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死に戻り編
そばにいたい人
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ルイスとドラゴンが激戦を繰り広げている中、フィエラはその戦いに巻き込まれないように離れたところでルイスのことを見ていた。
「エル…」
フィエラはルイスが血を流しながらも楽しそうに笑ってドラゴンと戦う姿を見て、自分の無力さを悔やみ、そして彼の勇敢さと強さに憧れを抱く。
それはかつて、獣王である父の冒険話を聞いた時のように、彼女の胸を熱くさせるのであった。
獣王国の王女である私は、獣王であるお父さんとその妻であるお母さんから大切に育てられてきた。
そんな私には他にも母と呼べる人たちがいて、兄弟姉妹もたくさんいた。
しかし、母親たちや兄弟姉妹の仲が悪いと言うことはなく、一人が妊娠すれば他の人が子供の面倒を見たり手助けしたりするくらいには仲が良かった。
そんな温かい家族のもとで育ってきた私には、幼い頃から一つの夢があった。
それは、憧れであり良き王でもあるお父さんのように、いつか私も冒険者として世界を見て回ること。
お父さんは王になる前、冒険者として色々な国を見て回り、仲間と共に数多の強い魔物を倒してきたそうだ。
そんな話を楽しそうに語るお父さんを見て、私もいつかお父さんのように仲間と世界を見て回りたい思うようになった。
「お父さん。私もいつかお父さんみたいな冒険者になる」
「はは!そうか!ならいろいろ教えてやろう!」
お父さんは当時7歳だった私の頭を撫でると、その日以降は王としての仕事の合間に色々と教えてくれるようになった。
戦い方や野営の仕方、魔物の解体の仕方に冒険者のルール。
学ぶことが多くて、王女として学ぶべきマナーや勉強をする時間はなかったが、それよりも冒険者に必要なことを学ぶ方が楽しかった。
そして私が12歳になった時、私はお父さんに国を出て冒険者になることを伝えた。
「そうか。だが、フィエラはまだ幼いのだし、もう少し大きくなってからでもいいんだぞ?」
お父さんはそう言うが、私はこの5年間でお父さんから学べることは全て学び、あとは実際に経験していくだけだった。
私がそのことを伝えると、お父さんも同じ意見なのか「わかった」と言ってくれた。
ちなみに、お母さんも私のことを心配はしていたが、お父さんよりもあっさりと許可してくれた。
「フィエラ。怪我や体調には気をつけるのよ。それと、強い男の人を見つけたら逃しちゃダメ。まずは仲良くなって、良い人だと思ったらアタックするのよ」
お母さんは私が旦那探しにでも行くと思っているのか、その後も男の人との接し方などを説明してくる。
しかし、それも仕方がない話ではある。お母さんも私と同じ銀狼族で、気に入った相手にはとことん肉食系になる人だ。
それに、狼は種族的に独占欲が強くて、番になれば一生を添い遂げるくらいに愛が重い。
そのせいで、幼馴染であるお父さんは幼い頃から大変だったと愚痴っていたのを聞いたことがある。
「とりあえず頑張る」
結局最後までお母さんの言っていることが理解できなかった私は、とりあえず頑張るとだけ伝えて他の家族にも旅に出ることを伝えにいった。
その際、どのお母さんたちも男の落とし方や逆に落とされない方法などを教えてくれたが、私は頷くだけで聞き流した。
数日後に家族みんなに見送られた私は、国を出て旅にでた。
最初に目指すのは、ここら一番近いルーゼリア帝国にあるヴァレンタイン公爵領。
まずはその近くにある町で冒険者登録をしてお金を稼ぐ。ついでにランクも上げていくつもりだ。
何回か野宿をしながら町にたどり着くと、私はすぐに冒険者ギルドへと向かう。
登録する際、年齢のことで心配されたが、その時に絡んできたおじさんを倒したらあっさり登録してくれた。
そこで三ヶ月ほどお金を貯めながら依頼をこなしていると、気づけば私はCランクになっていた。
「お金も貯まったし、公爵領に行こう」
この町でお世話になった人たちに挨拶を済ませると、私はまた野宿をしながら公爵領を目指す。
公爵領に着くと、あまりの大きさに私は驚いた。街は活気があり、人々は道端や屋台で楽しそうに話をしていて、ここが良いところなのが分かった。
