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リオンとカレンの対峙

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スート小国は小国のままだったが「幸運の姫」の噂は瞬く間に広がって、その幸運にあやかろうとこの13年で交易も盛んで経済的には豊かな大国となっていた。
お近づきになりたがる国も多く、リオンは世界でも一目おかれる王だ。

「新興国オラクル国が交流を求めている?」

「はい、なんでも最果てのさらに向こうに大地があったそうでして、そこからの使者です。珍しい物も持って来ているということでした。」

「それが、ムーア大国の宿まで来ていて、幸運の国であるスートに交流に来たいと?」

「はい・・・」

「いいだろう、明後日に歓迎しよう。用意を頼むぞ。」

歓迎の日、城に着いたオラクル国の使節は5人で、内3人は王族自らのお出ましだという。
不思議な事にオラクルの女王と姫はベールで顔を隠し、王配は仮面を被っていた。

声を出したのは姫の婚約者だという令息サージェスだ。

「顔を隠して失礼します、スートの皆様。我が国の王族は簡単に顔を見せない決まりなのです。謁見の間にて外しますゆえ、ご勘弁を。」

オラクルの使節が謁見の間に着く。

リオン王はラミア王妃と並び、ラキ姫も控えていた。
顔を隠す怪しい使節集団に騎士は警戒し、リオンは後悔しかけていたとき、女王だという女がベールを外した。

謁見の間の人々が思わず見惚れるような、凛とした美女だった
続いてベールを外した姫も、母似の凛とした中に、穏やかな空気を纏う美しい姫だった。

着ている高価なドレスと相まって周りがそのオーラに圧倒される中、女王が口を開いた。

「オラクル国女王のカレンと申します。スート国の皆様におかれましては、おかわりなくご健勝そうで、結構なことでございます。」

その声に息を飲んだ。
リオンがガタリと立ち上がった。

「カレン!これは何の冗談だ!」

「冗談ではございませんわ。私は新興オラクル国の女王となりましたので、故郷に挨拶に参ったまでです。」

「何を勝手なことを!お前は我が国の愛妾だろうが!国を出て良いと誰が許可をした!」

「あら、あんな忘れられたような愛妾が必要ですか?本気で探さなかった事も知っています。それに愛妾は撤廃されている事を知らないとでも思って?」

「そ、それは仕方なく…。」

カレンはサージェスからここへ来るにあたって、もうひとつショックな事を聞かされていた。

「国を出て知ったのですが。
愛妾になったとき、万一を考えて没交渉せざるを得なかった、私の実家の侯爵家は10年も前に降格させられて今は男爵だそうね。
理由は愛妾を輩出した恥ずかしい家だからとお聞きしました。あなたがそれを言うなんて、呆れてしまいますわ。」

「それは同じ理由で、ムーア大国からスート小国を守ろうと思っただけだ!」

「残念。お父様と同じように降格の上、城を追われた者達に聞き及んでおります。
あなたは私の事で反感を持つ侯爵家が邪魔だったのでしょう?
代わりに昇格した現侯爵家はラミア様ととても仲が良いそうじゃありませんか。
…話がそれました。
私のお父様や他の皆様もとても有能な方々ですので、要らないなら我が国に招きたいと考えていますの。よろしいわよね?」

「ならん!認めん!」

「なぜです?」


そのときリオンは突然慈悲深く微笑み、涙をはらはらとこぼした。

「わかってくれ、カレン。
お前とは幼い頃からの仲だ、俺の立場も解っているだろう?
ラミアとのいきさつだって解ってる。
俺は忙しくてお前に気が回らない馬鹿な男だ。
でも思い出してくれ、二人で楽しく過ごした日々を。お前は俺を苦しめるのか?
俺がお前を探さなかったのは、その方が幸せかもしれないと考えたからだ。
カレン、俺は今でもお前を思っているよ。だから、馬鹿な考えはやめてくれ。
俺も逃げたお前を責めないよ。
お互い大人になろうじゃないか。」


カレンは気持ち悪さに真っ青になる。
一番気持ち悪いのは、こんな嘘に動揺する自分だった。
リオンはカレンが揺れている手応えを感じて、心の中でほくそえんだ。

――再会したカレンは美しかった。

久しく忘れていたが、彼女は侯爵令嬢であったときから美しい子だった。
愛妾になってからみすぼらしくしていたので、ラミアの方が美人だと勘違いしてしまったのだ。
俺に愛されていると油断して容姿に手を抜いたのだろう。
こんな美人なら手元に置いておきたい。
夜だって弱いラミアに無茶は出来ないが、カレンなら今まで通り付き合ってくれるだろう。

「そのお洒落も、俺のためにしてくれたのだろう?見違えたよ。綺麗だよ、カレン。」

近付こうとした所を仮面の男が遮った。

「スートの王よ。あなたに近付く権利はありません。自分が何をしたか、まだ分からないのですか?」

リオンはオラクルの王配だという男がいた事を思いだした。
つまりカレンの正式な夫だ。

「誤解があるようだ。
貴方こそカレンから色々聞かされて同情したのだろうが、一方の言い分を鵜呑みにするのは感心しない。これは俺とカレンの問題だ。何も知らない貴方は退いて頂けないか?」

オラクルの王配はくっくっくと腹をよじって笑いだした。
周りはその異様さにおののく。

一頻ひとしきり笑うと、男は仮面に手を掛けて名乗りを上げた。

「失礼、オラクルの王配にして過去の遺物、リオネルと申します。」

仮面がハラリと地面に落ちる。


その顔はリオンとそっくりだった。



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