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2部【アース大陸横断編】 第1章 「目指せドグロブニク 漫遊編」
78話:「ガリウス・ブラウンは賢者である」
しおりを挟むガリウス・ブラウンは賢者である。
大和が転移した世界において賢者の称号を持つものは彼一人だけだ。
彼は今とある大陸のとある大森林の中にいた。
「・・・・・・」
精神統一だろうか、森の中だというのに胡坐をかいて座り込み
目を閉じて瞑想している。
「・・・・・・迷った」
誰とも言わず独り言を呟く、どうやら瞑想ではなく迷走だったらしい。
「またか、俺の方向音痴にも困ったもんだな」
まるで他人事のように呟くが当然その言葉に返答する者はいない。
彼は今一人で旅をしているのだから。
どこからともなく吹いてくるそよ風が森の木々に茂る葉を揺らし
彼のもとまで到着すると薄青色の髪をくすぐる。
賢者と言えば魔法のローブに魔法の杖を携えているイメージだが
彼の身なりから受ける印象としては戦士と呼称したほうが正確だ。
素早く動くことを重視した装備は弱点となる部分を最低限保護しているだけのものに過ぎなかった。
革製のグローブにシルバーの胸当て、腰には年季の入ったグレートソード。
そしてボロボロになった大きなリュックを背中に背負いこんだ男はしばらくそこを動かなかった。
数十分が経過したのちようやく重い腰を上げたガリウスは
盛大なため息を付くとどことも知れず歩き出す。
周りは木が覆い茂りどこもかしこも同じ景色が続くばかり。
ただでさえ自分が方向音痴であると自覚しているが故に足取りは重々しかった。
「早くこの森を抜けないとなーー」
力の抜けた声で呟きながら一歩また一歩と歩を進める。
そもそもなぜ彼がこんな旅をしているのかその理由は彼の性格に原因の一端があった。
ガリウスはもともと一つの場所に留まることが好きではなく
あちこちを行ったり来たりという風来坊な生活を送るのが性に合っていたのだ。
数多くの町を訪れその町の面倒事を解決していくうちに
いつしか彼は【賢者】としてその功績を称えられるようにまでなったのだ。
ここで一つ腑に落ちないことがあるのではないだろうか?
それは見た目が戦士の彼がなぜ賢者と呼ばれるのか、それは単純だ。
本来戦士とは武器を片手に鍛え上げた肉体で敵を一刀両断する武闘派の職業なのだが
彼の場合剣を杖代わりにして魔法で敵を仕留めるのだ。
それ故に人々は彼のことを【剣の賢者】とも呼んだりするわけなのだが・・・・
「んん?」
彼が突然不穏な気配を感じ取り顔を上げた。
するとそこには4メートルを超える大きな獣の姿があった。
大きな牙をむき出しにしながら涎を垂らす。
まるで目の前に恰好の餌が現れたと言わんばかりにぐるるとうなり声を上げる。
だが獣はまだ気が付いていなかった。
餌になるのは相手ではなく自分だと言うことを・・・・
ガリウスはニヤリと笑みを浮かべると腰に下げた剣を抜き
おもむろに剣先を獣に向け魔法を唱える。
「上級魔法 (サード・マジック) ホーリー・アロー!」
無数の光の矢が出現し全ての矢先が獣に向けられる。
そしてためらうことなく矢は獣めがけ飛んでいき体中を射抜く。
いかに巨大な獣と言えど心臓などの生命活動に必要な部位を傷つけられては
ひとたまりもなく抵抗する時間さえ与えられず地に伏し絶命する。
「とりあえず飯にするか・・・・」
頭をぽりぽりと掻きながら暢気なことを言うガリウス。
手慣れた手つきでたった今仕留めた獣を解体し肉にしていく。
それから背中のリュックを降ろすと火をおこす準備に取り掛かり
短時間で目の前にたき火が完成する。
ガリウスはその辺りにあった手ごろな木の棒に際ほど仕留めた獣の肉をぶっ刺すと
燃え上がるたき火の近くの地面へと刺していく。
幾ばくかの時間が経過したのち頃合いとみて彼がたき火から肉を取り上げる。
リュックから取り出した少量の塩を振りかけると男らしくかぶりつく。
獣独特の臭みがあったが肉自体が新鮮なためそこまで気になる臭いでもなく
口いっぱいに広がる肉汁が美味であり彼の空っぽの胃袋を満たしていく。
あれほど巨体を誇っていた獣の大半の肉を平らげた彼は
満たされたお腹をポンポンと叩いて満腹感を堪能する。
燃え尽きたたき火がちりちりと音を立てながら鎮火していくのを
ぼんやりと眺めていると不意に自分の中にある何かが消えていく感覚を覚えた。
「【ファントム・ミスト】が解除された? そんなはずはないあれはギガント級だぞ。
あれを解除できる奴がいるわけがない・・・・」
そう信じたいところではあるが自分が感じた感覚は
紛れもなく魔力の消失、即ち自分が掛けた魔法が破られたという事実だった。
その事実に焦りを覚えたガリウスが右手を頭に乗せながら顔を歪めた。
「あそこにはあれを封印してきたんだ。 破られたら大変なことになるぞ!」
そんなことを呟いたところでその呟きに答えてくれる者などいない。
ガリウスはそれを少し寂しく思いながらも
自ら感じた感覚が間違いであって欲しいと心の底から願うのであった。
のちに彼と大和は数奇な巡りあわせによって面倒事に巻き込まれるのだが
それはまた後日話すことにしよう・・・・・・
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