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冒険編
過去の友人
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ソニアと知り合ったのは二周目の人生の時だった。
あの時、魔法を学ぶために学園の図書館に頻繁に通っていた俺は、そこで同じく魔法を勉強していた彼女と出会った。
最初はお互い気にも留めていなかったし、何ならお互いの存在すら認識していなかった。
しかしそんなある日、たまたま手に取ろうとしていた本が2人とも一緒で、そこで初めてお互いのことを認識する。
「あなたもこの本を読みたかったの?」
「まぁそうだけど。最初に読んでいいよ」
「そう。ありがとう」
俺は特に急いでその本を読みたかったわけでも無かったため、その本を彼女に譲り、俺は別に読みたかった本を読んだ。
「読み終わったからあなたに渡すわ」
「ん?あぁ、ありがとう」
それから数日後、ソニアは読み終わった本を律儀に俺のもとまで持ってきてくれて、本を渡したあとはまた別の本を取りに行く。
その後も何度か似たようなやり取りをしていくうちに、俺と彼女はお互いに魔法が好きであることを知り、それからはたまに魔法の話をしたり本を読んでの意見交換をするようになった。
「この本の魔法理論では、詠唱する言葉が魔法を使う時に大事だって書いてあるけど、こっちの本に書いてある通り、俺はイメージすることの方が大事だって思うんだよ。
明確にイメージすることができれば、無詠唱で魔法を使用できるし効率的じゃないかな?」
「そうね。結果的に言えばイメージすることが大事でしょうけど、でもこの本では詠唱することでイメージを明確化させることが大事だとも書いてあるわ。
そう考えると、詠唱は使用する魔法をイメージするためには必要なプロセスだと思うの」
ソニアと話す時間は意外にも楽しくて、恋心とかは無いにしても、友人や親友と呼べるくらいには気の置けない存在だった。
だが、彼女のことを知っていくうちに気になったのが、魔法の話をする時の彼女が時々悲しそうな顔をすることだった。
そんなある日、学園には夏休みと言われる長期休暇があり、その少し前に俺はソニアといつものように図書館で会っていた。
「ソニアは夏休みどうするんだ?実家に帰るのか?」
「帰らないわ。というより、帰る家がないのよ」
「どういうこと?」
この時の俺はとくに深く考えずに尋ねてしまったが、彼女が語ってくれた話によって、俺は彼女が時々悲しそうな顔をする理由を知ることになる。
「あたしの家はもう無いの。滅ぼされたのよ。あたしのせいで…」
「…は?」
どういう事か気になった俺は、無神経だと思いながらも彼女に詳しく話を聞くことにしたのであった。
ソニアはシュゼット帝国学園に入学する一年ほど前まで、魔法を使うことができなかった。
最初は何故使えないのか分からなかったが、当時たまたま出会った魔法使いに、自身に魔力封印の魔法がかけられていることを教えられた。
しかもそのかけられている魔法はかなり高度なものだったらしく、その魔法使いでも簡単には解除することができなかった。
それでも魔法が好きだったソニアは、魔法学園に入学することはできなかったが、その魔法使いに色々と教わり魔法の知識を身につけていった。
ある日、ソニアがいつものように魔法を詠唱しながら使えないはずの魔法の練習をしていると、体の奥底から熱い何かが込み上げてくるのを感じた。
最初は苦しかったが、次第に体が慣れていき、気づいた時には目の前に使えないはずの魔法が現れていた。
「こ、これは魔法?」
ソニアはようやく魔法が使えたことが嬉しくて、しばらく魔法を使ったあとは家族や知り合った魔法使いに見せるため急いで家に帰った。
(きっとお父様もお母様もみんな喜んでくれるわ!)
