黒龍帝のファンタジア

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復讐の決意

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 龍人族はプライドが高い種族として知られている。

 そんな龍人族の中に魔力を持った黒龍が生まれると、まず殺される。そしてその黒龍を生んだ両親は黒龍を産んでしまったことに後悔しながら、自ら処刑台に立ち命を絶つ。稀に自分の子供を救おうと国外に逃げようとする者もいるが、龍人族総出で追い立てられやがてこれも殺されるのだ。

 それは例え王族でさえも同じだった。第23代国王オリジン・ドラグニアとその妃の間に生まれた黒龍は生まれたその日のうちに処分される筈だったのだが、国王オリジンと妃は逃走。これを龍人族総出で追い立て、妃を殺害する事ができたが、国王オリジンとその子供を逃したというのが、フリューゲル王国に記された史実だ。だがらオリジンは史上最悪の罪人と言われている、というのが恭介の頭の中にある情報だ。

 恭介は歯噛みする。

(胸糞の悪い話だ。たとえ会った事がない母だとしても、自分のせいで殺されたとなるとこれほど胸が締め付けられるとはな。)

(それにどうして魔神ザーヴァスは俺と父さんを地球に連れて行き、助ける代わりに、俺が17歳になったらファンタジアに戻すなんて盟約を交わしたんだ? しかも地球にいる間は俺の力は取り上げ、ファンタジアに戻すその時まで一切のことを俺に教えないなんて‥‥)

(力を取り上げる方はまあ、分かるにしても俺に教えないって意味あるのか? 結局こうして教えているだろうに。他にもこれはザーヴァスに一体なんの得がある? ‥‥まあ、いい。俺はどうせ元の世界に帰れはしない。)

 そう、恭介の頭の中にはこの世界のあれこれの情報の他に、なにかを成し遂げねばザーヴァスが自分を地球に戻すつもりがないという情報が入っていたのだ。そのなにかが分かれば帰る道筋が経つのだが、それが不明の今は帰る手段はないと言ったほうがいいだろう。情報をくれるので、親切な奴かと思えば、肝心なところを教えてくれない。親切な奴かなのか、不親切な奴なのかよくわからない奴だと恭介は呟いてから、立ち上がった。

「まあ、帰るつもりはこれっぽっちのないから別に知らなくてもいいんですけどね。こんなこと知っておきながらほっておく事なんて出来ないだろ。黒龍が何だ。ただそれだけで俺と父さん母さんを殺そうとして、汚い手で母さんを‥‥  フッ 」

 恭介は口元に邪悪な笑みを浮かべる。それは教室で見せた猛獣の威嚇のような笑顔とは格が違う、まるで龍の咆哮。なぜ黒龍と呼ばれているのかがよく分かる、そんな笑みだ。

「気に食わねぇ。フリューゲル王国か、皆殺しにしてやるよ龍人族共。俺に喧嘩を売ったこと後悔しやがれ。」

 パシン! パシン! と尻尾で地面を叩く。その尻尾は今の恭介がどれほど荒ぶっているかをよく示していた。その尻尾で叩かれる方はたまった者ではないだろうが。恭介は尻尾で叩かれるたびにえぐり取られて行く地面を横目に見てそれにしてもと、拳に目を向ける。

「それにしても父さんから習った桐谷流がまさか、黒龍の力を上手く使うために最適な技術だったとは驚きだな。だから将来絶対に役に立つって言ってたのか。」

 恭介は幼い頃泣いて、やりたくないやりたくない言っていた自分にあの手この手を使って説得していた父の姿を思い出して心がほっこりとした気持ちになった。あの頃はあのクソ親父なんて悪態をついたものだが、今になってそれが自分のことを思ってと思うと恥ずかしいのやら何やらで一杯一杯だ。

 恭介はそれを紛らわすように拳を振るって行く。ブオン! ブオン!  拳が風を切り裂く音を聞きながら恭介はやはりと頷いた。

「やっぱりそうだ。体のスペックと俺の感覚が合わない。1のつもりが1000になっている。これは調整が必要だな! フッ 」

 飛び上がり空中回し蹴りを繰り出す。すると風を切る感覚が変わったのを恭介は感じ取りニヤリと口元に笑みを浮かべた。少しだけ自分の望むものに近い結果を出すことができたからだ。割合で言ったら1でやったものが980になったと言うところか。まだまだ先は長いが、やるしかない。何故ならこれは恭介がこの世界で生きていくにあたって必要なことだからだ。