街の人に道を聞きながら冒険者ギルドに着くと、私はギルドカードを見せておすすめの宿などを教えてもらった。
その時、受付の人が少し驚いた顔をしていたが、理由は分からなかった。
それから何度か依頼をこなしながら生活をしていると、ギルド内である噂を耳にした。
『聞いたか?今日スノーワイバーンの魔石を待ったガキがギルドに来たらしいぞ』
『あぁ、聞いたよ。しかもランドルと戦って勝ったらしいぞ』
『まじかよ。とんでもねぇガキだな』
話を聞いた限り、どうやら私と歳の変わらない男の子がスノーワイバーンを倒し、Aランク冒険者にも勝ったらしい。
(強そう。会ってみたい)
そんな強者がいるのなら、私もぜひ会って見たい。そんな感情を抱いたが、私は噂の男の子になかなか会うことができなかった。
数週間後。私がいつものように依頼を受けるためギルドに来ると、受付の前に見慣れない男の子が立っていた。
(この子だ)
直感的に目の前にいるこの子が噂の男の子だと理解した私は、珍しく自分から話しかける。
彼がこちらを見ると、私は全身が震えた。それは彼の計り知れない強さと、子供ではありえないほどの死地を何度も経験してきた気迫を感じたからだ。
この子を見た瞬間、私の狼としての勘が逃げろと訴える。
それでも彼といればさらに強くなれると感じた私は、その場で躊躇いもなくパーティーに誘った。
しかし、彼は考えることなく断ると、何故パーティーを組みたいのか聞いてくる。
「あなたがこのギルドで一番強い。私は強くなりたい。だからあなたの側にいたい」
私の目的は世界を見て回ることだ。そのためには、どこに行っても、どんな人や魔物にも負けない強さがいる。
私の答えを聞いた彼は、何かに興味を持ったらしく、戦ったらパーティーの件を考えてくれると言った。
こんな強者と戦えることが嬉しくて、私は珍しくニヤリと笑った。
戦った結果だけを言うなら、私の完敗だった。彼は最初から最後まで全力ではなかったし、最後は私の指導までしてくれた。
「君たち獣人は五感に優れている。だから殺気や視線の動きに敏感で、経験が浅い奴ほど自身の勘に頼り切って防御する。だから簡単なフェイントに引っかかるってわけ」
彼の言葉を受けて、私は確かにと思う。私は対人戦の経験があまりなく、倒してきた魔物も低級ばかりだからフェイントなども無かった。
(絶対一緒にいたい)
私はそんな事を思いながらじっと彼を見ていると、その思いが通じたのかパーティーを組んでくれることになった。
それからは本当に充実した日々で、エルは私に多くの体術を教えてくれた。
エルの知識や組み手のおかげで私は前よりも攻撃の幅が広がり、対人戦にも慣れた。
彼といる時間は本当に楽しくて、いつしかエルに会えるのを心待ちにするようになった。
ある日、いつものように依頼を受けて魔物を倒すと、助けた馬車から貴族らしき女の子が出てきた。
その子はエルの事をルイスと呼ぶと、エルもその女の子の方を見る。
すると、彼にしては珍しく驚いた顔をすると、少し言葉を交わして逃げるようにその場を後にした。
その日の夜。エルが私の泊まってる宿屋の部屋を訪ねてくると、彼からはあの女の子の匂いがした。
(やっぱり。二人は知り合いなんだ)
私がその事をエルに伝えると、彼は諦めたように全てを話してくれた。
自分が貴族であることや昼間の女の子が婚約者であること。そしてしばらく会えなくなること。
話を聞いた私は、何故か胸が少しモヤっとするが、この気持ちが何なのか分からず、その日はエルと別れた。
それから数日後。私はエルとその婚約者と会うことになった。
どうやら婚約者であるアイリスが私に会いたいと言ったらしく、私も話に興味があったので会うことにしたからだ。
当日になると、エルとアイリスはお互いの髪と瞳の色を交換して現れるし、アイリスは何かと私を挑発してくる。
エルは私たちが気にしなくて良いと言うと、食事をして眠ってしまった。
「フィエラさんは、ルイス様のことが好きなんですか?」
すると、アイリスは真面目な顔をして私にエルが好きなのか尋ねてくる。
しかし、私はまだ自分の気持ちが分からなかった。これまで人を好きになったことはなかったので、ありのままその事を伝える。