ソニアの家族や屋敷で働く者たちは、彼女が魔法を使えなくても大切に育ててくれて、とても優しい人ばかりだった。
そのため、自分が魔法を使えるようになったと知れば、みんなが喜んでくれると思った。
家に着いたソニアは、中へと入り両親や兄姉たちを探すが、誰一人として見つけることができず、しかもメイドや執事までどこにも見当たらなかった。
(みんなどこにいったんだろう)
そして、3階にある一番大きな部屋の扉を開けて中に入った時、彼女の目の前に広がるのは悲惨な光景だった。
高く積まれた人の死体、床を赤く染める血溜まりと部屋に充満した血の匂い。
一番上には、朝に自分を見送ってくれた両親や兄姉たちが動く様子もなく積まれており、確認するまでもなく死んでいることが分かった。
「おえぇぇぇ…」
ソニアはその光景に耐えきれず、絶望に膝をついて胃の中身を吐き出す。
そして彼女が目の前に広がる光景を受け入れることができず死体の山を見ていると、突然後ろから何者かに剣を刺された。
「なんだ。ようやく帰ってきたのか?遅かったな。お前が帰って来るまでにみんな死んじまったぞ?」
そう言って視界の端に映ったのは見たことのない男で、酷く痩せ細った体や顔と乱雑に伸ばされた髪が薄気味悪さを感じさせた。
「ま、お前ももう直ぐみんなのところに行けるんだし、寂しくねぇよな?はぁ、やっと仕事が終わったぜ。こんな面倒な仕事は二度とごめんだな」
男は最後にそういうと、部屋に火を放って扉から出ていく。
それから少しして、ソニアは薄れゆく意識の中、慌てた様子で駆け寄ってくるお世話になった魔法使いが目に映り、彼女はそこで意識を手放した。
次に目を覚ましたソニアは、見慣れない小屋のような建物の中にいた。
「良かった。目が覚めたんじゃな」
「…先生」
ベットに横になるソニアに話しかけてきたのは、彼女に魔法を教え、危機的状況から助けてくれた魔法使いだった。
「先生。あたしの家族やみんなは…」
「すまない。儂が着いた時にはもう…」
「そんな。う、うぅ…」
自分だけが助かった。自分以外のみんなが死んだ。あの時見た光景が夢ではなかったことに彼女は絶望し、それから数ヶ月間塞ぎ込んでしまった。
そんなある日、気持ちの整理が少しだけついた彼女は自分の家があった場所を見にいきたくて、魔法使いに頼んで連れていってもらう。
そこにはすでに屋敷も綺麗に花が咲いていた庭園さえも無く、焼けた屋敷の形跡すらも綺麗に片付けられていた。
ソニアは家があった場所をふらふらと歩いていくと、何かに躓いて転んでしまう。
「…これは?」
そこには見たこともない魔法陣が記された扉があり、その扉に転んだ際に出た血が触れたことで閉ざされていた扉が開き地下へと続く道が現れる。
ソニアは地下へと続く階段をゆっくり降りていくと、そこには何冊かの本が置かれており、その一つ一つに目を通していく。
そして、何故自分が魔力を封じられることになったのか、誰が犯人なのか、自分の家族を誰が殺したのかを理解する。
「絶対に許さない」
この時、ソニアは家族たちの復讐をすることに決め、自身の力を高めるためにも国を出てルーゼリア帝国にあるシュゼット帝国学園へと入学することに決めたのであった。
ソニアの話を聞かされた俺は、あまりの出来事に言葉を返すことができない。
「気を使わなくていいわ。あたしも何かを言って欲しいわけではないし」
「…すまない」
「いいえ。気にしないで」
その後は少し気まずくなってしまい、お互い話すことなく数日が経ち、そのまま夏休みを迎えた。
それから俺たちは結局以前のように接することができず、俺が死ぬまで関わることはなかった。
だが、俺が死ぬ時に彼女だけは悲しそうな顔をしてくれて、今でもそれだけはずっと頭の中に残っていた。
その後、他の人生でソニアが主人公と出会って行動を一緒にする様になっても、彼女だけは何故か俺を非難することも蔑むこともなく、逆に憐れむような同情するような目で俺のことを見ていることがあった。
だからなのか、ソニアに対してはアイリスたちと違って苦手意識や潜在的な恐怖心といったものは無く、むしろ前よりもあの時の彼女の気持ちが理解できるようになった気がした。
