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国落とし編

ルーマルーニャ

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 帝都を出た俺たちは、まずは一番近い町で活動するため全員で準備運動も兼ねて半日ほど走って移動すると、帝都とヴァレンタイン公爵領の間にあるルーマルーニャという小さな町に辿り着く。

「はぁ、はぁ……すみま…せん……」

「リリィ、こちら水です。飲んでください」

「ありがとうございます。ミーゼ」

 俺たちの中で一番体力が無いアイリスは、息を切らせながらミリアから水を受け取ると、それを勢いよく喉へと流し込んだ。

 そんな二人を眺めていると、アイリスとは違って全く疲れた様子がないシャルエナが話しかけてくる。

「それでルーナ。これから私たちはここで活動するのかな」

「そう。まずはここで私たちの名前を広めて、それから公爵領をぐるっと回るように行動して行く」

「わかった。なら、早速ギルドに行くかい?」

「いや、今日はリリィがあれだし、宿を探して休むことにするよ。実際に動くのは明日から」

「すみません」

 アイリスは自分が迷惑を掛けていると思ったのか力の無い声で謝るが、気にすることはないと声を掛けて町の中へと入って行く。

「元々、到着してすぐにギルドへと行く予定はなかった」

「そうなんですか?」

「そう。日がすでに傾いてるし、今から行ってもやることはないからさ。それに、ギルドに行ってから宿を探すとなると、この規模の小さな町だとすぐに泊まれるところが無くなるかもしれない。いや、もしかしたら、もう無いかもしれない」

「そうしたら、今日は野宿になるのかな?」

 シャルエナは何故か楽しそうな声音でそう言うと、寧ろ野宿を期待しているのか瞳を輝かせているように見えた。

「何を期待しているのかはわからないけど、まぁ無ければそうなるかもね。けど、そこまで気にすることはないよ。私の魔法があれば、宿よりもっと良い寝所を準備できるからさ」

「それはそれでどうなんだろうか。私が知っているのはもっとこう…みんなでテントを張ったり、見張りを交代でしたり、焚き火を焚いて料理を自分たちで作ったりだとか、そんな感じのを想像していたんだけど」

 どうやらシャルエナが楽しそうだった理由は、初めて野宿ができるかもしれないという期待があったからのようで、確かに彼女の本来の身分を考えると、野宿など経験したこともないはずなので、シャルエナ期待してしまうのも何となく理解できる。