逆に私がアイリスにエルのことを好きなのか尋ねると、彼女は何の迷いもなく好きだと答えた。
好きだという言葉を聞いて、何故かまた私の胸がモヤモヤとした感情でいっぱいになる。
それでも、私も彼と離れるつもりがないことを伝えると、アイリスは少しだけ納得した表情をした。
その後はとくに何事もなく食事会は終わり、私は自分の部屋へと戻った。
エルとアイリスに会ってから二日後。私一人でAランク昇格試験を受けると、無事に合格することができた。
しばらく一人で依頼をこなしながらいると、エルがまた私のもとを訪ねてくる。
どうやらアイリスが帰ったらしく、私もAランクに昇格したのでダンジョンに行こうとのことだった。
その日のうちにダンジョンに向かった私たちは、私が初めてということもあり、エルがいろいろとサポートをしてくれて無事に20階層まで攻略できた。
次の日にはエルの家に行って緊張したり、勝手に旅に出ようとしていた彼に怒ったりもしたが、それでも楽しい時間を過ごすことができた。
それに、エルのメイドと話をしたことで、私が彼に惹かれていることを自覚できたのは大きな収穫だった。
エルの気遣いで一日休みを取ると、私たちはまたダンジョンの攻略へと挑む。
21階層に転移すると、エルは今日の目標としてダンジョンの完全クリアを提案してくる。
私も早く二人で旅に出たかったので了承すると、私はエルからポーションを貰って攻略を開始した。
今日はエルも戦いに積極的に参加してくれたため、前よりも早く攻略することができ、あっという間に40階層のボス部屋へとたどり着く。
部屋の中にいたのは氷でできたドラゴンで、私が全力で殴っても罅一つ入らなかった。
それどころか、殴った側の私の手が痛くなり、思わず動きを止めてしまう。
ドラゴンはそんな私を踏みつけようとするが、エルが私を助けてくれた。
私とエルはその後も攻撃をするが全く効いている感じがせず、私が逃げるべきかと考え始めた時、エルが獣化をするように言ってきた。
一人でドラゴンの相手をさせるのが心配ではあったが、彼が強いことは私が誰よりも知っている。
だから私は彼を信じて獣化をすると、そこからは私とドラゴンの戦いになった。
しかし、最初の一撃以降、全力で攻撃することができず、決め手に欠ける状態が続いた。
十分ほど経つと、私は疲労で体に力が入らなくなり膝をついてしまう。
ドラゴンは私を殺すために魔法で氷柱を作ると、それを私に向かって放った。
(死ぬ)
私が死を覚悟した瞬間、目の前に突然エルの背中が現れ、多重に張った結界魔法で氷柱を防いでいく。
しかし、氷柱の数もかなり多いため、エルの結界が次々と砕けていき、最後の一枚が壊れた瞬間、エルのお腹を一本の氷柱が貫いた。
「エル!」
私の目の前にある氷柱はエルの血で赤く染まり、先端からは血が滴る。
(いやだいやだいやだ!エルが、エルが死んじゃう!)
今すぐにでも彼のもとへ行きたいのに、私の体は思うように動いてくれない。
氷柱が消えると、エルは少しだけ動かなくなるが、すぐに傷口に回復魔法をかけると血のついた手で前髪を掻き上げた。
エルに大丈夫なのか尋ねると、彼は問題ないと答え、私に壁の方へ行くように言ってきた。
「一緒に逃げよう」
逃げられるかは分からないが、彼を失うことが怖かった私は逃げることを提案する。
しかしエルには逃げる気が無いらしく、むしろ邪魔だから早く行けと殺気を込めて私に言ってきた。
エルの気迫に負けた私はそれ以上何もいうことができず、結局一人で壁際へと向かった。
それから始まったエルとドラゴンの戦いは圧倒的で、私が間に入る余地など皆無だった。
「すごい…」
どうしたらあれだけの戦闘技術が身につくのか。どうしたらあんな化け物に挑もうと思えるのか。どうしたら私は彼の隣に立てるのか。
私は様々な感情を抱きながら、エルとドラゴンの戦いを目に焼き付けるように見続ける。
そして、エルとドラゴンが最後の技を放つと、エルの斬撃がドラゴンのブレスを切り裂き、そのままドラゴンを真っ二つに両断した。
エルはドラゴンが死んだのを確認すると、彼も力尽きたように倒れる。
「エル!エル!」
私は少し回復した体力を振り絞ってエルのもとへと駆け寄ると、バッグからポーションをあるだけ出して彼に飲ませる。
「エル。お願い。死なないで…」