(多分、俺たちはどこか似ていたんだろうな)
彼女の悲惨な過去と、俺の死に戻りをするたびに迎える最後。状況や相手は違えど、俺も一時期は自身を殺す主人公たちや理不尽なもの全てに復讐しようとした時もあった。
(結局、俺の復讐は成し遂げることができなかったけど、ソニアはできたんだろうか)
俺が死んだ後のことは分からないが、これから彼女が迎えるであろう未来を知っている俺は、彼女にあんな悲惨な未来をもう辿らせないためにも、二周目の人生での友人として、今回だけは少しだけ手を貸す事に決めたのであった。
あの時、魔法を学ぶために学園の図書館に頻繁に通っていた俺は、そこで同じく魔法を勉強していた彼女と出会った。
最初はお互い気にも留めていなかったし、何ならお互いの存在すら認識していなかった。
しかしそんなある日、たまたま手に取ろうとしていた本が2人とも一緒で、そこで初めてお互いのことを認識する。
「あなたもこの本を読みたかったの?」
「まぁそうだけど。最初に読んでいいよ」
「そう。ありがとう」
俺は特に急いでその本を読みたかったわけでも無かったため、その本を彼女に譲り、俺は別に読みたかった本を読んだ。
「読み終わったからあなたに渡すわ」
「ん?あぁ、ありがとう」
それから数日後、ソニアは読み終わった本を律儀に俺のもとまで持ってきてくれて、本を渡したあとはまた別の本を取りに行く。
その後も何度か似たようなやり取りをしていくうちに、俺と彼女はお互いに魔法が好きであることを知り、それからはたまに魔法の話をしたり本を読んでの意見交換をするようになった。
「この本の魔法理論では、詠唱する言葉が魔法を使う時に大事だって書いてあるけど、こっちの本に書いてある通り、俺はイメージすることの方が大事だって思うんだよ。
明確にイメージすることができれば、無詠唱で魔法を使用できるし効率的じゃないかな?」
「そうね。結果的に言えばイメージすることが大事でしょうけど、でもこの本では詠唱することでイメージを明確化させることが大事だとも書いてあるわ。
そう考えると、詠唱は使用する魔法をイメージするためには必要なプロセスだと思うの」
ソニアと話す時間は意外にも楽しくて、恋心とかは無いにしても、友人や親友と呼べるくらいには気の置けない存在だった。
だが、彼女のことを知っていくうちに気になったのが、魔法の話をする時の彼女が時々悲しそうな顔をすることだった。
そんなある日、学園には夏休みと言われる長期休暇があり、その少し前に俺はソニアといつものように図書館で会っていた。
「ソニアは夏休みどうするんだ?実家に帰るのか?」
「帰らないわ。というより、帰る家がないのよ」
「どういうこと?」
この時の俺はとくに深く考えずに尋ねてしまったが、彼女が語ってくれた話によって、俺は彼女が時々悲しそうな顔をする理由を知ることになる。
「あたしの家はもう無いの。滅ぼされたのよ。あたしのせいで…」
「…は?」
どういう事か気になった俺は、無神経だと思いながらも彼女に詳しく話を聞くことにしたのであった。
ソニアはシュゼット帝国学園に入学する一年ほど前まで、魔法を使うことができなかった。
最初は何故使えないのか分からなかったが、当時たまたま出会った魔法使いに、自身に魔力封印の魔法がかけられていることを教えられた。
しかもそのかけられている魔法はかなり高度なものだったらしく、その魔法使いでも簡単には解除することができなかった。
それでも魔法が好きだったソニアは、魔法学園に入学することはできなかったが、その魔法使いに色々と教わり魔法の知識を身につけていった。
ある日、ソニアがいつものように魔法を詠唱しながら使えないはずの魔法の練習をしていると、体の奥底から熱い何かが込み上げてくるのを感じた。
最初は苦しかったが、次第に体が慣れていき、気づいた時には目の前に使えないはずの魔法が現れていた。
「こ、これは魔法?」
ソニアはようやく魔法が使えたことが嬉しくて、しばらく魔法を使ったあとは家族や知り合った魔法使いに見せるため急いで家に帰った。
(きっとお父様もお母様もみんな喜んでくれるわ!)
