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第3章 「皇帝の陰謀と動き出す闇」

148話「大和、アリシアに説教する」

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 アリシアとの玉座の間での謁見を終えた俺たちはアリシア本人と側近の女性の二人に連れられて
城の中を案内されているところだ。

 「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 「失礼いたしました。 
 私はこのドライゴン帝国宮廷筆頭文官長マリース・ヴァン・クロイツェルと申します。
 以後お見知りおきくださいませ」

 「神託の勇者コバシヤマトです。 よろしくお願いします」

 そう言ってお互いの名前を名乗り合った。
 他の仲間たちもそれにならいアリシアとマリースにそれぞれ自己紹介していた。
 自己紹介が終わったところで、俺は周りに貴族の姿がないのを確認すると
アリシアの隣まで歩み寄りぽんと肩をはたいた。
 突然のことに目を見開き驚くアリシアとマリースだったがそれに構わず俺は話しかける。

 「まさかあの時のアリスちゃんがこの国の皇帝だったとは、世の中は狭いね」

 「あっ……う、うむ、そ、そうじゃの世の中は広いようで狭いの、はは、わはははは」

 おそらくは俺が最初に出会った時の態度に戻ったのが嬉しかったのだろう
いきなり砕けた態度に戸惑いはしたものの嬉しさと気安い関係に居心地の良さを感じているようだ。
 これが普通の者であればあの時の少女が皇帝だと知った時点で恐れ多いと距離を取るだろう。
 だが一般人出身の俺にとって王族という身近でない人物に恐れを抱くなどという殊勝な感情は持ち合わせていなかった。
 
 (ってかアリスちゃんはアリスちゃんだし)

 だが二人は良くてもそれを容認できない人間だって当然ながら存在するわけで―――。

 「ヤマト様、いささか陛下との距離感が近い気がするのですが、もう少しお立場というものを考えっ、ふぎゃあああ」

 「マリースお主はいつからわらわの母親のような真似をするようになったのだ?
 妾とヤマト殿はそんな堅苦しい関係ではないのじゃ、妾は今の関係で構わぬからお主は黙っておれ!」

 マリースが俺の言動をたしなめようとしたところに自分が履いているハイヒールの
アウトソール部分所謂いわゆる本底の部分で彼女の足の甲を踏み抜いたのだ。
 流石にかかと部分のトップリフトでなかったのがせめてもの情けであろう。
 それでも靴底で皮の薄い足の甲を踏みつけられれば相当の痛さになるのは想像に難くなく
踏みぬかれた足の甲を抑えながらマリースは床で悶え苦しむ。

 「さっヤマト殿こっちじゃ、妾の城を案内するぞよ」

 「えっでもマリースさんは放っておいていいのかい?」

 「あんな小言ばかりの小姑こじゅうとのような側近など必要ないわ」

 「小姑って……そんな言い方ないと思うよ」

 「ヤマト殿?」

 確かにアリシアの立場から言えば何かと小言を言ってくる彼女のことをうとましく思うのは
無理からぬことかもしれないが、それはマリースがアリシアのためを言っている言葉であって決して
彼女のことが嫌いだからではないことは出会って間もない俺でも理解できた。
 だからこそ俺は先ほどアリシアが彼女に対して行った行為がどうしても許せなかった。

 「大丈夫ですか? 今すぐ回復魔法を」

 俺はアリシアが踏んだことによってできた傷を魔法ですぐさま治療する。
 回復魔法の効果が出たのか苦痛に歪む表情が和らいでいくのがわかった。
 マリースを治すとアリシアに向き直り彼女の目を見て真剣に話し始める。 

 「アリスちゃん、よく聞いてね。 確かに君にとってマリースさんの小言は疎ましい物かもしれない。
 でもだからと言ってさっきのような行為は決して褒められたものではないし、何より国一つを治める皇帝がすることじゃない。
 マリースさんは君のためを思って敢えてああいう厳しい態度を取ってるんじゃないかな?
 全てはこの国の未来のため君が皇帝として間違った道へ行かないよう導くために心を鬼にして憎まれ役をやってるんだと思うよ。
 この世界では人の命なんて簡単に消えてなくなってしまう。 本当に自分のことを大切に思ってくれてる人が誰なのか、それがわかった時にはすでにその人がこの世からいなくなった後だったなんてよくある話だからね」

