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第2章 沿岸地帯ジェイドの海産物勝負
4 食材を買い付けに行ったら因縁を付けられました。なので自力でどうにかします その④
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「クラーケンって、マジか?」
アシュラッドは眉をひそめて返す。
海の魔獣の1つであるクラーケンは、浮き島とも呼ばれる。
その異名の通り、移動する島と言えるほどの巨体を海面に浮かせ、海中にはその更に倍以上の巨体があるという。
普段は水中に沈んでいるが、時折浮き上がり、船の航路の邪魔になるのだ。
しかも近づく者があれば、海中から伸ばす巨大な触腕で、大型の帆船すら沈めるという。
「ついさっき、出たらしくてな。大きさはそれほどじゃなくて、100メートルあるかないかぐらいなんだが」
「いや十分デカいだろ、それ」
「クラーケンとしちゃ、小物なんだと。とにかくそれが出たから、海に出るのを断られてな」
「そいつは、運が無かったな」
「なんでだ?」
心底不思議そうに言う五郎に、アシュラッドが訊き返すより早く、アルベルトとカリーナが続けて言った。
「運が無いとはとんでもない。むしろ逆ですな。噂に聞くクラーケン、この機会を逃すべきではないのですぞ」
「そうですよ。食べたことが無いから、どんな味なのか気になります」
「……マジか、お前ら」
呆れたように返したアシュラッドは、あることに気付き続けて言った。
「待て。ひょっとして、漁師が嫌がってるのって、クラーケンを獲りに行こうとしてるからじゃねぇだろうな?」
「ああ、そうだけど」
平然と返す五郎に、同じく平然としているアルベルトにカリーナ。
傍にいる有希やレティシアも、苦笑するような表情はしているが、拒絶するような気配は無い。
「よくやるよ、お前ら」
アシュラッドは呆れたように言うと、続けて問い掛ける。
「で、どうするんだ? さすがに諦めるだろ?」
「いや、こんな絶好の機会、滅多にないからな。物にしねぇと。だから頼むよ、な? 船、出してくれよ」
「……勘弁してくれねぇか。そんな恐ろしい真似出来ねぇよ」
漁師は乗り気なさげに返す。
「うちの船よりでっけぇのが沈められる所を見た事があるんだよ。あんなの見せられたら、獲りに行く気にゃなれねぇよ」
「そこをなんとか頼む!」
五郎は諦めきれずに食い下がるが、それでも漁師は渋る。
自分の命が掛かってるのだから、妥当な反応だった。
それを見ていたアシュラッドは、にやりと笑うと、1つの提案を口にする。
「だったら、船だけ借りれば良いんじゃねぇか?」
「船を借りるって……誰が操縦すんだ?」
漁師の言葉に、アシュラッドは返す。
「俺らがするよ。前に、海上警備で雇われた時に、船の動かし方も幾らか習ったんでな。風があれば、船の帆を張って進めることぐらい出来るさ」
「風って、今は無風だぞ」
眉を寄せて返す漁師に、アシュラッドは気楽な声で返す。
「そこは心配しなくても、大丈夫だ。そういうのが、得意なのが居るからな。アルベルト、出来るだろ?」
「こき使われそうですな」
アルベルトは肩をすくめるようにして返す。
「風を操作する魔術は得意ですから、出来ないことはないですぞ。その分、船の操縦はお任せですが」
「ああ、任せとけ。という訳だ。どうだ? これならあんたは、クラーケンを獲りに行く酔狂なヤツらに巻き込まれずに済む。その間に、あんたは船の貸し賃を貰ってこずかいが稼げる。悪くない話だと思うぜ」
自分の身の安全は保障され、少しは欲が出たのか、漁師は少し考え込んでから五郎に言った。
「……船の貸金とは別に、補償金を出してくれるなら、考えても良い。クラーケン相手だ。船が壊されりゃ直す金が要るし、万が一にも沈められたら、買い替える金が要るからな」
