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冒険編

復活

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 準備を済ませた俺とフィエラは、シュヴィーナとその家族、そしてケイリーとライアンがいる場所へとやってくる。

「待たせたか?」

「大丈夫よ」

 俺はシュヴィーナに声をかけた後、いつも座っている席へと座り、ケイリーたちと向かい合う。

「エイル君。今回は突然来てしまってすまないな。ライアンがどうしても君に謝罪したいと言ってな」

「問題ありませんよ。俺も会いたかったので」

 俺はニッコリと微笑みながらそう返すと、ケイリーやライアンたちは少し驚いた表情へと変わった。

「そ、そうか。そういえば、ここでの生活はどうだい?もう慣れただろうか」

「えぇ、おかげさまで。すごく楽しい催しもありましたしね」

 皮肉混じりにそう返すと、ケイリーは頭を抱えて俯き、ライアンは一瞬だけ俺のことを睨んでくる。

「ケイリーさん。前置きはこのあたりでやめて本題に入りませんか?明らかに会話選びを間違えていますし」

「そ、そうだな…」

 そばで俺たちのやり取りを見ていたセシルは、ケイリーに容赦のない言葉をかけると、落ち込んでいた彼がさらに元気をなくした。

「それでライアン君。今回はエイルさんに謝罪に来たらしいですね」

「その通りです。あの時はつい感情的になってしまい、一方的に行動しすぎました。僕の方に非があるのは誰が見ても明らかです。本当に申し訳なかった」

 ライアンは俺に向かって頭を下げると、あたりはしばしの沈黙に包まれる。

「…気にしないでください。誰にでも勘違いはあります。好きな人が他の男といたら嫉妬してしまうのも当然ですよね。ですが、安心してください。俺にはその気がありませんから」

「ほ、本当か!本当にシュヴィーナに惚れてはいないのか!!」

 俺の返答を聞いたライアンは勢いよく頭を上げると、勢いそのままに顔を寄せてくる。

「もちろんです。なので、彼女が好きなら気にせずアピールを続けてください」

「ありがとう!そうさせてもらうよ!」

 ライアンはそう言って高笑いをすると、俺もそれに合わせてニコニコと微笑み返す。

 そんな俺を見たシュヴィーナやセシルたちは何か恐ろしいものを見るような目で見てくるが、ライアンはそんな2人に気づいていないようだった。

「あ、そうだ。謝罪の気持ちとして、今回は贈り物を持って来たんだよ」

「贈り物ですか?」

「あぁ。君たちはこの国に来てまだ日が浅いから食べたことがないだろう?そう思って、この国でも珍しい果物を持ってきたんだよ」

 ライアンは横に置いていた包みをテーブルの上に置き、そこから虹色の丸い形をした果物らしきものを取り出す。

「これはこの国でしか取れない珍しい果物で、シャンレインというんだ。食べた色の箇所で違う味がする珍しい食べ物で、僕たち王族でも滅多に食べれないんだよ」

 ライアンはシャンレインの説明をしながら丁寧に切り分けると、皿に人数分を置いてそれぞれに配っていく。

「さぁ、食べてみてくれ!」

「…その前に一ついいですか?」

「な、なにかな」

 ライアンは今すぐにでも食べて欲しそうにしていたが、俺はそんな彼に話しかける。

「この果物、面白いですね。中まで色がカラフルで、何かを混ぜてもわからなそうだ」

「は、はは。何を言っているんだい?僕が何か仕込んだとでも言うのかな?」

「いえいえ。ただふとそう思っただけですよ。では、いただきます」

 俺がそう言ってフォークを持つと、他のみんなもシャンレインを一口分取り、口の中へと入れていく。

 そして俺も一切れを口に含んだ時、ライアンが愉悦混じりにニヤリと笑った。

 そして…

「ごふっ…」

 シュヴィーナ以外のシャンレインを食べたみんなが急に血を吐き出すと、苦しみながらテーブルや床へと倒れ込んでいく。

「はは!食べた!食べたぞ!ははははは!!」

「きゃああ!みんな!!!」

「な、なに…が…」

 部屋にはシュヴィーナの悲鳴とケイリーがこの状況について尋ねる言葉、そしてライアンの狂ったような笑い声だけが響く。

「ははは!僕がこいつに謝罪するなんてのは嘘さ!僕は今日この場で全員を殺し、そしてシュヴィーナを僕だけのものにする!父上!あなたももう用済みです!今日からはこの僕が王だ!安心してください!シュヴィーナと2人で立派に治めてみせますからね!ははははは!」

