スッタモンダ・コクゴ

小池キーサ

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17、デイオフ・マッチャラテ

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 1コマ90分の授業を、立て続けに4コマ受けるのは、さすがにきつい。しかも、月曜日。週末が、はるかかなたにかすんで見える。ヘトヘトになって改札を抜けると、
「サトミちゃ~ん」
と、聞き覚えのある声がした。向こうから、ランドセルを背負って、黄色い帽子をかぶった女の子が走り寄って来た。リンだ。
「大学に行ってたの?」
 息を切らしながら、わたしの腕にからみついてくる。まわりの視線が、リンに集中しているのがわかる。大人びた美人が、小学生の格好でいるだけでもアンバランスで目立つのに、声がでかくて、動きも派手なのだ。わたしの右から左に移り、今度は肩を組む。モデル並みのスタイルをしているリンは、わたしよりも背が高く、この図は、すごく気恥ずかしい。
「リンちゃんも、下校途中?」
 なにげにリンの腕から逃れ、自宅に向かって歩きはじめたが、リンはしぶとくついて来る。
「ねえ、『国語塾』に寄って行こうよ」
「え? だって、今日、月曜日だよ」
「サトミちゃんにとっては、デイオフかもしれないけど、月曜日だって、ハナムラ先生は働いてるんだよ」
「そうなの?」
 そういえば、わたしが面接をした日も月曜日だった。たしかに、プリントを作ったり、成績ファイルを確認したり、保護者との連絡を取ったり、マダムの仕事は、火曜日と金曜日だけでは済まないだろう。ちょっと考えればわかるはずなのに、そういうこと、考えたこともなかった。
「もしかして、ゼン先生も仕事してるの?」
 面接の日、ゼンがいたのを思い出した。あのときは、マダムの息子かなにかだと思っていたけれど、開校日以外も、マダムの仕事を手伝っているのか?
「うん、仕事っていうか、時々、勉強しに行ってるよ」
「勉強? スタッフなのに?」
「スタッフだからこそ、勉強しなくちゃダメなんだって。生徒さんが、どんな勉強をするのか、きちんと知っておかないと、的確な採点も指導もできないって言ってたよ」
「えっ、そうなの?」
 解答書にたよって、採点していればいいと思っていた自分がはずかしくなってきた。
「うん。ゼンは、全員のプリントを前もって勉強しているよ。リンのプリントも、リンより先に知ってるし」
「そうなんだ……」
 穴があったら、入りたい……。しかし、スタッフとしての態度を反省する間もなく、
「ねえ、差し入れ、買っていこうよ」
と、駅のとなりにあるコンビニに、力づくでリンに連れ込まれた。まったく、強引なんだから。
「なに買ってく?」
 仕方なく、つきあうことにすると、
「リン、これが好き」
と、抹茶ラテのカップを指さした。
「じゃあ、ゼン先生もいるかもしれないから、これを4つ買っていけばいいね」
 小学生に買わせるわけにはいかず、わたしが自腹を切る羽目になった。
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