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第二章 追われ、追われ、追われ、追われ……

11話「素材を買い取ってもらったら通常の五十二倍の報酬をもらったんだが!?」

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 街へと戻って来た俺は、その足で冒険者ギルドへと向かった。昨日は街の散策しかしておらず、素材の買い取りや装備の購入などは一切行っていないため、今日はそれを中心にやっていくことにする。


「ああ、イチノジョウ様、昨日は大丈夫でしたか?」


 ギルドに入ると、ちょうど受付カウンターに詰めていた受付嬢が声を掛けてきた。よく見ると、昨日担当してくれた女性だった。


「申し遅れました。私はこの冒険者ギルドで働いておりますエルザと申します。以後お見知りおきを」

「これはご丁寧にどうも。市之丞だ。どれくらいの付き合いになるかわからんが、それまでよろしく」


 お互いに自己紹介を交わすと、エルザが「本日のご用向きは?」と問いかけてきたので、この二日で手に入れた素材の買い取りをお願いしたいということ、手に入れてきた素材の中に対象となる依頼があればそれも事後報告という形で請けたいことを伝えた。


「それでは、手に入れてきた素材をこちらに出していただけますでしょうか? 見たところ、袋などはお持ちになられていませんが……」

「ああ、今出すよ」


 彼女の言葉に従い、俺は自分の懐に手を突っ込む。次の瞬間、明らかに懐に収まりきらない大きさの麻袋が現れた。それを見たエルザが、大きな瞳をさらに大きく見開きながら矢継ぎ早に問い掛けてきた。


「あ、あの! イチノジョウ様は、収納魔法が使えるのですか!?」

「いや、魔法ではなくスキルだな」


 俺が使う収納系の能力は【アイテムボックス】というスキルで、収納魔法とはおそらく別の類の能力だ。エルザに収納魔法について聞いてみたところ、収納魔法は使用者の持つ最大MPによって収納できる容量と重量が決まるらしい。当然だが、MPが多ければ多いほど収納できる量も重さも増えていく。それに対して、俺の持つアイテムボックスは分類としてはスキルに分類されるため、収納可能な容量や重量が最大MPに依存するのではなくレベルによって収納できる種類と量と重さが変化する。


 収納魔法とアイテムボックスの大きく異なる点は他にもあり、収納魔法は収納している量によって常に最大MPから一定数のMPが使用状態になってしまうデメリットがある。例えば、最大MPが100だった場合収納魔法を使用している間はそのうちの10が常に使用状態にあるため、実質的なMP残量は常に90ということになる。一方、アイテムボックスはそういった制限が一切なくレベルで管理されているため、使用状態でも最大MPは減ることはない。


「これってそんなに珍しいのか?」

「いえ、それほど珍しいものではないですが、持っていればその能力だけで食べるのに困ることはなくなりますね」


 収納魔法の他にも、魔法鞄や魔法袋という収納魔法をアイテム化した魔道具が存在することも彼女から教えてもらった。ちなみにその手の魔道具はとても高価で、大商人や王侯貴族の間では持っていれば金持ちのステータスとして羨ましがられるらしい。


「いろいろ教えてくれてありがとな」

「いえ、これも仕事ですから! では、素材の査定に入りますので少々お待ちください」


 それから三十分後、査定を終えた彼女が戻ってきた。柔らかな笑顔を浮かべると、明るい声で査定結果を発表し始める。


「えーっと、査定の結果なんですが素材の内容は省きますが、合計で銀貨四枚と小銀貨六枚に大銅貨が二枚と銅貨が九枚になります」


 つまりは銅貨にして四千六百二十九枚ってことか? 多いのか少ないのか俺には判断できんな。そんな感情が顔に出てしまっていたらしく、エルザがさらに補足する。


「ちなみに、冒険者になったばかりの駆け出しが、一日で稼ぐ金額は大体ですが大銅貨五枚から小銀貨一枚くらいなので、イチノジョウ様の今回の金額はかなり多いですね」


 つまり、新人冒険者の日当の四十六倍をこの二日で稼いだってことか? どうやら少しやり過ぎてしまったようだな。


 一応言い訳らしいことを言わせてもらうなら、この二日で通算俺が倒したモンスターの総数はどんぶり勘定で百を超えない程度だ。具体的な総数はわからないが、百匹ものモンスターを狩れば手に入る素材の数もかなりのものになるだろう。加えて、二日目は薬草などの採集も行っており採集の途中で【採取】のスキルも獲得したことで採集で手に入るアイテムの品質も向上していた。さらに言えば、倒したモンスターの素材の中に【○○の小魔石】という魔石系のアイテムや【○○草(上質)】などの通常のものよりも明らかに品質の高い薬草系のアイテムがちらほらと混ざっていることが確認された。


