上 下
59 / 216
冒険編

やりたいように

しおりを挟む
「アイシラ!右前方の敵を頼む!セーラはみんなにバフをかけてくれ!イリア!いつでも魔法を放てるように準備をしておいてくれ!サティは私と一緒に前方の敵のヘイトを集めるぞ!」

 ヴィオラの指示に従い、それぞれが役割を的確にこなしながら現れた魔物をすぐに殺して行く。

 ヴィオラの武器は両手剣で、アイシラが弓、セーラが付与師にイリアが魔法使い。最後にサティが大楯にメイスという非常にバランスの取れたパーティーだった。

「本当に良いパーティーだ」

 ヴィオラの指示一つで各々が最大限に役割を果たし、さらにミスがあれば他の人がすぐさまカバーをする。

 本当に連携の取れた良いパーティーで、過去の彼女が仲間を褒められて嬉しそうだった理由にも頷ける。

「フィエラ。俺らは後ろの魔物をやるぞ」

「わかった」

 正面の敵はヴィオラたちに任せ、俺たちは後ろから迫ってくる針のように口先が尖った魚の群れを対処して行く。

 この魔物は動きが早く、またサイズも小柄なため奇襲に優れており、正面の魔物に気を取られすぎると後ろから刺される危険性がある。

 それから5分ほどで戦闘を終えた俺たちは、また周囲を警戒しながらダンジョン内を進んでいく。

 そして3時間ほど経った頃、俺らの前に見上げるほど大きな扉が現れた。

「どうやら着いたようだね」

 ヴィオラの言う通り、俺たちはようやくボス部屋の前へと辿り着けたわけだが、俺やフィエラ以外のヴィオラのパーティーメンバーたちは酷く疲れているように見えた。

「本当に今日挑むんですか?」

 トラップはなるべく俺やフィエラが見つけて対処したので、彼女たちも精神的な余裕はまだ少しばかりあるだろうが、それでも肉体的な疲労感を防ぐことはできない。

「あぁ。私たちは早くこのダンジョンをクリアしたいからね」

「何故そんなに急ぐんですか?」

「はは。実はそんな大した理由じゃないんだ。ただ私たちというパーティーをみんなに認めさせたいのさ。

 いくらAランクになったとは言っても、所詮は女性しかいないパーティーだ。だから今でも私たちを馬鹿にしてくる連中を見返したくてね。

 それに、私たちが活躍すれば、他の女の子たちも頑張ろうと思えるかもしれない。私たちはそんな子たちの導になりたいんだ」

 話だけを聞けば、何とも崇高で素晴らしい考えだと思う。しかし、果たしてそれは彼女たちが一度しか無い人生を賭けてまでやることなのだろうか。

(俺にはその感覚がわからない…)

 俺はたとえ死んだとしても次の人生があるから、死ぬことに恐怖はないし、危険なことにも躊躇わず命を賭けられる。
 だが、彼女たちにとってはその時その時が一度きりの人生だ。

 だからこそ、その一度きりの人生を賭けてまで無理をする感覚が俺には分からなかった。

「そうですか。では、これは俺からの餞別です。『高級回復』」

「回復魔法?どうして私たちに?」

 突然俺が回復魔法をかけたからか、ヴィオラは驚いた顔をで理由を尋ねてくる。

「そうですね。あなたたちの考えに感動したからでしょうか。ぜひ頑張ってもらいたいと思ったので」

「そうか。ありがとう。必ず勝ってみせるよ。だから君たちも負けないようにね」

「ありがとうございます」

「またダンジョンの外で会おう」

「…えぇ」

 最後に握手を交わした俺たちは、どちらからともなく手を離すと、ヴィオラたちはボス部屋の扉に触れ、開かれた部屋の中へと入って行く。

 シーンと静まり返ったボス部屋の前で、俺はただじっと扉を眺め続ける。

「エル。どうする」

「何がだ?」

「多分、彼女たちはこのままだと…」

 一瞬開かれた扉の向こうから感じられた魔物の気配。あれは並の魔物ではない強者の放つもので、それを感じ取ったフィエラもこの先の結末を予想したのだろう。

「多分な。だが、俺たちは出会ったばかりの他人だぞ。俺らにはこれ以上彼女たちに関わる権利はない」

 例え俺がヴィオラのことを知っていようと、彼女からしたら俺たちは今日初めて会った他人だ。

 そんな俺たちが、彼女たちの目標に向かう道に介入してはいけない。
 運命はみんなそれぞれ決められている。俺が死ねない運命にあるように、ヴィオラたちの運命も例外ではない。

(なら、その決められた運命に従った中で人生を楽しむ方が、みんな幸せなんじゃないだろうか)