 自分にとって本当に大切な人間、それは自分が間違った道に進んでしまった時に
それを正してくれる人間、間違いだと指摘してくれる人間だと俺は思う。
 この世界にやってきて数か月だが俺には自分を偽ることなく本心で語り合える仲間と呼ぶべき存在ができた。
 アリシアにとって仲間と呼ぶべき大切な存在、代え難き存在はマリースなんだと俺はそう考えた。
 
 「だから、アリスちゃん……いや、ドライゴン帝国皇帝アリシア・ティル・ドライゴン。
 マリースさんに謝ってください」

 「うっ……」

 俺の有無を言わせぬ態度に自分が仕出かしたことがどれほど軽率な行為だったのか
それを理解できぬほどアリシアは愚かではなかった。
 彼女はまだ立ち上がっていないマリースの元まで歩み寄り片膝を付くと彼女の肩に手を置き謝罪の言葉を口にした。

 「マリース、先ほどは妾が悪かった。 いつもいつもマリースの小言を聞かされるのが嫌で辛かったのじゃ。
 あまりに小言が多い故に妾の事が嫌いなのかと思った時もあった」

 「そのようなことは決してございません。 先ほどヤマト様がおっしゃったように私は陛下のためを思えばこそ
敢えて心を鬼にしていさめねばご忠告申し上げねばと努めてまいりました。
 そのために陛下にはお辛い思いをさせてしまったことこのマリースの不徳の致すところでございます。
 お許しくださいませ……」

 そう言ってこうべを垂れるマリースに感極まったのかそのまま彼女の名を呼ぶとマリースに抱き着いた。
 どんなに一国の皇帝と言えどアリシアはまだまだ学ぶべきことが多い年齢どうりの少女なのだ。
 一つの国を背負うことがどれだけの重圧なのかその経験がない俺ではアリシアが抱えている悩みがどれほどのものか量ることはできないし、彼女自身そう簡単に理解して欲しくもないだろう。
 だがアリシアと共にこの国の行く末を考え、この国と共に生きるマリースであればそんなアリシアの重圧を少し軽くしてやれることができるのではないか、その資格があるのではないかと俺は思う。

 その後、しばらく二人が抱き合ったままの光景を俺たちは黙って見続けた。
 ほどなくして二人の身体が離れるとアリシアがマリースの手を取り起こした。

 「その、大丈夫じゃったかマリース、足の方は?」

 「お心遣い感謝いたします。 ですが傷の方はヤマト様が回復魔法をかけてくださったので
何も心配ございません」

 「そうか、それならよい、それならよいのじゃ!」

 どうやら二人の間にあったわだかまりは消えたようで二人ともお互いに笑い合う。
 その笑顔はとても輝いていて、見ているととても眩しかった。
 二人ともすごくいい笑顔だ、美女が二人いると何とも画になってまるで一流の絵師が描いた
絵画を思わせる。 なにより二人ともすごく可愛い。
 そう考えていると何やら突然場の空気が凍り付きみんなの視線が俺に集まった。

 「や、ヤマト様今何とおっしゃいましたか?」

 「えっ? 何も言ってないけど……」

 「……」

 俺に問いかけてきたリナ意外全員が沈黙する中、アリシアとマリースだけが顔を真っ赤にして俯いていた。
 この状況を飲み込めずにいたその時リナが続けて放った一言で俺はその原因を理解した。

 「二人ともすごく可愛いと、一流の絵師が描いた絵画を思わせると……」

 「あっ口に出ていたのか……」

 どうやら俺が心の中で言っているつもりだった声が口に出ていたらしい。
 それを聞いた二人がさらに顔を赤らめ、他の女の子たちはこちらを物欲しそうな目で見てくる。
 『あたしにも言って欲しいです』という欲望交じりの目線で。
 俺はその場にいるのがいたたまれなくなり、アリシアの手を取って足早に歩き出した。
 いきなり手を握るのは失礼かとも思ったがあの恥ずかしいセリフを聞かれたんだ
これ以上この場にはいたくなかった。
 
 「さっ、アリシアちゃん、城を案内してよ」

 「ちょ、ちょっとヤマト殿そんなに引っ張らないで欲しいのじゃ」

 「ヤマト様ぁ~、さっきのセリフあたしにも言ってください~」

 「ああ、陛下お待ちくださいませ!!」

 「主、わたしは可愛いですか、どうなのです??」

 「マーリンも言われたいですのん!」

 「あたしだって!!」

 「旦那様、わたしも可愛いですか?」

 俺たちが逃げたと悟るや否や己の欲望を満たそうと彼女たちが野獣の如き様相で追いかけて来た。
 なんか最後はラブコメのようなオチになってしまったがこれはこれで悪くないと俺は思った。
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