23 / 41
22話
しおりを挟む「はあ、はあ、はあ、な、なにこれ。めちゃくちゃ難しいんですけど……」
結論から言おう、この研ぎ場という施設かなりの難物であった。研磨するための機械は、工場などで使われる電動式の研磨機によく似た形状をしたいたが、コンセントなどが出ていなかったので、電気で動くものではないようだ。
そこはゲームの世界なのでそこまでリアリティを求めたりはしないが、ただこういう機械って、どういう原理で動いているのか詳細が知りたくなったりするんだよなー。
いろいろと考えたが作業に集中することを優先し意気揚々と最初の一本目を研ぎ始め、徐々に石の剣が研ぎ澄まされていくところまではよかったのだが、仕上げに入ろうとしたところで問題が発生した。
なんと、今まで順調に研いでいた石の剣が何の前触れもなくポキリと折れてしまったのだ。そのあまりの唐突な結末と、石の剣が折れる音が予想よりも大きかったことで思わず「わあっ!」と声を上げてしまった。
どうしてうまくいかなかったのか頭の中で思案していると、今まで黙って見ていたアイツが余計な一言を言ってきた。
「うむうむ、ローマは一日してならずニワよ。ご主人」
「ああ?」
「だから、何でもかんでも自分の思う様に上手くはいかな――」
「お前がそれを言うなぁ!!」
「ずべらぼべっ」
研磨が上手くいかないことに苛立ちを感じていたところに、ドロンのいつもの軽口に過剰に反応してしまい怒りのアッパーが炸裂する。
そして、当然の如くその物理的な勢いは止まることなくドロンに伝わり、工房の壁部分に激突という形で幕を閉じた。幸いなことに壁に傷一つ付くことはなかったのだが、ドロンがぶつかった部分に不浄な何かかが纏わりついていそうだったので、あとで綺麗に拭いておこうと心の中に留め置いた。
ようやく静かになった工房で作業に集中するが、なかなか思う様に研磨が成功しない。途中まではうまくいくのだが、ある一定のラインを超えると途端に脆く折れてしまう。
三本目の石の剣がお釈迦になり、四本目の研磨に取り掛かろうとしたところでアイツが再び復活してきた。
「だいぶ苦戦しているようですニワねー」
「……」
「さっきっから、ポキポキポキポキ折れまくりですニワねー」
「……」
「どうしたらいいか、教えて欲しいニワか?」
「……ん? おい、ちょっと待て。その口ぶりからすると、研磨のやり方知ってるのか?」
「知ってるニワよ」
「……」
これである。こいつはあろうことか研磨のやり方を知っているにも関わらず、今の今まで黙っていやがったのだ。俺が奴にアッパーを炸裂させ実際に復活してきたのは、俺が二本目の石の剣を研磨している最中だ。つまり、研磨のことについて教えるチャンスはいくらでもあったのに、三本目が折れるところも黙って見ていたし四本目に取り掛かろうとしている今ですら下手をすれば言わなかった可能性もある。
「おい、ちょっと話がある。表出ろ」
「なんですかニワ?」
その後ドロンがどうなったのか、それを知るものは誰もいない……ただ一人を除いて。それからプレイヤーの行動を監視しているGMが、畑に埋もれたままそこから抜け出そうと暴れている一体のハニワんずの姿を目撃したが、過去の映像から何が起こったのかを察しそのまま次のプレイヤーの監視へと移っていった。去り際にGMがその監視モニターに映っているハニワんずに向かってこう呟いたそうだ。「そりゃそうなるわ」と……。
いろいろとイライラすることが連続していたが、これでようやく前に進むことができることを良しとし、作業を再開する。
ちなみにドロンに制裁を加える前に研磨について聞き出しているので、そこは安心して欲しい。
奴曰く、研磨には研磨可能な度合いのようなものがあって、そのタイミングを見極めて工程を進めていかなければいけないらしい。当然だがぎりぎりまで研磨することで高い効果が見込めるが、その分失敗する確率も高くなる。
すでに実証済みだが、失敗すると研磨していたものは壊れて消失してしまう。成功すると品質と耐久度が上乗せされるのだが、研磨を掛けるタイミングによって上乗せされる耐久度にばらつきがあるらしい。
「とりあえず、まずは軽く研磨してみるか」
ひとまず成功例を出すために、品質が最低の耐久度が80という石の剣を軽めに研磨してみた。するとようやく成功し、品質が劣化の耐久度が87という石の剣が出来上がった。
「なるほど、一度研磨したものは二度は研磨できないのか。それとも今の研磨機では一回分しか研磨できないのか? まあ、そこは保留だな」
なにはともあれ、ようやく研磨に成功し足掛かりを掴んだことに安堵する。それから言葉通りさらに研鑽を積み、なんとなく限界のタイミングが掴めてきた。
「うし、今の段階ではこれが限界だな」
そう言って今日研磨した石の剣の中で一番の出来になったものを掲げる。ちなみにできたものの詳細はこんな感じだ。
【石の剣】レア度:レア 耐久度:200 / 200 効果:【STR上昇 低小】、【AGI上昇 最低】、【DEX上昇 最低】 品質:高質
まさに圧巻の一言である。研磨の説明では耐久度と品質が向上すると表記されていたが、それ以外にもレア度と効果にも影響を与えることがわかった。
ただの石の剣がまさかここまで強化されてしまうとは思わず、まじまじと観察し何度も何度も鑑定をしてしまう。
《特定条件を満たしました。プレイヤー【スケゾー】は【初級研磨】を獲得しました。【初級鑑定】がLv25になりました。【鑑定精度上昇Ⅰ】が【鑑定精度上昇Ⅱ】になりました》
新しいことをやればさらに新しいことが出てくるわけで、今回もいろいろと手に入れることができた。
まず新たなスキル【初級研磨】を手に入れたのは普通だとして、問題は【初級鑑定】のレベルが25になったことで、すでに修得していた【鑑定精度上昇Ⅰ】というアーツが【鑑定精度上昇Ⅱ】に上がった。
さっそく確認してみると【初級研磨】は文字通り研磨の成功率などの諸々に補正が掛かるスキルでレベルが上がれば上がるほど失敗する確率と掛けることができる度合いが多くなるようだ。
次にパッシブアーツの【鑑定精度上昇Ⅱ】だが、今まで鑑定できなかったものが鑑定できるようになるようで、例えばずっと謎に包まれていた【何かの草】という名前のアイテムが【薬草】だということが判明した。
「よし、いいぞ。これでポーションが作れるんじゃないか」
薬草といえば回復アイテムであるポーションの材料というイメージが俺の中である。実のところポーションの調合はこのMOAOを始めた時から頭の隅にあって、ずっと探していたのだがなかなかそれらしい材料が見つからずにいた。
他の生産作業もあり、今の今まで積極的に手を付けずにいたが鑑定能力がアップしたこのタイミングで探していたものが見つかるとは思わなかった。
「あとは調合する方法がわかればいいんだが、その辺りはたぶんアイツが知ってるだろからあとで吐かせるとして、他の装備も研磨してしまおう」
