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学園編

会いたかった

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 入学式を終えた翌日。俺は見慣れた寮の部屋で二日目の朝を迎えていた。

「ミリア」

「はい」

「お前は今日の予定はどうするつもりだ?」

「本日は使用人たちの集まりがあり、そちらで学園内での私たちの行動および注意点について説明がございます。その後はルイス様のお昼のご用意をする予定です」

「ふむ。なら昼は肉で頼む。今日は肉を食べたい気分だ」

「かしこまりました。ではお申し付け通りにご用意しておきます」

 学園での昼食については、主に3つの選択肢がある。

 一つ目が食堂で食べること。食堂は入学試験の時にも利用した場所であり、あそこは他国の生徒でも利用しやすいよう様々な国の料理を食べることができるが、その分値段が少し高い。

 二つ目は自分で用意すること。寮の一階には自由に使える調理場があり、街で予め食材を買っておけば、そこで昼食を用意することができる。

 三つ目は使用人に用意させること。これは使用人を連れてきている貴族にしかできないことだが、使用人は彼らに与えられた調理場があり、そこを利用すれば主人たちの指示に従い料理を用意することができる。

「楽しみにしているよ。あぁ、ただ変な薬は入れるなよ。せっかくの味が悪くなる」

「かしこまりました」

 変な薬とは、旅を終えて帰ってきた後、ミリアは俺の食べる物や飲む物に独自で作った薬を入れるようになった。

 何でも俺の体を健康にするための薬らしく、彼女は諜報部の中でも薬を専門的に扱っているそうで、自然と健康に良い薬にも詳しくなったそうだ。

(別に毒殺されても構わないから放置しているが、せっかくの料理が薬の苦さで台無しになるのはさすがにな)

 毒は無味無臭のものもあるが、良薬は口に苦しとでも言うのか、彼女の作る健康薬は非常に苦いのだ。

「それじゃあ行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」

 ミリアに見送られた俺は部屋を出ると、寮の入り口で待っていたフィエラたちと合流し、教室へと向かうのであった。




 教室に着くと、中にはほとんどの生徒が集まっており、俺は入り口あたりで目的の人物を探す。

(…はは。みーつけた)

「フィエラたちは適当な席に座っててくれ」

「エルは?」

「俺は少し用事がある」

「…わかった」

 フィエラは俺が先ほどまで見ていた場所をチラッと見ると、俺の用事が何なのか理解したようで、シュヴィーナを連れて窓際の席へと向かっていく。

「さてと。俺も行くか」

 フィエラたちと別れた俺は、廊下側の隅の方にある席へと座り眠っている男のもとへと近づくと、隣に座って机を軽く叩く。

「んん…だれ?」

「よう。少し話をしないか?」

「…え?もしかして、ルイス・ヴァレンタイン?」

「そうだ。お前はカマエル・アルバーニーだろ?アルバーニー伯爵家の」

「そうだけど」

 アルバーニー伯爵家。それは国内でも国外でも恐れられる暗殺一家であり、表の帝国を守っているのがヴァレンタイン公爵家とホルスティン公爵家であるならば、裏で守っているのはアンバーニー伯爵家である。

