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冒険編

モンスターハウス

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 ダンジョンに入ってから二時間ほど経った頃、俺たちはようやく3階層に到着することが出来た。

「ここ広すぎるだろ…」

 事前にこのダンジョンが広くて道が複雑なのは聞いていたが、想像以上に道が入り組んでいたのと突然現れる魔物の対処に時間を取られ、3階層にくるまでこれだけの時間がかかってしまった。

 魔物自体の強さはそこまででも無いのだが、やはりいつ現れるか分からないというのが非常に厄介だった。

「少し休むか」

「わかった」

 どれだけ歩いても変わらない景色と突然現れる魔物に対して少しだけ精神的に疲れた俺たちは、壁を背にして腰を下ろす。

「それにしても、あまり他の冒険者と合わないな」

「あんなにいたのに不思議」

 ここに来るまでの間いろんな道を通ってきた俺たちではあったが、他に見かけたパーティーは3組ほどで、入る前に入り口にいた人数を考えるとだいぶ少ないように感じる。

「みんな転移魔法で他の階に行ったのかもな」

 他の冒険者に合わないのはそれはそれで楽で良いのだが、他のパーティーがこのダンジョンをどうやって攻略しているのか見てみたいと思っている俺としては、少しだけ退屈だった。

 それから15分ほど休んだ俺たちは、攻略を再開するため立ち上がり、また入り組んだダンジョン内を進んでいくのであった。




 それから数時間後、5階層に辿り着いた俺たちは、これからどうしようかと話し合う。

「今日はこのまま帰るか、それとももう少し進むか、どうする?」

「6階までの道を見つけて帰るのはどう?」

「悪くないな。そしたら次に来る時はすぐに6階層に行けるか」

 しばらく考えた結果、今回はフィエラの提案通りにする事に決め、俺たちはまた歩き出した。

「フィエラ。ちょっと待て」

 歩き出して少しすると、俺は魔力感知に隠し通路を発見したのでフィエラの事を呼び止める。

 そして、見つけた隠し通路に手を触れて魔力を流し込むと、そこには先ほどまで無かった扉が現れた。

「これは?」

「おそらくモンスターハウスだ」

 モンスターハウスとは、隠された部屋の中にたくさんの魔物が生息しており、その全てを倒すと宝箱が貰えるという特別な部屋だ。

 宝箱が貰えるので当たり部屋だと思うものもいるが、中にいる魔物はどれも強敵で、しかも部屋から出るためには全ての魔物を倒すしかないため、負けた場合にはパーティーが全滅することになる。

「どうする?」

「せっかくだし入ろう。何が貰えるのか楽しみだ」

「わかった」

 俺たちがモンスターハウスに入ると、背後で扉が閉まり部屋の中が明るくなる。
 部屋の中はそこそこ広い作りで、壁は少しゴツゴツしていた。

「さて。何が出るかな」

 俺はイグニードを片手に持って魔物が出てくるのを待っていると、周囲に丸い水の玉がいくつも作られて行き、それがどんどん大きくなって魚の形を形成して行く。

「まるで海の中にいるみたいだ」

 思わず見惚れてしまいそうな美しさがあったが、魔物が俺たちに攻撃をしてきた事ですぐに気持ちを切り替える。

「フィエラ。どっちが多く倒すか勝負するか?」

「望むところ。負けた方が一つ言うこと聞く」

「おーけー。その条件乗った。んじゃ、カウントダウン行くぞ。3…2…1」

 俺が数を数え終えると同時に、俺とフィエラは地面を蹴って二方向に分かれる。

(こいつら、一体一体は大したことないが、密集して攻撃してくるのがやばいな)

