ワールド・オブ・ランク

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第13話

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あまりに素直、悪く言えばちょろすぎる学生たちルークはほくそ笑む。
 しかし、そううまくいかないのか目の前にいるエイリヒはバッサリと言い放った。

「嘘ですね」

 即答かよ。

「と言いたい所ですが、今回の所は1つ貸しにして置きます。紹介したい人もいますし……はいはい皆さんこちらのルークくんが変態的発言をしたのはどうやら近所のお爺ちゃんが言っていたことを興味本位で真似しただけの様です。安心してご飯をお食べください」

 エイリヒは冷や汗を流しているルークをそっちのけに手を叩いて注目を集めた後、そう言った。
 それが決定的なものとなった様で、ルークの言葉で安堵していた学生たちは食事に戻っていった。

 はぁー良かった。エイリヒに即答されたときはどうなることかと思ったけど、なんとかなったな。……まあ貸しという名のなんでも命令権を1番あげてはいけない人にふんだくられたんですけど。

「これでルークくん変態事件は無事解決しましたね。いやはや突然食堂に変態幼児が現れたと聞いたときは流石の私も驚きを隠せませんでした」
「はは、ははは……」

 ルークが苦笑いを浮かべていると、横からほかほかの肉が盛られた皿が差し出された。出来立てなのか仄かに立ち上る香ばしい香りが鼻をくすぐる。とてもいい香りだ。

「はいルークくん。これとっておいたの! どうぞ! 」
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして! 」
「流石ルークくん、もう既にクロエちゃんにその様なことをさせていたとは……手がお早い」

 クロエの眩しい笑顔にほっこりとしていたルークにエイリヒ先生がいやらしい笑みを浮かべ、幾分か尊敬の色を含んだ声を発した。
 まったく意味がわからん。

「エイリヒ先生それはどういう意味ですか? 」
「ほら女体盛りをクロエちゃんに出させるなんて変態チックでしょう? 」
「はぁ!? あなたの目は節穴ですか? 節穴ですよね。これのどこが女体盛りですか! ええ!? 」
「女体盛りですよ、完璧な女体盛りです。それ雌ですし」
「そういう意味かい! 」

 エイリヒが指差したものを見てみると、そこには肉が盛られた皿があった。
 ルークは思わずズッコケそうになる。
 しかし、エイリヒ先生は攻めを緩めるつもりはない様で追撃を仕掛けた。

「はい? そういう意味とはどういう意味でしょうか? はっ! もしかして教師である私が生徒に誤解を招く発言をしてしまったのでは!? ルークくん参考までに勘違いしたものを聞かせてください! 先生直しますから! さあさあ! 」

 こいつ絶対にワザとやってやがる。ぶん殴りてぇ。
 ルークはグイッと近づけられた顔を押しのける、勿論押しのける際鼻フックする事を忘れない。

「顔を近づけるなー! これ以上近づけたらロリコンゲイ野郎、ロリゲイってあだ名広めるぞ! 」
「む、それは釣れないですね。残念です」

 さすがにロリゲイのあだ名はつけられたくない様でエイリヒは鼻フックされた鼻をさすりながら残念そうに息を吐いた。
 だが、これで終わりかと安堵したのもつかの間エル、ユリアそしてクロエを視界に収めると表現しようもない悪い顔をする。
 ルークはこの時思った。あ、ヤバいと。

「エルちゃん、ユリアちゃん、ルークくんが隠し事をしている様なのですが、どう思います? 」

 エイリヒは箸を止めてことの成り行きを見ていたエルとユリアに尋ねた。
 それにエルは少し考えるそぶりを見せたあと答える。ユリアはまだ考えている様で顎に手を当てたままだ。

「ダメだと思うわ! 隠し事すると血祭りにされるってお母さんが言っていたもの! 」

 なにそのバイオレンス。てか誰にされるんだお母さんか?

「そ、そうですか。因みに聞きたいんですが、血祭りは誰が? 」
「赤い服を着たふくよかな老紳士だそうよ! その赤い服は返り血ですって! 」
「「……」」

 これにはエイリヒとルークは同時に口を噤んだ。幼い顔で楽しそうに語るエルは2人に少なからず恐怖を植え付けたらしく、引きつった顔を浮かべている。てかそれってサンタクロースじゃないですか? 特徴が酷似しているんですが。
 ルークは震える手でコップを掴み、乾いた喉を潤してから口を開く。

「そ、そうなんだー。随分と変わった言い伝えがあるんだねー」
「言い伝えじゃないわよ? だってお父さんがお母さんに血の海に沈められてたもの。夜遅くまで帰ってこないお父さんに問い詰めたら隠し事したんだって、だからだいりしっこう? っていうやつで血祭りにあげたの! 」

 それってお父さん死んでない? あとナイフを掲げるのやめなさい、怖いでしょうが。特に滴っている肉汁が変な連想を……うっぷ

「変わった風習があるんですね。勉強になりました、ありがとうございます。ユリアさんは? 」

 エイリヒはエルの衝撃的な家庭事情を風習で片付けたようだ。
 しかし、受けた衝撃は大きいようですぐさまユリアに会話の流れを移した。
 額に流れる汗が衝撃の大きさを物語っている。

「私は隠し事はとても大切だと思います。世界には知らない方が幸せという事が多々ありますし、その人を思って隠されているものを興味本位で知った場合、予期せぬ事故が起きてしまいますしね」
「おお、なんかかっこいいねユリアちゃん! 」
「そんないいものじゃないですよ。隠し事は人を汚していきます、真っ黒な闇のように」

 なにがあった、君の人生に一体なにがあったんだ!? 

 ユリアはサファイアのような目を黒く染め上げで、気持ちどす黒いオーラを背負っているようにも見えなくもない。
 その姿は歴戦の暗殺者を思わせ、ルークを恐怖に染め上げた。
 もしかして友達にする人を違ったんじゃなだろうか?

「ははは、確かにその通りですね。人は闇があるから深みが出るんですよ、分かっていますねー」

 ルークが恐怖に怯えていると、エイリヒは高らかな笑い声をあげて同意した。
 確かにエイリヒはメッキのような笑顔の奥に危ないものを感じる。研ぎ澄まされた刀が鞘に収められているかのようなピリピリとしたものが身体中から溢れていた。
 なんでそれを感じることが出来るかわからないが、これは本能によるものだとルークは結論付けている。

「先生のは闇が深すぎると思います」
「そうですか? 業が深いルークくんには負けますよ」
「俺のなにを知っているっていうんだ」
「性的知識が豊富」
「ぐはっ」

 もうやだこの人嫌い。

 ルークは胸を押さえながらエイリヒを睨みつけてみるが暖簾に腕押しとばかりに笑って流されてしまった。少なくとも人を揶揄うことに関してはエイリヒの方が何枚も上手のようだ。
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