 彼女たちのその決められた運命の終わりの一つが、ただ今日だったというだけだ。
 今日までの日々は彼女たちにとって辛くも楽しくて、そして満ち足りた日々だったことだろう。

過去に会ったヴィオラも、後悔は無いと言っていた。それなら、俺が勝手に彼女たちの運命に介入するより、定められた運命に従った方が良いのかもしれない。

(なら、永遠の死を求めている俺は、果たして決められた運命に従っていると言えるのだろうか。それとも、この感情を抱いたこと自体が…)

 俺が自身の永遠の死を求めているこの感情が、はたして決められた運命により抱いた感情なのか、それとも自分で抱いた感情なのか分からなくなり始めていた時、正面からフィエラに優しく抱きしめられる。

「私にはエルが何を考えていて、何を望んでいるのかはわからない。これまでエルがどんな経験をしてきて、どれほど辛いことがあったのかも分からない。
 けど、私の知ってるエルはいつもやりたい事だけをやって、やりたくない事はやらないそんな偏った人。

 なら、エルはこれまで通り自分の感情のままに行動すればいい。やりたいことだけをやればいい。私はそんなエルにどこまでもついて行く。エルがやりたくないことは私がやってあげる。

 だから…どうか自分の感情だけは否定せずにやり遂げて」

「…フィエラ」

 彼女にかけられた言葉により、俺は自身が抱いて望みを思い出す。

(そうだ。この終わりのない人生を終わらせること。それが俺の望みだ。例えこの望みが与えられたものでも自身で望んだものでも目指すところは変わらない。

 その方法を手に入れるまでは、やりたい事だけをやって自由に生きるって決めたじゃないか)

 それに、運命の女神オーリエンスが言うには、今世の運命はこれまでと変わっているらしいし、もしかしたら違う結末もあるかもしれない。

 現に、本来は魔物暴走で甚大な被害が出ていたはずのアドニーア領も、ほぼ無傷の状態で助かっている。

(…なら、今やるべきことは一つだけだ)

「ありがとう、フィエラ。俺は俺のやりたいようにやるよ」

「ん。それでいい」

「んじゃ。まずはヴィオラたちを助けるとしますか」

「わかった」

 ヴィオラたちの本来辿るはずの運命に介入することに決めた俺たちは、ゆっくりと巨大な扉に近づいていき、そっと手を触れる。

 一度閉じたボス部屋の扉を開く方法は、ボスに勝利すか冒険者が全滅するか、あるいは内側からもう一度扉に魔力を流し込むしかない。

 だが、ボス部屋もモンスターハウスと一緒でダンジョンコアの魔力によって作られた空間である以上、同じ方法を使えば外側から扉を開けることができる。

「はぁ。まさか今になって、運命を変えるために動こうと思うなんてな。いや、違うか…」

 何度も挫折して、とっくの昔に無くなったと思っていた運命を変えるという感情。

 しかし、死に戻りという繰り返される運命に対し、永遠の死を求めるようになった時点で、俺はずっと運命を変えようとしていた事に気がつく。

「人助けなんて全く興味はないが、ヴィオラには前世で世話になったからな。一度くらい救ったって構わないだろう」

 俺は覚悟を決めると、魔力をダンジョンの波長に瞬時に合わせ、大きな扉を開いて中へと入って行くのであった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?

リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。 誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生! まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か! ──なんて思っていたのも今は昔。 40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。 このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。 その子が俺のことを「パパ」と呼んで!? ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。 頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな! これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。 その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか? そして本当に勇者の子供なのだろうか?

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

はぐれ聖女 ジルの冒険 ~その聖女、意外と純情派につき~

タツダノキイチ
ファンタジー
少し変わった聖女もの。 冒険者兼聖女の主人公ジルが冒険と出会いを通し、成長して行く物語。 聖魔法の素養がありつつも教会に属さず、幼いころからの夢であった冒険者として生きていくことを選んだ主人公、ジル。 しかし、教会から懇願され、時折聖女として各地の地脈の浄化という仕事も請け負うことに。 そこから教会に属さない聖女=「はぐれ聖女」兼冒険者としての日々が始まる。 最初はいやいやだったものの、ある日をきっかけに聖女としての責任を自覚するように。 冒険者や他の様々な人達との出会いを通して、自分の未熟さを自覚し、しかし、人生を前向きに生きて行こうとする若い女性の物語。 ちょっと「吞兵衛」な女子、主人公ジルが、冒険者として、はぐれ聖女として、そして人として成長していく過程をお楽しみいただければ幸いです。 カクヨム・小説家になろうにも掲載 先行掲載はカクヨム

処理中です...