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第2章 「ドグロブニク攻防戦」
104話:「勝手に殺すな」
しおりを挟む「ふん、この程度か」
たわいないとばかりに吐き捨てる青い髪の女性がいた。
地面から数メートルの高さに浮遊する彼女の視線は眼下に向けられていた。
そこには地面に横たわる影が4つあり僅かながらに動きかあるがまともに動けない様子だ。
彼女たちは先刻の戦いでヘルに挑むも圧倒的な力量差に大敗を喫してしまっていた。
魔族の大幹部の右腕クラスが相手ともなればいくら4人がかりとはいえひとたまりもない。
彼女たちはなけなしの力を振り絞って何とか立ち上がろうとしているが最早彼女たちに戦う術など無かった。
そんな彼女たちの様子を上空から高みの見物で見下ろしていたヘルが彼女たちに冥土の土産とばかりに口を開いた。
「アンデッド・アーミーを退けたのには多少は驚いたが所詮は人間
これが魔族との差というものだわ。 次生まれてくるときはそれを理解しておくことね。
じゃあ・・・・さよなら」
そう言うとリナたちに向かって右腕を突き出し魔力を集中する。
そして溜まった魔力を使い最後の魔法を唱えようとした刹那。
彼は現れた。
「ヘル、止めるんだ」
聞き覚えのある声に彼女が後ろを振り返るとそこには我が主であるサマエルがいた。
激しい戦闘があったことが目に見えてわかるほど衣服が汚れている。
だがそれよりも彼がここにいることに喜びと安堵の表情を浮かべた。
「サマエル様ご無事で何よりでございます。
あなた様がここにいるということは勇者との戦いに勝利なされたのですね」
顔を綻ばせながら主の勝利を喜ぶヘルに対し二人を見上げる4人の女性たちの顔が絶望の表情に塗り固められる。
最悪の事態を頭に思い浮かべながらもそうであって欲しくないという現実逃避にも似た思考がぐるぐると頭を巡る。
だがそれはサマエルがこの場に現れたことで彼女たちが思い描いたことが現実に起こっていると肯定しているに等しかった。
「やっヤマト様は? ヤマト様はどこにおられるのですかっ!?」
目に一杯の涙を溜めながら今まで共に旅をしてきた男の名を呼ぶ神官の少女。
悲鳴にも似た問いかけに反応するようにサマエルが彼女に視線を合わせニヤリと口端を吊り上げる。
彼女の問いをくだらないとばかりに嘲る笑いに少女は唇を噛みしめる。
強く噛み過ぎたため彼女の口から血が流れ落ちる。
「そっそんな・・・・ヤマトさまが・・・・」
一方リナと同じく膝を地に預け四つん這いのような体勢で項垂れているエルフの少女。
自分を救ってくれた恩人でありこれから一生をかけて恩を返すと誓った男が死んだ。
そんな事実を受け入れることを拒絶するかのようにそのまま地に伏していた。
「ヤマトさん・・・・・・」
杖を支えにして力なくへたり込む魔術師の少女。
偶然町で彼にぶつかったことがきっかけで知り合い
気が付いたら魔王討伐の旅に出ていたことを思い出す。
彼の笑った顔、怒った顔、困った顔、楽しそうな顔、悲しい顔。
これからもっと自分の知らない彼の顔を見ていくはずだった。
だがそんな些細な彼女の願いは無残に引き裂かれてしまう。
「ヤマト様、ヤマトさまぁ・・・・」
出会った時間は短いがマチルダもまた大和の死に打ちひしがれていた。
今回の発端は自分が魔族に誘拐されたことが原因だと彼女は考えていた。
だからこそ大和が死んだのは自分の責任だと決めつけていた。
“自分が魔族に攫われさえしなければ”そんな考えが頭を何度も過る。
己の非力さを呪いながら自らの拳を何度も何度も地面に叩きつける。
その拳は赤く血が滲み出し叩くたびに地面の石が赤く染まっていく。
誰もが大和の死に絶望し泣き崩れていたその時、誰かが口を開いた。
「こらこら、勝手に俺を殺すんじゃない!」
その言葉に全員が視線を向けるとそこには死んだはずの彼がいた。
まるで幻を見ている感覚に襲われたがリナが口火を切って問いかけた。
「やっヤマト様? 死んだはずでは?」
その問いに肩を竦めながらおどけたように彼は答えた。
「生きてますけど、何か?」
大和がリナの質問に答え終わるのとエルノアが彼に抱きついてきたのはほぼ同時だった。
彼女の暖かく柔らかい感触が伝わってくる。
「ヤマトさまぁ、ヤマトさまぁ、ヤマトさまぁ」
嗚咽混じりで大和の名を何度も呼びかけ少し強く抱き着いてくる。
まるで彼の存在を確かめるようにここに彼がいることの喜びを噛みしめるように。
そこから一人また一人と大和に抱き着き、再会を喜んだ。
リナとエルノアが大和を腕を取り合っていつもの調子を取り戻す中
落ち着きを取り戻したマーリンが話しかけてくる。
「ヤマトさん、この状況は一体どういうことですのん?」
大和はサマエルと自分が共に戻ってきたことを聞かれていることを察すると
たった一言、これ以上ない分かり易いシンプルな一言でこの状況を説明した。
「あいつと友達になった」
その言葉を聞いた瞬間リナたちの時間が止まった。
静寂がその場を支配し、風の吹き抜ける音だけが聞こえていた。
そして、僅かな沈黙ののち全員が同じ反応を見せた。
「「「「はぁ!?」」」」
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