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冒険編
幻想種
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魔物討伐実習で暗殺者たちから襲撃を受けた日から早くも1ヶ月半が経った。
襲撃を受けた日は俺たちのことを気遣ってくれたイーリによってその日は宿や家へと帰られされ、その翌日から事情聴取が始まった。
俺たちは突然現れた暗殺者たちに襲われ、それに抵抗するために戦ったことや、イーリたちに知らせなかったのは魔法で知らせる余裕が無かったからだと説明した。
暗殺者たちの方も専門の魔法使いたちが話を聞こうとしたのだが、その場所に移送している途中で何者かに襲撃され、ほとんどが全滅したらしい。
ただ、その中には俺たちが相手をしたあの3人はいなかったようで、あいつらだけはうまく逃げたようだ。
しかも、アイドはちゃんと自分の武器を回収していったらしく、現場には俺が預けたあの巨大な戦斧もなかったらしい。
(まぁ、こうなる事がわかっていたから武器を渡したんだがな)
敵が誰か分かっている以上、俺はこうなることが簡単に予想できていたので、アイドたちが逃げやすいよう引き渡す時に彼の武器を渡していたのだ。
別に彼らを見捨ててもよかったのだが、俺はアイドの人柄が嫌いでは無かったし、何より次は必ず殺すと約束したのだ。
なら、俺以外のやつに彼が殺されるのは個人的に面白く無いため、今回は逃げられるようチャンスを与えた。
まぁそんな感じで、表上は暗殺者たちによる襲撃が誰の手引きによるものなのかは分からないまま、あっという間に1ヶ月半が経ったという感じだ。
俺はあの日以来ソニアと関わることは一切なく、彼女のことはフィエラやシュヴィーナに任せて禁書庫に通い続けた。
そして今日、ようやくオーリエンスが俺に読ませたかったらしいき本を見つけることができた。
その本は著者名もいつ書かれたのかも記載されておらず、タイトルすら書いていない真っ黒な本だった。
本棚の隅で埋もれていたその本は、しかし一度目にした瞬間、間違いなくこの本だと直感で分かった。
「読んでみるか」
俺はさっそく本を開くと、1ページずつ目を通して行く。
『この本に記すは、幻想種の眠りし場所についてである。
死者の眠りし場所にて、そこに全ての魔を統べりし古の王眠る。
竜の棲家にて、天空を統べりし最古の帝王眠る。
獣の集いし場所にて、大地を統べりし獣の王眠る。
海底の都にて、太古より海を守りし守護の王眠る。
精霊の遊び場にて、その王は彼らを見守り、自然を見守り、静かに眠る。
彼ら王が目を覚ました時、世界は混乱と恐怖に包まれ、そして新たな世界の始まりを告げる。
それは古き時代の終わりと新しき時代の始まり。
それは古き世界の終わりと新たな世界の始まり。
彼らは新たな世界を迎えるため、最後の仲間が目覚めるその時まで眠る』
本に書かれていたのはそれだけで、他のページを見てみるが全てが白紙となっていた。
「幻想種についてここまで詳しく書かれている本は見たことがないな。
それに眠るってなんだ?幻想種がとてつもない強さを持っていて、一体でも復活すれば世界が滅ぶと言われているから文の後半は何となく分かる。
だが、俺の予想では幻想種は封印されているものだと思っていたんだが…違うのか?」
俺は色々な仮説を立てながらその本を何度も読み返すが、やはり最後の一文がどうしても気になった。
「最後の仲間が目覚めるその時とはどういうことだ?」
現代に伝わっている幻想種は全部で5体で、本の前半ではその5体がどこにいるのかが記されている。
しかし、最後の仲間という存在はこれまでのどの歴史を辿ってみても、本や言い伝えですら見たことも聞いたこともない。
「幻想種が眠りから覚めることで世界が滅びるのなら、その鍵を握っているのは最後の仲間ということになる。そうなるとやはり…」
ここで俺は1人の少年を思い浮かべるが、彼は世界を救う存在であり、世界を滅ぼす幻想種とは対極に位置する存在であるため、仲間という表現は少しおかしいようにも思える。
