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3 after【New 8】ノエルVS騎士団長令息ガイル(前編)
しおりを挟む爆破未遂事件が解決して、2週間ほど経った頃。
私はノエルを連れて王宮騎士団の訓練場を訪ねた。
今日は学生時代の友人ガイル・ルヴェイユと会う約束をしていたのだ。
ガイル・ルヴェイユ侯爵令息。
騎士団長の息子で、元不良。
学生時代の部活動を通して更生し、今や立派な王宮騎士になっている。
爆破未遂事件のときは、王宮騎士として事件解決に尽力してくれた。
ちなみに彼は、原作ゲームアプリの攻略対象でもあった。
訓練場で模擬戦をしていたガイルの姿を見つけた。
一分の隙もなく隊服を纏い、騎士然とした挙措で剣を振るうガイルの姿はなかなかに精悍だ。
(ガイル……すっかりマトモになったわね。出会った当初は学生服をだらしなく着崩して、いかにも不良っぽかったのに。姿勢もしゃんとして、立派よ)
更生した元不良少年を見守る母親のような心境で、私はガイルを愛でていた。
隣りのノエルもガイルを見ながら、「おぉ……元不良」と呟いている。どうやら私の心を読んでいたらしい。
模擬戦が終了したタイミングで、私達の視線に気づいたガイルがこちらをちらりと見た。
対戦相手だった騎士に深い礼をしたのち、ガイルがこちらにやってくる。
滴る汗をぬぐいながら、野性味のある笑顔で話しかけてきた。
「よォ、ミレーユ待ってたぜ。それと、そっちのチビが『ノエル』か? マジでガキなんだな、ほんとにそいつ強ぇのか?」
「あんたねぇ……その口調、改める気がない訳? 王宮騎士になったんだから、もっと丁寧に喋りなさいよ」
「プライベートのときだけだって。職務中はきちんとやってるから心配するな。今日は半休取ってて、これで上がりなんだ――お前らこのへんでちょっと待っててくれ」
身支度をしているガイルを見て、ノエルが真剣な顔でうなっていた。
「……うむ。あの男、なかなかの手練れと見た。これはきびしい闘いになりそうな予感」
小さい子が難しい口ぶりで言っているので、なんだかおもしろくて私は笑ってしまった。
「あら。見ただけで分かるの? ガイルは本当に強いわよ? なんと言っても、国内最強選手なんだから」
「でもノエル、負ける気がしない。チート使いまくって、ぜったいに勝利をつかむ」
ちっちゃい拳に力を込めて、ノエルは言った。
「ノエル、今日の闘いを楽しみにしていた。ペタンク勝負、ぜったいに負けない!」
*
今日、私たちがガイルを訪ねたのは、ノエルとガイルで『ペタンク最強決定戦』をやるためだ。
ペタンクというのは球技の一種であり、ガイルを更生に導いた偉大なスポーツでもある。
一匹狼のような不良学生だったガイルは、私の導きでペタンク部に強制入部させられることとなり、めきめきと頭角を現していった。
部活動を通してガイルは仲間たちとの信頼を深め、
人生にやりがいを見出し、
まっとうな人生へと歩み出すきっかけを得た――のだと思う。
そして廃部寸前の弱小部だったペタンク部は、天才ペタンカー・ガイルの活躍により国内屈指の強豪部にまで上り詰めたのである。
ペタンク部と彼は、まさにwin-winの関係。
そして彼と私は、ともにペタンク部に所属していた同志でもあった。
その縁で、ユードリヒとの婚約破棄騒動のときはガイルにも助けてもらったし、爆破未遂事件のときも多大なる協力をしてもらった。
『ぺたんく』というちょっとユル可愛い名称なのと、競技内容が『わりと簡単なボール投げ』だから平和的な感じなのとで、なんか違和感はあるけれど。
……まぁ兎にも角にも、ペタンクが世界平和に貢献した偉大なスポーツであることは間違いない。
先日ガイルと話していたとき、「そういえば、私と同居しているノエルって子もペタンク強いのよ?」という話題になった。
原作アプリのミニゲームに『Let’s ぺたんく♪』というのがあって、ノエルはペタンクのチート持ちでもあったのだ。
「へぇ。俺とそのノエル、どっちが強いか勝負させろよ」
という流れになり、
――そして、現在に至る。
*
「それじゃあ、1対1で戦《や》ろうぜノエル。相手がガキでも俺は手加減しねぇから」
「ふふふ、ノエルもおまえに手加減しない」
王宮騎士団の中庭を借りて、ガイルとノエルのペタンク一騎打ちが始まった。
ちなみに観覧客は私だけだ。
ペタンクのルールは簡単。
50センチほどの円を描き、その円のなかから先行プレイヤーが目標球《ビュット》と呼ばれる木製の球を最初に投げる。
あとはひたすら、先攻・後攻プレイヤーが順番に、金属製の『ペタンクボール』を目標球《ビュット》めがけて投げ続ける。
持ち球がなくなるまで投げ、目標球の近くに寄せた人ほど有利になる。何セットかくり返し、13点先取したほうが勝ちだ。
まぁ、ざっくりいうとこんな感じ。
実際には投げ方や戦略が奥深くてポルテとかルーレットとかティールとか、まぁ色々あるんだけれど割愛しておく。
「ぐぬぅ。きさま、ノエルの障害球を突破するとは……!」
「ははっ。お前こそなかなか良いドゥミポルテじゃねぇか」
……ふたりが、良い汗散らしてる。
王国騎士と幼女がなかよくボール投げてるみたいに見えて、なんかほっこりしてきた。
「がんばれー。ふたりともー」
ぬるく応援しながら、私はペタンク最強決定戦を見守っていた。
to be continued...
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