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武術大会編
氷炎の五姫
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シャルエナたちと話をしてから翌日。俺は久しぶりにSクラスへと続く廊下を歩いていた。
「フィエラ、歩きにくいんだが」
「ごめん。でも、離れたくなくて…」
フィエラは昨日と変わらず俺に甘えてきており、今日も朝から男子寮の前で俺が出てくるのをずっと待っていた。
「エル。本当にごめん」
「はぁ。別にいいけど、いつかは理由を教えてくれよ」
「ん」
無理やり離そうと思えば出来なくもないが、いつもより萎らしく寂しそうな雰囲気を見せられると、まるで捨てられた子犬のようで強く出ることができない。
「ルイスが気遣うなんてね。私も弱ったふりをしたらいけるかしら」
「それを口に出している時点でダメだな。お前は弱っていても放置だ」
「ふふ。でも、なんだかんだ言って本当に困ってる時は助けてくれるのでしょう?」
「さぁな」
シュヴィーナはそう言うと、まるで全てお見通しだとでも言わんばかりに微笑む。
それから教室へと入るが、俺が久しぶりに学園へと通っているからか、それとも腕にくっついているフィエラのせいなのかは分からないが、教室にいる全員から視線を感じた。
「視線がうざいな」
「仕方ないわよ。あなたは良くも悪くもこの学園では有名人だもの」
「俺が有名人?」
「えぇ。入学してすぐに何故か必修科目も免除されて、一年生の現一位であるライドを完封したにも関わらず順位は十位。さらには一年生なのにすでにダンジョンにも挑戦している謎の実力者。あとは、私たちがいつもそばにいるからね」
「ふむ。最初の三つはわかったが、最後のお前たちがいるというのは?」
「何でも私たちは、氷炎の五姫と呼ばれているらしいわ」
「氷炎の五姫?」
「そう。まるで氷のように鋭く冷たいあなたの心を溶かす、炎のような愛情を持った五人の美しいお姫様。周りには私たちがそう見えているらしいわ」
「なんだそれ」
どうやら俺がしばらく学園に来ていない間、変な噂が周りに広まってしまったようだ。
「ちなみに、その五姫にシャルエナ様も加わって六姫になるのでは?というのが、最近人気の話題らしいわ」
「んなわけあるか。あの人はそんなんじゃないだろうに」
「さぁね。人の心に絶対なんてないから、どうなるか分からないわよ。それと、これについても教えておくわね」
「これは?」
シュヴィーナはそう言って一冊の薄い本を取り出すと、俺の目の前に置いて説明を始める。
「これはあなたを主人公にした本よ」
「は?」
「今この学園で一番人気のある本でね?文才のある生徒があなたの戦闘や学園での過ごし方を見てファンになったらしくて、あなたを主人公に、私やフィエラたちがあなたにアピールするっていう恋愛ものの本を書いたらしいわ」
「随分と詳しいな」
「当然よ。全部読んだもの。ちなみに、フィエラも読んでいるわ」
「ん。面白かった」
「お前らすごいな」
俺だったら、自分のことを勝手に書かれた本なんて気持ち悪くて読みたくないが、シュヴィーナとフィエラはそこら辺は気にしないようだ。
「こういう本は読んだことがなかったからね。それに、自分も出てくるなんてちょっと面白いじゃない」
「俺だったら気持ち悪くて全て燃やすな」
「そうなのね。でも、この本は本当に人気なのよ?今では学園のほとんどの女子生徒が読んでいて、私たちの恋の行方が気になっているようね」
「なるほどな。理由は分かったが、やっぱり気分が良いものではないな」
正直、可能ならその本を全て燃やしてしまいたいが、どれほど数があるのかも分からないし、すでに多くの人の記憶に残っている以上、燃やしても誰かが新しく作る可能性がある。
「はぁ。その本は不快だから、今後は俺の目に入らないようにしてくれ」
「わかったわ」
