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第2章 「ドグロブニク攻防戦」

93話:「うちの娘を嫁に貰ってくれないか?」

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マチルダさんが俺の部屋を出ていってから30分ほど経過したところで
少し冷静な頭を取り戻した俺は今自分が犯した行為に対する羞恥心で苛まれていた。
なぜあのようなことをしたのか、今となってはのぼせ上がっていたとしか答えは出ない。

「君みたいな綺麗な女性が好意を寄せてくれるのは男身寄りに尽きる」だの
「君には幸せになって欲しいんだ」だの、極めつけは彼女を抱きしめての耳元で「ありがとう」と囁くという
いつもの自分では絶対やらないような気障きざな行動のオンパレードに頭を抱えていた。

隣の部屋にリナたちがいなければ確実に部屋の中をのた打ち回っていただろう。
だがそれをするとまたあいつらが飛び込んでくるため寸でのところで我慢する。
【後悔先に立たず】という言葉が今の俺の中にマイクでエコーがかかっているかのように響き渡る。

「とっとにかく・・・・あいつらと話さねば・・・・・・」

俺は羞恥心に支配された己を律すると、隣の部屋に戻った彼女達の部屋にノックもなしに入った。
するとそこには先ほどマチルダさんとのやり取りを思い出させる光景、ピンクの世界が広がっていた。
絶世の美女が纏う薄いキメの細かい服で包み隠されているこれまたキメの細かい肌が俺の目の前で晒されていた。
どうやらイカの化け物との戦いに備えた買い出しで汗を掻いたのだろうか3人とも服を着替えていたところだったのだ。

「「「「・・・・・・」」」」

突然の出来事に全員が沈黙する中、最初に口を開いたのはリナだった。

「よっ夜這いですかっ!?」

彼女が鼻の下を伸ばしながらいつもの【だらしのない顔】を顔に張り付け俺に詰め寄ってくる。
その言葉に反応したエルノアとマーリンが頬を桜色に上気させてこちらをちらちらと窺ってくる。
俺は何事もなかったかのようにそっとドアを閉じようとした刹那
数十センチいや数センチという隙間に女性特有の細っこい指が差し込まれ閉じようとしていたドアが
“ギギギギ”という音を立てて、こじ開けられた。

そして、完全に先ほどと同じようにドアが開くとリナが『ぬぅ~』という擬音と共に下着姿のまま俺の眼前に躍り出る。

「別に恥ずかしがらなくてもいいじゃないですかぁ~」というあからさまな猫なで声を出しながら
こちらの思惑をあたかも理解しているという口調でのたまってくる。

「わかってますよぉ~あの女とやり損ねたんで代わりにあたしたちでやろうってことですよねぇ~?
 いいですよぉ~。 望むところです。 やりましょう!!」

この馬鹿は一体何を言ってるんだ?
リナの言葉にえも言われぬ表情を浮かべながら押し黙っていると
彼女の後ろからひょこっと顔を出したエルノアとマーリンが顔を赤くしながら懇願してくる。

「ヤマトさま・・・・あたしもご奉仕いたします。 いやさせてください!!」

「マーリンもこういうのは慣れてないけど頑張るですのん・・・・」

二人いや三人とももはや俺がマチルダさんとの情事を邪魔され行き場を失った男の欲情を
自分たちにぶつけるため夜這いにきたと疑っていないようでその表情は恥ずかしながらも至って真っ直ぐだった。
だがもちろん俺は今後のことについての方針を話し合うために来たのであって
断じて夜這いなどという低俗な行為に及びに来たのではない。

俺はどう説明すればこいつらが理解するか考えをまとめていると
この状況を作り上げた張本人がまた動き出す。

「では早速ご奉仕させていただきますねぇ~うへへ・・・・」

もはや目の焦点すら合っていないほどご乱心なされている彼女に
何を言っても無駄だと悟った俺は力技に出ることにした。
まずリナの懐に飛び込むと見せかけて瞬時に後ろに回り込む
そして、彼女の首元に自分の腕を交差させそれをぎゅっと締め上げた。
そう俺はリナを落とすことにしたのだ。
レベルがカンストになっている俺にとって下級神官のリナの意識を刈り取ることなど造作もないわけで。

