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第2章 「目指せ、ドライゴン帝国!」
123話:「女神たちの饗宴」
しおりを挟む白く光に包まれた、淀みや汚れなどが全くといっていいほど皆無の清く神聖な場所だった。
敢えてその場所を呼称するのなら【神殿】というのが妥当なところだが、それは人族が管理する
神殿のものとは明らかに毛色の異なるものであり清らかな雰囲気が逆に不気味さを体現しているかのような所だ。
そんな不思議な場所に一人の人影があった。
白の大理石のような石でできたソファーを模した人一人が寝転べるような場所に
一人の女性が寝そべっていた。
シルクのようなキメ細やかな白を基調としたドレスに所々に金で作られた装飾品を身に纏うその様は
女性としての艶やかさと慈愛に満ちたオーラを纏い、誰が見ても【女神】と呼ぶべきものだった。
「ふぁ~」
彼女は小さく欠伸を噛み殺しながら、気だるそうにその場所から起き上がり
歩を進め、50センチほどの大きさの透き通った球体のようなものがあるところで足を止めた。
彼女がその球体に手を翳すと淡い光を放ちながらやがてとある風景を映し出す。
そこには一人の男の姿があった。
数人の女性を引き連れたその男は彼女たちを横一列に並べると
不意に頬に口づけをしていった。
その姿にまるで子供が成長していく様子を微笑ましく見守る母親のような微笑を浮かべると
誰に言うわけでもなくぽつりと呟く。
「全く、今回の勇者は不器用な人ですわねぇ~」
そう呟くと球体に映し出された男を見つめるとさらに続けて口を開く。
「今回こそあの性悪女にぎゃふんと言わせるんだから、頑張ってくれないと
困るんですからねっ!」
そう言うと細く綺麗な人差し指を親指に掛けて男が映し出された球体をピンと弾いた。
まるでそれが合図になっていたかのように球体は光を失うと何も映さなくなり沈黙する。
彼女の名前はディーネ、小橋大和が転移した異世界【ラマル】を管理する女神の一人であり
善を司る女神である。
先ほど球体に映し出されていた男こそディーネが召喚した勇者大和であった。
彼女は大和の様子を定期的に観察しているがこちらから干渉することは極力避けていた。
理由としては、この世界の管理者がそう易々と人の目に姿を現すことができないというのもあるが
本音として半ば強制的にこの世界に連れてきた者に文句の一つも言いたいというのが人の思いであると
彼女は理解してるため、彼に会って悪態を付かれるのが面倒というのが彼女の正直な思いだった。
彼の様子を確認し終え元の場所に戻り惰眠を貪ろうとした刹那―――
「あら~ん? 珍しく今日は起きているのね~」
今一番聞きたくない声にあからさまに顔をぐにゃりと顰めるとその顔のまま声の主に顔を向ける。
その視線の先にはディーネと引けを取らないほどの美女が佇んでいた。
ディーネを色で例えるのなら白だが、彼女を例えるのならそれは黒だった。
彼女と同じような服装をしているが基調としている色は黒でありディーネと見比べると
若干、いやかなり肌の露出が激しいほど着崩しており、女性の象徴とも呼ぶべき双丘などは
今にも薄生地からこぼれ落ちそうなくらいに揺れている。
彼女こそディーネと対を成す悪を司る女神であるヴィルヴァルディその人である。
褐色の艶めかしい肢体を挑発するように見せつけながら彼女はディーネに話しかける。
「ようやく勇者が動き出したようね~。 前回の勇者は期待外れだったけど
今回は期待できるのかしら~?」
「ふん、見てなさいよ! 今回のチェスゲームはわたくしが勝ってみせるから!!」
そもそも彼女たちが争ういきさつを説明すると、それは他愛のないただのゲーム、遊びのようなものだった。
この世界が創造された当初、二人とも仲良くこの世界を管理していたがディーネが人族を創造したことで
事態が急変することになる。
人族を創造したディーネに対抗するようにヴィルヴァルディもまた魔族という種族を創造した。
それによって人族と魔族の間で争いが起こり、いつしかそれをゲームのように楽しむようになってしまった。
二人はそれを【戦争(チェス)ゲーム】と称して、五百年周期でそのゲームを行う様になっていた。
「そう言えば~、今回で何回目の戦争ゲームだったかしら~?」
「186・・・・・・いえ、187でしたわね、それが何か?」
「いいえ~、特に他意は無いわね~」
そんな他愛のないやり取りをしていると急にヴィルヴァルディが話を切り出す。
「ねえディーネ? 今回の戦争ゲーム
勝った方は相手に好きなことを命令できるっていうのはどうかしら~」
悪の女神らしく邪悪な笑みを浮かべながらディーネに提案する。
最もそんな笑顔ですら美しいと感じてしまうほど、ヴィルヴァルディは魅力的な女神だった。
彼女の提案にしばし逡巡したのち、口端を吊り上げると同意の言葉を口にする。
「いいわねぇ~、じゃあわたくしが勝ったら腹に顔を書いて
裸で腹踊りでもやってもらいましょうか、フフフフフフッ!」
まるでいたずらっ子のように笑うディーネに対し、同じように笑いながら
ヴィルヴァルディは勝った時の命令を提案する。
「じゃあ~、あたしが勝ったら
裸で逆立ちしてこの神殿の周りを一周してもらおうかしら、ウフフフフッ!」
お互い一歩も引かないという強い意志を視線に乗せ相手にぶつける。
それからしばらくその状態が続いたがヴィルヴァルディが満足したのか踵を返して歩き出す。
「それじゃあ第187期戦争ゲームの開幕ってことでまた会いましょう、ディーネ」
「ええその時を楽しみにしてますわ、ヴィルヴァルディ」
そうディーネが言い終わるとヴィルヴァルディの姿が掻き消えた。
再び静寂を取り戻した神殿内にディーネの言葉が響き渡った。
「今回は必ず勝ちますわ。 そのためにも頼みましたわよ、勇者コバシヤマト」
こうして、大和の預かり知らぬところで新たな女神たちの戦いの火蓋が切られたのであった。
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