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secret sleep10⚘おかえり。
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しおりを挟む私が名前を呼ぶとお父さんは両目を見開く。
そして今にも泣き出しそうな顔をするとマイクを左手で握り締めて俯き、歌うのを止めた。
「え!?」
「リン、どうしちゃったの!?」
騒ついた声が広がる中、
お父さんは楽屋まで戻っていく。
「おい!」
「リン!?」
少し青色に染まった黒髪のギターと銀髪で片目を前髪で隠したロン毛のベースが叫ぶ。
「待って! お父さん!!」
「雪乃、行くぞ」
「え?」
宙くんは私を連れて脇にあるステージ階段を上がっていく。
「キャア!?」
「紫イケメンの高校生!?」
観客は甲高い声を上げる。
「ちょ」
「君達!!」
派手な金髪ドラムと黒に茶が混ざった髪を一つ結びしたキーボードが叫ぶ。
私達は楽屋に入る。
「お父…さん…だよね…?」
「…なんで俺の居場所が分かった?」
「母さんに聞いたのか?」
お父さんは背を向けたまま問う。
「違う、琉くんから聞いた」
「琉?」
「氷浦7代目総長…」
お父さんは振り返る。
「お前、暴走族と関わってるのか?」
「うん…中2の夏に氷浦に襲われて…」
「今年のクリスマスイヴに琉くんの姫になる約束もしてる」
「だからそれが原因でお母さん、中2の夏にまた離婚しちゃった…」
「嘘…だろ」
お父さんは苦しそうな表情を浮かべる。
「お前と母さんを守る為に別れたのに」
え?
「俺にとって暴走族紅嶺は誇りだった」
「今でも伝説だと受け継がれて」
「だがそれが家族を苦しめることになった」
「恨みを持った族達から嫌がらせをされるようになったんだよ」
「結局、一人では守りきれなくなって…俺はお前達を捨てた」
嘘でしょ…暴走族が原因だったなんて……。
「それで辿り着いた先がロックバンドの世界だった」
「俺は今、ラルムのギタボを担当している」
「ラルムは涙、もう戻れないという意味も込めてつけた」
私は複雑な気持ちになる。
「母さんは今どうしてる?」
「分からない…家出たから」
「家を…出た? じゃあお前は今どこに…」
「俺ん家です」
隣の宙くんが代わりに答える。
「君は?」
「鬼雪5代目総長黒沢宙です」
お父さんは驚く。
「君も総長!?」
「はい、雪乃さんとは親父が再婚した時に出会って義兄妹になりました」
「中2の夏に俺が夏祭りに誘って氷浦に襲われ、雪乃さんを守り切ることが出来ませんでした」
「だから俺は総長になったんです」
「それでもまだ未熟でこの間は雪乃さんを闇十字に誘拐されました」
「誘拐!? 雪乃、本当か!?」
お父さんは必死な声で尋ねる。
「うん、お父さんの娘だからって…」
「惺先輩も殴り殺されたって…」
「惺…そうか……」
「雪乃、俺のせいで誘拐されてごめんな」
「ううん…」
「それで今は君の家に?」
「はい、雪乃さんを守る為に同居して、お付き合いさせてもらってます」
お父さんは複雑な表情を浮かべる。
「まさか、娘も総長と付き合うなんてな…」
「だが娘は来月琉の姫に…」
「そんなことは俺が絶対させません」
「若い頃の俺とよく似てるな。君、エレキギターは?」
「文化祭のミスターコンで演奏しました。時々趣味で弾いてます」
「え、そうなの!?」
私は驚きの声を上げる。
「あぁ」
「そうか、君もエレキギター好きなんだな」
お父さんは頭を深く下げる。
「宙くん、娘をどうか頼みます」
*
「今日の髪はツインか」
11月22日の昼休み。空き部屋で両膝に寝転がる私に宙くんが言った。
「うん、ロックな感じにしたくて」
「ツインって、ロックか? まぁどの髪でも可愛いけどな」
「イチオシはやっぱポニテだけど」
甘い言葉にくらくらする。
「それでどう? 俺の初膝枕は」
「あったかい…猫になった気分…マンションの部屋にいるみたい…」
「ここももう、俺達の部屋みたいなもんだよ」
ずっとこのままでいたいな…。
だけど、それは許されない。
「明日って…16時からバイトだよね?」
「あぁ、15時30分には部屋を出る予定」
明日、私は琉くんとデートする。
だからバイトで良かった。
バレなくて済むから…。
「何時に帰ってくる?」
「22時」
「分かった、待ってるね」
私は涙を堪えて嘘を付いた。
*
11月23日の16時。ライン電話で呼び出され、約束の歩道に行くと白のファーコート姿の琉くんが白のバイクから降りて待っていた。
全身白!?
私服、かっこいい…。
それに比べて私はボサ髪のぶかT…。
宙くんにバレたら嫌だから…。
「あ、琉くん、待たせちゃった?」
「楽しみすぎて1時間くれぇ待ってた」
えぇ!?
「なんてな。ほら」
琉くんに白いヘルメットを手渡される。
宙くんと同じタイプのヘルメットで良かった…。
「あ、琉くん、顔の傷、どうしたの?」
「なんでもねぇよ」
「そっか…」
白いヘルメットをすぽっと被る。
すると琉くんの手が伸び、顎下のハーネスのベルトを首元で固定してくれた。
「今日特に可愛いんだから、そんな間近で見んじゃねぇ」
琉くんにシールドを降ろされた。
私の顔が熱くなる。
「早く後ろ乗れ」
「うん」
リアシートに跨ると、琉くんも軽々シートに跨り、キーを捻る。
甲高い爆音が響き渡り、私はぎゅっと琉くんの腰に両手を回すと、
輝く夕日の下で、白バイクが走り出す。
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