だが、目覚める時と言うのが彼があの力に目覚めることを意味しているのなら、過去に魔王が復活したことを考えると辻褄は合う。
「まぁ、まだ知られていない幻想種がいる可能性もあるか。
とりあえず、欲しかった情報は手に入れた。あとはソニアに魔導書を見せてもらって、最後に黒幕を片付けますかね」
やはりこの世界の鍵となっているのは主人公である彼の可能性が高いと判断した俺は、ストレージから取り出した紙に本の内容を写すと、それをまたストレージへとしまい禁書庫を出た。
ルイスが禁書庫を出ると、本棚に戻したその本は、誰にも気づかれることなくその存在を消すのであった。
禁書庫を出たあと、俺は訓練場で魔法の練習をしていたソニアと彼女を見守っているフィエラたちのもとへ向かう。
「あ、エル」
「おう。そっちの様子はどうだ」
「順調」
「そうか」
ソニアの魔法指導はシュヴィーナに任せ、フィエラには彼女の模擬戦の相手をやらせていたが、どうやら問題なくソニアを鍛えることができていたようだ。
「そっちはどうだった?」
「あぁ。ようやく見つけられたよ」
「じゃあそろそろ」
「そのつもりだ。そのためにソニアに会いに来たんだしな」
「わかった」
フィエラと話を済ませたあと、俺はシュヴィーナから魔法を教わっていたソニアに近づき、彼女へと話しかける。
「ソニア」
「…何かしら」
ソニアは未だあの日の俺の言葉を気にしているのかどこか気まずそうに返事をするが、俺はそんな彼女の様子を無視して話を続ける。
「そろそろ約束していた初代賢者の魔導書を見せてもらおうと思ってな。いつなら大丈夫だ?」
「…それなら、3日後はどうかしら。その日なら学園も休みだしね。ただ、家の決まりでご先祖様の物は外に持ち出せないことになっているから、あなたがあたしの屋敷に来てちょうだい」
「りょーかい。フィエラたちはどうする」
「ん。私は行かない」
「私も遠慮しておくわ。フィエラと買い物でもしておく。色々と必要でしょ?」
「わかった」
こうして、ソニアの屋敷に行くのは俺だけということになり、フィエラたちはこの国を出る前に今後必要となりそうな物を買いに行くことが決まった。
ソニアの屋敷に行くという話が決まってからあっという間に3日が経ち、今日は朝から彼女の屋敷を訪れていた。
屋敷に入る時は手続きが面倒かとも思っていたのだが、予めソニアが説明してくれていたのかすんなりと入ることができた。
ただ、屋敷の中へ入るとメイドや執事から見られることが多く、その視線には何故か感謝の気持ちが窺えた。
「こちらでお待ちください」
執事に応接室へと案内された俺は、ソファーに座りながらソニアが来るのを待った。
しかし、それから少しして扉を開けてやって来たのは、ソニアではなく彼女によく似た女性と男性だった。
「やぁ、初めまして。あ、座ったままで構わないよ」
男性は紫色の髪に眼鏡をかけた優しそうな人で、女性はウェーブがかかった赤い髪に少しミステリアスな雰囲気のある綺麗な人だった。
「君がエイルくんだね?」
「はい」
「僕はギル・スカーレット。ソニアの父親だよ」
「私は妻のリンダですわ」
「今回は君にお礼が言いたくてね。娘が来る前にこちらに寄らせてもらったんだ」
「お礼ですか?」
「うん」
ギルがそう言うと、2人は座ったまま突然俺に向かって頭を下げる。
「今回は娘のことを守ってくれてありがとう」
「あなたがいなければ、あの娘はきっと死んでいたでしょう。本当にありがとうございますわ」
「…とりあえず頭を上げてください」
まずは2人に頭を上げるよう伝えると、俺はテーブルに置かれた紅茶を手に取り、ゆっくりと乾いた喉を潤してから話し始める。
「お二人が俺に感謝してくれていることはわかりました。ですが、俺はその感謝を受け取るようなことをしたとは思っていません。
俺には俺の目的があり、やりたい事があったので彼女を守っただけです。
なので、それほど感謝される程のことではありませんので気にしないでください」
「そうだとしても、大切な娘を助けてくれたことには変わりないだろう?