シュヴィーナは本を大切そうにカバンにしまうと、俺の左隣へと座った。
「それで?これから彼に話に行くの?」
「そのつもりだ。だからフィエラ」
「ん?」
「すまないが少しの間だけ離れてくれないか」
「一緒に行きたい」
「いや。今回はすまないができない。だからここでシュヴィーナといてくれ」
「……わかった。でも、早く戻ってきて」
「りょーかい」
俺は寂しそうな表情のフィエラに見送られて席を立つと、目当ての人物がいる場所へと移動した。
「起きろ」
「んん…あぁ、君か。僕に何か用?」
俺は周囲に遮音魔法をかけてから目の前の人物に声をかけると、彼は眠そうにしながら顔を上げ、目をこすりながらこちらを向く。
「その通りだ。お前に頼みたいことがあるんだ、カマエル」
こいつがフィエラたちのグループに入れようと考えている最後の一人。それは暗殺者であり、俺が実力面でも一番信頼している人物でもあるカマエルであった。
「なんか…面倒ごとの予感がするよ」
「正解だ」
俺は遠慮なく彼の隣に座ると、ニコリと笑ってから簡潔に要件だけを伝えていく。
「俺は長々と説明するのは嫌いだし、お前ならすぐに理解してくれると思うから簡潔に話すぞ」
「はいはい。とりあえず聞いて上がるよ」
「サルマージュを含んだ小国たちの戦争の件だ」
戦争と口にした瞬間、カマエルの雰囲気が一瞬で変わり、彼は暗殺者らしい鋭い目つきへとなった。
「なるほど。その件か」
「お前のところでも情報は掴んでいるよな?いや、お前がと言った方が正しいか?」
「さぁ、どうだろうね」
カマエルはまるで俺を試すように笑うが、俺は彼の目的を知っているため、この件を知っているのも彼だけだということが分かっている。
「アルバーニー伯爵が知っていれば、すでに陛下のところにも話が入っているはずだ。だが、実際は陛下は何も対策をとっていないし、皇女も知らなかった。つまり、伯爵はこの件を知らないが、お前は知っている。それは、お前が自分の部下を使って独自に調査させたからであり、そのことを伯爵に教えていないからだ。それが答えだろう?」
「はは。ご名答。その通りだよ。この件は僕の部下が調べて僕のところで話を止めている。だから僕と部下以外は戦争のことに気づいていない…はずだったんだけど、どうして君は知っているのかな?」
「お前が暗殺者として情報を集めるのが得意なように、俺にも独自で情報を得る方法はあるんだ」
「なるほどね」
カマエルはしばらくの間、静かに俺のことを観察した後、またいつもの怠そうな雰囲気に戻り頬杖をつく。
「それで?僕を反逆者として訴えるつもりかな?」
「まさか。言っただろ?俺はお前の目的を叶えると」
「つまり、今回は見逃してくれると?」
「いや、残念だがそれはできない」
「なら…」
「だが、もし今回俺に協力してくれるのなら、俺に貸しを一つ作ることができる」
「貸し?」
それがどうしたとでも言いたげな表情でカマエルは俺のことを見てくるが、その瞳には少し興味が混じっているように見えた。
「あぁ。俺に貸しを一つだ。その貸しには、俺の死以外なら何でも返してやる。例えば、お前が一生遊んで暮らせる金が欲しいと言うのなら、それを用意してやる」
「なるほどね」
「他にも、土地が欲しいなら用意するし、お前が心の底から自分を殺してくれと願ったなら、俺が殺してやってもいい」
「はは。それはとても魅力的だね。なら、僕が世界が欲しいと言ったら、君はくれるのかな?」
「もちろんだ。全てが更地になるだろうが、それでもいいならくれてやる」
「ふ…あははは!面白い。そんな大きな貸しを作れるのなら、協力するのも悪くなさそうだね。いいよ、僕も仲間になってあげるよ」
「お前ならそう言ってくれると思ったよ」
「ふふ。まるで僕の全てを知ってるような言い方だね」
「あぁ。お前のことはよく知ってるよ」
「そっか。普通なら気持ち悪いと思うところだけど、君が相手なら不思議と嫌な気はしないね。それじゃあ、さっそくだけど詳細について教えてくれるかな」
