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武術大会編

甘えたい

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 シャーラーへの報告を終えた後、ゆっくりと学園まで戻ってきた俺は、門の前で待っていたフィエラとシュヴィーナ、そしてミリアに出迎えられた。

「おかえり」

「ただいま」

 三日ぶりに会ったせいか、フィエラは真っ先に俺のもとへと駆け寄ると、周りの目も気にせず抱きついてくる。

「どうした」

「三日も会えなかったから、エルを補充してる」

「何言ってるのかよくわからないな」

「お帰りなさいませ、ルイス様」

「お帰り、ルイス」

「ただいま二人とも」

 フィエラは一向に離れようとしないのでとりあえず放置することにして、俺はフィエラに遅れてこちらに近づいてきたミリアとシュヴィーナに意識を向ける。

「連れ去られた村の人たちはどうなったの?」

「問題なく回収して村に届けてきた。んで、さっきその事についてもギルドに報告してきたところだ」

「よかったわ。全て任せてしまってごめんなさいね」

「いや、俺が報告するって言ったんだから気にするな。それに、今回の件は俺から報告する必要があったからな」

「どういうこと?」

「それはあとで話すよ。とりあえず…」

「お休みになられるのでしたら、全て準備は整えております」

 俺がまずは休みたいと言おうとした瞬間、まるで俺の考えを全て把握しているかのようにミリアがそう言った。

「さすがだな。ということで、俺は少し休んでくる。授業が全部終わったら、アイリスとソニア、それとセフィリアとシャルエナ皇女を一年Sクラス用の庭園に集めておいてくれ」

「了解よ。ほら、フィエラ。私たちも行くわよ」

「やだ。離れたくない」

「可愛いけどダメよ。ルイスを休ませないと」

「なら私も一緒に…」

「あなたは男子寮に入れないでしょ?事情は聞いてるけど、今は我慢よ」

「…………わかった」

 三日会わなかっただけで精神年齢がだいぶ下がったように見えるフィエラは、シュヴィーナの説得で離れると、元気がなさそうに尻尾を下げながら学園の方へと戻っていく。

「前に離れた時はあんなんじゃなかったんだがな。まぁいいか。俺たちも行くぞ」

「かしこまりました」

 それからミリアを連れて寮へと戻った俺は、彼女が用意してくれた食事で腹を満たし、体を綺麗にしてから眠りについた。




「ルイス様。起きてください」

「ふわぁ~、もう時間か?」

「はい」

「わかった」

 俺は怠い体を起こしてベッドから降りると、制服に着替えてからミリアに髪を整えてもらう。

「髪は面倒だから適当に結んでくれ」

「かしこまりました」

 ミリアは慣れた手つきで俺の髪を結うが、それは何故か一本にまとめるのでは無く、丁寧に三つ編みにされていた。

「なぁ。適当でいいって言ったはずだが?」

「適当にやった結果、三つ編みになりました」

「…はぁ。面倒だしいいや。行くぞ」

「かしこまりました」

 一度結んだものを解くのも面倒だったので、俺は三つ編みのまま部屋を出ると、フィエラたちが待つ庭園へと向かった。




「待たせたな」

「エル」

 俺が庭園へと着くと、すでにフィエラたちが椅子に座って待っており、フィエラは俺が声をかけると、さっきの続きとでも言わんばかりに駆け寄ってきて抱きつく。

「本当にどうした?なんかおかしくないか?」

「ん。ちょっと色々ある。今は離れたくないから、少し我慢して」

「ふーん。ちなみに、色々について教えてくれる気は?」

「今は恥ずかしい。いつか話す」

「そうか」

 フィエラがどうしてこんなに甘えてくるのかは分からないが、彼女に話す気がない以上、俺も無理に聞くつもりはない。

「とりあえず俺たちも座ろう。みんなを待たせてるからな」

「わかった」

 俺は今回も離れようとしないフィエラを連れて椅子に座ろうとするが、フィエラはここでも離れる気がないようで、仕方なく水クッションを出して二人で座る。

 すると、これまで様子を見守っていたアイリスも椅子に座り直すと、少し心配した様子で話しかけてきた。

「ルイス様。フィエラさんのことですが…」

「あぁ。俺にはまだ話す気がないらしい。アイリスたちは理由を知ってるのか?」

「はい。皇女殿下はご存知ありませんが、私たちは昨日フィエラさんよりお話を伺っております。ですが、こればかりはフィエラさんの問題なので、私たちにはどうすることも…」

「そうか。まぁ、フィエラがいつか自分で話すと言ってるし、この話はこれで終わりにしよう」

 アイリスたちの反応を見るに、今すぐどうにか出来る問題でもないようなので、今はとりあえずフィエラの判断に任せることにする。

「それでイス。私まで呼んだってことは、何か問題でもあったのかな?それと、その髪はどうしたんだい?よく似合ってるじゃないか」

「今日は来ていただきありがとうございます。髪の方は無視してください。それで、今回シャルエナ皇女も呼んだ理由ですが、まさに問題が起きた…いえ、これから起きるからですね」