涙で視界が滲み、彼を失うかもしれない恐怖で手が震えるが、それでも私はエルが助かることを祈りながらポーションを飲ませ続けるのであった。
「エル…」
フィエラはルイスが血を流しながらも楽しそうに笑ってドラゴンと戦う姿を見て、自分の無力さを悔やみ、そして彼の勇敢さと強さに憧れを抱く。
それはかつて、獣王である父の冒険話を聞いた時のように、彼女の胸を熱くさせるのであった。
獣王国の王女である私は、獣王であるお父さんとその妻であるお母さんから大切に育てられてきた。
そんな私には他にも母と呼べる人たちがいて、兄弟姉妹もたくさんいた。
しかし、母親たちや兄弟姉妹の仲が悪いと言うことはなく、一人が妊娠すれば他の人が子供の面倒を見たり手助けしたりするくらいには仲が良かった。
そんな温かい家族のもとで育ってきた私には、幼い頃から一つの夢があった。
それは、憧れであり良き王でもあるお父さんのように、いつか私も冒険者として世界を見て回ること。
お父さんは王になる前、冒険者として色々な国を見て回り、仲間と共に数多の強い魔物を倒してきたそうだ。
そんな話を楽しそうに語るお父さんを見て、私もいつかお父さんのように仲間と世界を見て回りたい思うようになった。
「お父さん。私もいつかお父さんみたいな冒険者になる」
「はは!そうか!ならいろいろ教えてやろう!」
お父さんは当時7歳だった私の頭を撫でると、その日以降は王としての仕事の合間に色々と教えてくれるようになった。
戦い方や野営の仕方、魔物の解体の仕方に冒険者のルール。
学ぶことが多くて、王女として学ぶべきマナーや勉強をする時間はなかったが、それよりも冒険者に必要なことを学ぶ方が楽しかった。
そして私が12歳になった時、私はお父さんに国を出て冒険者になることを伝えた。
「そうか。だが、フィエラはまだ幼いのだし、もう少し大きくなってからでもいいんだぞ?」
お父さんはそう言うが、私はこの5年間でお父さんから学べることは全て学び、あとは実際に経験していくだけだった。
私がそのことを伝えると、お父さんも同じ意見なのか「わかった」と言ってくれた。
ちなみに、お母さんも私のことを心配はしていたが、お父さんよりもあっさりと許可してくれた。
「フィエラ。怪我や体調には気をつけるのよ。それと、強い男の人を見つけたら逃しちゃダメ。まずは仲良くなって、良い人だと思ったらアタックするのよ」
お母さんは私が旦那探しにでも行くと思っているのか、その後も男の人との接し方などを説明してくる。
しかし、それも仕方がない話ではある。お母さんも私と同じ銀狼族で、気に入った相手にはとことん肉食系になる人だ。
それに、狼は種族的に独占欲が強くて、番になれば一生を添い遂げるくらいに愛が重い。
そのせいで、幼馴染であるお父さんは幼い頃から大変だったと愚痴っていたのを聞いたことがある。
「とりあえず頑張る」
結局最後までお母さんの言っていることが理解できなかった私は、とりあえず頑張るとだけ伝えて他の家族にも旅に出ることを伝えにいった。
その際、どのお母さんたちも男の落とし方や逆に落とされない方法などを教えてくれたが、私は頷くだけで聞き流した。
数日後に家族みんなに見送られた私は、国を出て旅にでた。
最初に目指すのは、ここら一番近いルーゼリア帝国にあるヴァレンタイン公爵領。
まずはその近くにある町で冒険者登録をしてお金を稼ぐ。ついでにランクも上げていくつもりだ。
何回か野宿をしながら町にたどり着くと、私はすぐに冒険者ギルドへと向かう。
登録する際、年齢のことで心配されたが、その時に絡んできたおじさんを倒したらあっさり登録してくれた。
そこで三ヶ月ほどお金を貯めながら依頼をこなしていると、気づけば私はCランクになっていた。
「お金も貯まったし、公爵領に行こう」
この町でお世話になった人たちに挨拶を済ませると、私はまた野宿をしながら公爵領を目指す。
公爵領に着くと、あまりの大きさに私は驚いた。街は活気があり、人々は道端や屋台で楽しそうに話をしていて、ここが良いところなのが分かった。
街の人に道を聞きながら冒険者ギルドに着くと、私はギルドカードを見せておすすめの宿などを教えてもらった。
その時、受付の人が少し驚いた顔をしていたが、理由は分からなかった。