ソニアの家族や屋敷で働く者たちは、彼女が魔法を使えなくても大切に育ててくれて、とても優しい人ばかりだった。
そのため、自分が魔法を使えるようになったと知れば、みんなが喜んでくれると思った。
家に着いたソニアは、中へと入り両親や兄姉たちを探すが、誰一人として見つけることができず、しかもメイドや執事までどこにも見当たらなかった。
(みんなどこにいったんだろう)
そして、3階にある一番大きな部屋の扉を開けて中に入った時、彼女の目の前に広がるのは悲惨な光景だった。
高く積まれた人の死体、床を赤く染める血溜まりと部屋に充満した血の匂い。
一番上には、朝に自分を見送ってくれた両親や兄姉たちが動く様子もなく積まれており、確認するまでもなく死んでいることが分かった。
「おえぇぇぇ…」
ソニアはその光景に耐えきれず、絶望に膝をついて胃の中身を吐き出す。
そして彼女が目の前に広がる光景を受け入れることができず死体の山を見ていると、突然後ろから何者かに剣を刺された。
「なんだ。ようやく帰ってきたのか?遅かったな。お前が帰って来るまでにみんな死んじまったぞ?」
そう言って視界の端に映ったのは見たことのない男で、酷く痩せ細った体や顔と乱雑に伸ばされた髪が薄気味悪さを感じさせた。
「ま、お前ももう直ぐみんなのところに行けるんだし、寂しくねぇよな?はぁ、やっと仕事が終わったぜ。こんな面倒な仕事は二度とごめんだな」
男は最後にそういうと、部屋に火を放って扉から出ていく。
それから少しして、ソニアは薄れゆく意識の中、慌てた様子で駆け寄ってくるお世話になった魔法使いが目に映り、彼女はそこで意識を手放した。
次に目を覚ましたソニアは、見慣れない小屋のような建物の中にいた。
「良かった。目が覚めたんじゃな」
「…先生」
ベットに横になるソニアに話しかけてきたのは、彼女に魔法を教え、危機的状況から助けてくれた魔法使いだった。
「先生。あたしの家族やみんなは…」
「すまない。儂が着いた時にはもう…」
「そんな。う、うぅ…」
自分だけが助かった。自分以外のみんなが死んだ。あの時見た光景が夢ではなかったことに彼女は絶望し、それから数ヶ月間塞ぎ込んでしまった。
そんなある日、気持ちの整理が少しだけついた彼女は自分の家があった場所を見にいきたくて、魔法使いに頼んで連れていってもらう。
そこにはすでに屋敷も綺麗に花が咲いていた庭園さえも無く、焼けた屋敷の形跡すらも綺麗に片付けられていた。
ソニアは家があった場所をふらふらと歩いていくと、何かに躓いて転んでしまう。
「…これは?」
そこには見たこともない魔法陣が記された扉があり、その扉に転んだ際に出た血が触れたことで閉ざされていた扉が開き地下へと続く道が現れる。
ソニアは地下へと続く階段をゆっくり降りていくと、そこには何冊かの本が置かれており、その一つ一つに目を通していく。
そして、何故自分が魔力を封じられることになったのか、誰が犯人なのか、自分の家族を誰が殺したのかを理解する。
「絶対に許さない」
この時、ソニアは家族たちの復讐をすることに決め、自身の力を高めるためにも国を出てルーゼリア帝国にあるシュゼット帝国学園へと入学することに決めたのであった。
ソニアの話を聞かされた俺は、あまりの出来事に言葉を返すことができない。
「気を使わなくていいわ。あたしも何かを言って欲しいわけではないし」
「…すまない」
「いいえ。気にしないで」
その後は少し気まずくなってしまい、お互い話すことなく数日が経ち、そのまま夏休みを迎えた。
それから俺たちは結局以前のように接することができず、俺が死ぬまで関わることはなかった。
だが、俺が死ぬ時に彼女だけは悲しそうな顔をしてくれて、今でもそれだけはずっと頭の中に残っていた。
その後、他の人生でソニアが主人公と出会って行動を一緒にする様になっても、彼女だけは何故か俺を非難することも蔑むこともなく、逆に憐れむような同情するような目で俺のことを見ていることがあった。
だからなのか、ソニアに対してはアイリスたちと違って苦手意識や潜在的な恐怖心といったものは無く、むしろ前よりもあの時の彼女の気持ちが理解できるようになった気がした。
(多分、俺たちはどこか似ていたんだろうな)
彼女の悲惨な過去と、俺の死に戻りをするたびに迎える最後。状況や相手は違えど、俺も一時期は自身を殺す主人公たちや理不尽なもの全てに復讐しようとした時もあった。
(結局、俺の復讐は成し遂げることができなかったけど、ソニアはできたんだろうか)
俺が死んだ後のことは分からないが、これから彼女が迎えるであろう未来を知っている俺は、彼女にあんな悲惨な未来をもう辿らせないためにも、二周目の人生での友人として、今回だけは少しだけ手を貸す事に決めたのであった。
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