それから、自分が作った装備を可能な限り研磨した結果、全体的に能力が向上したとんでも装備が完成してしまうこととなり、達成感が半端なかった。
余談だが、試しにその研磨済みの装備をオークションにいくつか出してみると、物凄い競り合いが行われ最終的に12000マニーという価格で落札された。
そして、その装備の出所や詳細についての情報が掲示板で飛び交うこととなり、しばらくはその話題で持ち切りになったのは言うまでもないことであった。
36
お気に入りに追加
812
あなたにおすすめの小説
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
いや、一応苦労してますけども。
GURA
ファンタジー
「ここどこ?」
仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。
気がつくと見知らぬ草原にポツリ。
レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。
オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!?
しかも男キャラって...。
何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか?
なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。
お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。
※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。
※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。
アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~
志位斗 茂家波
ファンタジー
新入社員として社会の波にもまれていた「青葉 春」。
社会人としての苦労を味わいつつ、のんびりと過ごしたいと思い、VRMMOなるものに手を出し、ゆったりとした生活をゲームの中に「ハル」としてのプレイヤーになって求めてみることにした。
‥‥‥でも、その想いとは裏腹に、日常生活では出てこないであろう才能が開花しまくり、何かと注目されるようになってきてしまう…‥‥のんびりはどこへいった!?
――
作者が初めて挑むVRMMOもの。初めての分野ゆえに稚拙な部分もあるかもしれないし、投稿頻度は遅めだけど、読者の皆様はのんびりと待てるようにしたいと思います。
コメントや誤字報告に指摘、アドバイスなどもしっかりと受け付けますのでお楽しみください。
小説家になろう様でも掲載しています。
一話あたり1500~6000字を目途に頑張ります。
現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ
の内容を一部変更し修正加筆したものになります。
宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。
そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。
※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※
※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。
※男主人公バージョンはカクヨムにあります
ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り
星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
注意事項
※主人公リアルチート
暴力・流血表現
VRMMO
一応ファンタジー
もふもふにご注意ください。
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
運極ちゃんの珍道中!〜APの意味がわからなかったのでとりあえず運に極振りしました〜
斑鳩 鳰
ファンタジー
今話題のVRMMOゲーム"Another World Online"通称AWO。リアルをとことん追求した設計に、壮大なグラフィック。多種多様なスキルで戦闘方法は無限大。
ひょんなことからAWOの第二陣としてプレイすることになった女子高生天草大空は、チュートリアルの段階で、AP振り分けの意味が分からず困ってしまう。
「この中じゃあ、運が一番大切だよね。」
とりあえず運に極振りした大空は、既に有名人になってしまった双子の弟や幼馴染の誘いを断り、ソロプレーヤーとしてほのぼのAWOの世界を回ることにした。
それからレベルが上がってもAPを運に振り続ける大空のもとに個性の強い仲間ができて...
どこか抜けている少女が道端で出会った仲間たちと旅をするほのぼの逆ハーコメディー
一次小説処女作です。ツッコミどころ満載のあまあま設定です。
作者はぐつぐつに煮たお豆腐よりもやわやわなメンタルなのでお手柔らかにお願いします。
沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜
雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。
剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。
このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。
これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は
「このゲームをやれば沢山寝れる!!」
と言いこのゲームを始める。
ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。
「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」
何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は
「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」
武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!!
..........寝ながら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる