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第1章 最弱の冒険者

10話

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 翌日の朝サヴァンは腕を組みながら宿屋のベッドに腰を掛け目を閉じて物思いに耽っていた。
 題目は『何故スライムに勝てないのか?』だ――。
 冒険者として駆け出しであることは認めるが、これほどまでに勝てないものなのだろうか?
 いろいろと考えているうちに気付けば鎧戸の隙間から朝日が差し込み町全体が朝の賑わいを見せ始める頃合いになっていた。
 
 「こんな時爺ちゃんならどうするんだろう?」

 口をついて出た言葉が引き金となりサヴァンの記憶からとある光景が浮かんでくる。
 それはサヴァンが8歳の頃だった。
 ようやく冒険者としての訓練を許された彼は早速元冒険者である祖父に戦い方を教わっていた。

 「よいかサヴァンや、戦いで重要なのは相手の動きを見極める力と相手の虚を突き
弱点に攻撃を加える度胸じゃ! それができねばだた相手に蹂躙され待っているのは敗北じゃ!!
 頭で考えようとするな、心で感じ心で動くのじゃ!!! 考えるな、感じるのじゃ!!!」

 「じいちゃん、なにいってるかわかんないよ~」

 「うーむ、まだサヴァンには早すぎることじゃったな。 なーに、いずれお前もわかる時が来るじゃろうて――」

 という過去の一ページが頭の中に浮かび上がりサヴァンの体に染みこんでいく。
 当時の彼では何のことか分からなかったが、まさに今の彼に足りない物がそれだった。
 我が意を得たりとばかりに目の下に隈を作っていたサヴァンの表情が途端に輝きを取り戻す。

 「そうか、そういう事だったのか!!」

 そう言いながら勢いよく立ち上がるとそのままの勢いでドアを開ける。
 部屋の外に出てそのまま走り出そうとしたその時、隣の部屋からちょうど若い男女が部屋のドアを閉めるところだった。
 
 (あっ、昨日夜遅くにうるさくしてた女の人だ)

 サヴァンは昨日自分に足りないものを寝ずに考えていた。
 その時隣の部屋から女性の苦しそうな嬉しそうな声が聞こえてきたためうるさくて考えが纏まらなかったのだ。
 つまりは……そういう事なのである。 そういう事をしていたのである。
 だが、まだ十歳のサヴァンにとってなぜ女性がそのような声を出していたのか経験のない彼に理解できるはずもなく声が収まるのを待つしかなかったのであった。
 女性に目を合わせ続けていたため彼女がこちらに声を掛けてきた。

 「坊や、お姉さんに何か用かしら?」

 「えっ? ああ、うん……」

 正直声を掛けられるとは思っていなかったためどう返答したものかと考えていた時
とある言葉を思い出し、それを口にした。

 「昨日はおたのしみでしたねぇ~」

 「っ!」

 ちなみにだがサヴァンはこの言葉の意味を理解していない。
 どうして今この言葉が出たのかそれは彼の村に唯一ある宿屋【名無しの風車亭ふうしゃてい】の
看板娘を自称する幼馴染シェリルの母ルナーが泊まっていた男女の客が部屋から出てきたときに
半眼で含みのある声を出しながらこのセリフを言っていたのだ。
 それを目撃していたため同じ男女の宿泊客に向かって先ほどの言葉を言ってしまったのだ。

 「……」

 男性も女性も顔を赤く染め、苦笑いを浮かべていた。
 だがサヴァンにはそういった浮ついた話は理解できないため首を傾げながら
男性と女性の顔を行ったり来たりするだけだった。

 「じゃあ僕……俺は用事があるからこれで。 さいならー」

 そういうが早いかサヴァンはそのまま二人を残して階段を駆け下りていってしまった。
 残された二人が嬉しいような恥ずかしいような雰囲気になってしまったのは言うまでもない事だった。