「いいぜ。有希、頼む」
「はいっすよ」
有希は気軽に応えると、持っていた木箱に手を突っ込んで、重そうな革袋を取り出す。
「あの船の大きさなら、金貨400枚ってとこっすかね。この中には、金貨500枚入ってるっす。補償金で400枚は、なにかあったら持って行って貰うとして、残りの100枚から、船の貸し賃を出すっすよ。幾らが良いっすか?」
平然と大金を出した有希に、漁師は一瞬生唾を飲むように黙っていたが、
「そ、それなら、金貨10枚は貰おうかな。他人に船を任せるんだ、それぐらいは――」
「高いっす。金貨5枚っすね」
「安い! うちの船で魚獲りに行ったら、その倍は稼ぐんだぜ!」
「でも、今はクラーケンのせいで出れないんっすよね? 6枚でどうっすか?」
「くっ……9枚!」
「じゃ、間を取って8枚っすよ。それでダメなら、他の船を探すっす」
そう言うと、木箱に金貨の入った革袋をしまおうとする有希。それに漁師は慌てて、
「分かった! それで良い! ったく、ケチクセーなぁ」
「金貨7枚。ホントは、それぐらいで良いと思ったんじゃ、ないんっすか?」
ズバリと、本音を言い当てられ、言葉に詰まる漁師。そんな彼に肩をすくめるようにして、
「ボルこと考えるのは、気を付けた方が良いっすよ。相手によっちゃ、ただじゃすまないっすから」
有希はそう言うと、皮袋から10枚金貨を取り出し、
「この金貨10枚と、補償金の400枚。オレっち達が戻るまで、誰かが持ってて欲しいっす」
アシュラッド達に向け言った。するとアシュラッドは、にっと笑い言った。
「良いぜ。もちろん、その分の報酬は貰えるんだよな?」
「もちろんっすよ。ここでお金の番をして貰う人と、クラーケンを獲りに就いて来てくれる人。一人頭、金貨5枚は出すっすよ」
「そりゃ良い。しっかりと稼げそうだ」
有希との交渉をあっさりと終らせたアシュラッドは、五郎に尋ねる。
「ま、そういうこった。クラーケン漁の依頼、請け負った。いつから出るんだ?」
「もちろん今すぐに。よろしく頼むぜ」
にっと笑い、返す五郎だった。
アシュラッドは眉をひそめて返す。
海の魔獣の1つであるクラーケンは、浮き島とも呼ばれる。
その異名の通り、移動する島と言えるほどの巨体を海面に浮かせ、海中にはその更に倍以上の巨体があるという。
普段は水中に沈んでいるが、時折浮き上がり、船の航路の邪魔になるのだ。
しかも近づく者があれば、海中から伸ばす巨大な触腕で、大型の帆船すら沈めるという。
「ついさっき、出たらしくてな。大きさはそれほどじゃなくて、100メートルあるかないかぐらいなんだが」
「いや十分デカいだろ、それ」
「クラーケンとしちゃ、小物なんだと。とにかくそれが出たから、海に出るのを断られてな」
「そいつは、運が無かったな」
「なんでだ?」
心底不思議そうに言う五郎に、アシュラッドが訊き返すより早く、アルベルトとカリーナが続けて言った。
「運が無いとはとんでもない。むしろ逆ですな。噂に聞くクラーケン、この機会を逃すべきではないのですぞ」
「そうですよ。食べたことが無いから、どんな味なのか気になります」
「……マジか、お前ら」
呆れたように返したアシュラッドは、あることに気付き続けて言った。
「待て。ひょっとして、漁師が嫌がってるのって、クラーケンを獲りに行こうとしてるからじゃねぇだろうな?」
「ああ、そうだけど」
平然と返す五郎に、同じく平然としているアルベルトにカリーナ。
傍にいる有希やレティシアも、苦笑するような表情はしているが、拒絶するような気配は無い。
「よくやるよ、お前ら」
アシュラッドは呆れたように言うと、続けて問い掛ける。
「で、どうするんだ? さすがに諦めるだろ?」
「いや、こんな絶好の機会、滅多にないからな。物にしねぇと。だから頼むよ、な? 船、出してくれよ」
「……勘弁してくれねぇか。そんな恐ろしい真似出来ねぇよ」