それから何度か依頼をこなしながら生活をしていると、ギルド内である噂を耳にした。
『聞いたか?今日スノーワイバーンの魔石を待ったガキがギルドに来たらしいぞ』
『あぁ、聞いたよ。しかもランドルと戦って勝ったらしいぞ』
『まじかよ。とんでもねぇガキだな』
話を聞いた限り、どうやら私と歳の変わらない男の子がスノーワイバーンを倒し、Aランク冒険者にも勝ったらしい。
(強そう。会ってみたい)
そんな強者がいるのなら、私もぜひ会って見たい。そんな感情を抱いたが、私は噂の男の子になかなか会うことができなかった。
数週間後。私がいつものように依頼を受けるためギルドに来ると、受付の前に見慣れない男の子が立っていた。
(この子だ)
直感的に目の前にいるこの子が噂の男の子だと理解した私は、珍しく自分から話しかける。
彼がこちらを見ると、私は全身が震えた。それは彼の計り知れない強さと、子供ではありえないほどの死地を何度も経験してきた気迫を感じたからだ。
この子を見た瞬間、私の狼としての勘が逃げろと訴える。
それでも彼といればさらに強くなれると感じた私は、その場で躊躇いもなくパーティーに誘った。
しかし、彼は考えることなく断ると、何故パーティーを組みたいのか聞いてくる。
「あなたがこのギルドで一番強い。私は強くなりたい。だからあなたの側にいたい」
私の目的は世界を見て回ることだ。そのためには、どこに行っても、どんな人や魔物にも負けない強さがいる。
私の答えを聞いた彼は、何かに興味を持ったらしく、戦ったらパーティーの件を考えてくれると言った。
こんな強者と戦えることが嬉しくて、私は珍しくニヤリと笑った。
戦った結果だけを言うなら、私の完敗だった。彼は最初から最後まで全力ではなかったし、最後は私の指導までしてくれた。
「君たち獣人は五感に優れている。だから殺気や視線の動きに敏感で、経験が浅い奴ほど自身の勘に頼り切って防御する。だから簡単なフェイントに引っかかるってわけ」
彼の言葉を受けて、私は確かにと思う。私は対人戦の経験があまりなく、倒してきた魔物も低級ばかりだからフェイントなども無かった。
(絶対一緒にいたい)
私はそんな事を思いながらじっと彼を見ていると、その思いが通じたのかパーティーを組んでくれることになった。
それからは本当に充実した日々で、エルは私に多くの体術を教えてくれた。
エルの知識や組み手のおかげで私は前よりも攻撃の幅が広がり、対人戦にも慣れた。
彼といる時間は本当に楽しくて、いつしかエルに会えるのを心待ちにするようになった。
ある日、いつものように依頼を受けて魔物を倒すと、助けた馬車から貴族らしき女の子が出てきた。
その子はエルの事をルイスと呼ぶと、エルもその女の子の方を見る。
すると、彼にしては珍しく驚いた顔をすると、少し言葉を交わして逃げるようにその場を後にした。
その日の夜。エルが私の泊まってる宿屋の部屋を訪ねてくると、彼からはあの女の子の匂いがした。
(やっぱり。二人は知り合いなんだ)
私がその事をエルに伝えると、彼は諦めたように全てを話してくれた。
自分が貴族であることや昼間の女の子が婚約者であること。そしてしばらく会えなくなること。
話を聞いた私は、何故か胸が少しモヤっとするが、この気持ちが何なのか分からず、その日はエルと別れた。
それから数日後。私はエルとその婚約者と会うことになった。
どうやら婚約者であるアイリスが私に会いたいと言ったらしく、私も話に興味があったので会うことにしたからだ。
当日になると、エルとアイリスはお互いの髪と瞳の色を交換して現れるし、アイリスは何かと私を挑発してくる。
エルは私たちが気にしなくて良いと言うと、食事をして眠ってしまった。
「フィエラさんは、ルイス様のことが好きなんですか?」
すると、アイリスは真面目な顔をして私にエルが好きなのか尋ねてくる。
しかし、私はまだ自分の気持ちが分からなかった。これまで人を好きになったことはなかったので、ありのままその事を伝える。
逆に私がアイリスにエルのことを好きなのか尋ねると、彼女は何の迷いもなく好きだと答えた。
好きだという言葉を聞いて、何故かまた私の胸がモヤモヤとした感情でいっぱいになる。
それでも、私も彼と離れるつもりがないことを伝えると、アイリスは少しだけ納得した表情をした。