それに、ソニアが魔法を使えるようにしてくれたのも君だと聞いている。その件も含めて、僕は君に本当に感謝しているんだ」
どうやら俺がソニアの魔力封印を解除したことで彼女が魔法を使えるようになったことを知っているらしく、その件も含めて感謝していると言われた。
「その言い方だと、彼女が魔法を使えなかった理由については?」
「…知っていたよ。僕もこれでも初代賢者の血を引いているからね。あの子の魔力が何者かの手によって封印されていたことは知っていた。
だけど、あの封印は僕の魔法では解除できないものだったし、あれのおかげであの子が今日まで生きて来れたんだ。だからどうすることもできなくてね」
「最初は私たちもあの子に本当のことを教えようか、魔法の練習を辞めさせようかと考えましたわ。
ですが、あの子は人一倍魔法が大好きで、しかもあの子本人が魔法を使うことを諦めていない姿を見ていると、どうしても本当のことを言えませんでしたの」
2人はその時のソニアのことを思い出しているのか、ギルは暗い顔を、リンダは少し涙を滲ませていた。
「だから、あの子が魔法を使えるようになったと聞いた時は本当に嬉しかったのですわ」
「うん。しかもソニアは魔法学園の試験にも合格して帰って来て、それからずっと君の話をしていたんだよ。
あんなに楽しそうに笑うあの子を見たのは本当に久しぶりだった。それからのソニアは毎日楽しそうでね?屋敷にいるみんなもあの子のことを心配していたから、君にはみんなが感謝しているんだ」
「なるほど」
どうやらソニアは屋敷にいるメイドや執事にも大切にされていたらしく、それが理由で彼女が魔法を使えるようにした俺に対してあんなにも感謝のこもった視線を向けていたようだ。
「だからもし迷惑でなければ、今後もソニアと仲良くしてくれると嬉しいかな」
「…申し訳ないですが、それは無理かもしれません」
「…何故ですの?」
まさか断られると思っていなかったのか、2人は少し驚きを見せたあと、リンダが俺に理由を尋ねてくる。
「俺はもともと冒険者なんです。この国に来たのも学園に通っているのも目的があったからでした。しかし、その目的がこの間終わりましたので、近日中にはこの国を出るつもりです。なのですみませんが、ソニアとこれ以上関わることはできません」
「そうだったのか…」
2人は俺の話を聞くと、それなら仕方がないと少し残念そうな様子で納得してくれる。
その後はソニアがもうすぐ来るからと2人は部屋を出ていき、少し待ってから準備を終えたソニアが部屋へと入ってくるのであった。
襲撃を受けた日は俺たちのことを気遣ってくれたイーリによってその日は宿や家へと帰られされ、その翌日から事情聴取が始まった。
俺たちは突然現れた暗殺者たちに襲われ、それに抵抗するために戦ったことや、イーリたちに知らせなかったのは魔法で知らせる余裕が無かったからだと説明した。
暗殺者たちの方も専門の魔法使いたちが話を聞こうとしたのだが、その場所に移送している途中で何者かに襲撃され、ほとんどが全滅したらしい。
ただ、その中には俺たちが相手をしたあの3人はいなかったようで、あいつらだけはうまく逃げたようだ。
しかも、アイドはちゃんと自分の武器を回収していったらしく、現場には俺が預けたあの巨大な戦斧もなかったらしい。
(まぁ、こうなる事がわかっていたから武器を渡したんだがな)
敵が誰か分かっている以上、俺はこうなることが簡単に予想できていたので、アイドたちが逃げやすいよう引き渡す時に彼の武器を渡していたのだ。
別に彼らを見捨ててもよかったのだが、俺はアイドの人柄が嫌いでは無かったし、何より次は必ず殺すと約束したのだ。
なら、俺以外のやつに彼が殺されるのは個人的に面白く無いため、今回は逃げられるようチャンスを与えた。
まぁそんな感じで、表上は暗殺者たちによる襲撃が誰の手引きによるものなのかは分からないまま、あっという間に1ヶ月半が経ったという感じだ。
俺はあの日以来ソニアと関わることは一切なく、彼女のことはフィエラやシュヴィーナに任せて禁書庫に通い続けた。
そして今日、ようやくオーリエンスが俺に読ませたかったらしいき本を見つけることができた。
その本は著者名もいつ書かれたのかも記載されておらず、タイトルすら書いていない真っ黒な本だった。
本棚の隅で埋もれていたその本は、しかし一度目にした瞬間、間違いなくこの本だと直感で分かった。
