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secret sleep8⚘届かなくたっていい。

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 苦しい、痛い。
 早く起きたい。
 誰か助けて。

 夢の中で茨に縛られたセーラー服姿の中2の私がベットの上で眠っている。

 “雪乃ゆきの、大丈夫だ”
 “俺がついてる”

 あ、
 そらくんの声……。

 そらくん、ついててくれるの?
 私の傍にいてくれるの?

 だったらもう大丈夫だね。
 何も怖くないね。

 私、起きて、そらくんの顔が見たい。

 私の手がかすかに動くと学ラン姿の中2のそらくんは手を伸ばす。

 そらくんが眠った私の手に触れた。
 両瞼が持ち上がり、目覚める。

 私は大粒の涙をこぼしながら微笑む。

 おはよう、宙《そら》くん、
 起こしてくれるのを待ってたんだ、ずっと――――。



 中2の夏、8月21日の夜。

雪乃ゆきの、夏祭り行かねぇか?」
 2階のベランダでそらくんが尋ねてきた。

 そらくんは黒髪で、
 翼がプリントされた紫のTシャツに黒のスキニーパンツを穿いている。

 私は小5の夏にそらくんの家までお母さん、花城雪はなしろゆきに連れて行かれて、
 その日に初めてお母さんが黒沢夜くろさわよるさんと再婚して、
 このレンタルの一戸建ての家に一緒に住むことを知り、
 私とそらくんは親の都合で義兄妹になった。

 そして一ヶ月が経ったある日。
 私達は初めて本音を言い合い、
 やっと本物の兄妹になれた気がして、

 気づけばもう、義兄妹になってから3年目を迎える訳で…。

 そんな特別な夏にそらくんの方から誘ってもらえるなんて、
 なんだか夢を見ているみたい。

「おい、聞いてるか?」

「ちゃんと聞いてるよ」
「夏祭り行きたい!」
 私は勢いよく答えると、ハッとする。

「あ、でもまだお母さん達、帰って来てないし…」

 私のお母さんは看護師、
 そらくんのお父さんは薬剤師として日々働いている。

「俺達もう中2だぞ?」
「別にあんなバツ1同士のクソ親の許可なんて、なくたっていいだろ」

 そうだ、私はもう小学生じゃない。
 中学生で未成年には変わりないけど、自分の意思はちゃんとあるし、
 大人達が思ってる程、子供じゃない。

 それに私達を眠れなくした親の許可なんていらないよね。

「うん、気にすることないよね」

「あぁ、雪乃ゆきの行こう」



 カチャリ。

 その数分後。私が玄関の鍵をかけると、

雪乃ゆきの、後ろに乗れ」
 家の前で黒いスタイリッシュな自転車にまたがったそらくんが声をかけてきた。

「うん」
 自転車の後ろに横向きで乗るとそらくんの腰にぎゅっと両手を回す。

 今日、Tシャツに短パンで良かった。

「ちゃんと掴まっとけよ」
 そらくんは自転車のペダルを漕ぎ始めた。

 シャー。
 車輪が軽やかに回る。

 ポニテの黒髪がかすかに揺れ動く。

 そらくんと2人乗り出来て、嬉しい。
 星もキラキラ、輝いて見えるよ。



「わぁ、向日葵ひまわり綺麗っ!」
 8分後。川の土手に着いた私は声を上げた。

「見て見てそらくん!」
「ガードレールの向こう側に向日葵ひまわりたくさん咲き乱れて…」

 そらくんは両ハンドルに体重をかけて伏せ寝する。

 え!? そらくん、ゼーハー、ゼーハー、と苦しそう!

そらくん、大丈夫!?」
 私は横向きのまま腰に両手を回した状態で声をかける。

「あぁ、全力で漕いだからな」

 ヒュー…。
 大きくて綺麗な青い羽に包まれた赤オレンジ色のハートの花火が上がり、

 ドォォン…。
 夜空にキラキラと輝いた。

「ハートの花火、綺麗っ」

「内緒で来て良かっただろ?」

 あ、そらくん、優しく笑って…。


雪乃ゆきの、来年もここで一緒に花火見ような」


「うんっ、約束だよ」

 私は満面の笑みでそらくんと指切りをした。
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