上 下
35 / 60
secret sleep7⚘眠らせないって言ってよ。

5

しおりを挟む


りゅうくん、なん…で…?」
「なんでバラすの…?」
 私は怒りを交えながら尋ねる。

「その方が戦いやすいだろ?」
「なぁ?」

「あかり、幻滅したよね?」
「それでも助けるから!!」
 美青みおちゃんは涙をにじませながら叫ぶと、立ち向かおうとする。

 グイッ!
 私は美青みおちゃんの右腕を掴んで止めた。

雪乃ゆきの!? なんで止めるのよ!?」

「ここで戦ったらあかりちゃんだけじゃなくて」
「先生や高校のみんなにも美青みおちゃんが暴走族の姫だってバレちゃう!」
「そんなの絶対にだめ!!」

「退学になったって構わない!」
「そもそも高校行く気なかったんだから!!」

「だったとしても、私は美青みおちゃんと、これからも高校生活送りたいよ!!」

雪乃ゆきの、ありがと」
 美青みおちゃんは微笑むと、バッ! と私の手を振り払う。

 あっ……。

りゅう――――!!」
 美青みおちゃんは一直線に駆け、殴りに行く。

「おい、お前ら、やれ」
 りゅうくんがケツ持ちに命令すると、3人が前に出て来て、美青みおちゃんの行手を阻む。

 美青みおちゃんは突きや美しい回し蹴りで3人をあっという間に倒す。

「お、なかなかやるな」
「さすが俺の顔に傷つけた姫だけのことはある」
「仕方ねぇ、よくあずさ、やれ」
 りゅうくんが名前を呼ぶと、2人が前に出て来て激しい殴り合いになるも地面に倒される。

「まだまだぁ!」
 美青みおちゃんが叫び起き上がると、

 あずさくんは迷惑そうな顔をし、
「うるせぇな」

 美青みおちゃんを羽交い絞めにした。

 美青みおちゃんは静かになり、地面に倒れる。

美青みおおっ、いやぁっ!!」
 あかりちゃんが悲鳴を上げる。

 どうしよう…。
 そらくん達を呼びに行きたいけど、逃がしてくれるはずがない。

 美青みおちゃんを先に行かせて、そらくん達を呼んでくるべきだった。
 だけど後悔したって遅い。

 自分しか助けられないんだ。
 ならもう、やるしかない!


「あかりちゃんは私が絶対助ける!」


 私は向かっていくもよくくんに軽く突き飛ばされる。

「きゃっ!」

「ゆきのん!!」
 あかりちゃんが叫ぶ。

「総長の姫なんだからさ、大人しくしてな?」
 よくくんがそう言うと、

「総長の姫!?」
 あかりちゃんが驚きの声を上げると私の顔が青ざめる。

 あ……。
 私も知られちゃった……。
 それでもいい。

「へぇ、まだ立ち上がるんだ?」

「ゆきのん、もういい! 逃げて!!」
 よくくんに続けて、あかりちゃんが叫ぶ。

「あの時は付き人として見てたけどさ」
「前もそうやって助けようとしたね」

 よくくんが笑うと、ズキン!

「う…」
 ガラスが割れるような頭痛に襲われ倒れかけると、
 りゅうくんはあずさくんにあかりちゃんを預け、
 私の右腕を掴んで支える。

「離し…」

「辛いだろ。眠っとけ」
 りゅうくんがそう言うと、意識を失いそうになるも私は耐える。

「私は…眠らない」
「あかりちゃんは…私が…助けるんだ」


雪乃ゆきの!」


 そらくんが耀ようくん、しゅんくんを連れて走って来た。

 あ…来てくれた……。

 りゅうくんは私を扉の前に座らせる。

「姫、ここで見てろ」
「てめぇら、行くぞ!」

 殴り合いの喧嘩が始まった。

 しゅんくんは下っ端達を殴り飛ばす。
 下っ端達は次々に倒れていく。

 耀ようくんはよくくんと殴り合い、
 そらくんはりゅうくんと激しく殴り合う。

 ドスッ。
 鈍い音が響いた。

 ズキン!