 魚は群れで行動するものが多いため、小さい魚たちは一つの塊となって突撃してくる。

 目と脳に身体強化をかけて隙間を縫って避けたりイグニードで切ったりするが、数が数だけになかなか全てを殺すことができない。

 どう攻めようかと考えている間も、他の魚が鱗を飛ばしたり水の刃を飛ばしたりと俺を殺そうと隙なく狙ってくる。

「面倒だな。『不死鳥の炎フェニックス・フレア』」

 一体一体相手にするのが面倒になった俺は、炎で巨大な鳥を作り出すと、その鳥を魚の群れに向けて放つ。

 水で出来た魚たちは炎の鳥が近づいただけで蒸発して行き、次々に魔石だけとなって地面に落ちていく。

「よし。これで120匹だな」

 俺の周囲に魚の群れがいなくなったのを確認すると、フィエラの様子を見るために彼女がいる方へと目を向ける。

 すると、彼女は部分獣化で手に鋭い爪を生やして爪撃を飛ばし、さらに氷蛇のガントレットの能力を付与して魚たちを凍らせて絶命させていた。

 フィエラの戦闘もそれからすぐに終わり、俺は彼女のもとへ近づいて声をかける。

「おつかれ。何匹だ?」

「120」

「同じか。なら引き分けだな」

 賭けは引き分けに終わったが、俺としては特にフィエラにして欲しいこともなかったため、宝箱があるはずの場所に向かおうとした。

 しかし…

「違う。私の勝ち」

 フィエラはそう言うと、突然俺に向かって爪撃を飛ばしてくる。
 俺はそれを首を傾けて避けると、後ろで攻撃しようとしていた大きなクラゲ型の魔物が両断されて消滅した。

「あぶな。俺が死んだらどうするんだよ」

「大丈夫。その時は私もすぐに後を追うから。それに、エルなら避けるって信じてた」

 フィエラの返答を聞くと、前にも思ったことだが、彼女の愛が日に日に増しているように感じるのは気のせいだろうか。

「お前と心中する気なんかねぇよ」

「残念。それより、私の勝ちだから言うこと聞いてね」

「…あまり変な事は勘弁してくれよ」

「大丈夫。そこまで大変じゃない」

 最後に油断して負けたのは俺なので、この罰は甘んじて受け入れる事にして、今度こそ俺たちは部屋の中央に現れた宝箱のもとへ近づく。

「少し待ってな。『鑑定』」

 俺は宝箱を開ける前に鑑定を使い、この宝箱が本物であるかを確認する。
 稀にではあるが、ミミックという擬態を得意とする魔物が宝箱に扮して冒険者を食べる事があるため、こうした確認は重要なのだ。

「問題ない。開けていいぞ」

 俺が許可を出すと、フィエラは尻尾を揺らしながら宝箱を開ける。その様はまるで餌をお預けされた犬のようで、彼女が狼である事を忘れそうになる。

「これは?」

「見せてみろ」

 宝箱に入っていたのは緑色の宝石がついたイヤリングで、鑑定をしてみると風魔法が付与されたものだった。

「このイヤリングは付けた者に簡単ではあるが風魔法が使えるようにする物みたいだな。
 あとは装着者の体を少し軽くして動きやすくするくらいか。風魔法は主にできるのが任意で風を吹かせたりするくらいか…ふむ。これ、お前にやるよ」

「いいの?」

「あぁ。これがあればお前のスピードはさらに早くなるだろうし、氷蛇のガントレットとも相性が良さそうだ」

 氷蛇のガントレットはガントレット周辺に霜を出して触れた相手の動きを鈍くさせる事ができる。

 その能力を使ってガントレットから霜を出し、その霜をこのイヤリングの風で飛ばすことができれば、効果範囲を広げる事ができて彼女の攻撃幅も広がる事だろう。

「ありがと」

 彼女はそう言ってちょこちょこと俺の近くまで歩いて来ると、少し頭を下げて耳を俺の方に寄せてくる。

「なんだ?」

「付けて。ついでに耳も触っていいから」

「はぁ。仕方ないな」

 耳を触って良いと言う言葉に負けてしまった俺は、彼女の耳にイヤリングを付けた後、しばらくの間もふもふを堪能するのであった。

 その後モンスターハウスを出た俺たちは、特に何事もなくダンジョンの攻略を進めて行き、6階層に続く階段を見つけたところで5階にある転移魔法陣に乗り、その日の攻略を終えるのであった。




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