「がっ!」

締め上げた瞬間彼女の体から力が抜けていくのを感じた俺は
そのまま彼女たちの部屋に入ると残った二人に説明した。
俺が丁寧に説明するとかなり残念そうな顔をしたが
一応は納得してくれた。

先にリナを落としたことで説得しやすかったようだ。
二人がまだ下着姿のままだったので一度部屋に戻るとだけ伝え自分の部屋に戻った。

ややあってリナの目が覚めたのを見計らい今後についての真面目な話し合いが行われた。
目が覚めた直後は【夜這い】という言葉を連呼していたが
俺が変な夢でも見たんだろうと言うと、何となくそれで納得したようだ。
この時俺はこれは今後使える手だと思った。

それから4人で今後のイカの化け物退治についての方針が決定した。
基本4人で戦い、ヤバそうだったら無理をせずに帰還するということで4人が合意する。

「無理に戦って被害を拡大するのも馬鹿らしいし、ここは慎重に行こう」

俺の言葉にリナたちは強く頷く。
そして、用件の済んだ俺はそそくさと彼女たちの部屋から逃げるように出ていった。



翌朝、俺たちは支度を整えるとアイゼンさんの屋敷に向かった。
早朝なのにもかかわらず、町は多くの人が行き交いまるで森の木々が騒めくような喧騒で賑わっている。
昨日のマチルダさん襲撃事件のこともあり少々足を運ぶのがためらわれたが
イカの化け物を倒さない限りこの町を出ることはできないため
いたしかたなく重い足取りながらも屋敷に到着する。

俺たちを出迎えてくれたのはやはりというべきか必然というべきか彼女だった。
昨日と同じように丁寧な言葉遣いでアイゼンさんのもとへ案内してくれたが
顔が少し赤みを帯びていたのを俺は目ざとく見てしまった。

アイゼンさんの自室に通されると柔らかな笑顔で向かい入れてくれた。
この人の笑顔はなんだかとても好感が持てる。
口まわりに蓄えた立派な髭を弄りながら彼は朗らかに話し出す。

「船の準備は滞りなく完了しております。 いつでも出立できますがいかがいたしましょうか?」

「ではこれからすぐ出航し、目的のイカの化け物退治に向かいます」

そう宣言すると踵を返して港に向かおうとする俺の背中にアイゼンさんが声を掛けてくる。
嫌な予感がしたが無視するわけにもいかずゆっくりと振り向くと俺の予感が的中する。

「ぶしつけなお願い誠に申し訳ないのですが、是非とも今回のゲソルド退治に
うちのマチルダを共に連れて行ってやってくださいませんか?」

その言葉に目を見開き焦りの表情を浮かべるマチルダをよそにアイゼンは続ける。

「このマチルダは器量もよく性格も悪くございませんが
いかんせん奥手なところがございましてな。」

言葉を一度切り、マチルダを優しい表情で一瞥しながら話し出す。

「主として嫁の貰い手の一人も見繕ってやらねばと常日頃から考えていたのですが
これという相手が見つからないまま今日を迎えてきたのです。
 ですが昨日あなた様のもとから帰ってきたマチルダの顔を見て私は確信しました!
 マチルダの伴侶はあなた様しかいないと!!」

はいキター!!!!!
勇者になったら起きるあるあるイベント、【我が娘を嫁に貰ってくれないか】的なやつ!!!
だがこちらとしてもはいそうですかというわけにもいかず反論する。

「アイゼンさん俺は魔王討伐を使命とした旅をしている最中です。
 仮に彼女と一緒になったところで無事に帰ってこれるかわからないのですよ?」

そう反論するとさも当たり前のように彼が返答する。

「ではマチルダもその旅に同行させていただきましょう。
 マチルダの実力なら他の方の足手まといになるということもありますまい?」

したたかな表情でニヤリと笑う彼に断る理由が無くなってしまった状況にまで追い込まれる。
だが最後の悪あがきはさせてもらうことにする。

「とっとにかくイカの化け物退治に来るのは許可します。
 その後のことは化け物を退治した後で改めて話し合いましょう!!」

問題の先送りはなはだしいが今はイカの化け物退治を優先するべきだ。


ビルド大陸に渡るため軽い気持ちで請け負った依頼がまさかの展開に発展する。
大和はこの時ほど勇者というものが損な役回りだと改めて痛感するのであった。
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