「ッ…」

 ガラスが割れたような痛みに襲われ、

 ドクン、ドクン、と胸がざわめき、

 中2の夏の喧嘩の映像がチラつく。

 逃げたい。

 逃げ出してしまいたい。
 だけど、あかりちゃんとそらくん達置いて一人だけ逃げるなんて出来ないよ。

 やめて、お願い。
 もう、やめて――――!

 ズキン!
 茨が物凄く暴れたような強烈な痛みを感じる。


「あぁっ…!」


 私は両手を頭に触れながら狂い叫ぶ。

「ゆきのん!?」

「雪乃《ゆきの》!」

 あかりちゃんとそらくんが同時に叫ぶ。

「やめだ!」
 りゅうくんが大声で叫ぶと全員の動きがぴたりと止まる。

 止まっ…た……?

 りゅうくんが私の元に歩いて来た。

 頭、優しく撫でられ……。

「姫、苦しませたな」

「コラー! 待てー!」
 阿久津あくつ先生の怒鳴り声が響き渡る。

「てめぇら、おとり役が引き付けてる間に帰るぞ!」
 りゅうくん達は駆け去っていく。

 行っちゃった…。
 良かった……。

雪乃ゆきの、大丈夫か?」
 そらくんが心配するも、
 私は笑う。

「頭痛は治った。助けてくれてありがとう」

 ほんとはまだガンガンするけど。

「ゆきのん!」
 解放されたあかりちゃんが駆けて来て、私をぎゅっと抱き締めた。

「無事で良かった!」
「怖かった、怖かったよぉ…」
 あかりちゃんは泣きじゃくる。

「うん、あかりちゃんも無事で良かった」

耀ようしゅん、あかり達を保健室に」

「分かった」

「おう」

 あかりちゃんは耀ようくんに、
 しゅんくんに名前を呼ばれ意識が戻った美青みおちゃんは、そのまま支えられながら保健室に向かう。

 ふたりきりになっちゃった……。

 そらくんは、はぁ、と息を吐く。
「嘘付きやがって」

「え?」

「頭痛ずっと我慢してただろ?」

「…あはは」
「バレバレだね…」
「まだ動けなそうにないから出来れば飲み物欲しい…」

「分かった」
 そらくんは私の頭を優しくぽんぽんすると、飲み物を買いに行く。

 あ……。
 やばい、ガンガンする。

 どうしよ、一人になったらなんか急に気持ち悪く…。

 ズキン!
 ガラスが割れるような痛みに襲われる。

「う…ごほっ…」
 私は右手を口に押さえて吐く。

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 良かった、一人の時で…。
 こんなとこ好きな人に見られたくないもん…。
 そらくんが戻って来るまで待ちたいな…。
 だけど……、

 も、だめ…。

雪乃ゆきの!」
 そらくんが駆けて来る。

 そらくんが缶ジュースを投げ捨てしゃがむと、
 私は胸の中で倒れた。

「大丈夫か!?」

そらく…あかりちゃん達のこと……」

「何言ってんだ!? 自分の心配しろよ」

「そう…だね…」

 私は転がる缶ジュースを見る。
「あ…グレープジュース…?」

「あぁ。雪乃ゆきの、好きだろ?」

「うん……」

 ズキン!
 茨が荒れ狂って暴れたような今までで一番の痛みに襲われる。

「あぁっ!」

雪乃ゆきの!」

そらく…怖い…」
「怖いよ…」


「宙くん…お願い…眠らせ…ないで…」


 そらくんが口を開く。


雪乃ゆきの、大丈夫だ」
「俺がついてる」
「だから…」
「今は眠れ」


 なんで?
 なんで…そんなこと言うの…?

 いつもの空き教室で言うみたいに、
 ミスターコンで歌ったみたいに、

 眠らせないって言ってよ……。

 私は一筋の涙を流すと、意識を失った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

-桜蝶の総長様-

かしあ
恋愛
桜蝶-オウチョウ- 総長 早乙女 乃愛(さおとめのあ) × 鬼龍-キリュウ- 総長 洲崎 律斗(すざきりつと) ある日の出来事から光を嫌いになった乃愛。 そんな乃愛と出会ったのは全国No.2の暴走族、鬼龍だった………。 彼等は乃愛を闇から救い出せるのか?

処理中です...