 以上のことから、二日で銅貨四千六百枚という大金を獲得する結果となったのだが、このことをエルザに話したところ。


「新人の冒険者は、二日でモンスターを百匹も狩ったりしなければ、上質な薬草をあれだけ採取してくることもありません!!」


 だ、そうです。どうやら、異世界に来て早々やらかしてしまったようだ。いかんいかん、やり過ぎには注意しなければな……。


 それから、査定してもらった素材の一部である肉系のアイテムをいくつか返してもらい、査定した素材の中で依頼として出されていたものを事後報告という形で請けたことにする手続きをしてもらったことで、最終的な金額は銀貨五枚・小銀貨二枚・大銅貨二枚・銅貨二枚となり、銅貨換算で五千二百二十二枚となった。駆け出し冒険者の日当の五十二倍ですよ奥さん……。要因として小魔石や質の高い薬草が報酬の高い依頼として出されていたことが、ここまでの金額になった原因だ。


「では、プレートの提示をお願いします」


 指示された通りに最初に冒険者登録したときにもらったプレートを差し出すと、エルザはおもむろに胸元に手を突っ込んだ。平均よりも大きめな胸は、それなりの谷間を形成しており見ていてなかなか眼福だが、それ以上に何をしているのだろうという奇異な目で俺は見てしまっていた。胸から取り出したのは、俺の持っていたプレートと同じものだが色が少し銀色がかっていた。その銀色のプレートを俺のプレートに翳すと、鈍く光りしばらくして光が収まった。


「はい、これで先ほどの買い取り金がこのプレートに記録されました。このプレートがあれば、どこの街のギルドでもお金を引き出すことができますので、ご入用のときはお申し付けください」

「へえ、そんな機能が付いてんだな。とても便利じゃないか」

「ちなみにですが、プレート同士のお金のやり取りもできるようになっていますので、いちいち現金を持ち歩く必要もなくていいですよ」

「ますます便利だ」


 まさか異世界に来て銀行があるとは思わなかったので、多少なりとも驚いてしまった。とりあえず、ギルドでの買い取りも終わったのでエルザにお礼を言ってその場を後にした。


 ギルドを出たあと、俺はしばらく歩き続けた。そして、当たって欲しくない俺の予想が的中してしまった事に内心でため息を吐く。


(付けられてるな、気配感知の感じでは……二人、いや三人か)


 エルザと素材の買い取りので話していると、いつの間にか妙な視線を向けられていることに気付いた。それはエルザが買い取りの金額を口にした時から向けられていたもので、そのタイミングからいってその場にいた冒険者が俺に何かしらの用があってのことだとは予想できるのだが……。


(物盗りか、あるいは昨日みたいな“調子に乗ってんじゃねぇぞ野郎”かのどっちかだな)


 相手の目的が分からない以上下手にこちらから動くわけにもいかないので、とりあえず人目を避けるために人通りの少ない路地へと入って行く。そして、しばらく歩き続け誰もいないことを確認すると俺に追いついてくる人影が現れた。


「待て小僧」

「誰だあんたら」

「んなこたぁどうでもいい、それより持ってる有り金全部寄こしな!」


 なるほど、どうやら金に目が眩んだ冒険者が俺が経験の浅い駆け出しであると見て金品を強奪しに来たってところか。……まったく、なんでこうも短期間でテンプレに遭遇しなきゃならんのだ。


 鑑定のスキルで三人を見た結果、ランクは7から9で能力も最初に出会った盗賊よりもちょっと強いといった程度の実力しかない。力技でぶちのめすこともできたが、相手にするのがめんどくさいので前回同様逃げの一手を使うことにした。


「あ、小銀貨」

「な、なに! ど、どこだ!?」


 こんな古典的な手が通用するほど間抜けな三人組に内心で呆れつつも、その隙を利用して俺は奴らがいる道とは反対方向に走り出した。
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