漁師は乗り気なさげに返す。
「うちの船よりでっけぇのが沈められる所を見た事があるんだよ。あんなの見せられたら、獲りに行く気にゃなれねぇよ」
「そこをなんとか頼む!」
五郎は諦めきれずに食い下がるが、それでも漁師は渋る。
自分の命が掛かってるのだから、妥当な反応だった。
それを見ていたアシュラッドは、にやりと笑うと、1つの提案を口にする。
「だったら、船だけ借りれば良いんじゃねぇか?」
「船を借りるって……誰が操縦すんだ?」
漁師の言葉に、アシュラッドは返す。
「俺らがするよ。前に、海上警備で雇われた時に、船の動かし方も幾らか習ったんでな。風があれば、船の帆を張って進めることぐらい出来るさ」
「風って、今は無風だぞ」
眉を寄せて返す漁師に、アシュラッドは気楽な声で返す。
「そこは心配しなくても、大丈夫だ。そういうのが、得意なのが居るからな。アルベルト、出来るだろ?」
「こき使われそうですな」
アルベルトは肩をすくめるようにして返す。
「風を操作する魔術は得意ですから、出来ないことはないですぞ。その分、船の操縦はお任せですが」
「ああ、任せとけ。という訳だ。どうだ? これならあんたは、クラーケンを獲りに行く酔狂なヤツらに巻き込まれずに済む。その間に、あんたは船の貸し賃を貰ってこずかいが稼げる。悪くない話だと思うぜ」
自分の身の安全は保障され、少しは欲が出たのか、漁師は少し考え込んでから五郎に言った。
「……船の貸金とは別に、補償金を出してくれるなら、考えても良い。クラーケン相手だ。船が壊されりゃ直す金が要るし、万が一にも沈められたら、買い替える金が要るからな」
「いいぜ。有希、頼む」
「はいっすよ」
有希は気軽に応えると、持っていた木箱に手を突っ込んで、重そうな革袋を取り出す。
「あの船の大きさなら、金貨400枚ってとこっすかね。この中には、金貨500枚入ってるっす。補償金で400枚は、なにかあったら持って行って貰うとして、残りの100枚から、船の貸し賃を出すっすよ。幾らが良いっすか?」
平然と大金を出した有希に、漁師は一瞬生唾を飲むように黙っていたが、
「そ、それなら、金貨10枚は貰おうかな。他人に船を任せるんだ、それぐらいは――」
「高いっす。金貨5枚っすね」
「安い! うちの船で魚獲りに行ったら、その倍は稼ぐんだぜ!」
「でも、今はクラーケンのせいで出れないんっすよね? 6枚でどうっすか?」
「くっ……9枚!」
「じゃ、間を取って8枚っすよ。それでダメなら、他の船を探すっす」
そう言うと、木箱に金貨の入った革袋をしまおうとする有希。それに漁師は慌てて、
「分かった! それで良い! ったく、ケチクセーなぁ」
「金貨7枚。ホントは、それぐらいで良いと思ったんじゃ、ないんっすか?」
ズバリと、本音を言い当てられ、言葉に詰まる漁師。そんな彼に肩をすくめるようにして、
「ボルこと考えるのは、気を付けた方が良いっすよ。相手によっちゃ、ただじゃすまないっすから」
有希はそう言うと、皮袋から10枚金貨を取り出し、
「この金貨10枚と、補償金の400枚。オレっち達が戻るまで、誰かが持ってて欲しいっす」
アシュラッド達に向け言った。するとアシュラッドは、にっと笑い言った。
「良いぜ。もちろん、その分の報酬は貰えるんだよな?」
「もちろんっすよ。ここでお金の番をして貰う人と、クラーケンを獲りに就いて来てくれる人。一人頭、金貨5枚は出すっすよ」
「そりゃ良い。しっかりと稼げそうだ」
有希との交渉をあっさりと終らせたアシュラッドは、五郎に尋ねる。
「ま、そういうこった。クラーケン漁の依頼、請け負った。いつから出るんだ?」
「もちろん今すぐに。よろしく頼むぜ」
にっと笑い、返す五郎だった。
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