「わかった」
それから俺は、担任のライムが教室へと入ってくるまでの間、作戦の詳細についてカマエルに説明するのであった。
「フィエラ、歩きにくいんだが」
「ごめん。でも、離れたくなくて…」
フィエラは昨日と変わらず俺に甘えてきており、今日も朝から男子寮の前で俺が出てくるのをずっと待っていた。
「エル。本当にごめん」
「はぁ。別にいいけど、いつかは理由を教えてくれよ」
「ん」
無理やり離そうと思えば出来なくもないが、いつもより萎らしく寂しそうな雰囲気を見せられると、まるで捨てられた子犬のようで強く出ることができない。
「ルイスが気遣うなんてね。私も弱ったふりをしたらいけるかしら」
「それを口に出している時点でダメだな。お前は弱っていても放置だ」
「ふふ。でも、なんだかんだ言って本当に困ってる時は助けてくれるのでしょう?」
「さぁな」
シュヴィーナはそう言うと、まるで全てお見通しだとでも言わんばかりに微笑む。
それから教室へと入るが、俺が久しぶりに学園へと通っているからか、それとも腕にくっついているフィエラのせいなのかは分からないが、教室にいる全員から視線を感じた。
「視線がうざいな」
「仕方ないわよ。あなたは良くも悪くもこの学園では有名人だもの」
「俺が有名人?」
「えぇ。入学してすぐに何故か必修科目も免除されて、一年生の現一位であるライドを完封したにも関わらず順位は十位。さらには一年生なのにすでにダンジョンにも挑戦している謎の実力者。あとは、私たちがいつもそばにいるからね」
「ふむ。最初の三つはわかったが、最後のお前たちがいるというのは?」
「何でも私たちは、氷炎の五姫と呼ばれているらしいわ」
「氷炎の五姫?」
「そう。まるで氷のように鋭く冷たいあなたの心を溶かす、炎のような愛情を持った五人の美しいお姫様。周りには私たちがそう見えているらしいわ」
「なんだそれ」
どうやら俺がしばらく学園に来ていない間、変な噂が周りに広まってしまったようだ。
「ちなみに、その五姫にシャルエナ様も加わって六姫になるのでは?というのが、最近人気の話題らしいわ」
「んなわけあるか。あの人はそんなんじゃないだろうに」
「さぁね。人の心に絶対なんてないから、どうなるか分からないわよ。それと、これについても教えておくわね」
「これは?」
シュヴィーナはそう言って一冊の薄い本を取り出すと、俺の目の前に置いて説明を始める。
「これはあなたを主人公にした本よ」
「は?」
「今この学園で一番人気のある本でね?文才のある生徒があなたの戦闘や学園での過ごし方を見てファンになったらしくて、あなたを主人公に、私やフィエラたちがあなたにアピールするっていう恋愛ものの本を書いたらしいわ」
「随分と詳しいな」
「当然よ。全部読んだもの。ちなみに、フィエラも読んでいるわ」
「ん。面白かった」
「お前らすごいな」
俺だったら、自分のことを勝手に書かれた本なんて気持ち悪くて読みたくないが、シュヴィーナとフィエラはそこら辺は気にしないようだ。
「こういう本は読んだことがなかったからね。それに、自分も出てくるなんてちょっと面白いじゃない」
「俺だったら気持ち悪くて全て燃やすな」
「そうなのね。でも、この本は本当に人気なのよ?今では学園のほとんどの女子生徒が読んでいて、私たちの恋の行方が気になっているようね」
「なるほどな。理由は分かったが、やっぱり気分が良いものではないな」
正直、可能ならその本を全て燃やしてしまいたいが、どれほど数があるのかも分からないし、すでに多くの人の記憶に残っている以上、燃やしても誰かが新しく作る可能性がある。
「はぁ。その本は不快だから、今後は俺の目に入らないようにしてくれ」
「わかったわ」
シュヴィーナは本を大切そうにカバンにしまうと、俺の左隣へと座った。
「それで?これから彼に話に行くの?」
「そのつもりだ。だからフィエラ」
「ん?」
