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第二章 追われ、追われ、追われ、追われ……

12話「ちょっとした鬼ごっこを楽しんだあとで装備を新調したんだが!?」

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「待て小僧ぉおおおおおお!! 待ちやがれぇえええええ!!」


 人気のない閑静な路地に男のだみ声が響き渡る。喚き散らす男の前方数メートルほど先をひた走っているこの世界では成人して間もない年頃の少年がいる……まあ、俺だな。今起こっていることをありのまま話すと、俺が冒険者ギルドで手に入れた報酬金である約銀貨五枚を狙ってやってきたごろつき冒険者から現在進行形で逃げているところだ。


 なぜ逃げているのかといえば答えは簡単で“関わり合いになりたくない”からだ。この街……というより、この世界にやってきてまだ二日目の時点で問題を起こして悪い意味で目立ちたくないという理由で逃げているわけだが、ここでまさかの事態が発生してしまった。


 それはというと、追いかけてくる冒険者を振り切ることができないのだ。
 奴らのステータスは既に鑑定スキルで確認しているのだが、俺よりも遥かに能力値が低い。だというのに、一定の距離から目に見えて奴らを切り離すことができずにいた。その原因については既に当たりはついており、追ってきている三人組の冒険者には【追跡術】というスキルを修得していた。先ほどから汚いだみ声で叫んでいるリーダー格の男に至っては【追跡術】がレベル2もあり、他の二人よりも追ってくる速度が速かった。


 他の要素が見当たらない以上奴らを撒くことができないのはこの【追跡術】のスキルが関係していると予想し、俺はさらに走る速度を上げた。まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされていると錯覚するほど入り組んだ路地を走り抜ける。速度を上げたことで、元からあった能力値の差がここにきて響いてきたらしく、徐々に相手との距離が開き始める。このまま走り抜ければ奴らを撒けるぞと確信したその時、ここでさらにイベントが発生する。


「ああ!? てめぇはあんときのクソガキ!!」

「うん?」


 進行方向に現れたのは、初日に絡んできたこれまた三人組のごろつき冒険者だった。俺の姿を認めるや否や、俺に向かって突撃してきた。だがしかし、今の俺の走行速度は十割のうちの七、八割の力で走っている。時速的には少なくとも時速四十キロは下らない。そんなスピードで走っている俺に対し、攻撃を仕掛けたとしてもそれは十中八九空振りに終わるだろう。


「てめぇ、待ちやがれゴルァ!!」


 俺が予想した通り奴の突撃からの攻撃は空振りに終わり、その脇を悠然と走り去っていく。車は急に止まれないという言葉をよく耳にするが、時速四十キロで走っている人間は急には止まれないのだ。


「おう、おめぇはゆすり屋のガバルじゃねぇか」

「あん? おお、そういうおめぇは新人狩りのゲスターじゃねぇか」

「詳しい話はあとだ。あの小僧を追っかけるぞ」

「わかった」


 言葉短く簡単なやり取りですぐに結託できる辺りに関して、冒険者らしい判断といえば聞こえはいいが、それが一人の駆け出し冒険者を追い詰めるという褒められた行為でないことに発揮されていることに多少の疑問の感情を禁じ得ない。


 追跡者が三人から倍の六人になったところで何ら問題はないのだが、さすがにこの人数に追いかけられれば嫌でも目立ってしまう。比較的広くて人通りの多い場所を感覚的に避けて進んでいるが、いつまでも人に見つからずに逃げることは不可能だ。


(ちっ、しつこい奴らめ。いい加減諦めて欲しいものだな……仕方ない、全力を出すか)


 奴らの追跡のしつこさに内心で悪態を吐きながらも、これ以上関わり合いになりたくはないので今の自分が出せる全力で路地を駆け抜ける。通常の人間よりもステータスの値が高いことに加え、【逃走術】のスキルも相まって俺の走行速度はさらに上がり体感的に時速六十キロにまで達していた。さしもの奴らもそんな人外級のスピードには付いてこられず、最終的に俺を見失ってしまい「次会った時は覚えてやがれ!!」という負け犬の遠吠えが路地に響き渡るのだった。


「はあ、はあ、はあ……やっと撒いたか」


 ごろつき冒険者たちを撒いたのを確認したあと、乱れた息を整えるためその場でしばらく小休止を取る。短時間とはいえ十割の力を発揮したことに変わりはなく、一時的に疲労感に襲われる。数分後、息も整ってきたので次の目的のためゆっくりとした歩調で歩き出した。