 スプーンを握ろうとしたら、握りつぶし鉄塊にしちゃいましたとかハイタッチのつもりが相手の腕をへし折りましたとか笑えない。それに自分の体の制御が上手くいっていないなど強敵との戦闘では致命的な弱点になるし、何よりそんな、なまっちょろい事は他人が許しても恭介自身が許せないのだ。

 恭介はドン! と地面を尻尾で叩く。そして舞い上がった小石などに拳を振るって行く。

「フッ! ハッ! セイヤッ!! 」

 恭介が放った全ての攻撃は命中し、小石を木っ端微塵にパラパラと砕いた。恭介はそれを見てはぁ、とため息を吐いた。全然駄目だと。本来であれば砕くのではなく飛ばしたかったのだ。

「はぁ~あ。 これは時間かかるぞ。3時間いや、2時間半といったところかなぁ~ 師範代が聞いて呆れるな。ま、こういうのも楽しいからいいんだけどね! 」

 恭介は腰を低く落とし体に龍気を巡らせていく。すると恭介の体を先ほどと同じ様に黒い炎が包み出した。それを確認した恭介は手を龍の鉤爪のように構える。いや、もう龍の鉤爪そのものだが、それはともかく、手に黒い炎が集まって来たところで、恐ろしき龍の鉤爪を解き放つ。

「桐谷流 体術 一の型 龍牙! 」

 ゴウッ! という音をあたりに響かせながら恭介が放った龍牙は、手に纏っていた黒い炎を数十メートル先まで伸ばした。その結果遠くに生えていた木に炎が乗り移ってしまった。今もその炎は燃やし尽くしてやるぜ! とばかりの勢いで広がっていっている。それを見た恭介は冷や汗をだらだらと流す。

「や、やっべ!! 今すぐにしょ、消化! 水はないから‥‥そうだ! 風だ! そうと分かれば‥‥」

 恭介は片手を地面につき、もう片方の手を後ろに構える。これから行おうとしているのは桐谷流 体術 三の型 龍王跋扈。これは独特の走法によって高速で相手に詰め寄り、反応も出来ないうちに投げ飛ばすと言うものだが、これを黒龍としての力を取り戻した今の自分が行えば高速で動くことで起こる衝撃波を使い、炎を消すことが出来るかもしれないという考えだ。

 それを恭介は実行しようとしている。だがしかし、確かに衝撃波で炎を消すことが出来るがーーー

「桐谷流 体術 三の型 龍王跋扈! 」

 恭介は ドン! という音を響かせて、燃えている木々に目にも止まらぬスピードで駆けていくが、あれ? と途中で気づく。

(そういえば俺の技ってこれまで必ず、体に炎纏っていたよな? つまりは今の俺は自分では熱さを感じてないからわからないけど、火達磨ってことになる。それがそのまま突っ込んでいったとなると‥‥燃えるな。というか拡大するな。うん、そうに違いない。)

 ーーーそう、衝撃波で一度は炎を消すことが出来るが、再び恭介の体から炎が燃え移る。しかも、恭介が起こした物凄い風の影響で、更に勢いの強いもので、だ。先ほどまでの恭介の技の威力を見れば、この森が、最悪全て燃え尽きることは想像に難くない。

 そうと分かれば今すぐにでも止まるべきだろうが、このことに恭介が気づくのが遅すぎた。龍王跋扈はその独特の走法から直ぐに止まることは出来ない。予め止まるつもりだったなら、速度の調整などで直ぐに止まることが出来ただろうが、残念ながら恭介はテンパっていたので止まること、とは全くの逆。全力で走ることを選んでしまった。つまり‥‥

「森全焼‥‥ごめんなさい‥‥。」

 恭介はズーンと落ち込みながらも1分1秒でも早く止まってくれと、願うのだった。



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