「ふむ。どうやらよほど重要なことのようだね。詳しく話してくれるかい?」

「わかりました」

 俺はそれから、冒険者ギルドでシャーラーと話したことをシャルエナたちにも説明していくが、戦争と聞いた瞬間、全員の表情が真剣なものへと変わる。

「なるほど…戦争の兆しがあるということか」

「その通りです」

「だから、ルイスから直接ギルドに報告する必要があったのね」

「戦争は多くの民の命を奪います。神に仕える者として、あまり認めたくない状況ですね」

「つまりルイス様は、この事を皇女殿下やセフィリアさん、そしてソニアから陛下や自国の人にお伝えし、対応して欲しいからみなさんをこの場に集めたのですか?」

「いや、それは違う」

「じゃあ、なんであたしたちにも話したの?」

 俺がアイリスの言葉を否定したことで、彼女とソニアだけでなく、シャルエナやセフィリアたちも理由を尋ねるように見てくる。

「今回の件だが、俺は速やかに、そして最小限の人員で処理したいと考えている」

「それはどうしてかな?」

「シャルエナ殿下もご存知だと思いますが、戦争にはかなりのお金が掛かりますし、今回に至っては現状でいくつの国が敵にまわっているのか分かりません」

「そうだね」

「さらに、敵国はすでに戦争に向けて準備をしているのに対し、こちらは何も準備が出来ていない」

「逆にこれから準備をすれば、向こうから先に攻められる可能性があるわけか」

「はい」

 シャルエナは俺が考えている事をすぐに理解すると、納得したように一度頷いた。

「イスの考えはよくわかった。つまりは、いくつかの国を内部から忍び込んで潰し、他の国を牽制したいということだね。なら、もちろん作戦も考えてあるんだよね?」

「もちろんです」

 次に俺は、二手に分かれて無秩序国家サルマージュと西の王国クランを潰す話をし、その過程で俺たちが奴隷として一度捕まり、その後は国の上層部を潰したり証拠を集めることを説明する。

「なるほど。確かに、その作戦なら私たちをここに呼んだのも納得できる。けど、さすがに危険じゃないかな。二手に分かれるのなら、イスは片方にしか行かないわけだろう?そうなると、もう片方はかなり危険な気がするんだけど」

「その点は安心してください。サルマージュには俺とアイリス、そして殿下とミリアの四人。クランにはフィエラとシュヴィーナ、セフィリアとソニアに向かってもらうつもりです。それと、クランにはもう一人強力な助っ人を入れる予定です。まぁ、彼が了承してくれればですが」

 この振り分けは元々考えていたものであり、俺の方は万が一何かあっても俺が対処することができるし、フィエラたちの方は俺自身が実力を認めているやつらでまとめているので問題はない。

「エルと…別行動…」

 しかし、俺とは違うグループだと知ったフィエラは、まるでこの世の終わりを見たような表情になると、離れたくないとでも言わんばかりに強く抱きしめてくる。

「私もエルと一緒がいい」

「今回はダメだ」

「どうして…」

「理由は色々とあるが、バランス的に前衛のお前がいないとこのメンバーは崩壊してしまう。シャルエナ殿下は剣も使えるが、経験や実力でいえばお前の方が上だろう」

「でも…」

 フィエラも理由については理解しているようだが、それでも気持ちが拒否しているのか頷くことはない。

 俺はそんな彼女を見て仕方がないと思い、やる気が出るようご褒美を提示することにした。

「わかった。なら、今回の件が上手くいけば、何かご褒美をやるよ」

「ご褒美?」

「あぁ。前みたいにデートでもいいし、どこかに旅行に行くのでも構わない。結婚とか恋人は無理だが、それ以外なら叶えてやるよ」

「……わかった」

 何とかやる気を出してくれたフィエラは俺から体を離すと、ご褒美について考えているのか楽しそうに尻尾が揺れていた。

「どうやら解決したようだね。もう一人の件についても、君に任せていいのだろう?」

「はい。彼には明日会いに行くつもりです」

「わかった。なら、その件もよろしく頼むよ。それとは別にだが、今回の件、ご褒美はフィエラ嬢にだけなのかな?」

「というと?」

「見てごらん?」

 俺はそう言われてアイリスたちに目を向けると、彼女たちも何かを期待しているような目でこちらを見ており、ソニアに至ってはわざとらしくテーブルに顔を伏せると、やる気のないアピールをしながらこちらの様子を伺っている。

「かくいう私もみんなと同じ考えなのだが、期待してもいいんだよね?」

「…はぁ。わかりました。できる範囲でお願いします」

「もちろんだよ」

 正直面倒ではあるが、今回は俺が彼女たちにお願いして作戦に付き合ってもらうわけで、最悪命を落とす可能性だってある。

 であれば、俺には彼女たちの要望になるべく応える義務があり、それでやる気を出してもらえるのなら、諦めなければならないのは俺の方なのだ。

 その後、詳細についての説明も終えると、俺たちはその場で解散し、自分たちの部屋へと戻るのであった。






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