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第2章 「ドグロブニク攻防戦」

89話:「交渉」

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大和に迫ろうとしていた拳が顔面直撃一歩手前でぴたりと制止する。
彼女の攻撃を止めたであろう人物が扉の前で佇んでいる。
40代後半の髭を蓄えた白髪交じりの中年男性だった。
服装はいかにも貴族と言った感じの厳かな様式の服を身に包み
纏っている雰囲気はいかにも支配者然とした堂々たるものであった。

「先ほどは家の者が無礼を働き誠に申し訳ありませんでした」

先ほど襲ってきた女性を見ると彼の謝罪に対して何か反論しようとしていたが
彼の鋭い眼光を向けられたちまち沈黙した。
丁寧な落ち着きのある口調で彼は謝罪すると姿勢を崩さずに大和に一礼する。
そして、優雅に上体を起こすと彼は話の続きをし始める。

「時にあなた様はご神託の勇者コバシヤマト様ではありませんか?」

「ご神託の勇者っ!?」

彼の推測から来る大和の正体を聞いて思わず彼の従者マチルダが素っ頓狂な声を上げる。
大和は彼女の反応を無視するかのように問いに答える。

「ご名答、私は神託によってこの世界に召喚された勇者、小橋大和と言います」

そう言いながら抜きっぱなしだった龍の紋章が刻まれた剣を二人に見せるように構えた。
自らの予想がぴしゃりと的中したことに驚愕したのか彼は目を見開く。
今度はこちらの番と言わんばかりに大和が問いかける。

「名前を窺ってもよろしいでしょうか?」

大和の問いに「これは失礼しました」と答え、自己紹介をする。

「私はこのドグロブニクの領主を務めておりますアイゼン・ハワードと申します。 以後お見知りおきください」

そう言いながら先ほどと同じように一礼する。
大和が視線をさっきまで争っていた女性に向けると、それを察知したのかアイゼンが捕捉する。

「そちらはこの屋敷で護衛と給仕を兼用しているマチルダという者です」

そう彼女を紹介すると彼女に目配せをしながら挨拶を促す。
そして、少しおどおどしながらも彼女も自己紹介をする。

「マチルダです・・・・先ほどは大変失礼いたしました」

そう言って両手をおなかの前で組むと深々とお辞儀をする。
お互いの自己紹介が済んだところで、大和が本題に入る。

「ここに来たのは他でもありません、実はっ・・・・」

用向きを伝えようとした大和の言葉を遮ってアイゼンが割って入る。

「ビルド大陸に渡るための船の件についてですな?」

ここに勇者である大和がいる時点で大方の予想はついていたのか
アイゼンがこちらの用向きを言い当てる。
大和は話が早いとばかりに結びの言葉のみを伝える。

「なんとかなりませんかね?」

その問いに顔を歪めながら「申し訳ありません」と答える。
大和がその理由を答えるとアイゼンは淡々と語り始めた。

事は1か月ほど前に突如として沖合に巨大なイカの化け物が姿を現し
ビルド大陸に向かう商船を尽く沈めていったそうだ。
その化け物の出現によってビルド大陸との交易が断たれてしまい
ビルド大陸と連絡も取れない状況に困り果てているとアイゼンは聞かせてくれた。

「ですから今はそのイカの化け物【ゲソルド】がいる限り船を出すことはできぬのです」

そう言いながら苦渋の表情を浮かべ悔しさを露わにするアイゼン。
ってちょっと待てよ今変な名前が聞こえたような・・・・

「あのーそのイカの化け物の名前をもう一度窺ってもよろしいですか?」

「ん? 【ゲソルド】ですが、何かございましたでしょうか?」

(ゲソルドって・・・・マジですか?)

どうやら自分の聞き間違いでないことを認識した大和はさらに問いを重ねる。

「【クラーケン】ではないのですね?」
「はい、【ゲソルド】です」

大和はあまりのネーミングセンスに顔を手で覆い隠した。
その態度にアイゼンが怪訝な表情を浮かべていたが、話を締めくくるため口を開く。

「ですからその【ゲソルド】がいる限りは船をお出しすることはできません」

この後の展開を大和は予想できていた。
そのゲソッ、もといクラーケンもどきを倒すことができれば
ビルド大陸に行くことができるわけだが誰がその化け物を倒すのか?

「アイゼンさん、もしよろしければ船をお貸し願えますでしょうか?
 このままでは私の使命も全うできないですし、そのゲソッ、もといイカの化け物
私が倒して御覧に入れましょう!!」

そう言い切る大和にアイゼンとマチルダは目を見開く。

「申し出はありがたいのですが本当に倒せるのでしょうか?
 決してヤマト様のお力を疑っているわけではないのですが・・・・」

今までの彼の態度から大和を信じていないというよりも
大和自身の身を案じての発言なのだろう。
だがこちらとしてもこの町で足止めを食らうわけにはいかないので
ここは是が非でも討伐に赴かねばならない。

「私の身を案じてくださるのはありがたいですが
それではいつまで経っても問題は解決しません!
 これも何かの縁でしょうし、ここは勇者である私が戦います!!」

その後リナたちの説得もあり、渋々納得してくれた。

「わかりました。 ゲソルドの件はヤマト様にお任せいたします。
 船の手配をしておきますのでヤマト様も用意をお願いいたします」

こちらとしてもいろいろと準備があるので
話もついたところで大和たちはアイゼンの屋敷を後にする。
一度宿屋に戻りそれぞれ戦いの準備をするということになり3人とも出かけていった。

大和はというと特に準備するものはないので部屋で寛いでいた。
すると大和の部屋の扉がノックされる。
扉を開けるとそこにはマチルダさんが立っていた。
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