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「えっ!またぁ……」
 
 制服のワイシャツの袖の下、隠すようにはめられているブレスレット。

 細かく振動している所からスマートウォッチのようにも見えるが、それにしてはやけに薄く細い。
 
 小さくため息をついて、そのブレスレットの振動をを目視でも確認した青年は、自分と同じ制服を着た学生たちが目立つ大通りから一本わき道にそれると、周りに人気のないことを確認して、ブレスレットのハメられていない方の手でブレスレットの表面を触りながら、大きく息を吐きながら目を閉じた。

『……起動……』

『……サーチ……』

『……解析……』

 それらの言葉は青年の口からこぼれることなく、ただ人気のないこの裏路地に似合わない緊迫した空間を創り出している。

 しばらく微動だにしなかった青年は、止めていた呼吸を取り戻すと閉じていた瞳を開けて視線を薄く光を放っているブレスレットに落とした。

 何かを逡巡する表情を一瞬浮かべるも、結局諦めたように小さくため息をこぼして、光っているブレスレットを上から強く握りしめた。



「やっべえなぁ……今日日直だ……」

 緩く結ばれたネクタイをたなびかせながら、髪のセットもなされてないくしゃくしゃなまま、また一人青年が駆けて行く。

 昨今の若者には珍しい左腕にはめられた腕時計にちらりと目をやった時に、見るとは無しに視界に入った横の路地。

 一瞬にも感じないような刹那、チカリと目の奥に刺さるような光に思わずその足を止めていた。

「なに!?」

 確かに目の奥に強い光の残像がある。けれどもその光を放ったと思われるようなところに今は何も見ることができない。

 目の奥の影には確かに、自分と同じような格好をした人のようなものが残っているのに……。

 そこに留まるのも一時、目に入ってきた腕時計の刻む数字に現実に引き戻されたように頭を振る。

「あぁぁ!明日も早起きできる気がしねぇ!」

 いきなりトップスピードで足を進めるように地面をけりながら、ゆっくり歩を進めている遅刻しなければ良い同校生を追い越しながら、時間にだけは厳しい担任の顔を思い浮かべる。

「……でも……あれは何だったのだろう……?」

 首をひねりながら、しかし、校門が見えたところで彼にとっての些末なことはこれからの言い訳を考えることで頭の隅にも残ることは無かった。
 
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