その後はとくに何事もなく食事会は終わり、私は自分の部屋へと戻った。
エルとアイリスに会ってから二日後。私一人でAランク昇格試験を受けると、無事に合格することができた。
しばらく一人で依頼をこなしながらいると、エルがまた私のもとを訪ねてくる。
どうやらアイリスが帰ったらしく、私もAランクに昇格したのでダンジョンに行こうとのことだった。
その日のうちにダンジョンに向かった私たちは、私が初めてということもあり、エルがいろいろとサポートをしてくれて無事に20階層まで攻略できた。
次の日にはエルの家に行って緊張したり、勝手に旅に出ようとしていた彼に怒ったりもしたが、それでも楽しい時間を過ごすことができた。
それに、エルのメイドと話をしたことで、私が彼に惹かれていることを自覚できたのは大きな収穫だった。
エルの気遣いで一日休みを取ると、私たちはまたダンジョンの攻略へと挑む。
21階層に転移すると、エルは今日の目標としてダンジョンの完全クリアを提案してくる。
私も早く二人で旅に出たかったので了承すると、私はエルからポーションを貰って攻略を開始した。
今日はエルも戦いに積極的に参加してくれたため、前よりも早く攻略することができ、あっという間に40階層のボス部屋へとたどり着く。
部屋の中にいたのは氷でできたドラゴンで、私が全力で殴っても罅一つ入らなかった。
それどころか、殴った側の私の手が痛くなり、思わず動きを止めてしまう。
ドラゴンはそんな私を踏みつけようとするが、エルが私を助けてくれた。
私とエルはその後も攻撃をするが全く効いている感じがせず、私が逃げるべきかと考え始めた時、エルが獣化をするように言ってきた。
一人でドラゴンの相手をさせるのが心配ではあったが、彼が強いことは私が誰よりも知っている。
だから私は彼を信じて獣化をすると、そこからは私とドラゴンの戦いになった。
しかし、最初の一撃以降、全力で攻撃することができず、決め手に欠ける状態が続いた。
十分ほど経つと、私は疲労で体に力が入らなくなり膝をついてしまう。
ドラゴンは私を殺すために魔法で氷柱を作ると、それを私に向かって放った。
(死ぬ)
私が死を覚悟した瞬間、目の前に突然エルの背中が現れ、多重に張った結界魔法で氷柱を防いでいく。
しかし、氷柱の数もかなり多いため、エルの結界が次々と砕けていき、最後の一枚が壊れた瞬間、エルのお腹を一本の氷柱が貫いた。
「エル!」
私の目の前にある氷柱はエルの血で赤く染まり、先端からは血が滴る。
(いやだいやだいやだ!エルが、エルが死んじゃう!)
今すぐにでも彼のもとへ行きたいのに、私の体は思うように動いてくれない。
氷柱が消えると、エルは少しだけ動かなくなるが、すぐに傷口に回復魔法をかけると血のついた手で前髪を掻き上げた。
エルに大丈夫なのか尋ねると、彼は問題ないと答え、私に壁の方へ行くように言ってきた。
「一緒に逃げよう」
逃げられるかは分からないが、彼を失うことが怖かった私は逃げることを提案する。
しかしエルには逃げる気が無いらしく、むしろ邪魔だから早く行けと殺気を込めて私に言ってきた。
エルの気迫に負けた私はそれ以上何もいうことができず、結局一人で壁際へと向かった。
それから始まったエルとドラゴンの戦いは圧倒的で、私が間に入る余地など皆無だった。
「すごい…」
どうしたらあれだけの戦闘技術が身につくのか。どうしたらあんな化け物に挑もうと思えるのか。どうしたら私は彼の隣に立てるのか。
私は様々な感情を抱きながら、エルとドラゴンの戦いを目に焼き付けるように見続ける。
そして、エルとドラゴンが最後の技を放つと、エルの斬撃がドラゴンのブレスを切り裂き、そのままドラゴンを真っ二つに両断した。
エルはドラゴンが死んだのを確認すると、彼も力尽きたように倒れる。
「エル!エル!」
私は少し回復した体力を振り絞ってエルのもとへと駆け寄ると、バッグからポーションをあるだけ出して彼に飲ませる。
「エル。お願い。死なないで…」
涙で視界が滲み、彼を失うかもしれない恐怖で手が震えるが、それでも私はエルが助かることを祈りながらポーションを飲ませ続けるのであった。
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