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15話 ミコト編②

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「ターゲット確認、これより殲滅に移る」


 MOBの姿が確認できたのは、フィールドに入ってすぐだった。


 出立の草原は、その名の通り足のふくらはぎ部分の位置よりも低い雑草が茂っていて、イメージとしてはサバンナの草原を思い描いてもらえばわかりやすいかもしれない。


 視界を遮るものは何もなく、精々細めの木々がぽつぽつと自生しているだけだ。


 できるだけ姿勢を低く保ちながら進んで行くと、丸い物体が跳躍しているのを発見した。


 色はお決まりの青色で丸みを帯びているが、その形は定まっておらずまさに不定形という表現が正しい。


「おらぁー、覚悟しろスライムぅー」

「ぷるぷるっ!?」


 青い不定形のMOBであるスライムが、私の声に反応しその身をぷるると震わせる。


 敵に攻撃する時に思わず叫んでしまうという私のいつもの悪癖が出てしまったが、状況的には不意打ちという形を取っているため、あっさりとこちらの攻撃がヒットする。


「うーん、さすがに一撃って訳にはいかないみたいね」

「ぷるぷるぷるぷるっ」


 攻撃を受けたことで完全に敵と認識したスライムが、こちらを威嚇するように更に激しく体を震わせる。


 更なる追撃を加えるため突撃しようと身構えたその時、スライムがこちらに突っ込んできた。


「うっ、やってくれるじゃない。今度はこっちの番ね」


 迂闊な行動を取る私の隙を突いて、スライムの体当たりを食らってしまう。だが、初期のMOBの攻撃一つでは致命傷にはならない。


 それでも多少のダメージはあり、何度も食らってしまうと危険領域に達することはあるので、相手の動きをしっかりと見て攻撃を仕掛ける。


「はあ!」

「ぷるぷる……」


 次の一撃も耐えたがさすがに虫の息である様子で、動きが鈍くなった。その状態であれば倒すのは当然容易いので、止めの一撃を当て息の根を止める。


 仮想現実によくある光の粒子に変化したスライムがお亡くなりになっていく……南ー無ー。


《スライムを倒した。スライムゼリー1個、スライムの体液1個を入手しました》


「ふう、序盤とはいえスライムを倒すのに、三発も当てないといけないのはキツイわね」


 戦闘リザルトを確認しながら、思わずそんなことを呟いてしまう。だが、次に表示されたインフォメーションにそんな呟きも吹き飛んでしまう。


《特定条件を満たしました。プレイヤー【ミコト】は【初級剣術】を獲得しました》


「やった。スキルを習得したわ」


 始まってすぐにスキルを獲得したことに子供のように喜んでしまう。……いや、十九歳はまだ子供だよね?


 他にも何か変わったことがないかと調べてみると、ステータスの右部分の“レベルアップまであと○○”の数字が49に減っていた。どうやらこの数字は特定の行動を取った時に減っていくらしい。


 しかし、減っていない数字もあるため、何かしらの条件を満たしていないことだけはわかった。


 ウインドウを閉じようとした時“手に入れたアイテムを売却しますか?”と表示されたが、それは一旦チュートリアルを終わらせてからということになり、改めてウインドウを閉じる。


「とにかく次よ次」


 それから目についたMOBを狩り続けた。その結果わかったことは、このフィールドで出現する主なMOBがスライム・まんまるリス・コモンウルフの三体ということで、どのMOBもそれほど脅威ではないということだ。


 おそらく、チュートリアルをクリアしやすくするために難易度を低く設定しているのだろう、運営の初心者に対する親切設計が窺える。


 このフィールドに出現するMOBがドロップするアイテムは、スライムからは【スライムゼリー】・【スライムの体液】・【スライムの核】が、まんまるリスからは【モンスターの毛皮】・【種】・【モンスターの魔石】が、最後にコモンウルフからは【モンスターの毛皮】・【モンスターの牙】・【モンスターの魔石】が入手できるようだ。


 さらに追加情報として、MOBたちの詳しい情報を知りたいと目を凝らしてよくよく観察していた時に【初級鑑定】なるスキルを獲得できた。


「はい、これで大体五十匹くらい倒したかな」


 出立の草原に入ってから大体二時間ほどが経過したが、MOBの討伐数が体感で五十を超えたので一旦休憩することにした。ゲーム内では肉体的に疲れるということはないが、腹具合メーターが存在し空腹状態になることはある。


 初期アイテムに【携帯食料】という腹具合を回復させるアイテムがあったので、それを食べながらの戦闘だったのだが、さすがに肉体的な疲れはなくとも精神面的な疲れは存在するらしく少し気疲れしていた。


 大人しく近場にあった膝くらいの高さほどの岩に腰を下ろし、しばしの休憩を取ることにした。


「ふう、なかなか強くなってきたのかな」


 比較対象がないため、今の自分がどの程度強化されたのかがわからないが、とりあえず休憩がてらステータスを確認する。



【名前】:ミコト

【職業】:戦闘職

【ステータス】


 HP  60  レベルアップまであと95

 MP  10  レベルアップまであと10

 STR  H+   レベルアップまであと96

 VIT  H+   レベルアップまであと20

 AGI  H    レベルアップまであと25

 DEX  H-   レベルアップまであと30

 INT  H-   レベルアップまであと35

 MND  H-   レベルアップまであと30

 LUK  H-   レベルアップまであと45



【スキル】:初級剣術Lv4、初級鑑定Lv3

【称号】:なし



 まだまだ序盤なのでそれほど強くなったようには見えないが、スライムであれば一撃で倒せるようにはなってきている。


 そして、謎だった右側の数字だが、どうやらMOBを倒すことで経験値のようなポイントが入手でき、そのポイントは必ずしも一匹につき1ではないということだ。


 さらに、これは私の今までの経験則からくる推測なのだが、MOBを倒すことで手に入るポイントにも種類があり、同じ個体のMOBでも違うポイントを所持しているということらしい。