「読んでみるか」
俺はさっそく本を開くと、1ページずつ目を通して行く。
『この本に記すは、幻想種の眠りし場所についてである。
死者の眠りし場所にて、そこに全ての魔を統べりし古の王眠る。
竜の棲家にて、天空を統べりし最古の帝王眠る。
獣の集いし場所にて、大地を統べりし獣の王眠る。
海底の都にて、太古より海を守りし守護の王眠る。
精霊の遊び場にて、その王は彼らを見守り、自然を見守り、静かに眠る。
彼ら王が目を覚ました時、世界は混乱と恐怖に包まれ、そして新たな世界の始まりを告げる。
それは古き時代の終わりと新しき時代の始まり。
それは古き世界の終わりと新たな世界の始まり。
彼らは新たな世界を迎えるため、最後の仲間が目覚めるその時まで眠る』
本に書かれていたのはそれだけで、他のページを見てみるが全てが白紙となっていた。
「幻想種についてここまで詳しく書かれている本は見たことがないな。
それに眠るってなんだ?幻想種がとてつもない強さを持っていて、一体でも復活すれば世界が滅ぶと言われているから文の後半は何となく分かる。
だが、俺の予想では幻想種は封印されているものだと思っていたんだが…違うのか?」
俺は色々な仮説を立てながらその本を何度も読み返すが、やはり最後の一文がどうしても気になった。
「最後の仲間が目覚めるその時とはどういうことだ?」
現代に伝わっている幻想種は全部で5体で、本の前半ではその5体がどこにいるのかが記されている。
しかし、最後の仲間という存在はこれまでのどの歴史を辿ってみても、本や言い伝えですら見たことも聞いたこともない。
「幻想種が眠りから覚めることで世界が滅びるのなら、その鍵を握っているのは最後の仲間ということになる。そうなるとやはり…」
ここで俺は1人の少年を思い浮かべるが、彼は世界を救う存在であり、世界を滅ぼす幻想種とは対極に位置する存在であるため、仲間という表現は少しおかしいようにも思える。
だが、目覚める時と言うのが彼があの力に目覚めることを意味しているのなら、過去に魔王が復活したことを考えると辻褄は合う。
「まぁ、まだ知られていない幻想種がいる可能性もあるか。
とりあえず、欲しかった情報は手に入れた。あとはソニアに魔導書を見せてもらって、最後に黒幕を片付けますかね」
やはりこの世界の鍵となっているのは主人公である彼の可能性が高いと判断した俺は、ストレージから取り出した紙に本の内容を写すと、それをまたストレージへとしまい禁書庫を出た。
ルイスが禁書庫を出ると、本棚に戻したその本は、誰にも気づかれることなくその存在を消すのであった。
禁書庫を出たあと、俺は訓練場で魔法の練習をしていたソニアと彼女を見守っているフィエラたちのもとへ向かう。
「あ、エル」
「おう。そっちの様子はどうだ」
「順調」
「そうか」
ソニアの魔法指導はシュヴィーナに任せ、フィエラには彼女の模擬戦の相手をやらせていたが、どうやら問題なくソニアを鍛えることができていたようだ。
「そっちはどうだった?」
「あぁ。ようやく見つけられたよ」
「じゃあそろそろ」
「そのつもりだ。そのためにソニアに会いに来たんだしな」
「わかった」
フィエラと話を済ませたあと、俺はシュヴィーナから魔法を教わっていたソニアに近づき、彼女へと話しかける。
「ソニア」
「…何かしら」
ソニアは未だあの日の俺の言葉を気にしているのかどこか気まずそうに返事をするが、俺はそんな彼女の様子を無視して話を続ける。
「そろそろ約束していた初代賢者の魔導書を見せてもらおうと思ってな。いつなら大丈夫だ?」
「…それなら、3日後はどうかしら。その日なら学園も休みだしね。ただ、家の決まりでご先祖様の物は外に持ち出せないことになっているから、あなたがあたしの屋敷に来てちょうだい」
「りょーかい。フィエラたちはどうする」
「ん。私は行かない」
「私も遠慮しておくわ。フィエラと買い物でもしておく。色々と必要でしょ?」
「わかった」
こうして、ソニアの屋敷に行くのは俺だけということになり、フィエラたちはこの国を出る前に今後必要となりそうな物を買いに行くことが決まった。
ソニアの屋敷に行くという話が決まってからあっという間に3日が経ち、今日は朝から彼女の屋敷を訪れていた。
屋敷に入る時は手続きが面倒かとも思っていたのだが、予めソニアが説明してくれていたのかすんなりと入ることができた。