 しばらくして人通りの多い大通りにたどり着き目的の場所もすぐに見えてくる。今日の予定としてまずモンスター討伐と薬草の採集をし、手に入れた素材をギルドで買い取ってもらう。とりあえず、ここまでは完了したので次にやることはといえば……装備の購入である。


 現在の俺の装備らしい装備といえば、麻でできた上下の服に最初に降り立った森で拾った木の棒という最弱装備といっても過言ではないほどに脆弱なものだった。不思議なことに、ここまで木の棒で戦ってきたのだが杖術や打撃術といったスキルは獲得できていなかった。おそらくだが、使っている武器がただの木の棒だということがスキル修得の条件に当てはまっていない可能性があるのかもしれない。


 そういった経緯から、俺は新しい装備を入手するべくそういった類の品が売られている区画へと足を運んでいた。ちなみにそういった店や施設などの位置は最初にこの街を散策した時に大体は把握済みだったりする。


 そのまま店舗が建ち並ぶ区画を進み続けると、とある一軒の店にたどり着いた。そこは特にこれといって目立った特徴などはないどこにでもありそうな店だったが、雰囲気的に落ち着いた印象と店番をしている人間の顔を見てなんとなく目を付けていた店舗だった。


(ドワーフが店主の店イコールいい店っていう方程式は捨てきれんよな)


 そう、俺が今回やってきた店の店主はあの言わずと知れたファンタジーでお馴染みの有名種族であるエルフと対を成す存在といってもいい種族であるドワーフだったのだ。


 店に入ると、こちらに視線を向けてはくるものの挨拶などは一切なく、ただこちらの様子を窺っているといった印象だ。とりあえず、店に展示されている装備を一通り確認していくが基本的に武器や防具というものは高級品だったりする。ある程度展示品を見てみたが、どれもこれも値段がそれなりで今の俺の所持金でも心許ないというのが正直なところだ。


「おい、何が欲しいんだ?」


 俺が大体装備品を確認し終わったタイミングでドワーフの店主が話し掛けてきた。不愛想でぶっきらぼうな言い方だが、俺としては職人気質のドワーフはみんなこんなもんだと思い彼の問いに答える。


「見ての通り駆け出し冒険者でな、新人用の装備を買いに来た」

「……待ってろ」


 そう言い放つと、ドワーフは店のバックヤードへと入って行く。それからしばらくして、両手に装備を抱えて戻ってきた。


「駆け出しが使う装備なら、この【レザー一式】と短剣のセットがおすすめだがどうする?」


 そう言って、会計をするためのカウンターに置いたのはよくありそうな革製の装備一式だった。それぞれ胸当て・ベルト・小手・ズボン・脛当てが1セットとなっていて冒険者として活動するのに必要な最低限度の装備という印象を受けた。


「ふむ、防具に関してはそれでいいが、武器にこれくらいの太さで長さがこれくらいの棒のようなものはないか?」

「……あるよ」


 最初の不愛想な印象とは異なり、不敵な笑顔を顔に張り付けながら再びバックヤードへと入って行った数分後、彼の手に握られていたのは長さ百五十センチ太さが三センチほどの棒切れだった。ぱっと見はただの棒に見えるが、棒自体が加工され研磨もされているためよくよく見ればただの棒ではないことが窺える。試しに振ってみたが、手にしっくりくる感じで木の棒を武器にして戦っていた俺にぴったりの武器だった。


「こいつをもらう、いくらだ?」

「レザー一式が小銀貨七枚でその棒が銀貨一枚だ」

「買った」


 ちょっと驚いたのが、レザー装備よりも何の変哲もない素人目にはただの棒にしか見えない武器の方が高かったことだったが、ギルドの報酬金で十分賄える金額だったので値切らずに代金を支払った。ギルドで説明された通りプレートを取り出すと、ドワーフも同じくプレートを取り出し俺のプレートと重ね合わせた。鈍い光を発ししばらくして何事もなかったように元の状態に戻る。


 そのままレザー装備に着替え背中に新しい棒を刺す。ちなみに背中に刺せるようにドワーフがサービスで付けてくれた。


「いい買い物だった。市之丞だ」

「……ガンツだ」


 そう言って俺は自分の名前を名乗りながら手を差し出した。それに応えるように手を握り返すとドワーフの男も同じように名乗った。それから、言葉短くまた来るとだけ言って俺はその場を後にした。次は市場に向かうとしよう。
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