 ライアンがこの状況について説明を終える頃には、シュヴィーナ以外の全員が息絶え、部屋の中には血の匂いが充満する。

 …はずだった。

「と、まぁこんな感じで、こいつは俺たちを殺そうとしたわけです」

 部屋に死んだはずの俺の声が聞こえると、そこにはシャンレインを前に誰一人手を付けず椅子に座っている光景が広がっており、先ほどのように倒れている人は誰もいなかった。

「…は?どういうことだ?みんな死んだはずじゃ。何故生きている」

「どうですかケイリーさん?これでもこいつに助ける価値があると?」

「いや。こんなものを見せられては、もはや庇いようがないだろう」

「では、以前の約束通り」

「あぁ」

「おい!どういうことだと聞いているんだ!何故みんな生きている!」

「うるせぇ」

 俺とケイリーが話をしていると、未だ状況が理解できていないライアンが怒鳴り、俺の方に腕を伸ばしてくる。

「『黒の手ダーク・ハンド』」

「くはっ!!」

 そんなライアンに対して、俺は闇魔法の黒の手を使うと、彼の首を絞めるようにして掴み上げる。

「く、くる…しいっ」

「理解できていないようだから説明してやるよ。お前がさっき見たものは幻覚だ。『欲望の夢ディザイア・ドリーム』って言う闇魔法で、お前の欲望を夢として見させる魔法だ」

 欲望の夢とは、対象者がその時に考えている事を夢として見させるという魔法で、この魔法がかけられたものは自分の欲に従った夢を見る。

 そして、その夢を指定した相手にも見させることができ、今回はライアンが見ていた夢をここにいる全員に共有させたのだ。

 この魔法はそれなりに使える魔法ではあるが、精神攻撃に耐性がある者には通用しないし、欲が薄い者にもあまり効果がないという欠点がある。

 しかし、ライアンは欲まみれの男だったため、あっさりとこの魔法にかかったのだ。

「いつ…のまに」

「お前が俺たちにシャンレインを配ったあとだ。俺が話しかけた時、あの時にお前に欲望の夢を使ったのさ」

 この男が素直に俺に謝るはずが無いと思っていたので、最初から警戒していた俺は、出されたものを食べる前にやつに魔法を使用した。

 その時、フィエラ以外のシャンレインを食べようとしていたシュヴィーナやケイリーさんたちは別の魔法で拘束させてもらい、食べないようにするのも忘れなかった。

「そん…な」

「あはは!いい夢見れたか?なぁどうだったんだよ」

「ぐあぁぁぁぁあ!!」

 俺はそう言いながら黒の手をもう二本出すと、その手でライアンの左腕と左足を掴み骨を容赦なく折る。

「ぼ、僕はこの国…の、王子だぞ!それなのに!それなのに!」

「あぁ、それな。残念だがお前はもう王族じゃない。ケイリーさんからも次は容赦しなくて良いと言われている。つまり、お前は終わったんだ。黙って殺されろよ」

「そ、そんな!ちち…うえ!」

「ライアン。もうお前を助けることはできない。こんな事まで企んだお前を庇うことはできないよ。次の王はキャイルに任せる」

「あ、あいつは女ですよ!」

 キャイルとはライアンの妹で、ライアンよりも優秀ではあるが女であることと本人が王位に興味がなかったため、これまではライアンが王位を継ぐ予定だったそうだ。

 しかし、そのライアンがこの有様なので、ケイリーもキャイルに王位を継がせることにしたようだ。

「僕は、僕はこんなところで終わらない。終わらないんだ!!」

 ライアンはそう言うと、胸元から白い球を取り出し、それを力強く握りしめて割る。

 すると、ライアンの体が白く光り輝き、光が収まった頃にはそこに彼の姿は無かった。

「あれは、宝物庫にあった転移用の魔道具だ。あんなものまで持ち出していたのか」

「エル」

「問題ない。あのアイテムはそんな遠くまでいけるものじゃないし、探知魔法で位置も把握している」

「エイルさん。どうしてすぐに彼を殺さなかったんですか?」

 俺がフィエラと2人で逃げたライアンのことを話していると、セシルが不思議そうな表情で話しかけてきた。

「さすがに世話になった家で人を殺すほど恩知らずではありませんよ。あいつがあの魔道具を持っていたのは知っていましたし、この森から出ることができない事も知っていたので、まぁ泳がせても良いかなと思っただけです。この後は殺しに行きますがね」

「そうですか。気遣っていただきありがとうございます」

 セシルがそう言って頭を下げると、突如として地面が揺れだし、家の中にあった食器や物が落ちていく。

「な、なんだ!」

「どうやら復活したみたいだな」

 探知魔法でヒュドラの封印場所を探ってみると、そこは膨大な魔力が集まって渦になっており、その中に巨大な何かがいるのを感じ取れた。

「復活した?まさかヒュドラか?!」

「その通りです。では、こちらも約束通り俺たちが戦わせてもらいますので、みなさんはここにいてください。
 ちょうどあいつもヒュドラの方に向かっているみたいなので、ついでに殺しておきますよ。いくぞフィエラ」

「ん。準備おーけー」

「待って!」

 俺はフィエラと2人で家を出ようと扉に手をかけるが、後ろから銀弓を肩に下げたシュヴィーナが慌てた様子で駆け寄ってくる。

「私もいくわ!」

「いいのか?お前は別にここで待っていてもいいんだぞ」

「いくわ。私もあなたの仲間だもの。何があってもついて行くから」

「…そうか。なら行くぞ」

「えぇ!」

 シュヴィーナの瞳には確かな覚悟が感じられ、これ以上は説得しても勝手についてきそうだったので、俺たちはいつもの3人でヒュドラとついでにライアンを討伐するため、森の方へと向かうのであった。





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