くドアに近づいていく。
 そして、こめかみからうなじにかけて細くしなやかな手で髪をかき上げるともう事切れているであろう男に向かって
艶毛つやけを含んだ女性にしては少し低めの声で最後の別れとでも言わんばかりに語り掛けた。

 「じゃあねコバシヤマト、あなたとはベッドの中で会いたかったわ」

 そう言い残すとそのままドアを開けその場を後にした。
 脇腹に刺さったナイフによってできた血だまりの床に倒れる大和をそのままにして……。





 その数分後、大和の部屋に一人の女性が姿を現す。

 「ヤマト様、まだ起きてるかな?」

 そこにいたのはうなじにかかる程度の水色のショートヘアーがよく似合う神官リナ・シェーラだ
 髪の色と同じ水色の瞳を揺らしながら今日の出来事に思いを馳せる。

 「さっきのパーティーであたしのドレス姿を見て綺麗って言ってくれたし
今日はなんだかイケそうな気がするぅぅぅぅ!!」

 そう言いながら握りこぶしを作って己を鼓舞こぶする色ボケ神官。
 今日も今日とて玉砕することは目に見えているにもかかわらず大和の部屋に夜這いを掛けようと
やって来たのだ。
 念入りに風呂に入りもしもの時のために持ってきていたピンクの勝負下着を装着し戦闘態勢に入っている。
 この場に彼女の上司がいたら絶対こう言うだろう「全く神官としての務めもそれくらい真剣にやって欲しいものだ」と――。
 だがそんなことは彼女の頭には欠片もない。
 今のリナの頭の中にはいかにして大和と“合体”するかそのことしか頭にはなかったのだ。

 「はぁ、はぁ……や、ヤマト様、い、いまお側に参りま――」

 「待てそこのメス猿、主の部屋に何か用か?」

 そう言いながらリナの首根っこを掴み、大和の部屋に侵入するのを阻む者がいた。
 すでに声で誰かわかっていたリナは振り返らずに返答する。

 「邪魔しないでいただけませんかね、トカゲさん? 今あたしは忙しいのです。
 早くあの方にあれをあれしてもらいに行くのですから」

 「神殿に仕える神官ともあろう者が色欲に走るとはとんだ生臭坊主もいたもんだな。 いいからこっちに来い!」

 「い・や・で・す! 今日ならイケる気がするんです!!」

 「何を根拠に血迷うたことを言うておるのだ貴様は! いいからドアから離れるんだ!!」

 「絶対に離れるもんですか!!」

 「くっ、この色ボケ神官が!!」

 「放しなさいこのレッドイモリ!!」

 「イモリはトカゲではないわ!!」

 もはや当初の目的を忘れ醜い女の攻防が繰り広げられる。
 フレイヤは不埒な行為に及ぼうとするリナを阻止するため、リナは今日こそ大和と一つになるために行動する。
 本来であれば実態がドラゴンであるフレイヤが力が上なのだが、今のリナは目の前にニンジンをぶら下げられた駄馬だばの如く通常では考えられないほどのパワーを発揮していた。
 彼女の力の源がエロなので差し詰め火事場のエロパワーといった所だろうか。
 だが元々彼我の力量差が存在するためその拮抗も長くは続かずフレイヤに引っ張られてしまう。
 二人にとって誤算だったのがフレイヤが勢いよく引っ張りすぎたためにリナの後頭部がフレイヤの顔面に直撃する。
 だがそれだけでは勢いを殺すことはできずそのままドアのある方向へと吹き飛ばされ
ドアを破壊しながら二人して部屋の中にドタドタと雪崩れ込んでしまう。

 「いっ、いったあ~」

 「くぅ、貴様というやつは……」

 「ヤマトさまいかがされました、って二人とも何やってるんですか!」

 「もう夜も遅いですのん夜這いなら静かにするですのん」

 「お、お二人ともせ、積極的ですね……私も見習わないと……」

 騒ぎを聞きつけてやって来た、エルノア、マーリン、マチルダのいつものメンバー。
 そんな三人を軽くスルーしてリナとフレイヤは部屋にいるであろう大和に謝罪する。

 「や、ヤマト様お騒がせしてすみません。 静かに入るつもりだったのですが
このトカゲが邪魔を……してしま……って……えっ?」

 「主、申し訳ない。 このメス猿が不埒な行動を止めようとしたら勢いあまってドアを破壊してしまった。
 次からは気を……つけ……っ!」

 そこに横たわっていたのは自らの体が収まってしまいそうなほど大きな血だまりの中で倒れ伏した大和だった。
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