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チュート殿下 130 タリスマン帝国の旅 6

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   依頼票の掲示板を見てみる。

   特に何があるってわけでもない。

   ランク自体Cランクまでで、それ以上上の依頼は貼るようなものでもないんだろう。

   それなりに魔の森に近いがそれほどでもなく、石壁が厳しい感じはするがこの街はタリスマン帝国のごく一般的な地方都市って所なのか。

   特別な討伐依頼は出ていないようだが……。

   討伐依頼ではなく注意喚起として比較的新しい紙が目立つように張り出されている。

『魔の森から強力な飛行型魔獣が飛来したとの報告あり。現在行く方不明。目撃したものは速やかに近くの冒険者ギルドに報告すること。決して攻撃等加えることなく、近づく事も禁止する。以上冒険者ギルドサウスエンド支部発……』

   国越えの時、高揚していてあまり考えもせずに行動したことが結構大きいことになっているようだ。

   特に他に目を引くものもないので、窓口でこの町でのお薦めの宿を聞こうとするか。

   依頼窓口を見ると若いお姉さんだった。

   どこのギルドでも大抵そうだね。

   ギルド的には閑散時だから、番号だけ振られている、きっと冒険者専用の受付なんだろう所には1人だけ。さっきからずっとその窓口を占領してる冒険者がいるが……必死にお姉さんを口説いているみたいだね。

   一般の人も使う依頼窓口には、口説かれているお姉さんよりも若干年下のお姉さん。この場合俺が行くかキールが行くか迷う所。

   おばさん(失礼……)か場慣れした受付嬢の場合は俺が行く方が揉めないんだよね。おばさんは子供には優しいし、場慣れしている受付嬢は親衛隊がいたりするから、下手にキールが声を掛けると、さっきの口説いてる冒険者みたいなのが必ず出てきて揉めるんだ。

   力量を測ることができない、稼ぎどきにギルドにいるような冒険者が百戦錬磨のお姉さんに見初められる訳ないのに。

   女性の方が現実的だから、いくらキールが優良物件だど分かっても、この場にとどまらないことは分かっているから本気になったりはしない。
  
   おばさんもそれは十分分かってるけど、分かってるからこそキールを態と構ったりする。

   ベテランのお姉さんもほぼ同じ、あわよくばって思いも少しはあると思うけど、どこに行くかわからない男に着いて行くと考えるほど、ウブでもないしねきっと。

   新人のお姉さんは、そこのところがわからないけど、まだ仕事の方に目一杯だったら、そもそも他に目がいく余裕がないから結構平気。

   だからちょっと仕事になれた頃の受付嬢は、自分の容姿に自信も持ってるから、キールのように顔も良くて若くてCランクのもしかしたら大出世するかもしれない超優良物件に、後先考えず媚びを売る。

   自信があるから媚びを売る。

   そりゃあね、平民感覚でみれば受付嬢は花形の職業で、人気があるからかそれなりに綺麗なお姉さんでなければなれる職業でもないからね。

   初めは、仕事に一生懸命でまじめに取り組んでいても、まぁ一年も経てば、早ければ数ヶ月で慣れて、モテるから、間違っちゃったりする。

   自分ならどんな男でも落とすことはできるって。

   アミュレット王国ではそんな感じのオツムの人が多かった。どこもかしこも乙ゲーか?

   この町の依頼窓口のお姉さんは……、さっきから目でキールのことを追っているからアウトかな。

『窓口で聞くのやめる?なんだか揉めそうだし、夜這いかけられるのもやだろ。買取窓口のおっさんの方がきっとちゃんとした所教えてくれるんじゃないかな』

  買取の査定が終わるまで宿のことを聞くのは待つことにした。今回は素材は全て引き渡すことにしているので、査定が終われば剥ぎ取りとかの作業は俺達がいる必要はないから、早く終わると思う。

   依頼窓口のお姉さんの視線を頭の後ろに感じながら、もう用はないが依頼票の掲示板の向こう側に隠れる。

   その内に、徐々に今朝受けた依頼を終えた冒険者が帰ってき始めた。下の方の依頼は町中もしくは石垣周りの薬草採取くらいなので、昼を過ぎれば一度帰ってくるのだろう。

   見慣れない俺たちに気付いてざわざわする下っ端冒険者たち、って俺もEランク下っ端だけど……

   買取窓口に目をやると、あのゴツイおっさんが戻ってきたいた。

『呼び出したりしないんだ……』

   今回は、本当に俺が倒した魔獣だし、俺1人でカウンターに向かう。

   カウンターにギルドカードと買取料が一緒に置かれている。その横にはきっちりした筆跡で買取料のの内訳が書かれた紙が置いてある。

「ありがとうございます。なんか思っていたのより金額が高いようで……」

  メモから目を離し。おやっさんに視線を向けると、ごっつい腕を胸の前で組んで仁王立ちのまま頷いている。

  近くで見ても怖そうなご面相だが、驚くほどその瞳は優しい。

  俺はその瞳の色に押されるように、初めから決めていたミッションを行うことにした。

「あの……この町が初めてで、今日泊まる宿がまだ決まって……」

   そこまで声に出した時、おやっさんは組んでいた腕を外して俺の顔の前に手のひらを見せるように腕を一本出してわかったと言うように頷いた。

   その動作につられるように俺は次に出す言葉を飲み込んだ。

   おやっさんは、胸にかかった大きなエプロン、そうきっと解体が本職なのだろう、のどこかに手を突っ込んで、先程のメモと同じぐらいの紙を差し出した。

   俺がそれに目をやると、まるで俺にやるよと言うようにメモを持った手を上下にヒラヒラと揺らした。

   俺がおずおずとそれに手を伸ばすと、おやっさんは大きく頷いた、口角が少し上がっている気がした。


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