「まぁ、ナルシェがそれで良いならそのうちね。それより、まずは泊まれる宿屋がないか探しに行こう。こんなところにいつまでいても、宿屋が決まるわけじゃないし」

「そうだね」

 シャルエナが納得したことでアイリスたちも問題がないと頷くと、俺たちは町の人たちに道を尋ねながらまずは宿屋へと向かうのであった。




「ふぅ。なんとか泊まれるところがあって良かった」

「お疲れ様でした、ルーナさん」

「ありがとう、ミーゼ」

 ルーマルーニャの町へと入った後、俺たちは三軒ほど宿屋を尋ね、ようやく今いる宿屋へと泊まることができた。

 この町は小さいからか、宿屋はここを含めて三つしかない。

 しかし、ヴァレンタイン公爵領と帝都の間にある町だからか立ち寄る人たちが多く、どの宿屋も満室で泊まることができなかった。

 そんな中、最後に尋ねた宿屋にたまたま空き部屋があり、俺たちは迷わずその宿屋で部屋を借りることにした。

 ただ、借りられたのは二人部屋を二部屋で、本当は三人部屋と一人部屋を借りたかったのだが、この二部屋しか空きがなかったので諦めることにした。

 結果、俺はメイドのミリアと泊まることになり、アイリスはシャルエナと同じ部屋という形で分かれることになった。

「ルーナさん。明日はいつ頃ギルドの方へ向かいますか?」

「ちょうど良い依頼を探す事を考えると、早めに向かいたいかな」

「わかりました。では、日の出に合わせて行動するという事で、リリィさんたちにも説明して来ます」

「お願い」

 アイリスたちへの説明をミリアに任せると、俺はベッドへと横になり、念の為気配感知で周囲の様子を探る。

「とくに問題は無さそうだな」

 町に来たばかりなので当然ではあるが、俺たちを監視したり敵意を持って近づこうとしている奴はおらず、とても平和な雰囲気が感じられる。

「食事の時間まで少し休むか」

 幸いにも、この宿屋は朝と夜の食事がつくため自分たちで用意する必要はなく、おかげでそれまでの時間をこうしてゆっくり過ごすことができる。

 ちなみにだが、俺たちは宿屋に入ってからも偽名と変装魔法で姿を誤魔化している。

 理由は簡単で、早くこの姿と名前に慣れるためと、万が一誰かに監視されていた時、本当の姿がバレないようにするためだった。

 その後、俺はミリアに夕食の時間だと起こされるまで眠り、食事後も魔法で体を綺麗にすると、その日二度目の眠りにつくのであった。




 翌日の早朝。俺たちは予定通り日の出と共に起きて宿屋を出ると、ルーマルーニャの町にある冒険者ギルドへとやってくる。

「ここが、この町のギルドですか」

「帝都のものより小さいですね」

「まぁ、当然だよ。ここは町自体がそんなに大きくないから、必然的にギルドも小さくなる。他の町も大体こんなものだよ」

 帝都にある冒険者ギルドにしか行ったことのないアイリスたちは、目の前にある民家よりも少し大きい程度の冒険者ギルドを見て、少し驚いた様子を見せる。

 しかし、半年ほど前まで色々なところを旅していた俺は、ここよりも廃れたギルドも見て来たし、家族で経営している小さなギルドも見てきたので、ここのギルドを見ても大して感じるものはなかった。

「さて、入るか」

「はい」

 俺たちはこうして、ルーマルーニャの冒険者ギルドへと足を踏み入れるのであった。




 ルーマルーニャの冒険者ギルド。その日はいつもと変わらない見慣れた顔ぶれが依頼を受けるためギルドへと集まっており、依頼掲示板の前は多くの冒険者たちで賑わっていた。

 そんな中、ゆっくりとギルドの扉が開かれると、まるで不思議な何かに引き寄せられるかのように、冒険者たちの視線が一箇所へと集まる。

 ゆっくりと響く靴の音。

 歩く足音はとても軽やかで、それだけで入って来た人物が女性であることが窺い知れる。

「すごく賑わってますね」

「意外と冒険者が多いです」

「へ~、ここがこの町のギルドか」

 扉を開けて入ってきたのは三人の美少女で、一人は小柄な体躯に薄茶色の髪、そして若葉のように綺麗な緑色の瞳をした美少女で、体の大きさの割には胸がそこそこ大きく、庇護欲を唆るその見た目は見ているだけで胸を高鳴らせる。

 二人目は黒い髪に水色の瞳をした細身の女性で、先ほどの少女よりも年上なのか大人らしい美しさがあり、胸は控えめだがそのクールな見た目と合わせて不思議と目が惹きつけられる。

 そして三人目。特徴的な灰色の髪に薄黄色の瞳をしたその少女は、初めて入ったこのギルドが珍しいのか、興味深そうにギルド内を見回していた。

 他の二人よりも胸が大きく、女性的なその体は気性の荒い男たちの欲を刺激するが、その三人より遅れて入ってきた四人目を見た瞬間、その邪な欲が吹き飛んだ。

「ふーん。町の規模の割には人が多い」

 ゆっくりと歩くその姿はこの世のものとは思えないほどに美しく、揺れる濃紺の髪はまるで群青のように魅惑的で、長いまつ毛の奥に見える青い瞳は夢へと誘う青い蝶のように幻想的だった。

 女神だと言われても納得できてしまいそうなその美しい少女は、しかしどこか気怠げで、儚げなその姿は見ているだけで何故か背徳感を抱かせる。

「め、女神様?」

「う、美しすぎる」

 ギルドにいた男たちは入ってきた彼女たちのあまりの美しさに魅了されると、言葉をなくし、ただ茫然と眺めることしかできない。

 そして、依頼掲示板へと歩いて来る彼女たちの空気に飲み込まれた冒険者たちは、自然と左右に分かれると、彼女たちに道を譲るのであった。





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