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第3章 「皇帝の陰謀と動き出す闇」

149話:「魔神と魔人」

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 漆黒が支配する暗い場所……それがその場所の第一印象だ。
 そこは女神が住まう天界でもなければ、人族や獣人族がいる地上でもないし
精霊がいる精霊空間でもなければ悪魔たちがうごめく暗黒魔界でもない。
 その場所を敢えて呼ぶなら、そこは“亜空間”―――。
 辺り一面が暗黒の世界に閉ざされた世界のため広大なのかはたまた手狭なのかは測り知れない。
 その亜空間はたった一人の者の手によって作られた。 そう、彼の手によって―――。

 「さて、我々も動き出すとするか……」

 そんな何もない空間にぽつりと異様に背もたれの長い玉座のような椅子が現れる。
 その椅子に片足を膝の上に乗せながら乗せた足の膝の皿の部分に肘を置き、握りこぶしを作った右手で顔を支えながら座る者がいた。
 彼の名は【メルウェム】、このラマルという異世界の邪教徒が『魔人』として崇めている存在だが正しくは魔人ではなく“魔神”だ。
 このラマルという世界を創造した創造神が善と悪それぞれを司る女神を創造したと同時期に混沌の中から誕生したと言われている。
 神々のような存在とは異なる存在なのだが、かと言って魔族のように完全なる悪でもない存在それが“魔神”と“魔人”であった。
 
 「ようやく我らが日の目を見る時が来たのでございますねメルウェム様」

 「うむ、長き悠久の時をただただ彷徨さまよい続けた我ら魔人が表舞台に立つ時が来たのだ。
 そのために今まで誰にも気づかれぬよう準備をしてきたのだからの」

 「わかっております。 この時をもってあの腐れ女神どもにはこの世界から退場してもらうとしましょう」

 「ディーネとヴィルヴァルディめ、余がこのまま黙っていると思ったら大間違いだという事を思い知らせてやるわ」

 褐色の肌に短く切り揃えられた紫色の髪の黒目の男。
 某アラビアのアニメの主人公が履いているだぼだぼのサルエルパンツに
上半身裸の上に短めの赤いベストを着ているシンプルな服装をしているのがメルウェム。

 一方、メルウェムと会話している人物は彼と同じく褐色の肌だが、群青ぐんじょう色の艶のある長髪に黄色の瞳を持つ男で青いズボンに長袖のシャツの上から黒のベストを重ね着していた。
 彼の名はアスファル、メルウェムが最初に創造した魔人で創造されてからずっと彼と行動を共にしてきた忠実な部下であった。
 魔人というのは例外なく魔神であるメルウェムの手によって創造されるため他種族と比べると部下との絆も忠誠心も強い。
 魔人同士も同じ創造主を持つ存在として、仲間意識がそれ以外の存在である他種族を見下す傾向にある。
 元々善にも悪にも属さぬ者たちだが善の力と悪の力の二つを有しており。
 獣人族のような肉体的に強い体と魔族のように強大な魔力を有するために他種族を少数で圧倒できるほどの力を保有している。

 二人が今後の計画について話している最中に何もない場所からふっと湧いて出たように現れる者がいた。
 全身を自身の体毛で覆われており頭頂部から四十五度の部分に獣の耳が二つ生えている。
 魔人の正装なのだろうかこの者も他の二人と同じように上半身に緑色のベストを着ている。
 が二人と違うのは体毛に覆われているためだろうか、下半身は何も履いていなかった。

 顔は獣の顔をしていて、ぱっと見では獣人族の狼と見間違えるほどだ
 背丈も二メートルを優に超え、メルウェムたちと比べるとかなり大柄の印象を受ける。
 獣人族の見た目をしているがれっきとした魔人族であり正確には魔狼まろうと呼ばれる類の魔人だ。

 「メルウェム様、此度の戦い先陣をこのガルブめにお任せください」

 「控えよガルブ、まだ具体的な仕掛ける場所も決まっておらぬというのに!」
 
 「だからこそ、先に仕掛ける者を決めておいた方があとで悩む必要もないだろう?」

 「くっ……」

 「ふむ、よかろう。 先陣はガルブお前に一任する」

 「なっ、メルウェム様!!」

 「ははっ、ありがたき幸せ。 このガルブ魔神メルウェム様の忠義に報いる所存にございます」

 そう言いながら平伏し、頭を垂れるガルブをアスファルは苦々しく睨みつける。
 顔を上げたガルブがしたり顔で醜悪しゅうあくな笑いを顔に浮かべる。
 魔人が仲間意識の強い種族であってもどうやらこの二人は水と油の関係のように相容れぬものらしい。
 何事にも例外はあるという良い一例だ。

 「よし、最初に仕掛ける場所を思いついた」

 その言葉にアスファルとガルブは一旦睨み合いをやめ視線をメルウェムに向ける。
 一呼吸の間ののちメルウェムは最初に攻め込む国の名を口にした。

 「ドライゴン帝国王都ガルヴァス」

 「その国は確か皇帝が新しく即位したばかりでしたな、まだよわい十五の少女だとか」

 「なんでえ、ガキのお守なんざ真っ平ごめんだぜ。 もっと歯ごたえのあるやつはいねえのか?」

 「まあどちらにせよガルブよ、今回は裏で動き帝国を我が支配下と置くのだ。
 そのためにはその娘はうってつけの道具になるのではないか?」

 「裏工作でございますか……裏で動くのはあまり得意ではありませんがご命令を受けた以上
このガルブ、メルウェム様のご期待に添えるよう努力してまいります」

 その後アスファルがガルブに「裏工作が苦手なら替わってやろうか?」と悪態を付き
「誰がおめえに譲るかよ!!」と売り言葉に買い言葉の口喧嘩が繰り広げられたがそれもメルウェムが口を開くとぴたりと止んだ。

 「ともかく我ら魔人が表舞台に出る最初の一歩だ。 ガルブ、アスファルよ、その事ゆめゆめ忘れるでないぞ」

 そう言い放つとガルブとアスファルは了解の意を示すため胸に手を当てながらうやうやしく一礼する。
 それを見届けたメルウェムは腰かけた椅子と共に闇の中へと姿を消した。
 ガルブとアスファルもまたメルウェムの姿が消えるとお互い睨みつけた後どことも知れぬ闇へと姿を消した。

 かくして、潜んでいた者たちが表舞台に立ち大和がいるドライゴン帝国に魔の手を伸ばそうとしていた。
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