 と言っても、アルバーニー伯爵家は裏に隠れて活動しているわけではなく、敢えて家名と生業を公表して活動している。

 それは国内の貴族と他国に対する牽制であり、裏から帝国に手を出せば伯爵家が容赦しないという脅しでもある。

 そんな伯爵家の次期当主が今目の前にいるカマエルであり、彼は背中まである金髪を襟足あたりで結び、少し眠そうな薄緑の瞳で訝しむように俺のことを見てきた。

「僕に何か用?」

「そうだな。特別大した用があるわけじゃないが、カマエルと仲良くなりたいと思ってな」

「は?」

「俺がこの学園に来たのは、カマエルに会うためだって言ったらどうする?」

 俺がそう言った瞬間、近くにいた女子生徒たちは驚いたように口元を手で隠し、中にはハンカチを鼻に当てる者まで現れた。

 そして、その中にはアイリスとソニアの姿もあり、彼女たちも驚愕した様子でこちらを見ていた。

「…どうするって、どうしたらいいわけ…」

「普通に仲良くなればいいと思うが?」

「僕、そっち系には興味ないんだけど」

「安心しろ。俺も男のお前にはそんな気は起こさない」

 しばらく俺のことをじっと見たカマエルは、一度大きく息を吐くと、怠そうにしながら頬杖をつく。

「仲良くなって、僕に何か得があるのかな?」

「お前の望みを叶えてやるよ」

「望みを?君が僕の望みを知ってるわけ…」

 カマエルが知っているわけないと言いかけた時、俺は声を出さずに口だけを動かして彼の望みを伝える。

 暗殺者として読唇術も使える彼はすぐに言葉を理解すると、眠たそうだった目が大きく開かれた。

「何で知ってるの…」

「あはは。何でだろうな?それより、どうする?俺と仲良くなるか?」

「…はぁ。わかった。仲良くさせてもらうよ。といっても、何かするつもりは無いけどね」

「俺も特に無いよ。ただ、たまに俺と付き合ってくれればいい」

「りょーかい。なら、僕はもう寝るから」

「あぁ。良い夢が見れることを祈ってるよ」

「はは。皮肉として受け取っておくよ」

 カマエルはそう言ってすぐに眠りにつくと、俺も用が済んだので席を立ち、フィエラたちがいる窓際の席に向かう。

「ルイス。あなたってまさかそっちの趣味が。だから私たちの気持ちにも答えてくれないんじゃ…」

「なわけないだろ」

「でもエル。あの人に会えた時、嬉しそうだった。まるで恋してる相手に会えたみたいに」

「恋…か」

 シュヴィーナはいつも揶揄われているせいか、お返しと言わんばかりに変な絡みをしてくるが、フィエラも俺の様子を見てそんな風に感じていたようだ。

「恋ではないが、あながち間違いでもないかもな」

 この感情を何と表現すれば良いのか分からなかったが、言われてみれば確かに恋に近い感情だったかもしれない。

(あいつへの感情を言葉にするなら、間違いなく恋焦がれていたって表現がしっくりくる。はは。本当に楽しみだな。早くあいつと…)

 俺はこれからカマエルと過ごす学園生活を楽しみだと思いながら、窓から入ってくる日光に眠気を誘われ、水クッションを出して眠りに落ちるのであった。




「みんなおはよ~!いい朝だねぇ!」

 心地よい暖かさを感じながら眠っていると、今日も元気に入ってくるライムの声で目が覚めて体を起こす。

「今日も天気が良くていい日だね!こんな日は何か良いことが起きそうだ!じゃあ、今日の予定を説明していくね~」

 ライムはそう言ってチョークを持つと、黒板に今日の俺たちの予定について書いていく。

「今日は、午前中に学園内を案内するよ!みんな教室に来るまででも分かったと思うけど、この学園はとっても広いんだ!迷子になる子も毎年いるから、しっかり覚えてね。

 それが終わったら一旦お昼休み!今日の学食は新鮮なお魚のお刺身がイチオシみたいだから楽しみだね!なんでも、氷属性の魔法使いが頑張ってくれたんだって!

 そして、お昼休みが終わったら授業の選択をしてもらうよ!授業の選択は今後のみんなの将来にも関わることだから、しっかりと決めるんだよ!」

 今日の予定はライムが説明した通りで、学園の案内と授業の選択がある。

 しかし、俺は学園のどこに何があるのかは全て記憶しているし、授業も必修科目以外は受けるつもりが無いため、今日もつまらない一日になりそうだった。

「そ・し・て!次の休日の夜は新入生の歓迎会があるよ!楽しみにしててね!婚約者がいる子は、相手をエスコートしてあげるのもいいかもね。それじゃあ、学園案内にレッツゴー!!」

 ライムがそう言って教室を出ていくと、前にいた生徒から彼女に続くように廊下へと出ていく。

 そんな中、俺はカマエルのことで頭がいっぱいで忘れていたイベントを思い出し、少しだけ憂鬱な気分になった。

(そうだった。新入生の歓迎会があった)

 新入生の歓迎会は、入学して最初の休日に行われるイベントで、上級生たちが俺たちのために開いてくれるパーティーみたいなものだ。

(面倒だから行きたくないが、貴族である以上は行かないといけないし、何より…)

 ライムが歓迎会の話で婚約者と一緒にと言ったせいか、アイリスがチラチラとこちらを見ており、明らかに誘って欲しそうにしているのが伝わってくる。

(本当に面倒だが、ここで誘わなければ家にも迷惑がかかるだろうし、何より今世はフィエラたちがいるからな。婚約者を誘わず他の女といれば面倒なことになる)

「…仕方ない。今回だけは義務を果たすか」

 正直、望まぬ面倒ごとは避けて生きていきたいが、このイベントでは主人公と出会う可能性もある。

 そこでアイリスの反応を見るのも悪くなさそうだと判断した俺は、今回は貴族として、そして一応は婚約者としての義務を果たすことに決めたのであった。





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