「すまないが少しの間だけ離れてくれないか」
「一緒に行きたい」
「いや。今回はすまないができない。だからここでシュヴィーナといてくれ」
「……わかった。でも、早く戻ってきて」
「りょーかい」
俺は寂しそうな表情のフィエラに見送られて席を立つと、目当ての人物がいる場所へと移動した。
「起きろ」
「んん…あぁ、君か。僕に何か用?」
俺は周囲に遮音魔法をかけてから目の前の人物に声をかけると、彼は眠そうにしながら顔を上げ、目をこすりながらこちらを向く。
「その通りだ。お前に頼みたいことがあるんだ、カマエル」
こいつがフィエラたちのグループに入れようと考えている最後の一人。それは暗殺者であり、俺が実力面でも一番信頼している人物でもあるカマエルであった。
「なんか…面倒ごとの予感がするよ」
「正解だ」
俺は遠慮なく彼の隣に座ると、ニコリと笑ってから簡潔に要件だけを伝えていく。
「俺は長々と説明するのは嫌いだし、お前ならすぐに理解してくれると思うから簡潔に話すぞ」
「はいはい。とりあえず聞いて上がるよ」
「サルマージュを含んだ小国たちの戦争の件だ」
戦争と口にした瞬間、カマエルの雰囲気が一瞬で変わり、彼は暗殺者らしい鋭い目つきへとなった。
「なるほど。その件か」
「お前のところでも情報は掴んでいるよな?いや、お前がと言った方が正しいか?」
「さぁ、どうだろうね」
カマエルはまるで俺を試すように笑うが、俺は彼の目的を知っているため、この件を知っているのも彼だけだということが分かっている。
「アルバーニー伯爵が知っていれば、すでに陛下のところにも話が入っているはずだ。だが、実際は陛下は何も対策をとっていないし、皇女も知らなかった。つまり、伯爵はこの件を知らないが、お前は知っている。それは、お前が自分の部下を使って独自に調査させたからであり、そのことを伯爵に教えていないからだ。それが答えだろう?」
「はは。ご名答。その通りだよ。この件は僕の部下が調べて僕のところで話を止めている。だから僕と部下以外は戦争のことに気づいていない…はずだったんだけど、どうして君は知っているのかな?」
「お前が暗殺者として情報を集めるのが得意なように、俺にも独自で情報を得る方法はあるんだ」
「なるほどね」
カマエルはしばらくの間、静かに俺のことを観察した後、またいつもの怠そうな雰囲気に戻り頬杖をつく。
「それで?僕を反逆者として訴えるつもりかな?」
「まさか。言っただろ?俺はお前の目的を叶えると」
「つまり、今回は見逃してくれると?」
「いや、残念だがそれはできない」
「なら…」
「だが、もし今回俺に協力してくれるのなら、俺に貸しを一つ作ることができる」
「貸し?」
それがどうしたとでも言いたげな表情でカマエルは俺のことを見てくるが、その瞳には少し興味が混じっているように見えた。
「あぁ。俺に貸しを一つだ。その貸しには、俺の死以外なら何でも返してやる。例えば、お前が一生遊んで暮らせる金が欲しいと言うのなら、それを用意してやる」
「なるほどね」
「他にも、土地が欲しいなら用意するし、お前が心の底から自分を殺してくれと願ったなら、俺が殺してやってもいい」
「はは。それはとても魅力的だね。なら、僕が世界が欲しいと言ったら、君はくれるのかな?」
「もちろんだ。全てが更地になるだろうが、それでもいいならくれてやる」
「ふ…あははは!面白い。そんな大きな貸しを作れるのなら、協力するのも悪くなさそうだね。いいよ、僕も仲間になってあげるよ」
「お前ならそう言ってくれると思ったよ」
「ふふ。まるで僕の全てを知ってるような言い方だね」
「あぁ。お前のことはよく知ってるよ」
「そっか。普通なら気持ち悪いと思うところだけど、君が相手なら不思議と嫌な気はしないね。それじゃあ、さっそくだけど詳細について教えてくれるかな」
「わかった」
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