ただ、屋敷の中へ入るとメイドや執事から見られることが多く、その視線には何故か感謝の気持ちが窺えた。
「こちらでお待ちください」
執事に応接室へと案内された俺は、ソファーに座りながらソニアが来るのを待った。
しかし、それから少しして扉を開けてやって来たのは、ソニアではなく彼女によく似た女性と男性だった。
「やぁ、初めまして。あ、座ったままで構わないよ」
男性は紫色の髪に眼鏡をかけた優しそうな人で、女性はウェーブがかかった赤い髪に少しミステリアスな雰囲気のある綺麗な人だった。
「君がエイルくんだね?」
「はい」
「僕はギル・スカーレット。ソニアの父親だよ」
「私は妻のリンダですわ」
「今回は君にお礼が言いたくてね。娘が来る前にこちらに寄らせてもらったんだ」
「お礼ですか?」
「うん」
ギルがそう言うと、2人は座ったまま突然俺に向かって頭を下げる。
「今回は娘のことを守ってくれてありがとう」
「あなたがいなければ、あの娘はきっと死んでいたでしょう。本当にありがとうございますわ」
「…とりあえず頭を上げてください」
まずは2人に頭を上げるよう伝えると、俺はテーブルに置かれた紅茶を手に取り、ゆっくりと乾いた喉を潤してから話し始める。
「お二人が俺に感謝してくれていることはわかりました。ですが、俺はその感謝を受け取るようなことをしたとは思っていません。
俺には俺の目的があり、やりたい事があったので彼女を守っただけです。
なので、それほど感謝される程のことではありませんので気にしないでください」
「そうだとしても、大切な娘を助けてくれたことには変わりないだろう?
それに、ソニアが魔法を使えるようにしてくれたのも君だと聞いている。その件も含めて、僕は君に本当に感謝しているんだ」
どうやら俺がソニアの魔力封印を解除したことで彼女が魔法を使えるようになったことを知っているらしく、その件も含めて感謝していると言われた。
「その言い方だと、彼女が魔法を使えなかった理由については?」
「…知っていたよ。僕もこれでも初代賢者の血を引いているからね。あの子の魔力が何者かの手によって封印されていたことは知っていた。
だけど、あの封印は僕の魔法では解除できないものだったし、あれのおかげであの子が今日まで生きて来れたんだ。だからどうすることもできなくてね」
「最初は私たちもあの子に本当のことを教えようか、魔法の練習を辞めさせようかと考えましたわ。
ですが、あの子は人一倍魔法が大好きで、しかもあの子本人が魔法を使うことを諦めていない姿を見ていると、どうしても本当のことを言えませんでしたの」
2人はその時のソニアのことを思い出しているのか、ギルは暗い顔を、リンダは少し涙を滲ませていた。
「だから、あの子が魔法を使えるようになったと聞いた時は本当に嬉しかったのですわ」
「うん。しかもソニアは魔法学園の試験にも合格して帰って来て、それからずっと君の話をしていたんだよ。
あんなに楽しそうに笑うあの子を見たのは本当に久しぶりだった。それからのソニアは毎日楽しそうでね?屋敷にいるみんなもあの子のことを心配していたから、君にはみんなが感謝しているんだ」
「なるほど」
どうやらソニアは屋敷にいるメイドや執事にも大切にされていたらしく、それが理由で彼女が魔法を使えるようにした俺に対してあんなにも感謝のこもった視線を向けていたようだ。
「だからもし迷惑でなければ、今後もソニアと仲良くしてくれると嬉しいかな」
「…申し訳ないですが、それは無理かもしれません」
「…何故ですの?」
まさか断られると思っていなかったのか、2人は少し驚きを見せたあと、リンダが俺に理由を尋ねてくる。
「俺はもともと冒険者なんです。この国に来たのも学園に通っているのも目的があったからでした。しかし、その目的がこの間終わりましたので、近日中にはこの国を出るつもりです。なのですみませんが、ソニアとこれ以上関わることはできません」
「そうだったのか…」
2人は俺の話を聞くと、それなら仕方がないと少し残念そうな様子で納得してくれる。
その後はソニアがもうすぐ来るからと2人は部屋を出ていき、少し待ってから準備を終えたソニアが部屋へと入ってくるのであった。
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