 それが証拠に各ステータスの“あと○○”という○○の数字にばらつきが生じている。これは倒したMOB毎に入手できるポイントが異なり、さらに入手できるポイントの出現率も一定ではないという結論に至った。


 ステータスの内容を見ると、HPとSTRが必要なポイントを手に入れたことで強化されているのを鑑みるに、その二つのポイントが最も出現率が高く、それとは反対にINTやLUKのポイントは出現率が高くないと予測できる。


 さらに言えば、このポイントの出現傾向はあくまでもこの出立の草原限定というだけの話であって、他のフィールドに行けばその限りではないという可能性も大いにある。


 私はこういったゲームのシステムを検証するようなことは得意ではないのだが、過去にプレイしてきたゲームの知識があるので、ある程度の予測はできるのだ……えっへん。


「最後のチュートリアルは【出立の草原に出現する強MOBを撃破せよ】だったわね。強MOBというとボスのことかしら」


 各ゲームによってボスの呼ばれ方は様々あり、そのままボスや中ボスという呼び方や今回のように強MOBと表現されることもある。それ以外にも、特定のフィールドやエリアに出現するボスと同等の強さを持ったMOBに対しても強MOBと呼ばれることもあり、表現方法が曖昧だったりする。


「ま、序盤は情報がなくて、わからないことだらけなのはしょうがない。女は黙って突撃あるのみよ……違ったかな」


 まあ、どっかの豚さんも「飛ばねぇ豚はただの豚だ」とか言ってるし「挑戦しないゲーマーはただのオタクだ」と言い換えておこう。


 その後も出現するMOBを千切っては投げ千切っては投げを繰り返し、さらに草原の奥へと進んで行く。すると突然“ピーピーピーピー”という警告音と共にウインドウが出現する。


《強MOB【スライムアーミー】が出現しました》


「出たわね、ボスみたいな奴」


 若干言い方があほの子のような感じになっていなくもないが、言っていることは間違っていないし誰も私の独り言を聞いていないので、セーフとした。……セーフだよね?


 そんなどうでもいいことを考えていると、軍隊という名は伊達じゃないようで百匹ほどのスライムの群れに取り囲まれてしまう。


「ふん、お前たちが何匹襲って来ようと、今の私の前ではものの数じゃないのよ!」


 そう高らかに宣言すると、手近なスライム目掛け横薙ぎの剣をお見舞いする。私の宣言通りスライムたちは鎧袖一触で光の粒子と化す。


 だが、強MOBという存在がただの雑魚であるはずがなく、不意に後ろから攻撃を受けてしまう。


「ぐはっ、な、なに今の?」


 背後からの不意の攻撃により、すぐに後ろを振り返るとそこにいたのはスライムだった。


 スライムの群れを相手にしているのだから、攻撃してきたのはスライムだということは当たり前なのだが、問題はそのスライムがただのスライムではなかったということだ。


「スライムエリート? なにそれ!?」


 道中でそんなスライムにお目に掛かったことなどなかったため、突然のことに慌てふためく。周囲をよく観察してみると、四匹のスライムが重なり合った瞬間、新たに一回り大きな個体のスライムが誕生していた。


「合体とか聞いてないんですけどー!?」


 思わず頭に思ったことを叫んでしまったが、この状況を見ている人間がいるとすれば“言ってないもん”と冷静にツッコミを入れることだろう。


 そんなことを考えている場合ではないため、ここは逃げの選択を取るべく走り出した。だがその時、スライムエリートの一匹が私の前に立ちふさがった。その姿はまるで「何処へ行こうというのかね?」と言いたげな様子でどこぞの大佐を彷彿とさせた。


「な、なによ。スライムの癖にぷるぷるしてんじゃないわよ!」

「ぷるぷるっ」


 そんなことを言ったところで声帯を持たないスライムに反論できるはずもなく、その隙に体当たりを食らってしまい元の位置へと戻されてしまった。


「くぅー、こうなったら普通のスライムを先に倒した方がいいわね」


 そう言いながら手持ちの回復アイテムを使いダメージを回復させたあと、残っている単体のスライムに攻撃を集中させる。


「死になさい、死になさい、死になさい、ああーそこ、合体するな!!」


 一匹でも多くのスライムを倒し、スライムエリートの攻撃を躱しながら戦っていくと、最終的に残ったのはスライムエリートが六匹だった。


 通常のスライムの反撃を受けることなく一撃で倒すことができたため、回復アイテムはまだ残っているものの、これから待っている戦いを凌ぎ切ることができるのかといえば即答できない状況である。


「た、確かに、間違いなくこいつらは強MOBだ」


 かつてないほどのピンチに手に持つ剣に力が入るが、私はこう言い放つ。


「だが、それがいい!」


 同じゲーマーである父の口癖を呟くと、私は近くにいたスライムエリートに渾身の一撃を見舞った。
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