 その後サヴァンは部屋の鍵を受付に返すとある場所に向かって走り出す。
 このラスタリカの主流になっている大通りを真っすぐ突っ切り、町の入り口である大門を抜け
そこから十分ほど走ったところにある森に来ていた。
 その場所は今攻略中のクエストの合間に採取しているウッドマッシュが自生する森だった。

 「とりあえずやってみるしかない!!」

 森に入ると早速、朝の散歩を楽しむかのようにウッドマッシュがぴょんぴょんと跳ねていた。
 こちらに気付くとその場で飛び跳ね威嚇のような行動を取ってきた。
 だが基本的にウッドマッシュは動くきのこなだけで攻撃の手段は一切ない。
 だからこそ戦うことなく素材を取れるためサヴァンでもウッドマッシュを採取することができたのだ。
 今回は採取目的ではなく相手の動きを読むという練習のために無害なウッドマッシュを選んだのだ。

 「じゃあちょっと練習台になってもらうよっ!」

 そう言いながら自分の得物である短剣を抜き放つと軽く構える。
 その動きに連動してウッドマッシュが飛び跳ねるのをやめると傘の部分を左右に揺らしながら
サヴァンの出方を窺っている。
 そして、お互いの視線が重なり合った刹那サヴァンが地面を蹴り放ちウッドマッシュに肉薄する。
 構えた短剣をウッドマッシュめがけ振り抜くもたくみにかわされてしまう。
 いくら攻撃手段がないとはいえウッドマッシュもただ黙ってやられるはずもない。
 ウッドマッシュの特徴として回避能力の高さが挙げられる。
 攻撃の手段がない分相手の攻撃を躱すの能力が発達したと魔物学者達の間ではそう議論されている。
 
 「まだまだ!」

 その後も果敢に攻めていくがサヴァンの放った短剣による攻撃は巧みに避けられてしまう。
 サヴァンの攻撃を避けていることに気をよくしたウッドマッシュが彼に背を向け傘を左右に振った。
 それはさながら人間でいうところのお尻をふりふりするような挑発行為に見えなくもない。

 「うー舐めやがって、見てろよ」

 そうしてようやく最初の一匹を倒すのに十五分もかかってしまったが
最終的に自分の意思でウッドマッシュに短剣を当てることができたのが大きかった。
 それから自分の動きとウッドマッシュの動きに意識を向けながら、ここぞというタイミングを見計らい
ウッドマッシュに攻撃を加えていく。
 最初の方こそ躱されたり動きを読み違えて逆の方向に飛び出してしまったりと、傍から見れば実に
滑稽こっけいなぎこちない動きだったが、回数を重ねていくことで徐々にではあるが一匹当たりの討伐時間が縮まっていった。

 休憩するのも忘れひたすらウッドマッシュを狩り続けること実に三時間、その成果と言うと――。

 「はっ!」

 戦闘開始と同時に相手の懐に素早く飛び込み、そのままウッドマッシュを一刀両断し勝利を収める。
 ただただ愚直にウッドマッシュと対峙し続けた結果、ほぼ鎧袖一触がいしゅういっしょくで倒せるようにまでなっていた。

 「はあ、はあ、こっこれならスライムも倒せるんじゃないか?」

 そう呟くと少し息を整えた後、まだ食べていなかった朝食を取るため一旦町に戻る。
 朝食を食べた後、冒険者ギルドに顔を出し狩ったウッドマッシュを買い取ってもらう。
 全部で27匹のウッドマッシュを狩り合計で189ゴルドの儲けになった。
 これでウッドマッシュで稼いだ金額が1000ゴルドを突破した。
 清算を終え、クエストに出かける旨をマキナに伝えると道具屋で足りない物を補充し、目的の洞窟を目指して歩き出した。
 洞窟にたどり着き、何十回と足を踏み入れた洞窟に入ると、待ってましたと言わんばかりに
のそのそとした鈍重な動きでこちらにやってくる青い物体その名もスライム。

 「見てろよ今日こそはお前をぶっ倒してやるからな!!」

 そう意気込み戦いの火蓋が切られた十分後、サヴァンを待っていたのは見慣れた白い天井だった――。
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