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3部【ビルド大陸上陸編】 第1章 「勇者ってこんなに人気者?」

116話:「ノーム再び」

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 「そう言えばノームは?」

 その問いかけは大和のものだった。
 ドグロブニクからここまで来るのに必死になっていたため
ノームの存在を完全に失念していたのだった。

 「うぅうううぅうううぅぅぅ」

 どこからともなく聞こえるすすり泣く声に全員が狼狽えていると
左肩に重みを感じた大和が視線を向けると滝のように流れる涙と共にノームがそこにいた。

 「ボキのごどわずれないでぼぢいだっびゃ!!」

 涙ながらに訴えてくるノームの頭なのか顔なのかわからない部位を手で撫でてやると
落ち着きを取り戻したのかいつもの調子に戻ったノームに問いかける。

 「お前今まで何処にいたんだ?」

 「ボキはずっとそばにいただっぴゃよ?」

 「だって何処にもいなかったじゃん?」

 「それはだっぴゃね」

 ノームの説明によると、どうやら精霊は認識した相手が呼ばないと精霊空間から出てこれず
いつまでも呼ばれないとそのまま精霊空間にずっと閉じ込められた状態にいるらしい。
 閉じ込められた状態と言っても別段、監禁状態というわけではないのだが
同じ空間にいるのも暇だったりするのと存在を忘れ去られるのが何よりも寂しいらしい。

 ノームからさらに詳しく聞いた話によると大和たちの前にもノームを認識した人間がいて最初はちょくちょく
呼ばれていたのだが、いつの間にやら忘れ去られてしまい気付いた時には
寿命で亡くなっていたなんていう切ない話も出てくる始末だった。

 「だからまた呼ばれてホッとしてるだっぴゃ!」

 「それは悪いことをしたな、すまん」

 「いいだっぴゃよ気にしないでほしいだっぴゃ」

 そう答えるノームの頭ともおでことも取れる部分を撫でてやると
目を細めてくすぐったそうにするノーム。
 それを見ていた女子たちが何故か羨望の眼差しをノームに向けていたが
それを無視してしばらくノームを撫で続けた。

 「コホン、主もうその辺でよいのではないですかな?」

 「うん?」

 どうやらかなり長い時間ノームを撫でていたようで
何か背中に真っ黒いオーラを纏ったフレイヤがいたのでノームから手を離した。
 大和が手を離すとノームに向き直り手を胸に当てながら敬意を持ったお辞儀でフレイヤが挨拶をする。

 「お初にお目にかかりますノーム様、我はフレイ・ドラゴン族のフレイヤと申します。
 以後お見知りおきくださいませ・・・・・・」

 「フレイヤ、ノームのこと知っているのか?」

 「知っているも何も我ら龍族と精霊は密接な関係にありましてですね」

 フレイヤの説明では龍族はそれぞれが司る属性を持っており
属性によってドラゴンが使うブレスなどの種類が異なっている。
 その属性の力を貸し与えている存在が精霊だそうで、つまるところドラゴンにとって精霊とは
力を貸し与えてくれる神様のような存在なのだそうだ。

 「ふーん、こんなちんちくりんな子がねえ」

 そう言ってマチルダがノームを指で突く、それに対し少し驚愕した様子で
フレイヤが彼女の行為を咎める。

 「やめないか人間、精霊様に対して失礼極まりないだろう!」

 「えーだって嫌がってないよ?」

 そう言いつつもノームを小突くマチルダに対し、精霊という存在がいかに尊きものなのか
宴の会場に到着するまでフレイヤの講義という名の抗議が延々と続いた。
 余談だが、この時ノームはマチルダに小突かれたことに何も言及はしなかった。
 寧ろじゃれ合うかのように喜んでいたのだ。

 そんな取り留めもない会話をしながら大和たちはジェノンの町長が開いてくれたささやかな
宴会場とやらに到着した。 到着したのだが。

 「・・・・・・」

 そこはどこぞの貴族が催したのかと見まがうような豪華絢爛なパーティー会場で
 煌びやかな装飾が施された会場内には高貴な雰囲気が漂い、天井にはさも当たり前かのように
大きなシャンデリアが眩いほどの輝きを放っていた。
 皺一つないテーブルクロスの上には所狭しと料理が並べられていて、見たところバイキング形式で
好きな分だけ取り皿に取って食べるといった形式のようで港町だからか海鮮料理が多く見受けられた。

 「うわぁー、なんだかお城の舞踏会に来たみたいですね」

 エルノアが目をキラキラ輝かせながら会場の隅々まで視線を巡らせていた。
 そんなことよりも一つ困ったことがあった。
 大和は町長から“ささやかながら”という言葉を聞いててっきりちょっとした
ホームパーティーを連想してしまい少しラフな格好で来てしまっている。

 こういう格式ばったパーティーはドレスコード的なものがないかと心配になって会場を見渡すと
 一応タキシードに身を包んでいる者もいれば普段着を来ている人もいたので
どうやら服装で入場を制限されるというのはないようだ。

 「ようこそおいでくださいました勇者様、ささこちらへ」

 そう言ってテーブル席に案内され大人しく着席すると、町長のパーティー開幕の挨拶が行われ
その後とっかえひっかえ貴族やらお金持ちの商人やらがこぞって大和の元を訪れた。
 ある者は大和とのつながりを求めて、ある者は娘や妹、姉を嫁に貰ってくれと女性を紹介してきたりと
色々と対応に困る場面もあったが、リナ、エルノア、フレイヤの負のオーラとマチルダの丁寧な対応で
なんとか事なきを得たのであった。
 
 その後宴もたけなわといったところで再び町長の挨拶があり。
 勇者歓迎の宴はつつがなく終了した。
 宴の途中で酒を煽り酔っぱらってしまったフレイヤとエルノアを介抱しながら
なんとか部屋に戻ってきた大和たちは旅の疲れを癒すべくベッドにダイブしそのまま意識を手放した。
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